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四章 海を渡った少女

大賢者アルアナ

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 マーロウさんの後に続き、教会の中を奥へと進んでいくと、教会の外へと出てきた。

 どうやら教会の裏口と言えばいいのだろうか……?
 外へ出るとまた切り立った崖がそびえている。
 しかし、先程までと違うのは目の前の崖で行き止まりだということだ。

 いや、よく見ると崖の下の方に扉のようなものが見える。
 その扉は入口の門のように大きくはないが人が通るには十分な高さだった。
 そして、よく見ると入口の門同様に見事な装飾が施されている。

「さ、こちらへどうぞ」

 マーロウさんがその扉を開けると、私達を中へと促す。
 玉藻が先に扉の中へと入り、次にフィーリエが入ろうとすると見えない壁に阻まれたかのように中に入れずにいた。

「え……?ええ……っ!?なにこれ……っ!?」

 フィーリエは驚きなが開かれた扉へと手を出すが、まるで壁でもあるかのようにフィーリエの体どころか、手すらも扉から先へと行くことができない。

「フィーリエさん、残念ながらあなたにはこの先に行く資格がないようです……」

「行く資格……?」

 私はマーロウさんに尋ねる。
 まさか、この先に行くのに何かしらの資格がいると言うのだろうか……?

「そうです。この先に行くには己が望むもの、叶えたい目的に対して真摯に、そして邪な気持ちを抱くことなく、純粋な気持ちで望む者にしか入ることが許されません。玉藻さんは自らの目的に対し純粋に、そして真摯に向き合いここに赴いた……。ですから、アルアナ様はそれにお答えになったのです。ですが、残念ながらフィーリエさんにはそれがありません……。ですから入れないのです」

「あ~……、なるほど……。確かに今のあたしにはそういうのは無いかも……」

 フィーリエはバツの悪そうな顔をして頭を掻いている。
 つまり、私も純粋に、そして真摯に元の世界に帰りたいという気持ちがなければこの先には進めないということになる……。

「……っ!」

 私は意を決して扉へと入る……!

 すると……、私も扉をくぐることが出来た……!
 その瞬間目の前が眩いばかりの光りに包まれ、私は目を閉じる。

 そして、いつしかその眩さが消えた頃、ゆっくりと目を開けると、先程までいた場所とは違い、神殿のような所へと立っていた。

 後ろを振り向くと、入ってきた扉は消えており、足元には何かの魔法陣のようなものが描かれている。

「カナ、フィーリエはどうしたのじゃ……?」

 先に入った玉藻が周囲を伺いながらフィーリエの姿を探している。

「フィーリエはこの中には来れないんだって……」

「そうか……、なら妾達で行くとするしかないようじゃなの……」

 私と玉藻が前へと向くと、距離にして100メートルくらいだろうか、そこには椅子に座っていると思われる誰かと、その横には小さなテーブルが置かれていた。

 私達のところからではそれが誰なのかは分からないけど、あの僧侶の男性の言い方だとあの人がアルアナ様なのかも知れない……。

 私達は頷き合うと、その人物の元へと歩みを進める。
 その人物へと近付くと、その人は女性でしかもエルフだった。
 この人が大賢者で、女神アルアナなのだろうか……?

「カナ、玉藻……、ようこそ我が神殿へ。私が大賢者アルアナだ」

 その女性の元へと近づくと、大賢者アルアナと名乗る者が口を開いた。
 彼女の髪は透き通るような青く美しい水髪で、何かの聖衣《せいい》だろうか、どこか神秘的な衣を身にまとっていた。

「あなたが女神アルアナ……ですか……?」

「そうだな……、人は私を女神などと呼ぶが、私としては望んでやっている訳では無い……。元々は誰かの助けになればと1000年以上の時をかけて魔法を極めた結果、神格化されてしまったのだ……。だが、それで人々の助けになるのであればと思い、仕方なくやっているのだ……」

 アルアナ様……、もとい大賢者アルアナは椅子に頬杖を付いたまま退屈そうにため息を付いていた。
 あの口ぶりからしてもしかしたら彼女は元々は私達と同じ冒険者だったのかも知れない……。

「さて、カナに玉藻、君たちの願いを改めて聞かせてもらおうか」

 アルアナは退屈そうな顔から一変して、笑みを浮かべながら私達へと向き合ってくる。
 その表情からして、どこか嬉しそうにも見える。

「アルアナ殿……!妾の願いを聞いてくだされ……っ!我が夫を……ソウマを石化の呪いから救い出してくだされ……!この通りじゃ……!夫の石化が治るのであれば妾ばどうなっても構わぬ……っ!!」

 玉藻はアルアナに対して誠心誠意の土下座をする。
 その仕草、その言葉から彼女の純粋に愛するものを救いたいという気持ちが私にも分かる。

 玉藻の愛する人、ソウマという人を救うための旅……、それが彼女の旅の目的だったのか……。

 そう言えば、玉藻は最初にあった時、大切なものを取り戻すための旅だと言っていた……。
 家族がいるのならわざわざ旅に出る必要もない……。

 つまり彼女は石にされたソウマという人を救い、愛する人との大切な時間を取り戻すための旅をしていたのだろう……。

「いいだろう。だが、その代わり玉藻の妖力すべてが必要になるがいいか……?」

「構わぬ……!妾の妖力がいると言うのなら好きなだけ使ってくだされ……っ!!」

「二度と妖術が使えなくなってもか……?」

「無論じゃ……っ!」

「分かった」

 アルアナは玉藻の頭に手を触れると、彼女の身体から光る何かを吸い上げていく。

 それが玉藻の妖力なのだと分かった時には玉藻の狐の耳と尻尾が消えて無くなっていた……。
 アルアナの手の上には玉藻から吸い上げた妖力が眩く光り輝く玉となって集まっている。

 それを上へと振りかざすと、その妖力の玉はどこかへと消えた……。

「玉藻、目を閉じてみてみろ」

 アルアナは玉藻の頭にそっと手を置くと、玉藻は目を閉じる。
 すると、玉藻の目から涙が溢れ出していた。

「なんと……!ソウマが……、ソウマの石化が……解けておる……!会いたい……!早くソウマに会いたい……っ!妾を思いきり抱きしめて欲しい……っ!!」

 玉藻の目から涙が止め処なくこぼれ落ちる……。

「玉藻、これは私からのサービスだ。今すぐソウマの元へと送ってやる事ができるがどうする……?」

「ま……まことか……っ!なら今すぐ……、今すぐソウマの元に送ってくださらぬか……!」

「分かった……、だがカナに言い残すことはないのか……?もしかしたらもう会えなくなるかもしれないが……?」

「……そうじゃった」

 玉藻は涙を服の袖で拭くと、私の方をしっかりとした眼差しで見つめてくる。

「カナ……、そなたには本当に世話になった……っ!もし、ヤパーニという所に来ることがあれば、是非とも寄ってくれぬか……?しっかりとしたもてなしをいたそう」

「分かった。玉藻、その時はよろしくね」

「それでは……、カナの願いが成就されることを祈っておる……」

 アルアナが玉藻へと手をかざすと、玉藻の身体が光りに包まれていく。
 そして、最後にそれだけを言い残すと、玉藻はどこかへと消えた。
 恐らくソウマという愛する人の所へと帰ったのだろう。

「さて次はカナ、君の番だ」

 玉藻の願いを叶えたアルアナは今度は私へと視線を向けたのだった。


 ◆◆◆


~サイドストーリー~

 ー玉藻ー

 アルアナ殿の魔法で光りに包まれた妾は気がつくと、故郷であるヤパーニの、しかも赤い鳥居の前に立っていた。

 ここは見覚えがある……!ここは妾とソウマが暮らしておった神社じゃ……!
 妾は今にも転びそうな勢いで神社の中へと目指し走り出した。

 アルアナ殿が見せてくれたものが夢でなければ……、ソウマは石化の呪いから解けておるはず……!
 息を切らせながら、ソウマが石化されていた部屋を目指す……!

 そして、そこに辿り着くと……、石化から解け、動いておるソウマの姿があった……!

「ソウマ……っ!!」

 妾は走ってきた勢いそのままにソウマへと飛び付く。
 ソウマは走ってきた妾の勢いを受け止める事ができずに後ろへと倒れ込み、全く状況が理解できないという顔をしていた。

「た……玉藻……?」

「そうじゃ……!妾はソウマの妻、玉藻じゃ……!良かった……!石化が解けて……!本当に良かった……!うぐ……!ぐす……、うあぁぁあぁぁーーー……っ!!」

 妾はソウマの腕の中でまるで子供のように泣きながら彼の服を涙で濡らしていく。

「というか、玉藻……、お前耳と尻尾は……っ!?」

「ソウマをとある者に助けてもらう代わりに、妾の妖力を全て差し出したのじゃ……。もう、妾には妖術は使えぬ……」

 妾は旅の経緯を全て話した。

 ソウマを救う為に旅に出たこと、カナとの出会いから冒険、魔物をカナ達と共に倒したこと、そしてアルアナ殿にソウマを救ってもらったことまで全てを打ち明けた。

「そう……だったのか……」

 妾の話を聞き、ソウマは本当に申し訳無さそうな顔をしていた。
 別に誰かに頼まれたからソウマを救う旅をしていた訳では無い……。

 妾がソウマと同じ時をこれからも共に過ごしたいと思い、止めようとする皆の話も聞かずに飛び出すように旅に出た……。

 しかし、申し訳なさそうな顔をするソウマの顔を見ると、妾の中にとある欲が湧いてきた。

「ソウマ……、申し訳ないと思うのなら妾はソウマとの子が欲しい……。妾を孕ませてはくれぬか……?」

「玉藻……、それで許してもらえるのなら……」

「妾は端から怒ってはおらぬ……。妾が勝手に旅に出て、勝手に妖力を差し出しただけじゃ……。じゃが……、ソウマの子はどうしても欲しい……」

 この日を境に妾とソウマは子を成すため、毎晩のように愛し合った……。

 もしカナが来た時に、妾が子を宿したと知ったらどんな顔をするかのう……。
 それが少し楽しみであった……。
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