上 下
62 / 200
三章 旅立つ少女

炎の剣

しおりを挟む
 ジャイアントスライムは不気味な程ゆっくりと動いていた。

 その度に水が押し寄せ、私達の服を濡らしていく。
 私の魔力は尽き、バッシュさんの魔法や魔銃は殆ど効果がない……。

 おまけにスライムなので剣などの物理攻撃は効果がないのだと言う。

 ここは、一度引き上げて皆の体力や私の魔力を回復させてから改めて挑むのが得策だろう……。

「バッシュさん……、ミーナ……。ここは一度引いたほうが良いかも知れない……っ!」

「確かに……!このままでは勝ち目はねえな……っ!」

「ならボクに付いて来て……!一番近い出口に案内するから……!」

 私達が逃走の算段をしていると、突然ジャイアントスライムは高く飛び上がり、地下下水道の天井へと張り付いた。

 水をせき止めていたスライムが退いたことで、急激に水が流れ出す。

「きゃあ……っ!?」
「うお……っ!?」
「うわぁ……っ!?」

 私達は水に足を掬われ、地下下水道の出口にある鉄格子の所まで流されてしまった。

 そして、私達の前にジャイアントスライムが逃走経路を塞ぐように立ちはだかって来た。
 鉄格子を外して後ろから逃げようにも、後ろは海しか無い……。

 逃走という手段も絶たれ、まさに万策が尽き果ててしまった……!

「これって、絶体絶命……ってやつですよね……?」

「ああ……、そうだな……」

「こんな事なら、魔術師も連れてくればよかったかな……」

「何にしろ、あれを倒さないと帰れないよね……っ!」

 私は剣を抜くと、ジャイアントスライムへと斬りかかるっ!
 が……、斬った手応えはあるものの、斬った所が何事もなかったかのように戻る。

「な……っ!?」

 少しくらいはダメージを与えられるのでは、と思っていた私は驚きを隠せなかった。

「カナ……!無駄だ!スライムを斬るのは水を斬るのと変わらない……っ!」

 く……!どうすれば……っ!?
 炎の魔法なら倒せるのかも知れないけど、私の魔力は尽きてしまっている……。

 いや、頑張ればもう一回くらいは撃てるかもしれない……。
 でも、仮に撃てたとしても一発で倒せるような相手でもない……。
 剣でも倒せない、魔法を使えない……。

 何かこう……、あのスライムに絶えず炎の攻撃を当てる方法があればあるいは勝てるのかもしれない……!
 どうすれば……!

(ん……?)

 ふと、元の世界で見た漫画とかで剣に魔法を付与するシーンを思い出した。

(これが出来ればもしかしたら……!)

 今の私には付与魔法エンチャントは使えないし、呪文も知らない。
 でも……、似たようなことは出来るかもしれない……っ!

「『ファイヤーバレット』っ!!」

 私は剣身を下にしてにランタンの中に入っているオイルをたっぷりと掛け、ファイヤーバレットを唱える。
 しかし、何も起きない……。

「『ファイヤーバレット』っ!『ファイヤーバレット』……っ!!」

「カナ……、何を……?」

 バッシュさんとミーナは私が何をしたいのか分からず、ただ戸惑っていたが、私は気にすること無くファイヤーバレットを唱え続ける。

(お願い……!少しでいい……!ほんの少しでもいいから出て……っ!!)

 諦めること無く何度も何度もファイヤーバレットを唱える。そして……。

「『ファイヤーバレット』……っ!!」

 そして遂に小さいが火の玉が掌に出現した……っ!

(出た……っ!!)

 その火の玉を剣身へと近づける。

(お願い……!火が付いて……っ!!)

 私は祈るような気持ちで剣に火を当てる。
 すると、私の願いが届いたのか、剣身が炎に包まるる……!
 これなら行けるはず……っ!!

「はあ……っ!!」

 炎を纒った剣でジャイアントスライムを斬り付ける!
 すると今度は斬り付けた所が塞がることなく残っている。

 ジャイアントスライムは身体から触手のようなものを伸ばして私へと襲いかかるが、炎を纏わせた剣で斬り落とすと、斬り落とされた触手が燃えてなくなった。

「はあ……!やあ……っ!たあ……っ!!」

 炎を纏った剣でジャイアントスライムを何度も斬り付けるが、元が大きいため決定打を与えられない……!

 炎を纒った剣を振り回す度にその熱が私の肌や髪を焦がすが、今は気にしている場合ではない。

「はあ……!はあ……っ!くそ……っ!!」

 もっとこう……、大きな火力があれば……!
 そうだ……!ならばこれで……っ!!

 私は魔法のポーチから調理用の油の瓶を取り出すと、蓋を開けて剣身に注ぐ。

 すると、油をえた炎はさらに燃えがりだした。

 残りの油は瓶ごとジャイアントスライムへと投げつけ、油を撒き散らしながら、最後は瓶ごとジャイアントスライムの中に取り込まれる。

「はあぁぁ……っ!燃えろ……!燃えろぉ……っ!!」

 私はジャイアントスライムの油がかかった所を重点的に炎を纒った剣で斬りつける。

 ジャイアントスライムは燃やされる前に私を倒そうと全身から触手を伸ばして襲いかかる……っ!

 ダメだ……!数が多くて捌ききれない……っ!!

「カナっ!触手の方は任せろっ!!」

 バッシュさんが魔銃で無数の触手を撃ち抜いていく!
 撃たれて千切れた触手ば四散して消えていった……。

「バッシュさんっ!援護お願いします……っ!!」

「任せろっ!!」

 バッシュさんの援護を貰いながら何度も何度も斬りつけているうちに遂に剣身の炎がジャイアントスライムに掛かっている油へと引火し、ジャイアントスライムは炎に包まれたっ!

「はあ……!はあ……っ!や……やった……っ!?」

 炎に包まれたジャイアントスライムは悶えるように燃え上がり、そして段々と小さくなっていくと最後は燃え尽きて消えてしまっていた。

「た……倒した……っ!」

 私は未だ燃えている剣を通路へと投げ置くと、その場にへたり込んだ……。

「カナ……っ!」
「カナ……っ!?」

 そんな私の所にバッシュさんとミーナが駆け寄ってくる。

「へへ……、何とか倒したよ……」

「全く……、無茶しやがって……!」

「でも、剣に炎を纏わせるなんてよく思いついたね……」

「私は付与魔法なんて使えないから……、その応用で……」

「なるほどな……。だが……、あれどうするんだ……?」

 バッシュさんは未だ燃えている剣を指差す。

 ……消えるまで待つしか無いか。

 変に水をかけて燃え広がってもマズイので、油が燃え尽きて、自然に消えるまで放置することにした。


 そして、剣はかなりの時間燃え続け、火が消えた頃に水で冷ましてから回収すると、黒焦げになってしまっていた……。

(……グレンさん、ごめんなさい)

 私は心の中でそっとグレンさんに謝っておいた。


 ◆◆◆


~サイドストーリー~

 ーミーナー

 ジャイアントスライムがカナによって倒された。

 しかも、付与魔法エンチャントを使わず、剣を燃やして倒すという発想には驚かされた!
 ボクだったら、あんな方法はまず思いつかない。

 武器が鉄の鉤爪だからというのもあるけど、単純にそこまでの発想力がない。

 バッシュも多分思い付かないと思う。
 本当に人間という種族には驚かされるよ。

(ん……?あれは……)

 カナの剣に付いた火が消えるまでの間、何気なく流れていく下水の方を見ていると、何か水の中で鈍く光るものが見えた。
 しかも、ジャイアントスライムが倒された所で……。

何だコレ……?

 ボクは近付いてそれを拾ってみるとビー玉くらいの大きさでプニプニとした青くて丸いものだった。
 宝石かとも思ったけど、宝石とも違うみたい。
 スライムを倒してこんなものが出てくるのは初めてだ。

 ジャイアントスライムだからこんなものを落としたのかな……?

「ミーナ、どうしたんだ?」

「バッシュ。コレ拾ったんだけど、何だろう……?」

 ボクはバッシュに先ほど拾った物を見せてみる。

「何だこりゃ……?ビー玉か?」

「さあ……、何なんだろうコレ……?」

 まあいいや、一応持っておこうかな。
 ボクはそのビー玉みたいなものを懐へと仕舞うことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

色彩の大陸1~禁断の魔術

谷島修一
ファンタジー
“色彩の大陸”にある軍事大国・ブラミア帝国の傭兵部隊に所属し、隊長を務めるユルゲン・クリーガーは、二年前、帝国によって滅ぼされたブラウグルン共和国軍の精鋭・“深蒼の騎士”であった。クリーガーは共和国の復興を信じ、帝国や帝国軍の内情を探るため傭兵部隊に参加していた。 一方、ブラミア帝国では、 “預言者”と呼ばれる謎の人物が帝国の実権を握っていて悪い噂が絶えなかった。ある日、クリーガーは帝国の皇帝スタニスラフ四世からの勅命を受け、弟子であるオットー・クラクスとソフィア・タウゼントシュタインと共に故郷ズーデハーフェンシュタットから、帝国の首都アリーグラードへと数日を掛けて向かうことになった。その首都では、たびたび謎の翼竜の襲撃を受け、毎回甚大な被害を被っていた。 旅の道中、盗賊の襲撃や旧共和国軍の残党との出会いなどがあったが、無事、首都に到着する。そして、首都ではクリーガーは翼竜の襲撃に居合わせ、弟子たちと共にこれを撃退する。 皇帝から命じられた指令は、首都を襲撃する翼竜を操っていた謎の人物が居ると推測される洋上の島へ出向き、その人物を倒すことであった。クリーガーは一旦ズーデハーフェンシュタットへ戻り、そこの港から選抜された傭兵部隊の仲間と共に島へ出向く。洋上や島での様々な怪物との戦いの果て、多数の犠牲者を出しながらも命懸けで任務を完遂するクリーガー。最後に島で倒した意外な人物にクリーガーは衝撃を受ける。 ズーデハーフェンシュタットに帰還後は、任務を完遂することで首都を守ったとして、クリーガーは“帝国の英雄”として歓迎を受ける。しかし、再び皇帝から首都に呼び出されたクリーガーを待ち構えていたのは、予想もしなかった事態であった。 ----- 文字数 154,460

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...