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三章 旅立つ少女

爽やかな朝のひととき?

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「……!」

「……ナっ!」

「おい、起きろカナ……っ!」

「ジェスト……さん……?」

 誰かに名前を呼ばれている……。
 身体も揺すられている……。
 ここは私が間借りしている部屋のはず……。

 なんでジェストさんが……?

 私は薄っすらと重たい瞼を開けると、窓から朝日が差し込んで来ているのが分かる。

「誰だ?ジェストって……、カナの元カレか?」

「うわぁ……っ!?」

 目を開けるとバッシュさんの顔がすぐ近くにあり、驚いてベッドから転がり落ちた。

「おいおい、人の顔を見るなりそれはねえだろ……。いくら俺でも傷つくぞ……」

「そ……そんなこと言われても、急に顔があったらビックリしますよ……っ!!」

「それでカナ、ジェストって誰だ?」

「以前パーティを組んでいた人ですよ……」

 私は打った頭を擦りながら起き上がる。
 バッシュさんは昨日結構飲んでいた筈なのに、二日酔いになっている感じは全くしない。

「それよりカナ、朝なんだからもう少しシャキッとしろよ……。髪も寝癖が酷いぞ……」

 手で頭を触ってみると、かなり酷いことになっているようだ……。

「昨日、風呂に行ってただろ?その時きちんと髪を乾かしたか?と言うか、お前寝相悪すぎだろ……、朝起きたら布団脱いで腹も出してたぞ……」

「な……っ!?」

「それに、ズボンの中に手を突っ込んで何してたんだ?流石に下着は見せてなかったけどな。……ほれ、寝癖を治してやるからじっとしろ」

 バッシュさんが何処からともなく用意した櫛で私の寝癖を治してくれる。

 ていうか……、え……?布団脱いでた……?お腹を出して……?
 しかも、スボン中に手まで突っ込んでた……っ!?

 え……っ!?じ……じゃあ……それを全部バッシュさんに見られてた……っ!?

 途端に私の顔が真っ赤になる……。

「どうした?カナ……。顔が茹でダコみたいだぞ……?」

「あの……、バッシュさん……。今言ったこと……全部ホントですか……?」

「さっきのって……、ああ……、寝相の事か。ああ、本当だ、幸せそうな顔で寝てたぜ。仮にも僧侶だからな、無闇に嘘は言わねえよ。……よし、寝癖治ったぞ」

「~~~~………っ!!!」

 い……いやあぁぁぁぁーーーーーー…………っ!!!

 朝の爽やかなひととき……、宿屋の一室で私は声にならない声をあげたのだった……。


 ◆◆◆


「おい……、カナ何時まで怒ってるんだよ……」

「怒ってません……っ!!」

 宿屋を出て、食事をしに冒険者ギルドへと向かっているのだが、実際私はかなり怒っていた。

 というのも、バッシュさんが部屋を出た隙に着替えを済まそうとしていると、すぐに帰ってきてしまい、下着姿を見られた上に、私の胸を見て「これが大平原ってやつか……。」と言われたからだ……っ!!

 何この人……っ!?目茶苦茶無神経なんですけど……っ!!

「前も言っただろ?お前は胸を気にしすぎなんだって……」

「ほっといてください……っ!というか、バッシュさん、昨日あれだけお酒を飲んだのに何でそれだけ元気なんですかっ!?普通二日酔いで倒れてるものじゃないんですか……っ!?」

「俺は底無しだからな。二日酔いなんてしねえんだよ」

「それに、昨日はイビキが五月蠅くて寝れなかったんですけど……っ!!」

「それは悪かったな……。でも、カナは腹出して爆睡してたぜ」

「な……っ!?」

 ムッキーーー……っ!!
 ああ言えばこう言う……っ!!

 本当にこの男は腹が立つ……っ!!

「兎に角!今日から私は別の部屋で寝ますからね……っ!!」

「はいはい、部屋が空いてればな……っと、冒険者ギルドに着いたぜ」

「分かってますよ……っ!!」

 冒険者ギルドへと辿り着いた私達は中へと入り、お互いカウンター席へと座る。

「というか、バッシュさん、ランザには行かなくていいんですかっ!?」

 冒険者ギルドに入っても言い合い……と言うより私が一方的に怒りをぶつけていた。

「別に急ぐ旅じゃないからな……。なんなら、カナも一緒に行くか?どうせ宛のない旅なんだろ?旅は道連れって言うじゃねえか」

「誰がバッシュさんなんかと……っ!あなたなんかと旅をしていたらリムルの時みたいに、何をされるか分かったものじゃありませんからね……っ!!」

「リムルの時は悪かったって……。でも、俺だって誰でも良かったって訳じゃないんだぜ?カナが魅力的だったからさ」

「ふ……ふん……!どうですかね……っ!」

 バッシュさんのセリフに思わず顔が赤くなる。

「あ……あの~……。そろそろご注文宜しいでしょうか……?」

 タイミングを伺っていたのか、ホールスタッフの女性が気まずそうな顔で注文を取りに来ていた……。

「あ……、すみません」

「悪いね、お嬢さん。こいつ腹が減ると機嫌が悪くなるんだ」

 バッシュさんが苦笑しながら私の頭をポンポンと叩く。

「私は子供ですか……っ!?それに頭をポンポンしないでください……っ!!」

「このようにすぐに噛みついて来てね……、困ってるんだ」

 バッシュさんはホールスタッフの女性に、おどけるように肩を竦めてみせた。
 これが大人の余裕って奴なのかも知れないけど、正直私には腹しか立たない……!

「おはよう、お二人さん。朝から痴話喧嘩?」

「誰が痴話喧嘩ですか……っ!?」

 声をかけられたので、振り向くとそのにはミーナの姿があった。

「冒険者ギルドの外までカナの声が聞こえてたよ?ほら、周りを見てご覧よ」

 ミーナに言われて周りを見渡すと、皆んなは微笑みながら、生暖かい目で私達を見ている。

 こ……これは……!
 昨日リリアさんとニルス君に向けられていた奴と同じもの……っ!?

 私の怒りはまるで空気の抜けた風船のように萎み、気恥ずかしさだけが残ったのだった……。
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