パーフェクト・ドリーム

星野ステラ

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※ハメを外す♡

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 初めはそんなつもりじゃなかったんだ。
 社会人なら仕事に忙殺される事だってある。人手が足りないかつ、急ぎの案件だったため、猫の手も借りたいくらい忙しかったのだ。予め決まっていた後輩の産休だけなら余裕があった。呪われているのかと思うほどの不幸が続き、交通事故に会い怪我で入院する奴、同僚の大ポカ等、悪い条件が重なってそれはもう地獄のような日々だった。謝罪しに回り、普段の営業にプラスして一時的に引き継いだ業務も少なくはない。家に帰るのは二十二時過ぎで、すぐに寝て明日に備える。高松も疲れた俺に気を使ってくれたのか、少し会話をするくらいだった。
 疲労もストレスもMAX。ただでさえいつもサボりまくっているのに、こんなに忙しくては堪えられるはずもない。それでも、死にそうな顔をしながらやり遂げた俺は偉いと思う。
 副産物として、面白いものを見れたのが良かった。そのデスワークは山場を越えるまで二週間以上続いたが、高松はずっと我慢していたらしい。いつものゲーセンでもサボる俺の姿はなく、帰ってもほとんど触れ合う事もない。俺が仕事から解放される頃には、高松は我慢の限界だったわけだ。
「尾上さん、月曜からはもう定時であがれる?」と、いつになくしょぼくれた姿を見せられて、可愛いなと思ってしまった。やっとひと段落ついてから土日にセックスをしたが、だいぶ余裕がなさそうで、よっぽど我慢していたのが見て取れた。いつも見せない年下(ほぼ一緒だが)の情けない表情。自分が優位にたったような気がして嬉しかったのだ。 
 つらつらと御託を並べてきたが、端的に言うとまた見たいのだ。高松の余裕のない表情、すがるような瞳。……たまらない。性格が悪いのは自覚しているが、そんなの知ったことか。たぶん高松にバレたら酷い返り討ちに合うと思うけれども、考えない事にする。今だけは考えたくない。
 そうと決まれば善は急げだ。


 体がだるいんだと嘘まで吐き、断り続けてはや二週間。心配してくれるので多少心が痛むが、おおむね良い感じだ。そろそろ理由を変えないと怪しまれてしまうかもしれない。
「ごめん、今日はあんまり気分じゃない」
 嘘だ。大嘘つきにも程がある。本当はすごくシたい。ここ二週間、セックスはおろかキスやハグなど、恋人らしい事を避けてきたのだから、そりゃそうだ。
 でも、それは高松だって同じはずだ。隣にいるのにおあずけを食らってションボリしていた。
「尾上さん……もしかして俺に飽きた?」
「え?」
 まるで捨てられた子犬のように肩を落とす高松を見て、やってしまったと思った。
 まずい。調子に乗りすぎた。
「そんなわけないだろ」
 素っ気ない態度をとる事で、高松を不安にさせてしまったらしい。調子に乗ってやりすぎて、本当に申し訳ないとは思う。我慢できなくなって強引に来ると思ったんだよ……。
「じゃあなんで避けるんですか」
「避けてないよ」
「……避けてますよ」
 消え入りそうな声だった。胸がキュッと締め付けられる。俺は馬鹿だ。自分の欲のせいで、高松を傷つけてしまったのだから。
 こうなってしまったら、正直に全部話すしかない。信頼を得ようと思ったら、余計な小細工などいらない。保身に走っても事態を悪化させるだけだ。
「いや、その……この前のこと忘れられなくて」
 意を決して話し出すと、高松はよく分からないといった顔をしている。俺は、これからめちゃくちゃ恥ずかしい説明をしなければならない。怒られる、下手したら愛想をつかされるかもしれない。
「この前の余裕のない感じ、可愛いなって思って」
 高松の眉間のシワが深くなった。理解出来ないのだろう。
「俺の名前呼んで、何回も好きって言うし……それに激しかったから。その……焦らしてたんだよ」
 そこまで言って、高松は面食らったような顔をした。全く想定していなかった回答らしい。自業自得とはいえ、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
「じゃあ、尾上さんは俺の事を嫌いになったんじゃないんですね……?」
「ごめんな」
 高松は大きく息を吐いた。安堵のため息だった。
「尾上さんそんな事するんだ。……いいですよ、じゃあ俺も同じことしますね。先に手出した方が負け」
 高松が本気で怒っているところを初めて見たかもしれない。よく分からない勝負を仕掛けてくるくらいには頭に来ている。
「……負けたらどうなるんだよ」
「勝った方の言うことを聞く」
 売り言葉に買い言葉。もうここまで来たら、二人とも意地だった。しこたま我慢させて恥ずかしいことさせてやる。俺はそう心に決めた。




「高松……」
 これが即落ち二コマというやつか。
 正直限界だった。約束をしてから二週間、つまり一月以上の間何も無かった。どうせ高松は堪え性もないだろうとタカをくくっていたが、完全に目論見が外れてしまった。こいつ、全くそんな素振りを見せない。仕事中もめっちゃムラついてるし、高松と顔を合わせるのも恥ずかしかった。正直めちゃくちゃセックスがしたい。
「どうしたの、尾上さん」
 金曜夜の絶好のタイミング。食事中も目線を逸らしていたはずなのに、箸を持つ右手も、料理を咀嚼する口元もチラチラ見てしまった。
 食器を片付けて一息つこうと思っても、口を付けていない食後のコーヒーは冷めていくだけだ。
 ……我慢出来ない。あぁ、もう知らん!
 勢いよく椅子から立ち上がった。
「……したい」
 必死に絞り出した声は震えていた。袖をギュッと握って、視線を落とした。
「なにがしたいんですか?」
「……セックス」
 ふふっと高松が笑う。顔を上げられないが、視線を感じる。頭には血が集まっている。
 負けを認めることがこんなにも恥ずかしいなんて。いや、自分は我慢できない人間ですと言わされている事がとても屈辱的で恥ずかしかった。俺は結局、丸め込まれてしまうのか。
「何してもらおうか決めてたんですよ」
 高松はダイニングテーブルに置いてあったスマホを手に取って、それを指さした。
 グッと息を飲む。……嫌な予感がする。
「ハメ撮り。大丈夫ですよ、俺が楽しむだけだから」
 ね? とニッコリ笑う高松は、今まで見たこともないくらいに恐ろしかった。目が全く笑っていない、座っている。
「や……それは」
 それは、ダメだ。嫌な汗が背を伝っていく。
 昔の事を思い出して、目の前がぐるぐると回る。意識が戻ってきた頃には、高松がいつの間にか隣に立っているのだ。
 一昔前は前だろうか、忘れもしない。好きでもない奴に嫌だと言って無理矢理撮られたのに、悶えてしまうほど感じてしまったのを覚えている。もちろんそんなことを高松に一度も言ったことはない。まるで自分を暴かれたような後ろめたさと危ない好奇心が、ぐるぐると胸の内で暴れ狂っている。間違いなく今日はドロドロに溶けて、グズグズになるまで終わらない。
「いっぱい撮りましょうね」
 肩を抱かれ耳元で囁かれると、体の奥が疼いた。

 お互い裸になって抱き合う。体のあちこちに唇が触れて、くすぐったい。
「繋がってるとこがよく見えるから正常位が良いなって。それに尾上さん正常位好きでしょ?」
「……本当に撮るのか」
「逆らうんですか?」
 有無を言わさず口付けられた。唇の間をぬって高松が侵入してくる。歯列をなぞり、舌先で口蓋を撫でている。口の裏側を刺激されるのが好きだとバレてから、高松はそればかりするようになった。おかげでキスが気持ち良い。
「っ……分かった」
 頭の中は既に半分とろけていた。




「あーすごい。……ぐちゃぐちゃじゃん」
 ゆっくりと時間をかけて解されたアナルは高松の指を三本飲み込んでいた。いつもより前戯が長く、頭の中までぐちゃぐちゃだ。ベッドサイドのテーブルに置いたスマートフォンは録画状態が続いている。自分で足を抱え広げ、自らの恥部を晒す俺の痴態をありありと写していた。
「あんま、言うなっ……」
 わざと音を立てているのか、ぐちゃぐちゃとした水音が部屋に響く。ねちっこく責められ続け、だんだん苦しくなってきた。
「ね……ここ?」
 指をぐいと曲げて、ある一点をトントンとノックされる。ビクン、と体が跳ねた。気持ちいい場所などとっくの昔にバレていて、完全に弄ばれていた。
「あっ♡……あ♡んん……」
 その動きに合うように、鋭い痺れが体中を駆け巡る。快感から逃れようとしても、高松はそれを許さない。膝頭を押さえつけて無理矢理足を開かせ、執拗に気持ちのいいところを狙ってくる。
 気持ちよすぎて頭おかしくなる……!
「あ♡はやくっ……欲しっ」
「なにが欲しいのか言わないと」
 高松はそう言うと、顔が映るような角度でスマートフォンをかまえた。カメラの前で言ってくださいねと鬼のようなことを言う。
「……た、高松のちんぽ、欲しい」
「どこに?」
 言葉に詰まる。それでも高松は許してくれない。一番良いところを外してネチネチと攻め立てるのがいやらしい。
「おれの……尻の穴に、挿れて」
 振り絞るような声でなんとか口に出す。こんな恥ずかしいことがあるか。四十過ぎのおっさんにこんなこと言わせてどうするんだ。
「よく出来ました」
 軽く頭を撫でられた。それで少し嬉しくなってしまう自分が嫌になる。
 高松はペニスをぴったりと穴に宛てがった。カメラを近づけて、結合部を接写している。
「ん……ふぅ……ぅん♡」
「繋がってるとこ、ちゃんと撮ってますからね」
 生で感じる高松のペニス。俺は今、体内を欲の塊に犯されている。ゆっくりとした動きで杭を打つようにハメられ、もどかしい感覚から身体をくねらせてしまった。
 最奥まで辿り着いた辺りで高松は静止した。そこから動いてくれなくて、もっと刺激が欲しくて欲しくてたまらなくて、身体が勝手に動いてしまう。
「えっろ……」
 余裕もなく腰を動かしてしまう駄目な俺の事を、厭らしくて蔑むような目で見下ろしている。その視線にまたぞくりとして、無意識にナカを締めてしまう。
「出たり入ったりしてますよ、やらしー……」
「うあ♡……あっ♡」
 ぐちゃぐちゃと体液とローションが混ざり合い、肉と肉がぶつかる音が部屋に響く。本来排泄用である穴も、性器として成り立っていて、敏感に快感を拾っている。
「いつもよりっ、良いけど……ハメ撮り好きなの?」
 内心ドキリとする。言葉にすることはないが、高松には隠し通せないだろう。そんな質問にイエスと答えられるわけもなく、首を横に振った。
「ちがっ♡……あっ♡あ♡」
「違わないでしょ?」
 お仕置きとばかりに尻を強めに叩かれた。思わずナカが締まる。
「ひゃっ……!」
「尾上さんはこういうの好きなんだ。へー……変態なんですね」
 だんだんとピストンも速くなり、快楽を拾うことで精一杯だ。ゆっくり引き抜かれたペニスが、一気に最奥までめり込む。まるで串刺しにされている気分だ。
「まあ、Mですもんね。なんだかんだ、酷くされるのが好きなんでしょ?」
「ちがッ♡あ゛あ♡………お゛ッ♡だ、ダメ……あ♡ああ♡」
 呻くような下品な声ばかりが口から漏れる。形だけの意味のない制止もむなしく、奥深くまで突き上げられて、頭が真っ白になる。前立腺でトロトロになった後に、結腸までガンガン攻められたら、意識が飛んでしまう。
「こんなトロトロなのにもったいない。……スマホ置くからちょっと待ってて」
 ほんの一瞬の『待て』すら出来ず、高松の背に足を絡めてしまい失笑された。
「ねえ……ちょっとも待てないんですか? ドアップやめたし、いっぱい奥突いてあげるから」
「ん……たかまつすき♡キスしたい」
「かわいい。俺も好きだよ」
 何度も何度も唇を重ね、高松の匂いも唾液も甘く感じるほど彼に溺れていた。欲に塗れてギラついた瞳も、快楽を拾おうと必死な顔も全部が愛おしい。好きと気持ちいいを交互に繰り返す頭の中は、ずーっとドライでイキ続けている。理性を手放し正常な思考も出来ず、ガクガクと身体が震える。快楽から逃れる方法を知らず、口からは下品な声だけが漏れる。
「たかまつ♡ぅ……ん゛んっ♡お゛……♡すきっ♡」
「あーすごい良い……やっば。溜まってたの全部出る。中に出していい?」
「やだっ♡外にだしてっ……あ♡……だめっ♡んッ♡♡」
 高松も余裕が無いらしく、苦悶の表情で必死に腰を打ち付けている。中に出さないで。今、ナカに出されたら───!」
「中に出すよっ……うっん……!」
「イ゛ってる♡あ゛あっ♡あっ♡♡……すき……たかまつすきっ♡♡」
 体内でペニスが脈打つのを感じる。言葉とは裏腹に身体はビクビクと震え、潮を吹きながら歓喜していた。身体の中に体液を受け止める悦びは、それを味わった者にしか分からないのだろう。
「あ♡……出てっちゃう」
 どろりとした液体が中を伝って溢れる。まだ頭はぼんやりしており、力無く息を吐いた。




 ベッドサイドのスマートフォンを回収した高松は録画を終了させていた。途中からまともに頭が動いておらず完全に失念していたが、とんでもない痴態を晒してしまったんじゃないか。
「焦らして楽しんでたんですか? 俺、ほんとに落ち込んでたんですから」
 まるで蛇に睨まれた蛙のよう。悪いことをした自覚があるから何も言えないし、申し訳ないなと思う。
「悪かったって、可愛くてつい」
「怒ってるんですよ。余裕のない俺に激しくされて、そんなによかったんですね?」
 嫌味や小言のひとつも仕方がない。元々は俺のせいなんだから。お互い意地の張り合いになっていたから、結果的に俺が折れる事になって良かったのかもしれない。……ものすごく恥ずかしいが。
「ま、いいですよ。いいオカズゲットしたしな~」
「待て! 絶対消せよ!」
「嫌でーす」
 あまり強く言う事も出来ず、その動画は高松のスマホに残り続けた。それからしばらく、彼は機嫌が良かったのだった。
 
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