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両親との別れ
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お駒ァ~ お駒ァ~
おっかぁ?
駒…7歳 信濃の山深い炭焼き小屋で猟師の父と田畑を耕す母と三人で暮らしていた。信濃の遅い春…駒は、 普段から慣れ親しんでいる 沢沿いを辿りながら、蕗の薹(ふきのとう)、薇(ぜんまい)、たら
の芽、蕨(わらび)など 山菜を摘んではしょい籠に入れていた。
母親の呼ぶ声が、沢伝いの切り立つ崖にこだまして山菜つみに精を出す駒の耳に届いた。 駒は、その身軽さで登ってきた沢を下り、母の待つ炭焼き小屋に戻る。
「おかぁ…?」
さっきまで母の呼ぶ声が聞こえ、急ぎ帰ってきたが母の姿が見当たらない。父は 野山を転々と移動する鉄砲打ちを生業にしていた。うさぎ シカ キツネ テンなど高額で取引されていた毛皮を 目的に猟をしていた。時にはキジ、山鳥猪、熊なども仕留めた。それらは主に食用にし、皮は鞣して売る。 毛皮は各地の大名や豪商などに特に珍重されていた。 肉も 内陸部では魚に代わる貴重なタンパク源として密かに売り買いされていた。
父は ここ一ヶ月ほど 炭焼き小屋に戻ってきていない。母と二人で 父の帰りを 指折り待つのが、日課になっていた。その母が、夕刻になっても一向に帰ってくる気配がない…。囲炉裏に火を入れ湯を沸かして 暖を取る。人里離れた深山では、常に自然の驚異と向き合いながら暮らして行かなければならない。小さな怪我、風邪一つでも命取りに成りかねない。駒も物心ついた頃には、一人で生きてゆく統べを両親から教えられていた。
その日の晩は、 とうとう母は帰ってこなかった。駒は囲炉裏端で母の帰りを待ちながら、寝てしまった。 翌朝…夜が明ける前、母が毎朝起きてする事を、駒も真似てする。神棚に手を合わせ竃に火を起こし米を研ぎ…母を真似る事で、母を感じていたかった。当然、母のようには、いかず すっかり闇夜は白み東の空は 登る朝日で明るく輝き出した。
次の日も…その次の日も…母は帰っては来なかった。7歳の駒にとって、苛酷な山の暮らしは、その日一日を生き延びるのが精一杯だった。近くに人が住んでいる訳でもなく、 夜間は狼の獲物を狙う遠吠えが山々にこだまする。狼は炎を嫌うと父親から教えられていた事を忠実に守ろうと、囲炉裏の火を落とさないように注意を払う。
“ お駒 いいかい良くお聞き!決して、一人で遠くへ行っちゃいけないよっ …お山は、わたしらに食べ物を分けてくださるが…命を奪っちまう時があるんだ。 だから、お父つぁんのようにお山と付き会える歳になるまで、決して 一人でお山の奥に入ってはいけないよ。お駒が行っていい所は、ここから見える【千年山桜】までだっ。おっ母さんと約束だよ… いいね ”
母との約束が駒の耳に聞こえる。 母の力強い声色が駒の不安で押し潰されそうな気持ちを何とか支えていた。
母が 戻って来なくなって、7日が過ぎようとしていた。幼い駒には、 今は両親の帰りを待つしか手だてがない。毎日、千年山桜の木までは出かけ、山桜に願掛けをする。
「どうかお母ぁが早く帰って来ますように…お父つぁんに、お母ぁが居なくなった事を知らせて下さい…」
駒の願いも虚しく それからまた三晩が過ぎた。母親が戻らなくなってから囲炉裏端で眠るようになった。父か母が、帰って来たら、すぐに出迎えられるように…。
信濃の遅い春
千年山桜も薄い桃色の花を 今が盛りとばかりに、周囲を圧倒するほどに満開を迎えている。
炭焼き小屋の入口が開いた…身の丈の大きな眼光険しい男が、囲炉裏端で眠る 駒を、凝視している。男は、体にケモノの衣を纏とい 背中に長筒二丁を背負って、腰には革袋をいくつかぶら下げている。手には、うさぎと山鳩を掴み、小屋の中にずかずかと入って来た。
駒は、肉が焼ける芳ばしい匂いに鼻をひくつかせ、モゾモゾと躰をくねるが 目覚める事は無い。
男は手にした山鳩を手際よく小刀で裁き 竹ぐしに刺して囲炉裏に差し込む。
裁いた後の骨で出汁をとり 鉄鍋の中に大根、米、 葱を入れ味噌で味付けをする。
お母ぁ…帰ってきたんだ…
駒は グツグツと鍋が煮上がり、パチパチと油の跳ねる音で ようやく目を覚ました。
お…母ぁ…
目の前に写るのは 不精に生やした髪を後ろで束ね 切長の漆黒の瞳 髭に覆われ口元が僅かに覗く男だった。
キョトンと 目を見開き 目の前の男を確かめ…直ぐさま
男の胸に飛び込む。
「おんつぁん!」
(おじちゃん)
「お駒っ 大きくなったなっ」
男は 懐の中にすっぽりとはいる駒を我が子のように愛おしみ抱きしめた。
「おんつぁん…いつ戻ってきたの?お父つぁんは?」
駒は男を、おんつぁんと物心ついた頃より、そう呼んでいた。
男の素性は この話しが進むにつれ 明らかになっていくが…
まだ幼い駒には知る由もない。
男は駒に食事を与え、母親が帰って来なくなったのはいつ頃からか、尋ねた。そして、男は駒の話しから…もう、生きてはいまいと推察する。
無邪気に串に刺さった肉を頬張る駒を見つめながらこの後、この幼子に無慈悲な事実を伝えなければならないと重い口を開くのだった。
「さぁ お駒よ、お前が猪の次に好きな山鳩だ。沢山食え…」
駒は約十日ぶりにまともな食事にありついた。
“おんつぁん”と駒から呼ばれる男は 毎年、 山桜が咲く頃必ず 炭焼き小屋をたずねてくる。
男は駒の母親がいる時は 母親と話し、父親がいる時は 一緒に下前田のご城下まで出かけて行く。
ある年などは、駒の父親と一緒に帰って来たこともある。
しかし、決して駒の家には逗留する事は無かった。
下前田のご城下近くで、 長逗留できる旅籠を定宿にしていた。
雉が鳴く秋口まで 逗留し、やがて冬の足音が聞こえてきそうな晩秋の頃、ご城下の宿を引き払い、 深山の住家に帰っていく。
帰り際には、 駒の家に必ず寄り駒や、 両親に手土産を持参する。
男とともに夏が訪れ男が去る頃には父も冬越しに備え超え太った獲物を求めて山深く狩猟の旅に出て行ってしまう。
男は駒に季節の到来を知らせる者でもあった。
駒は一人ぼっちだった淋しさを埋め合わせするかのように、男に纏わり付いた。
男は、馬二頭と共に冬の間に仕留めたケモノのなめし革、 毛皮を下前田のご城下で売りさばき、人跡未踏の地鬼ケ沢で採取出来る上質の砂金を両替に行かなければならない。
「お駒…私は今からご城下へ行って品物を納めにいかねばならぬのだが、一人で待っていられるか?」
駒は、 無意識に男の毛皮の上衣を握り絞め、初めて見せる涙目で男を見上げた。
「心配するな…明後日の夜には、必ず戻ってくる。それまで疾風(はやて)を置いて行くから、お前に世話を任せよう」
疾風(葦毛の馬)
駒は、馬を置いていくのだから約束は守ってくれると、 納得したように、こくりと頷いた。
「聞き分けの良い子だ 」
栗毛の馬の方に荷物を積み替えると疾風のたずなを、駒に預けた。
駒は物心付くころには、父親から馬の取り扱いを教わっていた。
父親は狩猟を生業としていたが、野生の木曾駒を手なずけ、引き連れて帰る時もあった。
炭焼き小屋の裏手に、馬二頭は係留できる馬小屋がある。
駒に預けられた疾風は、 主人が自分を置いて背を向けた姿を不安気な黒い瞳で見つめ、ヒンと鼻で鳴き 軽く前足を、 ばたつかせた。
不意の事に、駒の体もたずなを通して一瞬浮き上がる。しかし、 駒は慌てる事なく、自分の手が届く限りまで腕を伸ばし、 疾風の首筋、 胴体を、小さな手で 撫でる。
「どう どう …」
出来るだけ低くい声で、 ゆっくり、 声をかける。
男は駒の一連の対応をみて感心した。
柔らかい笑顔を向け、「お駒、疾風を頼んだぞ」
男は栗毛のたずなを引いて、 炭焼き小屋を後にする。
炭焼き小屋から 下前田の城下の外れまでは、男の速足でも半日は掛かる。
男が 駒の家から 下前田に着いたのは申の刻も回る頃だった。
御城下の外れに入る頃には、 毎年の事ながら
「比古さん、 今年も来なすったねぇ」と、馴染みの馬具問屋の亭主が声をかける。
「すまん、 亭主 また馬を預かってくれるか」
比古と呼ばれる男は、馬具問屋の亭主に 栗毛のたずなを預け荷物を下ろすのを 手伝ってもらう。
「ほほう、 比古さん 今年は、 中々に 上等な獲物が狩れたようだね」
亭主は、 白テンの毛ざわりを確かめ うっとりする。
白テンは、一匹一両は下るまい…と 胸算用しだすありさま。
男が荷物のなめし革 毛皮 大物、 小物に仕分け始めると、みるみる女どもが男の姿に「弥比古さん 今年も来たわねぇ…相変わらずの色男だねぇ」たちまち色めき立つ。
毎年 ご城下の染井吉野が 咲く頃、弥比古を待ちわびる女達は少なくなかった。
髪は背中まで伸び、後ろで一括りに束ね、毛皮をまとい飛騨山中の
マタギである事が一目でわかる風体。顔の髭も長らく剃刀(かみそり)一つあたっていない為、目と口元、鼻以外は、無精髭で覆われている。
氏素性もわからない、ただ毎年初夏から晩秋まで、下前田のご城下で逗留する 猟師。
弥比古は、 両肩に品物を担ぎ馬具問屋を後にした。 6尺の大男が、 ご城下の目貫通りを歩けば、 いやがおうでも目立つ。その行先は皮革問屋で 毎年のように品物を見定め卸していた。
皮革布物問屋
「上総屋惣右衛門」
屋号が初代店主の名前を頂いて長くなるため、「上総屋」と呼称されていた。
上総屋は信州信越奥飛騨越前一帯の絹織 縮緬 皮革 毛皮などを取り扱うこの界隈では大店だった。尾張 京 上方方面とも商いし、ときとして、貴重な薬草や鉱物なども江戸表から依頼があれば取扱ったりもした。
上総屋の番頭が、 店先に現れた弥比古に、
「これは これは…」と、手揉みする。
弥比古は、品物を店面にドサッと下ろす。
江戸から買い付けに来た仲買商人も、 弥比古の品物に釘付けになる。
「やはり一番は、白テンか…」「いや 紅狐の光沢も目を引くぞ‥」
貂(テン)は鼬(いたち)の仲間で 信州界隈の山々に棲息し、秋に一斉に冬毛に抜け代わる。
夏の皮毛は金茶色だが、 毛の厚みと艶は冬毛の足元にも及ばず、しかも一面積雪と氷に覆われた冬山で狩るのは至難の業でその希少さゆえに高値で取引されていた。
そのほかにも 白い斑のある小鹿。 冬の足元の保温用途に重宝な兎、豪傑を鼓舞する熊の頭付き毛皮など、皮革工芸職人の腕が試される珍品まで様様な皮革を弥比古は卸す。
江戸の大棚や旗本、尾張 京 上方の豪商や大名からは引っ切り無しに注文の来る品物ばかり。
生類憐みの令廃止後 闇で取り引きされていた閉塞感から解放されるや 毛皮 皮革など一気に需要が高まり値も吊り上がる一方だった。
上総屋を通さず言い値で買うと交渉してくる江戸の問屋まで現れる。
弥比古は 「後は任せる」と商売のやり取りには無関心で 上総屋の番頭に任せて 上総屋を出ると 髪結い床に行き顔の髭を剃り落とす。
髪は整えては貰うが、 後ろでひとくくりに束ねたままにするとそのまま遊郭の楼門をくぐった。
馴染みの
「花籠楼」の紅殻の粗い格子から遊女の品定めをしつつ四間は有ろうかと思われる朱く染め抜かれた花籠柄の暖簾閃く店表を潜った。
花籠楼の女将が
「比古さま、若羽木太夫をすぐに部屋へ寄越します。」
遊女が来るまで弥比古は部屋で、肴をあてに手酌酒を楽しんだ。
若羽木(わかはぎ)は、2階の奥の角部屋へ滑るように廊下を急ぐ。途中で下働きの女中とぶつかりそうになりながら、部屋の前に付くと、 息を整え、高ぶる気持ちを抑えながら乱れた衿元を正し障子戸の前で正座した。
「おいでなんし」
障子戸をそっと開け 床の前で くつろぐ男を見ると…堪らず擦り寄りざまに抱き付いた。
「お逢いしとうござんした」
「おっ おい、おい若羽木…」
勢いざま 手酌の猪口から酒が溢れ 弥比古も太夫の躰を受け止めるのがやっとだった。
弥比古は太夫を、抱き寄せ背中をさする。
「お忘れなく、いてくれんした、…嬉しい 嬉しい…」
若羽木は、弥比古から離れようとせず一年待たされた思いの丈をぶつける。
若羽木は、 弥比古の着物の合わせ目からそっと手を忍び入れ厚い胸から喉元にかけて撫でながら競り上げる。
皮膚を通して熱い体温を感じる。
一年間、この時、この瞬間が再びやって来るのか、不安と愁焦の間をいたりきたりさ迷いながら、意に添わぬ男達に抱かれていた。
弥比古は、若羽木の気が済むまでしたいようにさせる。
着物の合わせ目は、 若羽木の手の動きに合わせはだけていく。
肩から胸にかけてのなだらかな隆起と、窪みの連続した躯をか細い指先で下半身に向かってなぞらえていく。
「比古さま 帯を… 」
若羽木は、片手でシュルシュルと容易に 弥比古の帯を解きだした。
ハラリと着物が肩から落ち、まばゆいばかりに筋肉が隆起した赤銅の肌が露出する。
「比…古 さま…」
弥比古の素肌を若羽木が悩ましげに見つめ、たっぷりの唾液を掬った舌で唇を湿らせた。裸に剥かれても平然と手酌で酒を堪能している逞しい男の躯を遊女の唇と舌が隈なく這い回ると
「フゥ…」 弥比古がため息を漏らす。
胸の双丘にある乳首を交互に啄みながら太夫が弥比古の顔色を悩ましげに伺った。
(…うん…悔しいったら うんと気持ち良くさせますから)
男の小さな乳首でも硬くしこり始め、なお容赦なく甘噛みと吸い出しを繰り返す。女郎から花魁に上り詰めた女の手練手管を惜しげもなく披露する。弥比古の体に電流が走り始めた。引き締まり割れた腹筋の下の中心は体中の熱を集めて ドックン、ドックンと脈打ちだす。
はだけた体のへそ辺りまで白い褌(ふんどし)を突き破る勢いの太竿が薄い晒し木綿を僅かに濡らしながら天を突きはじめた。
若羽木は、辛抱たまらず、男の褌と太腿の隙間に手を差し入れて怒涛の男根を鷲づかんだ。
「比古様ぁ 太い魔羅にあちきの指が周りんせんっ下帯を緩めてくだしゃんせ」
弥比古は座面から腰をわずかに浮かせた。
すると、褌が緩んだその隙に若羽木が手早く結び目を解く。らはりと白い晒し木綿が弥比古の下半身から離れた………
天を突く弥比古の男根は、まるで当代随一の浮世絵師歌麿が描くまさに大魔羅その物だった。
「ああ…比古様ぁ‥あちきの万個が欲しい欲しいと泣いてありんす。」
太夫が自らの帯を解くと、朱い長襦袢の裾を左右にたくし上げ白く真っすぐに伸びた脚を左右に拡げた。
太腿が合わさる付け根は黒々とした隠毛に覆われた赤い秘裂から淫ら涎を滴らせて艶やかになまめいていた。
襦袢を捲り上げたまま弥比古の膝に大股で跨がると濡れた万個が下腹部に沿って立ち上がる男根の竿を包み込む。ずぶりと串にさされた太夫は上半身を反り繰り返して えもいわれぬ恍惚の笑みを漏らす。
生温い蜜に塗れた太夫の女唇は太い長竿を飲み込み分厚い花弁の奥の桃色の秘窟を晒し出す。
弥比古は 悩ましげに天井を仰ぐと
「ふぅ‥」乱れそうな呼吸を整えた。
並の女郎であればとうに気をやり果ててしまうところ 流石の若羽木太夫は伊達に花魁を張ってはいない。弥比古を赤子扱いするように弄び 愚弄する。
ゆっくり腰を上下して溢れ出た陰汁を弥比古の膝から男根まで塗りたくる。
「比古様 この時を、どれほど ‥あぁ 待ち侘びたことか、今宵は朝まで寝かしませぬ。覚悟しやしゃんせ」
弥比古は膝の上でなまめかしく腰をくねらせる太夫の動きを制止すると、そのまま身体を支えながら後ろに倒した。その隙に太夫を貫いていた太竿が抜け
「あれぇ…」
太夫は急な体勢を取らされ思わず小さな悲鳴をあげる。
「なぁ若よ、いつまでもお前ばかり楽しませるわけにはいかまいよ」
弥比古は戸惑う太夫に構わず両手で細い足首を掴み押し開いた。
「ああっ 比古さまぁ…」
身体に開いた脚を押し付けられた恥ずかしい姿で女の芯である万個が弥比古の眼下に晒されている。
「なかなかに良い眺めよ…」
あられもない若羽木太夫の姿に弥比古の朱黒く胴太の男根が反応しだす。
再び長竿が青い血脈を筋立てながら天上向かってそそり立ち、その先端の亀頭のエラがこれでもかと言わんばかりに張り出し、鈴割れ口から先走りの汁がとろりと長竿を伝って陰嚢までしたたり落ちた。
ご城下きっての色男で名高い弥比古が歌麿の枕絵を彷彿とさせる破廉恥な行為に事を及ばせている。
「あ…ぁ…比古さまぁぁ もう勘弁しやんせぇ…」
若羽木大夫の躯はくの字に折り曲げられ 女陰の開いた姿が何とも卑猥で男の淫らな欲望を掻き立てる。
脚の間から艶ややかな陰毛が女陰を縁取り二枚貝のように肉厚な花弁が、脚の開き具合で左右に引っ張られ普段は隠れている秘所の秘所まで弥比古に見られていた。
陰核から尿道口、薄く波打つ陰花の花弁。その中心は深く男の長竿を飲み込んだ後とあって ヒクつき、蜜汁で溢れ返っている。弥比古はまだ見え隠れしている陰核に口を押し当てた。
「ヒィィー」
甲高いいななきが若羽木太夫の口元から漏れる。苦しげに曲げられた躯が小刻みに痙攣しはじめた。ジュルジュルと蜜汁を啜りながら陰核を吸い出してその姿を包皮から剥き出せば、
「若羽木っ気をやってもいいんだよ…もうお前の‘サネ’だって皮がめくれて弾ける寸前だ。」
秘芯から唇を離した弥比古は硬く勃起した太夫の実を摘まみ上げた。
…うぅ―― いっっくぅぅ
あはぁぁぁぁ
気を激しくやった若羽木を休ます間も取らず、太夫の身体を軽々と持ち上げ体勢を逆転させた。
「若っよ、次は私の竿を収めてくれるか」
俗に言う四十八手の[二つ巴]の体勢から若羽木太夫は弥比古の太魔羅に唇を這わす。返事も聞かぬうちから弥比古は目前の太夫の手入れの行き届いた桃色の綺麗な菊門を指先でほぐしてみる。
「うぁふぅ…ぁあぁ くっ」
太夫が腰を震わせ わななきながらも弥比古の太魔羅を離さず苦し紛れに口いっぱいにほうばった。
「いっ…いいぞっもっと傘裏を舐めあげろ…」
弥比古の苦悶の表情は、太夫の亀頭責めが効いている事を表していた。
大夫は気を良くして口で扱き始める。ドックンドックンと竿の根本から太い血管を通して先端へ血潮がおしよせてきた。弥比古は 若羽木の臀部に両手を差し入れ若羽木をその場で仰向けに倒した。
足の間に分け入り 男根を掴みゆっくりと硬さが最高潮になるまで扱く。
太夫の割れて口を開いた女陰は太夫自身で乾かないように指を使って準備している。気は熟したとばかりに一気加勢に熱く硬直した肉棒を朱く充血した秘蜜のぬかるみに突っ込んだ。
「うっ きつい…」
巾着絞りのように秘窟の入り口が締まる。
あっふぅぅ…
弥比古は、若羽木の足を左右に開きゆっくり腰を前後に打ち振り下ろす。
竿の出し入れは女陰の壁との摩擦を繰り返し入り口で押し止められる。
ひぁ ぁぁん ん…
さすがに若くして太夫に上りつめただけの事はある名器中の名器の持ち主だと弥比古は感嘆する。
若羽木は涙を流してよがり狂い…
「比古さまぁ… お情けを‥お情けを くだしゃんせ‥あんんんん…」
太夫の切羽詰まった懇願を無視して激い痙攣とともに太夫の腹上に大量の精を吐き出した。
前夜は宵の口から若羽木大夫と情を交わし、明け方に太夫は深い眠りについていた。
弥比古は寝入っている太夫を残し朝早く花籠楼を後に上総屋へ向かっていた。前日の代金を番頭から受け取ると、ご城下外れの馬具問屋に寄る。
「比古さん、お早いお帰りだね…若羽木太夫…さぞ引き止めたでしょ
…比古さん一筋…あんな いい女 そう滅多に居やしやせん… いっぺんでいいから岡惚れされてみたいやね…」
「…」
弥比古は馬具問屋の店主の無駄話しには構わず、疾風と栗毛に必要な馬具を手に入れ、栗毛の世話の手間賃は 店主の言い値を渡し馬具問屋を出た。
ご城下の小間物屋を尋ね、駒への土産の櫛を手に入れる。
駒への土産の櫛は、加賀の漆塗りに金をちりばめ、 千鳥の螺鈿細工が施された 美しい品…
駒には少し大人っぽいか…と思いつつも弥比古の好みを 優先する。
今後、駒が一人でも暮らしが成り立つように取り計らわねばなるまい…と 心に誓う。駒としばらく暮らす為の米 味噌 干物、など 必要な品を栗毛に背負わせ何時もの長門逗留する定宿にその夜は泊まる事にした。
「弥比古様 毎年ご贔屓に預かり、ありがとうございます。」
宿の主人が 弥比古を見るなり 帳場から飛んで来た。
「亭主 すまぬが 今年は今宵一晩だけだ…」
上がり框に腰を下ろし、 皮の長草履を脱ぐと 、女中が 手桶を運び込む。 その中に足を入れ 女中が手ぬぐいで撫で付けながら洗ってくれる。
何時もの離れに床を取っている…と主人の心配りに 宿代をはずむ。
その晩…数人の男女が入れ代わり立ち代わり弥比古の
離れに出入りした。
毎年の事で 弥比古の商売相手だろうと宿の人間は気にも留めない。
翌朝、早く出立した弥比古は 駒の待つ炭焼き小屋へ
急ぐ。
ちょうど 午の刻二つを過ぎようとしたところから 視界に【千年山桜】が 飛び込んできた。
ここまで 来れば 後一つ時ほど…
やや歩む速度を落としながら 炭焼き小屋へと向かった。
明日は、おんつぁんが戻ってくると駒は、疾風の体を藁で撫で付けながら、待ちわびていた。
ドッサッドサ ガッシャンッ
囲炉裏端の方から物音がする。
駒は、 狐か狸が迷い込んだと思い馬小屋から母屋に戻ってみると、数人の男が 手当たり次第に家の中を物色している。
その様子に立ち尽くしていると
「おい 金になりそうな物があったぞ!」
と 駒の方を見てニヤリと笑う。
………………………
………………………
それからの駒の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまった。
弥比古が 炭焼き小屋の惨状を目にしたのはそれから 間もなくのことだった。
こま……〃お駒ぁッ〃
呼んだところでもう近くには居まい‥‥
またしても…
弥比古は苦渋の表情を浮かべ …惨状を見つめる。
その様子を物陰から見ていた男がいた。
…………
「仁吉か…」
弥比古の呟きに男が姿を現す。
仁吉と呼ばれる男もマタギの風体ではあるが…その身のこなしは、ただの猟師とは思えない。
「比古殿…」
仁吉は、弥比古の側近くに寄って、
「駒様には申し訳ない事をいたしましたが、どうしても真の正体を突き止めなければ…と…」
「…ふ~ッ お駒は…?」
弥比古は、駒の両親を殺害し 弥比古達の命をも狙う正体はほぼ言わずともわかっていると…言いたげに仁吉に問うた。
「下前田の宿場外れの女廊屋です。」
売り飛ばされたって事か…
「はい、しかし駒様の身は 女廊屋に居る限りは、ご無事かと…しばらく下働きで…辛うごさりましょうが、七歳では男の相手はまだ無理だろうし売り物になりませんから…」
仁吉の読みは、 正しいだろう…
弥比古はそうは、思うが、両親を一度に無くし、拐かされて女廊屋に売り飛ばされた駒が不憫だった。
もし、駒が政変に巻き込まれていなければ今頃は…
起こってしまった事実から目を背けてはいけないと弥比古は気持ちを引き締める。自分達が 駒を守るにせよ、手元に置いてやれない事情から なおさら不憫に思った。
おっかぁ?
駒…7歳 信濃の山深い炭焼き小屋で猟師の父と田畑を耕す母と三人で暮らしていた。信濃の遅い春…駒は、 普段から慣れ親しんでいる 沢沿いを辿りながら、蕗の薹(ふきのとう)、薇(ぜんまい)、たら
の芽、蕨(わらび)など 山菜を摘んではしょい籠に入れていた。
母親の呼ぶ声が、沢伝いの切り立つ崖にこだまして山菜つみに精を出す駒の耳に届いた。 駒は、その身軽さで登ってきた沢を下り、母の待つ炭焼き小屋に戻る。
「おかぁ…?」
さっきまで母の呼ぶ声が聞こえ、急ぎ帰ってきたが母の姿が見当たらない。父は 野山を転々と移動する鉄砲打ちを生業にしていた。うさぎ シカ キツネ テンなど高額で取引されていた毛皮を 目的に猟をしていた。時にはキジ、山鳥猪、熊なども仕留めた。それらは主に食用にし、皮は鞣して売る。 毛皮は各地の大名や豪商などに特に珍重されていた。 肉も 内陸部では魚に代わる貴重なタンパク源として密かに売り買いされていた。
父は ここ一ヶ月ほど 炭焼き小屋に戻ってきていない。母と二人で 父の帰りを 指折り待つのが、日課になっていた。その母が、夕刻になっても一向に帰ってくる気配がない…。囲炉裏に火を入れ湯を沸かして 暖を取る。人里離れた深山では、常に自然の驚異と向き合いながら暮らして行かなければならない。小さな怪我、風邪一つでも命取りに成りかねない。駒も物心ついた頃には、一人で生きてゆく統べを両親から教えられていた。
その日の晩は、 とうとう母は帰ってこなかった。駒は囲炉裏端で母の帰りを待ちながら、寝てしまった。 翌朝…夜が明ける前、母が毎朝起きてする事を、駒も真似てする。神棚に手を合わせ竃に火を起こし米を研ぎ…母を真似る事で、母を感じていたかった。当然、母のようには、いかず すっかり闇夜は白み東の空は 登る朝日で明るく輝き出した。
次の日も…その次の日も…母は帰っては来なかった。7歳の駒にとって、苛酷な山の暮らしは、その日一日を生き延びるのが精一杯だった。近くに人が住んでいる訳でもなく、 夜間は狼の獲物を狙う遠吠えが山々にこだまする。狼は炎を嫌うと父親から教えられていた事を忠実に守ろうと、囲炉裏の火を落とさないように注意を払う。
“ お駒 いいかい良くお聞き!決して、一人で遠くへ行っちゃいけないよっ …お山は、わたしらに食べ物を分けてくださるが…命を奪っちまう時があるんだ。 だから、お父つぁんのようにお山と付き会える歳になるまで、決して 一人でお山の奥に入ってはいけないよ。お駒が行っていい所は、ここから見える【千年山桜】までだっ。おっ母さんと約束だよ… いいね ”
母との約束が駒の耳に聞こえる。 母の力強い声色が駒の不安で押し潰されそうな気持ちを何とか支えていた。
母が 戻って来なくなって、7日が過ぎようとしていた。幼い駒には、 今は両親の帰りを待つしか手だてがない。毎日、千年山桜の木までは出かけ、山桜に願掛けをする。
「どうかお母ぁが早く帰って来ますように…お父つぁんに、お母ぁが居なくなった事を知らせて下さい…」
駒の願いも虚しく それからまた三晩が過ぎた。母親が戻らなくなってから囲炉裏端で眠るようになった。父か母が、帰って来たら、すぐに出迎えられるように…。
信濃の遅い春
千年山桜も薄い桃色の花を 今が盛りとばかりに、周囲を圧倒するほどに満開を迎えている。
炭焼き小屋の入口が開いた…身の丈の大きな眼光険しい男が、囲炉裏端で眠る 駒を、凝視している。男は、体にケモノの衣を纏とい 背中に長筒二丁を背負って、腰には革袋をいくつかぶら下げている。手には、うさぎと山鳩を掴み、小屋の中にずかずかと入って来た。
駒は、肉が焼ける芳ばしい匂いに鼻をひくつかせ、モゾモゾと躰をくねるが 目覚める事は無い。
男は手にした山鳩を手際よく小刀で裁き 竹ぐしに刺して囲炉裏に差し込む。
裁いた後の骨で出汁をとり 鉄鍋の中に大根、米、 葱を入れ味噌で味付けをする。
お母ぁ…帰ってきたんだ…
駒は グツグツと鍋が煮上がり、パチパチと油の跳ねる音で ようやく目を覚ました。
お…母ぁ…
目の前に写るのは 不精に生やした髪を後ろで束ね 切長の漆黒の瞳 髭に覆われ口元が僅かに覗く男だった。
キョトンと 目を見開き 目の前の男を確かめ…直ぐさま
男の胸に飛び込む。
「おんつぁん!」
(おじちゃん)
「お駒っ 大きくなったなっ」
男は 懐の中にすっぽりとはいる駒を我が子のように愛おしみ抱きしめた。
「おんつぁん…いつ戻ってきたの?お父つぁんは?」
駒は男を、おんつぁんと物心ついた頃より、そう呼んでいた。
男の素性は この話しが進むにつれ 明らかになっていくが…
まだ幼い駒には知る由もない。
男は駒に食事を与え、母親が帰って来なくなったのはいつ頃からか、尋ねた。そして、男は駒の話しから…もう、生きてはいまいと推察する。
無邪気に串に刺さった肉を頬張る駒を見つめながらこの後、この幼子に無慈悲な事実を伝えなければならないと重い口を開くのだった。
「さぁ お駒よ、お前が猪の次に好きな山鳩だ。沢山食え…」
駒は約十日ぶりにまともな食事にありついた。
“おんつぁん”と駒から呼ばれる男は 毎年、 山桜が咲く頃必ず 炭焼き小屋をたずねてくる。
男は駒の母親がいる時は 母親と話し、父親がいる時は 一緒に下前田のご城下まで出かけて行く。
ある年などは、駒の父親と一緒に帰って来たこともある。
しかし、決して駒の家には逗留する事は無かった。
下前田のご城下近くで、 長逗留できる旅籠を定宿にしていた。
雉が鳴く秋口まで 逗留し、やがて冬の足音が聞こえてきそうな晩秋の頃、ご城下の宿を引き払い、 深山の住家に帰っていく。
帰り際には、 駒の家に必ず寄り駒や、 両親に手土産を持参する。
男とともに夏が訪れ男が去る頃には父も冬越しに備え超え太った獲物を求めて山深く狩猟の旅に出て行ってしまう。
男は駒に季節の到来を知らせる者でもあった。
駒は一人ぼっちだった淋しさを埋め合わせするかのように、男に纏わり付いた。
男は、馬二頭と共に冬の間に仕留めたケモノのなめし革、 毛皮を下前田のご城下で売りさばき、人跡未踏の地鬼ケ沢で採取出来る上質の砂金を両替に行かなければならない。
「お駒…私は今からご城下へ行って品物を納めにいかねばならぬのだが、一人で待っていられるか?」
駒は、 無意識に男の毛皮の上衣を握り絞め、初めて見せる涙目で男を見上げた。
「心配するな…明後日の夜には、必ず戻ってくる。それまで疾風(はやて)を置いて行くから、お前に世話を任せよう」
疾風(葦毛の馬)
駒は、馬を置いていくのだから約束は守ってくれると、 納得したように、こくりと頷いた。
「聞き分けの良い子だ 」
栗毛の馬の方に荷物を積み替えると疾風のたずなを、駒に預けた。
駒は物心付くころには、父親から馬の取り扱いを教わっていた。
父親は狩猟を生業としていたが、野生の木曾駒を手なずけ、引き連れて帰る時もあった。
炭焼き小屋の裏手に、馬二頭は係留できる馬小屋がある。
駒に預けられた疾風は、 主人が自分を置いて背を向けた姿を不安気な黒い瞳で見つめ、ヒンと鼻で鳴き 軽く前足を、 ばたつかせた。
不意の事に、駒の体もたずなを通して一瞬浮き上がる。しかし、 駒は慌てる事なく、自分の手が届く限りまで腕を伸ばし、 疾風の首筋、 胴体を、小さな手で 撫でる。
「どう どう …」
出来るだけ低くい声で、 ゆっくり、 声をかける。
男は駒の一連の対応をみて感心した。
柔らかい笑顔を向け、「お駒、疾風を頼んだぞ」
男は栗毛のたずなを引いて、 炭焼き小屋を後にする。
炭焼き小屋から 下前田の城下の外れまでは、男の速足でも半日は掛かる。
男が 駒の家から 下前田に着いたのは申の刻も回る頃だった。
御城下の外れに入る頃には、 毎年の事ながら
「比古さん、 今年も来なすったねぇ」と、馴染みの馬具問屋の亭主が声をかける。
「すまん、 亭主 また馬を預かってくれるか」
比古と呼ばれる男は、馬具問屋の亭主に 栗毛のたずなを預け荷物を下ろすのを 手伝ってもらう。
「ほほう、 比古さん 今年は、 中々に 上等な獲物が狩れたようだね」
亭主は、 白テンの毛ざわりを確かめ うっとりする。
白テンは、一匹一両は下るまい…と 胸算用しだすありさま。
男が荷物のなめし革 毛皮 大物、 小物に仕分け始めると、みるみる女どもが男の姿に「弥比古さん 今年も来たわねぇ…相変わらずの色男だねぇ」たちまち色めき立つ。
毎年 ご城下の染井吉野が 咲く頃、弥比古を待ちわびる女達は少なくなかった。
髪は背中まで伸び、後ろで一括りに束ね、毛皮をまとい飛騨山中の
マタギである事が一目でわかる風体。顔の髭も長らく剃刀(かみそり)一つあたっていない為、目と口元、鼻以外は、無精髭で覆われている。
氏素性もわからない、ただ毎年初夏から晩秋まで、下前田のご城下で逗留する 猟師。
弥比古は、 両肩に品物を担ぎ馬具問屋を後にした。 6尺の大男が、 ご城下の目貫通りを歩けば、 いやがおうでも目立つ。その行先は皮革問屋で 毎年のように品物を見定め卸していた。
皮革布物問屋
「上総屋惣右衛門」
屋号が初代店主の名前を頂いて長くなるため、「上総屋」と呼称されていた。
上総屋は信州信越奥飛騨越前一帯の絹織 縮緬 皮革 毛皮などを取り扱うこの界隈では大店だった。尾張 京 上方方面とも商いし、ときとして、貴重な薬草や鉱物なども江戸表から依頼があれば取扱ったりもした。
上総屋の番頭が、 店先に現れた弥比古に、
「これは これは…」と、手揉みする。
弥比古は、品物を店面にドサッと下ろす。
江戸から買い付けに来た仲買商人も、 弥比古の品物に釘付けになる。
「やはり一番は、白テンか…」「いや 紅狐の光沢も目を引くぞ‥」
貂(テン)は鼬(いたち)の仲間で 信州界隈の山々に棲息し、秋に一斉に冬毛に抜け代わる。
夏の皮毛は金茶色だが、 毛の厚みと艶は冬毛の足元にも及ばず、しかも一面積雪と氷に覆われた冬山で狩るのは至難の業でその希少さゆえに高値で取引されていた。
そのほかにも 白い斑のある小鹿。 冬の足元の保温用途に重宝な兎、豪傑を鼓舞する熊の頭付き毛皮など、皮革工芸職人の腕が試される珍品まで様様な皮革を弥比古は卸す。
江戸の大棚や旗本、尾張 京 上方の豪商や大名からは引っ切り無しに注文の来る品物ばかり。
生類憐みの令廃止後 闇で取り引きされていた閉塞感から解放されるや 毛皮 皮革など一気に需要が高まり値も吊り上がる一方だった。
上総屋を通さず言い値で買うと交渉してくる江戸の問屋まで現れる。
弥比古は 「後は任せる」と商売のやり取りには無関心で 上総屋の番頭に任せて 上総屋を出ると 髪結い床に行き顔の髭を剃り落とす。
髪は整えては貰うが、 後ろでひとくくりに束ねたままにするとそのまま遊郭の楼門をくぐった。
馴染みの
「花籠楼」の紅殻の粗い格子から遊女の品定めをしつつ四間は有ろうかと思われる朱く染め抜かれた花籠柄の暖簾閃く店表を潜った。
花籠楼の女将が
「比古さま、若羽木太夫をすぐに部屋へ寄越します。」
遊女が来るまで弥比古は部屋で、肴をあてに手酌酒を楽しんだ。
若羽木(わかはぎ)は、2階の奥の角部屋へ滑るように廊下を急ぐ。途中で下働きの女中とぶつかりそうになりながら、部屋の前に付くと、 息を整え、高ぶる気持ちを抑えながら乱れた衿元を正し障子戸の前で正座した。
「おいでなんし」
障子戸をそっと開け 床の前で くつろぐ男を見ると…堪らず擦り寄りざまに抱き付いた。
「お逢いしとうござんした」
「おっ おい、おい若羽木…」
勢いざま 手酌の猪口から酒が溢れ 弥比古も太夫の躰を受け止めるのがやっとだった。
弥比古は太夫を、抱き寄せ背中をさする。
「お忘れなく、いてくれんした、…嬉しい 嬉しい…」
若羽木は、弥比古から離れようとせず一年待たされた思いの丈をぶつける。
若羽木は、 弥比古の着物の合わせ目からそっと手を忍び入れ厚い胸から喉元にかけて撫でながら競り上げる。
皮膚を通して熱い体温を感じる。
一年間、この時、この瞬間が再びやって来るのか、不安と愁焦の間をいたりきたりさ迷いながら、意に添わぬ男達に抱かれていた。
弥比古は、若羽木の気が済むまでしたいようにさせる。
着物の合わせ目は、 若羽木の手の動きに合わせはだけていく。
肩から胸にかけてのなだらかな隆起と、窪みの連続した躯をか細い指先で下半身に向かってなぞらえていく。
「比古さま 帯を… 」
若羽木は、片手でシュルシュルと容易に 弥比古の帯を解きだした。
ハラリと着物が肩から落ち、まばゆいばかりに筋肉が隆起した赤銅の肌が露出する。
「比…古 さま…」
弥比古の素肌を若羽木が悩ましげに見つめ、たっぷりの唾液を掬った舌で唇を湿らせた。裸に剥かれても平然と手酌で酒を堪能している逞しい男の躯を遊女の唇と舌が隈なく這い回ると
「フゥ…」 弥比古がため息を漏らす。
胸の双丘にある乳首を交互に啄みながら太夫が弥比古の顔色を悩ましげに伺った。
(…うん…悔しいったら うんと気持ち良くさせますから)
男の小さな乳首でも硬くしこり始め、なお容赦なく甘噛みと吸い出しを繰り返す。女郎から花魁に上り詰めた女の手練手管を惜しげもなく披露する。弥比古の体に電流が走り始めた。引き締まり割れた腹筋の下の中心は体中の熱を集めて ドックン、ドックンと脈打ちだす。
はだけた体のへそ辺りまで白い褌(ふんどし)を突き破る勢いの太竿が薄い晒し木綿を僅かに濡らしながら天を突きはじめた。
若羽木は、辛抱たまらず、男の褌と太腿の隙間に手を差し入れて怒涛の男根を鷲づかんだ。
「比古様ぁ 太い魔羅にあちきの指が周りんせんっ下帯を緩めてくだしゃんせ」
弥比古は座面から腰をわずかに浮かせた。
すると、褌が緩んだその隙に若羽木が手早く結び目を解く。らはりと白い晒し木綿が弥比古の下半身から離れた………
天を突く弥比古の男根は、まるで当代随一の浮世絵師歌麿が描くまさに大魔羅その物だった。
「ああ…比古様ぁ‥あちきの万個が欲しい欲しいと泣いてありんす。」
太夫が自らの帯を解くと、朱い長襦袢の裾を左右にたくし上げ白く真っすぐに伸びた脚を左右に拡げた。
太腿が合わさる付け根は黒々とした隠毛に覆われた赤い秘裂から淫ら涎を滴らせて艶やかになまめいていた。
襦袢を捲り上げたまま弥比古の膝に大股で跨がると濡れた万個が下腹部に沿って立ち上がる男根の竿を包み込む。ずぶりと串にさされた太夫は上半身を反り繰り返して えもいわれぬ恍惚の笑みを漏らす。
生温い蜜に塗れた太夫の女唇は太い長竿を飲み込み分厚い花弁の奥の桃色の秘窟を晒し出す。
弥比古は 悩ましげに天井を仰ぐと
「ふぅ‥」乱れそうな呼吸を整えた。
並の女郎であればとうに気をやり果ててしまうところ 流石の若羽木太夫は伊達に花魁を張ってはいない。弥比古を赤子扱いするように弄び 愚弄する。
ゆっくり腰を上下して溢れ出た陰汁を弥比古の膝から男根まで塗りたくる。
「比古様 この時を、どれほど ‥あぁ 待ち侘びたことか、今宵は朝まで寝かしませぬ。覚悟しやしゃんせ」
弥比古は膝の上でなまめかしく腰をくねらせる太夫の動きを制止すると、そのまま身体を支えながら後ろに倒した。その隙に太夫を貫いていた太竿が抜け
「あれぇ…」
太夫は急な体勢を取らされ思わず小さな悲鳴をあげる。
「なぁ若よ、いつまでもお前ばかり楽しませるわけにはいかまいよ」
弥比古は戸惑う太夫に構わず両手で細い足首を掴み押し開いた。
「ああっ 比古さまぁ…」
身体に開いた脚を押し付けられた恥ずかしい姿で女の芯である万個が弥比古の眼下に晒されている。
「なかなかに良い眺めよ…」
あられもない若羽木太夫の姿に弥比古の朱黒く胴太の男根が反応しだす。
再び長竿が青い血脈を筋立てながら天上向かってそそり立ち、その先端の亀頭のエラがこれでもかと言わんばかりに張り出し、鈴割れ口から先走りの汁がとろりと長竿を伝って陰嚢までしたたり落ちた。
ご城下きっての色男で名高い弥比古が歌麿の枕絵を彷彿とさせる破廉恥な行為に事を及ばせている。
「あ…ぁ…比古さまぁぁ もう勘弁しやんせぇ…」
若羽木大夫の躯はくの字に折り曲げられ 女陰の開いた姿が何とも卑猥で男の淫らな欲望を掻き立てる。
脚の間から艶ややかな陰毛が女陰を縁取り二枚貝のように肉厚な花弁が、脚の開き具合で左右に引っ張られ普段は隠れている秘所の秘所まで弥比古に見られていた。
陰核から尿道口、薄く波打つ陰花の花弁。その中心は深く男の長竿を飲み込んだ後とあって ヒクつき、蜜汁で溢れ返っている。弥比古はまだ見え隠れしている陰核に口を押し当てた。
「ヒィィー」
甲高いいななきが若羽木太夫の口元から漏れる。苦しげに曲げられた躯が小刻みに痙攣しはじめた。ジュルジュルと蜜汁を啜りながら陰核を吸い出してその姿を包皮から剥き出せば、
「若羽木っ気をやってもいいんだよ…もうお前の‘サネ’だって皮がめくれて弾ける寸前だ。」
秘芯から唇を離した弥比古は硬く勃起した太夫の実を摘まみ上げた。
…うぅ―― いっっくぅぅ
あはぁぁぁぁ
気を激しくやった若羽木を休ます間も取らず、太夫の身体を軽々と持ち上げ体勢を逆転させた。
「若っよ、次は私の竿を収めてくれるか」
俗に言う四十八手の[二つ巴]の体勢から若羽木太夫は弥比古の太魔羅に唇を這わす。返事も聞かぬうちから弥比古は目前の太夫の手入れの行き届いた桃色の綺麗な菊門を指先でほぐしてみる。
「うぁふぅ…ぁあぁ くっ」
太夫が腰を震わせ わななきながらも弥比古の太魔羅を離さず苦し紛れに口いっぱいにほうばった。
「いっ…いいぞっもっと傘裏を舐めあげろ…」
弥比古の苦悶の表情は、太夫の亀頭責めが効いている事を表していた。
大夫は気を良くして口で扱き始める。ドックンドックンと竿の根本から太い血管を通して先端へ血潮がおしよせてきた。弥比古は 若羽木の臀部に両手を差し入れ若羽木をその場で仰向けに倒した。
足の間に分け入り 男根を掴みゆっくりと硬さが最高潮になるまで扱く。
太夫の割れて口を開いた女陰は太夫自身で乾かないように指を使って準備している。気は熟したとばかりに一気加勢に熱く硬直した肉棒を朱く充血した秘蜜のぬかるみに突っ込んだ。
「うっ きつい…」
巾着絞りのように秘窟の入り口が締まる。
あっふぅぅ…
弥比古は、若羽木の足を左右に開きゆっくり腰を前後に打ち振り下ろす。
竿の出し入れは女陰の壁との摩擦を繰り返し入り口で押し止められる。
ひぁ ぁぁん ん…
さすがに若くして太夫に上りつめただけの事はある名器中の名器の持ち主だと弥比古は感嘆する。
若羽木は涙を流してよがり狂い…
「比古さまぁ… お情けを‥お情けを くだしゃんせ‥あんんんん…」
太夫の切羽詰まった懇願を無視して激い痙攣とともに太夫の腹上に大量の精を吐き出した。
前夜は宵の口から若羽木大夫と情を交わし、明け方に太夫は深い眠りについていた。
弥比古は寝入っている太夫を残し朝早く花籠楼を後に上総屋へ向かっていた。前日の代金を番頭から受け取ると、ご城下外れの馬具問屋に寄る。
「比古さん、お早いお帰りだね…若羽木太夫…さぞ引き止めたでしょ
…比古さん一筋…あんな いい女 そう滅多に居やしやせん… いっぺんでいいから岡惚れされてみたいやね…」
「…」
弥比古は馬具問屋の店主の無駄話しには構わず、疾風と栗毛に必要な馬具を手に入れ、栗毛の世話の手間賃は 店主の言い値を渡し馬具問屋を出た。
ご城下の小間物屋を尋ね、駒への土産の櫛を手に入れる。
駒への土産の櫛は、加賀の漆塗りに金をちりばめ、 千鳥の螺鈿細工が施された 美しい品…
駒には少し大人っぽいか…と思いつつも弥比古の好みを 優先する。
今後、駒が一人でも暮らしが成り立つように取り計らわねばなるまい…と 心に誓う。駒としばらく暮らす為の米 味噌 干物、など 必要な品を栗毛に背負わせ何時もの長門逗留する定宿にその夜は泊まる事にした。
「弥比古様 毎年ご贔屓に預かり、ありがとうございます。」
宿の主人が 弥比古を見るなり 帳場から飛んで来た。
「亭主 すまぬが 今年は今宵一晩だけだ…」
上がり框に腰を下ろし、 皮の長草履を脱ぐと 、女中が 手桶を運び込む。 その中に足を入れ 女中が手ぬぐいで撫で付けながら洗ってくれる。
何時もの離れに床を取っている…と主人の心配りに 宿代をはずむ。
その晩…数人の男女が入れ代わり立ち代わり弥比古の
離れに出入りした。
毎年の事で 弥比古の商売相手だろうと宿の人間は気にも留めない。
翌朝、早く出立した弥比古は 駒の待つ炭焼き小屋へ
急ぐ。
ちょうど 午の刻二つを過ぎようとしたところから 視界に【千年山桜】が 飛び込んできた。
ここまで 来れば 後一つ時ほど…
やや歩む速度を落としながら 炭焼き小屋へと向かった。
明日は、おんつぁんが戻ってくると駒は、疾風の体を藁で撫で付けながら、待ちわびていた。
ドッサッドサ ガッシャンッ
囲炉裏端の方から物音がする。
駒は、 狐か狸が迷い込んだと思い馬小屋から母屋に戻ってみると、数人の男が 手当たり次第に家の中を物色している。
その様子に立ち尽くしていると
「おい 金になりそうな物があったぞ!」
と 駒の方を見てニヤリと笑う。
………………………
………………………
それからの駒の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまった。
弥比古が 炭焼き小屋の惨状を目にしたのはそれから 間もなくのことだった。
こま……〃お駒ぁッ〃
呼んだところでもう近くには居まい‥‥
またしても…
弥比古は苦渋の表情を浮かべ …惨状を見つめる。
その様子を物陰から見ていた男がいた。
…………
「仁吉か…」
弥比古の呟きに男が姿を現す。
仁吉と呼ばれる男もマタギの風体ではあるが…その身のこなしは、ただの猟師とは思えない。
「比古殿…」
仁吉は、弥比古の側近くに寄って、
「駒様には申し訳ない事をいたしましたが、どうしても真の正体を突き止めなければ…と…」
「…ふ~ッ お駒は…?」
弥比古は、駒の両親を殺害し 弥比古達の命をも狙う正体はほぼ言わずともわかっていると…言いたげに仁吉に問うた。
「下前田の宿場外れの女廊屋です。」
売り飛ばされたって事か…
「はい、しかし駒様の身は 女廊屋に居る限りは、ご無事かと…しばらく下働きで…辛うごさりましょうが、七歳では男の相手はまだ無理だろうし売り物になりませんから…」
仁吉の読みは、 正しいだろう…
弥比古はそうは、思うが、両親を一度に無くし、拐かされて女廊屋に売り飛ばされた駒が不憫だった。
もし、駒が政変に巻き込まれていなければ今頃は…
起こってしまった事実から目を背けてはいけないと弥比古は気持ちを引き締める。自分達が 駒を守るにせよ、手元に置いてやれない事情から なおさら不憫に思った。
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