夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

北畠 逢希

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皇女(2)

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時は大戦から三年後。建国から千年目を迎えるこの日、アウストリアでは国中を挙げてのお祭りが行われることになった。

即位から五年でアウストリアを大陸一の強国へと導いた若き皇帝・ルヴェルグ、先の第二皇子であった皇弟・エレノス、同じく先の第三皇子であった皇弟ローレンス、そして、現皇帝の妹である皇女クローディア。

この四名は先帝の子、すなわち兄弟でありながら、帝位争いをすることなく、非常に仲良く育ったことで世界中から驚かれていた。

アウストリアも含め、この大陸の国々は長い歴史の中で、皇族による玉座を争う血生臭い出来事が幾度もあった。

だが、この兄弟はエレノスとクローディア以外の母親は、我の子こそ玉座にと望む有力な貴族の出でありながら、一度も諍いを起こさないどころか、月に決められた日には必ずお茶会をしたりお忍びで出掛けるほどに仲の良い兄弟であった。

「──エレノス閣下、クローディア皇女の御成りっー!」

クローディア皇女の住まいから馬車を走らせること数分。皇帝の住まいがあり政をする場でもある皇宮に二人が到着すると、誰もが喜んで出迎えると同時に、滅多に公の場に顔を出さない皇女の尊顔を見てうっとりとしていた。

まるで紡いだ糸のような銀色の髪、雪のような白い肌、ヴァイオレットの瞳、咲いたばかりの赤薔薇のような唇。どこを見てもうっとりとしてしまう容姿である皇女の姿を見たくて足を運んだ貴族は数えきれない。

「これはこれは、兄上に我が妹クローディアよ。ご機嫌はいかがかな?」

皇宮に着いた二人を真っ先に出迎えたのは、エレノスと同じく皇弟であるローレンスだった。

二人とは腹違いの兄弟であるローレンスは、帝国で一、二を争う名門貴族・ジェラール公爵家の出である母を持ち、兄弟では一番高貴な血を継いでいるため次期皇帝に、と望む人間が多かったが、その座は現皇帝の即位前に自ら辞退し、それを聞いた母親は驚愕のあまり倒れてしまったそうだ。

ジェラール公爵家の特徴とも言える紫色の髪と皇族の証である菫色の瞳を持つローレンスは、容姿こそ銀髪の兄妹に見劣りしないが、少々性格と趣向に難があった。

「ご機嫌よう、ローレンス兄様」

クローディアはドレスの裾を持ちふんわりとお辞儀をしたが、エレノスは微笑を浮かべたまま固まっていた。そのこめかみには青筋が浮かんできている。

「……ローレンス。私が贈ったクローディアと揃いの衣装は着てこなかったのかい?」

「おお、兄上よ、よくぞ聞いてくださった!」

ローレンスはエレノスの両手を握ると、瞳を潤めかせながら口をぺらぺらと動かし始めた。

「兄上が送ってくださったタキシードだが、朝起きて窓を開けて風を入れた瞬間に春風に吹かれてしまって、これは何かよくないことが起きる前触れではないかと思った僕は泣く泣くタキシードを我が母の肖像画の前に置き祈りを捧げることにし、ちょうど注文し届いた純白のタキシードに紫色の薔薇を飾ることに──」

「今日は白が良かったんだね?」

「それは誤解だ兄上っ! 僕は、僕は母の霊にっ…」

亡き母の霊が耳元で囁いてきたという理由でエレノスからの厚意を自室に置いてきたと語るローレンスは、純白のタキシードに紫色のタイ、紫色の薔薇を一輪胸元に挿していた。

今日は皇族四人が揃う滅多にない機会だから、日頃から奇抜なものを着ているローレンスともお揃いにしたいと思っていたエレノスだったが、世の中そううまくはいかないらしい。

(…今日だけはマトモな服を着せなければと思い用意したが)

一体なぜこうなってしまったのか、とエレノスは頭を悩ませたが、クローディアに裾を引かれて我に返った。時を見計らったかのように、宮の階段脇にいる楽団が皇帝を出迎える曲を演奏し始めた。

「…ルヴェルグ兄様だわ。ローレンス兄様、お兄様、行きましょう?」

「そうだね、ディア。ローレンスも行こう」

エレノスはローレンスとディアのエスコートを交代すると、先陣を切るように二人の前を歩き出した。

いつのまにかローレンスの胸元から引き抜いていた紫色の薔薇──国旗の花でもあるサイレントローズを白銀の剣とともに持ちながら。
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