OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第二十話 決意と決闘

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  ロックに蹴り飛ばされたアシャは、そのまま仰向けに倒れ、ただ呆然としていた。
  アシャの瞳に写る鍛練場の天井は、所々汚れておりシミが目立っていた。
 (天井など見ることもなかったが……こんなに汚れていたとは……)
  この時アシャは自分が負けたことを理解した。
 (そうか……私は敗けたのだな……)
  ロックに剣を奪われた時点で、アシャ敗北は決まった。
  最後に聞いたロックの言葉が、頭をよぎった。
 (型にはまりすぎか……。外を知らぬ私にとっては、正にその通りだな……)
  アシャは目を閉じて、大きく息を吸って、その場に座り込んだ。
  その様子をロックとエリスが眺めていると、アシャは二人に言った。
 「私は……お主らに付いていく事にした」
  アシャの言葉に、ロックとエリスは目を丸くした。
  エリスは恐る恐るアシャに聞いた。
 「それって……わたし達の仲間にしてくれって、事?」
 「そうだ……。しかし、お主とはいずれ勝負してもらう……」
  ロックは頭を掻いた。
 「なんでそうなる?」
 「私に足りないモノが補えた時……今度は私が勝つ」
  ロックは表情をひきつらせた。
 「俺を斬るつもりで仲間になるなんて……無茶苦茶じゃねぇか……」
  すると鍛練場の入口付近から声がした。
 「いいじゃねぇか……仲間にしてやるよ」
  三人がその声に反応すると、そこにはギルが立っていた。
 「ギル……」
  エリスがそう呟くと、ギルは三人に向かって歩いてきた。
 「ちょうど戦力が欲しかったんだ。いいタイミングだ」
  ロックはギルに、怪訝な表情を向けた。
 「ギル、テメェ……見てやがったのか」
 「お前が蹴り飛ばしたあたりからな」
  ギルはアシャに言った。
 「ドレル剣士だから、腕は確かだろ?歓迎するぜ」
 「ギル殿……」
  アシャがそう呟くと、ロックがギルに言った。
 「勝手に決めんな。ソイツ俺の事を斬るつもりなんだぞ」
  ギルはにニヤリとして言った。
 「いいじゃねぇか……目的はなんであれ、戦闘員が仲間になるのは、悪くねぇ」
  ロックはげんなりした。
 「その目的が問題なんだけど」
  ギルの表情は今度は険しくなった。
 「こっから先の旅で、戦えるのが俺とお前だけじゃ……厳しくなるぜ」
  ギルが言うのはおそらく、今回のテロのような事件に巻き込まれ、ロックが致命傷を負った場合、戦える人間がギルだけになってしまうからだ。
  ロックは深く考え込んだ表情をしてエリスを見た。エリスはキョトンとした表情で、ロックを見返している。
  やがてロックは座り込んでいるアシャの元へ行き、アシャに手を差し伸べた。
 「まぁ……よろしく頼むわ……。アシャ……」
  アシャはロックの差し伸べた手を見て一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑してロックの手を掴んで立ち上がった。
 「背中は任されよ……ロック殿……」
 「なんか……大所帯になってきたね……」
  またもや仲間が増えた事により、エリスは嬉しいのと呆れるのが入り交じった表情をしている。
  そんなエリスの隣にやって来たギルは、微笑しながら言った。
 「コイツも個性が強そうだ……」


  ……某所……

  朧の首領蛇は、アジトに戻り自室で、ジャミルから受け取ったジュラルミンケースを開き、その中にあった注射器を取り出した。
  蛇は注射針を勢いよく自分の腕に突き刺して、大きく息を吐いた。
 「ふぅー………」
  すると険しかった蛇の表情は、徐々に安堵の色に変わっていった。
  「やはり私の血を拒みますか……」
  蛇が意味深な独り言を言い、ぐったり椅子に座っていると、一人の男が部屋に現れた。
 「はりきったようだな」
  蛇は男をチラリと見た。
 「貴方ですか……」
  現れたのはアキヅキ・ヤマトだった。
 「どうだったい?あのバカ野郎は?」
  蛇は微笑した。
 「フフフ……剣の腕はかなり鈍ってましたが……。私と対峙した時の覇気はなかなかでしたよ。思わず力を使いすぎて、このザマです」
  アキヅキも微笑した。
 「フッ……斬らなかった事を、後悔するかもしれねぇぜ」
  蛇は苦笑した。
 「いやぁ……斬ったのですがねぇ……。傷を治されましてね……予想外でした。あちらにも力があるとは」
  蛇の言葉に、アキヅキの表情は反応したが、アキヅキは部屋を立ち去ろうとした。
 「まぁ……あのバカが気張ったところで、俺らを止めれねぇよ。ただ……俺とアンタの盟約は事が終わるまで……そっから先は敵同士だ」
  アキヅキは目を見開き口角を上げて、蛇を見た。
 「アンタとあのバカは……俺が斬り刻んでやるよ」
  蛇は笑顔を崩さない。
 「それは怖い怖い……」
 「それまで精々養生しな……」
  アキヅキはそう言い残すと、部屋を後にした。
  アキヅキが部屋を後にすると、蛇は天井を見つめた。
 「ジャキ……」
  蛇の呼び掛けに、今度はジャキが何処からともなく現れた。
 「ハッ!……お呼びで……」
  蛇は膝待ついたジャキに苦笑した。
 「ご覧の通り私はこのザマです。しばし休むので、後は頼みましたよ」
 「ハッ!……しかし、あのアキヅキ・ヤマト……放っておいてよろしので?」
 「使える内は使っておきましょう。それより『からす』を呼んで下さい」
  蛇の要望に、ジャキは目を見開いた。
 「かっ……鴉をですか?」
 「次の計画には、彼が必要ですからね」
 「しかし……奴は腕は立ちますが……猛毒……。危険では?」
  納得のいかない様子のジャキに、蛇は微笑した。
 「フフフ……ジャキ……。いくら猛毒でも、毒の中に入れば、ただの毒ですよ」
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