OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十八話 異物と異形

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  ジュノスとアキヅキの戦いも激化していた。

  バキッ!

  アキヅキの前蹴りが炸裂し、ジュノスは豪快にぶっ飛んで、バルコニーから落下した。
  バルコニーの下は裏庭になっており、その芝生に背中から激突する寸でで、ジュノスは上手く着地したが……。
 「安心するのは早ぇぜっ!」
  ジュノスの頭上にアキヅキの刃が迫ったが、ジュノスは転がり避けてそれを回避した。
  ジュノスはすかさず体勢を立て直し、アキヅキに斬りかかったが……アキヅキは刀でジュノスの攻撃をいなしていく。
  しかしジュノスも攻撃の手を緩めず、両刀でアキヅキに迫り、その内の一刀がアキヅキの頬をかすめた。
  アキヅキは不敵に笑いながら、ジュノスに回し蹴りを放ち、ジュノスはそれを腕でガードし、再び二人の間に距離が生まれた。
  アキヅキは微笑した。
 「そろそろだな……」
 「なんの話だっ?」
  アキヅキは刀を鞘に納め、ジュノスに言った。
 「アイツが現れた……もう俺の役目は終わりだ。死ぬぜ……ロック……」
  ジュノスは怪訝な表情をした。
 「死ぬ?先輩が?」
 「蛇が……アイツを喰い殺すぜ……」
  ジュノスは目を見開いた。
 「蛇?……まさか……」


  ……会場裏出入口……

  一方……撤退中のエリス達は、ようやく会場裏の出入口にたどり着いたが……その光景に目を丸くした。
  おそらくドレル一族を待ち構えていたであろう、朧の黒装束数人が、その場で倒れていたのだ。
  エリスは安堵の表情で言った。
 「ギル……来てくれたんだ……」
  黒装束が倒れている中心に、ギルが立っていたのだ。待ち構えていた黒装束を倒したのはギルだったようだ。
  ギルはしかめっ面でエリスに言った。
 「なんかあったと思い、来てみりゃ……。何なんだ?」
  ドレル13世は目を丸くして、エリスに言った。
 「この者は?」
 「ギル……わたし達の仲間で、お医者さんよ」
  ギルはロックがいない事に気付いて、エリスに言った。
 「おいっ……ロックの野郎はどうした?」
  エリスはハッとした表情で、ユイに言った。
 「ユイッ!この人達をお願いっ!わたし……わたし、行かなきゃ……」
  ユイは目を見開いた。
 「エリス……まさか……」
 「ロックの所へ……行かなきゃ……」
  ユイは激昂した。
 「ダメだよっ!……今戻ったら危ないよっ!」
  すると二人の会話に、ギルが割って入った。
 「お前らっ!落ち着けっ!とにかく、何があったか説明しろっ!」
  ギルの怒鳴りに、エリスは少し我にかえって、これまでの経緯を、ギルに説明した。
  経緯を聞いたギルは、さらにしかめっ面をした。
 「あのダァホがぁ……」
 「だから……わたし行かなきゃ……」
  エリスのいてもたってもいられない表情に、ギルは溜め息をついた。
 「はぁ……仕方ねぇ……俺も行ってやるよ」
  ギルの言葉に、ユイが言った。
 「ギルッ!アンタまで何言ってんのさぁっ!?」
 「仕方ねぇだろ?言っても聞かねぇぜ……コイツ……」
  ギルはドレル一族に言った。
 「もう少し進んだら、俺らの飛空挺があるから、そこに一時避難しておけ……」
  するとアシャがギルに言った。
 「私もお供しよう……」
  ギルは怪訝な表情をした。
 「何を言い出してんだ?テメェは……」
 「あの男は……我殿を守ってくれた……仮がある。殿、お許しを……」
  アシャがドレル13世に許しをこうと、ドレル13世は頷いた。
 「言ったはずじゃ……思うがままに、自由に進めと……。それにハーネストを死なせたくない」
  ギルは頭を掻いた。
 「チッ!……勝手にしろ……」


  先程までの惨劇が嘘のように、一階会場は静まっていた。
  その理由は指揮官である黒マントの登場によってである。
  黒マントはロックに斬られ、倒れている黒装束達を眺め、溜め息をついた。
 「やれやれ……随分斬ってくれたものですね……」
  黒マントは再びロックを見据えた。
 「私のシナリオがスムーズにいかないとすれば……異物が混じった時だと思いましたが……。その異物は君でしたか……」
  ロックは黙って俯いていており、黒マントの話が耳に入っているかも不明だ。
  黒マントは続けた。
 「先程の美しいと言いましたが……。それに比例せず、すっかり腕が落ちたようですね。残念……っ!?……」
  黒マントが話しているまさにその途中だった。
  黒マントの目前には、いつの間にかロックが詰め寄っており、刀を振りかぶっている。
 「殺す……」
  か細い声でそう呟いたロックだったが、声とは事なりその形相は違った。
  見開いた目の瞳孔は開いており、殺意の塊のような視線が黒マントに向けられた。

  ガッキィーーーンッ!

  ロックは刀を黒マントに振り下ろしたが、それを小太刀が防いだ。
  先程のロックと交戦した取り巻きの黒装束だった。
  ロックは黒装束に激昂した。
 「邪魔すんじゃねぇーっ!」
  激昂したロックは黒装束の腹を蹴り、黒装束をぶっ飛ばし、再び黒マントに斬りかかったが、再びクナイが飛んできたため、ロックは距離をとらざるえなかった。
  ロックは追撃のクナイを弾きながら、クナイを飛ばす黒装束に向かった。
 「先にテメェから殺すっ!」
  ロックの乱撃を、黒装束はクナイと小太刀で受け止める。
  黒装束は乱撃を受けらがら、ロックの隙を見て、クナイでロックの右脇腹を突き刺す。
  ロックは痛みで苦悶の表情を浮かべたが、黒装束の左腕を刺さったクナイごと、脇腹と腕で捕まえ、黒装束の顔面に頭突きをお見舞いした。
  ロックの頭突きにより仰け反った黒装束は、その勢いも手伝って、黒装束の顔部分が脱げた。
  少し距離をとった黒装束は、鼻を抑えながらロックを睨み付けた。
  黒装束は少し癖っ毛のある黒髪で、眼光は鋭かったが、目の下には若干クマがあった。
 「貴様……」
  ロックを睨み付ける黒装束に、ロックは吐き捨てた。
 「喋れるじゃねぇかよ……クソ野郎が……」
  黒装束は黒マントに言った。
 「ここは私が……貴方様は撤退を……」
  頷く黒マントに、ロックが叫んだ。
 「逃げるのかっ!クソ野郎がっ!」

  するとロックが叫んだ時だった……。

  黒マントはいつの間にかロックのすぐ前にいた……ロックからゆうに数メートルは離れていたはずなのに、確かにロックのすぐ目の前……まさに、額と額がぶつかりそうな距離までにいたのだ。
  そしていつの間にか黒マントの左眼は開いており、その左眼は……赤く輝いていた。
  黒マントは赤い左眼を見開いて、ロックの耳元で囁いた。
 「君に……私は殺せない……」
  ロックは驚愕した。
 (コイツ……この眼はっ!?それより、いつの間にっ!?しかも、ノーモーションで……)

 
  ロックが壮絶な戦いを繰り広げている頃、エリス達は来た道を戻っていた。
 「戦闘集団朧か……その名は俺も戦時中は、嫌なほど聞いた……」
  走りながらそう言うギルに、エリスは走りながら言った。
 「ギルも知ってんの?」
  するとアシャが走りながら言った。
 「戦いに身を置いた者で、知らぬ者はおらぬ」
 「種類を問わず、激戦区に必ず現れる戦争屋……その狙いや目的は、謎に包まれてやがる」
  ギルの言葉に、エリスの鼓動はロックの身を案じて自然と高鳴る。
 (ロック……) 
  すると三人の目前に、会場への出入口が見えてきたが……。
 「なんかで塞がってんぞっ!」
  ギルの言うように、出入口はロックが崩した氷柱で塞がっていた。
  アシャは走りながら剣を抜いた。
 「破壊するっ!そのまま行くぞっ!」
  ギルはニヤリとした。
 「賛成だ……。エリスは俺らの後ろにいろっ!」
  三人はそのまま氷の壁に向かい、アシャは剣で、ギルは蹴りで、それぞれ氷の壁を破壊した。
  破壊した勢いで、三人はそのまま会場入りした。
  会場は無惨なもので、ロックに斬られた黒装束達が、無惨にも床に転がっていた。
  アシャは険しい表情で呟いた。
 「なんと……これは……」
  するとエリスが叫んだ。
 「ロックッ!」
  エリスの視線の先には、背中を向けたロックか佇んでおり、そのロックの前には長い刀を鞘に納めようとした、黒マントが立っていた。
  三人を見た黒マントは、佇んでるロックに言った。
 「おや?……君の仲間ですか?……少し遅かったですね」
  黒マントが刀を鞘に納めた時だった。

  ブシャーーーーッ!

  ロックの左肩から右脇腹にかけて……勢いよく血が吹き出した。
  会場に鮮血が飛び散る光景に、エリスとギル、アシャは目を見開いた。
  ロックはそのまま仰向けに、血を吹き出しながら倒れた。
  エリスは両目をギュッと閉めて、叫んだ。
 
 「いやぁーーーっ!ロックゥーーッ!」
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