OVER-DRIVE

陽芹孝介

文字の大きさ
上 下
62 / 71
第十八話 異物と異形

しおりを挟む
  黒装束集団の中に現れたロック達……ロックは不敵な笑みを浮かべてその集団を見ていたが、エリスとユイの表情には余裕がなかった。
 「格好つけて来たのはいいけど……ちょっと人数多すぎない?」
  ユイは完璧に怯んでいる。
 「コイツらって……ジンの研究所を破壊した……」
  エリスの言葉にロックは頷いた。
 「ああ……戦闘集団『朧』……現在は主にテロ活動を行ってやがるが……。戦時中は……激戦区に必ず現れる『戦争屋』だ」
  ロックは朧集団を睨み付けた。
 「まさか、コイツらがここに来るたぁな……」
  ロックはドレル13世に言った。
 「オヤジ……久しぶりだが、再会を懐かしんでる暇はねぇぜ……」
  ドレル13世は目を丸くしたまま言った。
 「お前に会う時は……いつもこうじゃ」
 「さっさと逃げろ……。エリスとユイもオヤジと行け……」
  エリスは目を見開いた。
 「ロック……アンタまさか……」
  ロックは刀を抜いた。
 「こっから先は……女子供には、見るに絶えねぇ……惨殺劇の始まりだ」
  ロックは目を見開き、不気味に笑っている。
  そのロックの狂気に満ちた表情に、エリスはゾッとすると同時に、説明できない不安にかられた。
  するとアシャがロックに言った。
 「なら私も残るぞ……」
  アシャの言葉に、ロックは首を横に振った。
 「テメェ……ドレルの剣士だろ?……テメェの仕事は殿様を守る事だ」
 「しかし……」
 「一緒に行って……エリスとユイも守ってくれ……」
  ロックの言葉に、アシャは目を見開き、それを見ていたドレル13世は、アシャに行った。
 「行くぞっ!アシャ」
 「しかし殿っ!」
  ドレル13世はロックに言った。
 「必ず生きてまた会うぞ……ハーネスト……」
 「そのつもりだ……。謝礼をたんまり用意しておけよ」
 「奮発してやるぞ……」
  ロックは刀を構えた。
 「行けっ!」
  ロックの声に、一同は一斉に裏口に入り、そのまま撤退した。
  撤退を阻止しようと、黒装束の集団が飛び掛かったが……。

  ザシュッ!ズシャッ!ズバッ!

  斬激音と共に、黒装束の数人が血を吹き出しながら、その場で崩れ落ちる。
 「ざっと……30人ってとこか……」
  ロックは会場にそびえ立つ、錬金術で作られた、氷の柱を刀で一本叩き割った。
  粉々に砕かれた氷は小さな氷山となり、エリス達が逃げ込んだ、裏口の出入り口を塞いだ。
  ロックは再び目を見開き、そして笑った。
 「この氷が溶けるまでに……テメェら……皆殺しだ……」
  およそ30名ほどの黒装束集団と対峙するロックを、ジュノスとアキヅキは二階から、引き続き傍観していた。
  そんなロックを、嘲笑うかのように見ていたのは、アキヅキだった。
 「ククク……見てみろよジュノス……。ロックの野郎、あの数相手にやる気だぜ。相変わらずのバカ野郎だ」
 「それをアンタが言うのかよ……」
 「俺もロックがいるとは思わなかったからなぁ……」
  ジュノスはアキヅキを見据え、そのジュノスにアキヅキは言った。
 「行かなくていいのか?」
 「アンタが行かせねぇだろ?」
 「まぁな……」
  ジュノスはダカーを再び構えた。
 「アンタを殺ってから行く事にした」
  アキヅキは不敵に笑った。
 「ククク……らしくなってきたじゃねぇか……」
  ジュノスは目を見開いた。
 「アキヅキ・ヤマト……アデルの名の元に、貴様を殺す……」


  ……前夜祭会場裏通路……

  場面は変わり、現在脱出中のエリス達は、会場の出口を目指し、狭い通路を懸命に走っていた。
  年をめしたドレル13世も、必死な形相で走り、アシャはそれに合わせるように走っている。
  王子のケリーと、婿養子のロンドは、アリーを囲うように進み、エリスとユイは集団の先頭を走っている。
  じきに、出口に到着すると思われたが……エリスは気が気ではなかった。
 (ロック……)
  もちろんロックの身を案じてだが……それだけではなく、エリスの脳裏に焼き付いたロックの表情が、消えなかった……あの狂気じみたロックの形相が……。


  ……一階会場……

  その光景はまさに惨劇と呼ぶに相応しかった。
  次々と襲いかかる黒装束に対し、刀を振り回すロックの足下には、既に斬り裂かられた黒装束が何人も転がっている。
  体を斬り刻まれた者……首を落とされた者……腕を落とされ悶えている者……それらをそれらを斬り刻んだ返り血まみれのロック……まさにこの一階会場は惨劇の場と呼ぶに相応しかった。
  ロックは次々と黒装束を斬っていたが……数が減った感覚はあまりなく、止めどなくロックに襲いかかる。
  ロックは黒装束を斬り刻みながら、ある箇所に注目した。  
  黒装束の集団の奥……黒装束の指揮官らしき者がいるのに気付いていた。
  その者は黒装束に囲まれており、確認しにくかったのだが……確かにいる。
  ロックは黒装束の胸を刺して、ニヤリとした。
 (頭潰すか……)
  ロックは黒装束の胸に刺さった刀を勢いよく引き抜き、指揮官らしき者のところまで突進した。
  黒装束達はロックの狙いを瞬時に把握し、ロックの前に立ち塞がるが……。
 「邪魔だぁっ!」
  ロックは立ち塞がる黒装束を次々となぎ払い、もう突進する。
  指揮官の直前まで迫ったロックは、前に出た取り巻きの黒装束の数人をなぎ払い、高く跳んだ。
  高く跳んだロックは、指揮官目掛けて刀を振り下ろす。

  キィーーーンッ!

  ロックの刀は指揮官の脳天寸でのところで、黒装束の男の小太刀に止められた。
  これには流石のロックも目を見開いた。
 (コイツ……ただの取り巻きじゃねぇ)
  ロックはすかさず後方宙返りで距離をとったが……既に黒装束のクナイがロックの眉間を捉えていた。

  カキィーーンッ!

  ロックはすかさず眉間に迫るクナイを刀で弾いたが……。

  グサッ!グサッ!

  黒装束が投げた第2第3のクナイが、ロック左肩と、右脇腹に突き刺さる。
 「つぅっ!」
  ロックは苦悶の表情を浮かべるが、黒装束の追撃は止まない……。
  クナイは次々とロックに襲いかかり、ロックは痛みを堪えながらクナイをかわすが……。
  それをすんなりさせまいと、他の黒装束が襲いかかる。
  しかしロックは襲いかかる黒装束を掴み、黒装束を盾にしてクナイを防ぐ。
  ロックに盾にされた黒装束の背中には無数のクナイが突き刺さり、黒装束は目を血走らせてその場に崩れ落ちた。
  ここで一旦攻撃が止み、クナイを投げた黒装束は高々と手を上げた。
  するとそれに呼応するように、他の黒装束達はその場に膝まづいた。
  ロックは息を切らし、刺さったクナイを抜きながら、その光景を見ていると、奥から先程の指揮官が現れた。
  指揮官の男は黒のフード付きのマントで全身を覆っている。
 「君は変わりませんねぇ……」
  その声にロックは目を見開いた。
 「返り血を浴びている君の様は……とても美しい……」
  ドクンッ!ドクンッ!と、ロックの鼓動が高鳴る。
  指揮官はフードを脱いで、ロックにその顔を見せた。
  真っ白な長い髪に、美しい顔だったが……左目には額から頬に掛けて大きな傷がり、左目は閉じていた。
  しかしその傷さえも取り込むような、美しい顔立ちは、妖艶であり、全てを引き込むような感じだ。
 「君に斬られたこの左目……痛いんですよ……たまにね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...