OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十三話 夜と朝

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  宮殿内に戻ったロック達は、気を失ったライディヌとモーガンを、ロープで縛り上げていた。
 「これで動けねぇだろ……」
  ライディヌとモーガンの縛られた様に、ロックは満足そうだ。
  ギルが頬をさすりながら座り込んでいると、エリスがギルの所にやって来た。
  ギルは怪訝な表情でエリスに言った。
 「何だぁ?……テメェ……」
 「動かないでっ!」
  エリスはそう言うと、ギルの目蓋と頬……肩と足に手を当てて、傷を治した。
  ギルは治っていく自分の傷に驚愕している。
 「これで歩けるよ……」
  そう言って立ち上がったエリスに、ギルは目を見開いた。
 「テメェ……これは?何をしやがった?」
  ロックはエリスに言った。
 「ボロボロのヤローを見れば……力を使うなとは、言えねぇな……」
  エリスは苦笑いした。
 「ゴメンね……」
 「エリスらしいよ。さっさと医者を探さねぇとな……」
  ロックとエリスの会話に、ギルがわって入った。
 「何なんだその力は?……それに医者を探してるって……必要ねぇだろ?その力がありゃよぉ……」
  難しそうな表情のギルに、ロックはこれまでの旅の経緯を説明した。
  ロックから説明を受けたギルは、感慨深い表情になった。
 「傷を治す力……アレルガルド……」
  ロックは苦笑いした。
 「テメェの兄貴には、テメェを連れてけって、言われたけどよぉ……」
  ギルは言った。
 「ここを離れるわけにいかねぇよ……」
  ロックは微笑した。
 「だろうな……住人を見てりゃあ、わかるよ……」
  ギルは立ち上がった。
 「気に入らねぇが、テメェらには借りが出来た。返してぇところだが……今の俺には、なにも出来ねぇよ。悪いが他をあたってくれ……」  
 「そうさせてもらうわ……」
  エリスも残念そうに言った。
 「まぁ……仕方ないよね……。なんかこの兄弟、人気者だし……」
  ロックは苦笑いした。
 「ははっ……違いねぇ……。ガラは悪いけどな……」
  ギルは二人に悪態ついた。
 「ケッ……大きなお世話だ……」
  ロックとギルのやり取りを聞いていたドルは、感慨深い表情でギルを見ている。
  するとギルが、気を失ったライディヌとモーガンに、指をさして言った。
 「んな事よりも……コイツらどうする気だ?」
  ロックが言った。
 「とりあえずアデルに連れてくしかねぇだろ?……逆方向だけど……」
  ロックとギルが、二人の処遇を話していると、宮殿の扉が開いた。
 「そう必要はねぇぜ……」
  ロックは現れた人物に驚いた様子で言った。
 「テメェは……ガゼル……」
  現れたのはアデル兵を数人引き連れた、ガゼルだった。
  ロックにやられた傷がまだ癒えていないのか、ガゼルは頭に包帯を巻いている。
  ガゼルはロックを睨み付けた。
 「派手にやってくれたな……ハーネスト……」
  ロックも負けじとガゼルを睨み付けた。
 「遅ぇ登場だな……テメェんとこの不正を暴いたんだ。礼ぐらい言えや、クソヤロー……」
  ロックの言葉に、ガゼルの表情はさらに険しくなった。
 「あっ!?……なんならこの間の礼に、テメェも連行してやってもいいんだぜ?力ずくで……」
  ロックはガゼルを小馬鹿にする感じで、薄ら笑みを浮かべた。
 「天下のアデルが、善良な一般人を連行ですかぁ?法の番人が聞いて呆れるぜ……なぁ?エリス」
 「ちょっと……急に振らないでよっ!それに、言ってる場合じゃないでしょっ?」
  ガゼルを挑発するロックに、エリスは呆れ気味だ。
  ガゼルは気を取り直した。
 「その女の言う通りだ。テメェにかまってるヒマはねぇ……。おいっ……」
  ガゼルに促されたアデル兵は、ライディヌとモーガンを拘束した。
  ギルは気を失っている二人に言った。
 「違法献金の嫌疑で……貴様ら二人とマッシュ大佐を……アデルの名の元連行する。……って、聞こえてねぇか……。連れてけ……」
  ライディヌとモーガン……それに下の階ではマッシュが、それぞれ連行された。
 「じゃあな……次に会った時に、借りは返す……」
  そう言って去ろうとするガゼルを、ロックは呼び止めた。
 「待てよ……ガゼル……」
  ガゼルはロック呼び止めに応じたが、振り返りはしなかった。
  ロックは言った。
 「マッシュって奴が言っていたぜ……左大臣が理想郷を創るってな……。テメェらまだそんな事やってんのか?……それに、テメェが来るのが早すぎる……俺達がここに乗り込んで、そう時間経ってねぇ……」
  ガゼルはロックに背を向けたまま黙っていたが、ロックは言った。
 「テメェ……俺達がここまでやると……予想してやがったな?」
  ロックの言葉に、ガゼルは口を開いた。
 「俺は知らねぇよ……テメェの事なんざ。まぁ……アリエルの隊長さんは知っていたようだが……」
  ロックは目を見開いた。
 「隊長……」
  ロックの様子に、エリスはすぐに反応した。
 (アリエル……隊長……。女の名前……)
  ガゼルは言った。
 「俺も隊長の命令で来ただけだ……」
  すると今度はロックが黙ってしまい、ガゼルは振り返ってロックに言った。
 「テメェ……マッシュを殺さなかったみてぇだな?」
  その言葉にロックの表情はピクリと反応し、ガゼルは続けた。
 「俺からも忠告しといてやる……。そんな甘ぇ剣じゃ……」

 「テメェ……いつか死ぬぞ……」

  ガゼルの言葉にエリス……そしてギルでさえも目を見開いた。
  ガゼルは再びロックに背を向けた。
 「戦は完全に終ったわけじゃねぇ……せいぜい気を付けな……」
  ガゼルそう言うと、王室を後にした。
  ロックは険しい表情のまま、その場で突っ立っている。
  そんなロックにエリスが駆け寄った。
 「ロック……あの人……」
  ロックはエリスに笑顔で言った。
 「腹へった……帰ろうぜ……」

  ライディヌら国王派の者達は、次々にアデルに拘束され、連行された。
  こうしてライフシティーの、十数年にも及ぶ……長い夜が明けたのだった。
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