OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十二話 侵入と決闘

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 (……最初からわかっていた……)

 (誰よりも悔しい思いをしているのは……野郎だって……)

 「ぐぁっ!」
  モーガンに警棒で殴り飛ばされたギルは、床に倒れこんだ。
  ギルはすぐに膝を立てて、口元から流れ出ている血を、シャツの袖で拭った。
  モーガンは卑しい表情で言った。
 「今までの恨みを……晴らしてやるよっ!」

  ガンッ!

  ギルは顔を蹴られ、後方に飛んだ。
 「抵抗できない人間をいたぶるのは……いつだって最高だっ!ハァハハハハッ!」
  モーガンは目を見開き笑っていた。
  その光景をライディヌは、王座から満足げに見ていた。
 「残念だったなギルよ……ドルは別の部屋に幽閉しておる。そしていつでも殺せるようにもしてある」
  ギルは二人を睨み付けた。
 「チッ……クズ供がぁ……」
  ギルは顔中傷だらけで、頭や口から血を流しており、満身創痍な感じだ。
  するとそんなギルを、モーガンは警棒で殴った。
 「クズは貴様だろっ!」
  ギルは仰向けに床に倒れ、モーガンはギルに警棒を構えて言った。
 「出来の悪い弟が……いつも兄の足を引っ張り、さぞジルも迷惑してたろうよっ!」
  ギルは仰向けのまま顔をしかめた。
  モーガンは続けた。
 「ダウンタウンの人間を救って、英雄気取りか?……そんなものは全て貴様の兄のおかげだっ!」
 (わかってんよ……んなこたぁ……)
  ギルは立ち上がった。
 「立ち上がったところで……貴様は手も足も出せんっ!」
  モーガンはギルの腹に前蹴りをくらわした。
 「ぐおっ!」
 (最初から知ってんだよ……そんな事は……)
  ギルは壁に激突した。
 (野郎が……悔しくて悔しくて……たまらなかったのも……)
  ギルは体をプルプル震わせながら立ち上がった。
 (ライフシティーの人間を……全て救いてぇのも……)
  モーガンは再び起き上がったギルに言った。
 「起き上がるだけ無駄だというのに……愚かな奴だ」
  ギルはモーガンを睨み付けた。
 「へっ……テメェの攻撃なんざ、効かねぇよ……」
 「減らず口を……まぁ、その方がなぶりがいがある……」
  モーガンは再びギルに襲い掛かった。
  ギルは構えた。
 (俺にライフシティーで生きる道を与えていたのも……)
  ギルの脳裏にはライフシティーでの日々が甦った。
  それはダウンタウンの患者を、なんの隔てもなく診ている日々……。
  患者を守るために治安隊を殴り飛ばしている日々……。
  それを陰で見守るジルの姿も……。
 (全部……野郎が俺にくれた……。だから……)


  一方マッシュを倒したロックは、ロープでマッシュをぐるぐる巻きにしていた。
  エリスはそれを呆れた様子で見ていた。
 「そんなにぐるぐるにしなくても……」
  ロックはロープでマッシュを縛り上げて、足を掛けた。
 「気が付くと面倒だからな……これぐらい縛っとけば大丈夫だ」
 「だからって……うん?」
  エリスは壁の一部に違和感を感じた。
  眉間にシワを寄せて壁を凝視するエリスに、ロックは言った。
 「どうしたエリス?さっさと……」
 「ロック……あれは?」
  エリスが指さす壁をロックは見た。そこにはロックが、マッシュを吹っ飛ばし、壁にぶつけた時に出来たのだろうか……壁が少しずれており、その隙間から通路が見えた。
  ロックはその壁の隙間を覗きこんだ。
 「隠し通路か?」
 「怪しげな雰囲気だよね……」
  エリスもロックの肩越しから、隙間を覗いている。
  ロックは隙間に手を掛けて力を入れた。すると壁は簡単にスライドし、そこに通路が現れた。
  通路の両サイドには、等間隔でランプが付いており、灰色の通路を薄気味悪く照らしている。
  エリスはその薄気味悪さに少し怯んだ。
 「怪しいし……ちょっと怖いかも……」
 「行ってみっか……」
  そう言うと、ロックは通路を進み出した。
 「ちょっ……待ってよぉ……」
  エリスも慌ててロックの後を追った。
  通路を進むとすぐに突き当たり、そこに扉が現れた。
  扉は施錠おり、壁に専用の鍵が吊るされていた。
  ロックはその鍵で扉の施錠を解除した。
 「なんの部屋だろう……」
  そう言ったエリスの表情は、緊張感があり険しかった。
  ロックはゆっくりと扉を押して、中を覗いた。
  すると部屋の奥には誰かが椅子に座っており、その人物はロックの方を見ている。
 「誰だ?」
  声はか細く元気がまるでなかったが……その容姿に、ロックは目を見開いた。
  ロマンスグレーの白髪頭を、綺麗に真ん中で分けた老人だったが……その姿には面影があった。
 「似てる……」
  エリスも目を見開いてそう言うように、その老人はジルとギルによく似ていた。
  ロックは言った。
 「ドル・マグワイアか?」
  老人はロックをギロリと睨んだ。
 「いかにも……。誰だ……お主らは?」
 「俺達は……アンタの息子の知り合いだよ」
  ドルは目を見開いた。
 「なんじゃとっ?ジルとギルはっ!?……町は?」
  ロックは呆れた様子で言った。
 「親子揃って同じ質問かよ……」
  ロックの代わりに、エリスがドルに対して、これまでの経緯を説明した。
  エリスから事の顛末を聞いたドルの表情は何処か儚げだった。
 「そうか息子達と、住人が……。そうか……」
  ロックがドルに言った。
 「アンタの息子は、ケリつけるために立ち上がったぜ……」
  ドルは儚げな表情で言った。
 「十年前の法律改変で……ジルは最後まで反対していた……医療は平等であるべきと、我が一族の家訓を貫こうと……。しかし私がそれを曲げさせた。一族を守るために……」
  ドルは目を伏せた。
 「私がライディヌと刺し違えて……息子達に道筋を与えてやるべきだったのだ……」
  項垂れているドルに、ロックは言った。
 「あの時こうすりゃ良かった、ああすりゃ良かったなんて……人なら大なり小なりあんだろ?……でもよぉ……」
  ロックはドルの腕を持って立ち上がらせた。
 「それが例え失敗だったとしても、そん時は良かれと思ってやったんだ。だから今をどうすか考えるべきだろ?」
  腕を引かれたドルはロックを見た。
  ロックは微笑した。
 「今度こそ……息子達を……この町の為に出来ることをやりな……」
 「私の出来ることを……そうか……そうだな」
  立ち上がったドルの表情は、何かを決心した感じを漂わせていた。


  王室では壮絶な光景があった。
  モーガンは表情をひきつらせ、ライディヌは王座に座り固唾を飲んでいる。
 「へっ……もっ……もう……終めぇか?」
  顔や腕から血を流し、着ているシャツもボロボロになったギルは、ユラユラと立っている。
  目蓋まぶたを腫らし、いつもは整った髪もボサボサだ。
  そうまでして立ち上がるギルに対して、先程まで余裕の表情をしていたモーガンも、さすがにたじろいている。
 「なっ……何なんだ……貴様は?」
  腫れぼった目でギルはモーガンを睨んでいる。
  モーガンの警棒を持つ手は震えていた。
 (死に損ないだぞ……何故だ?……何故、私が震えているっ!?)
  ギルはモーガンに言った。
 「も……もうすぐ……く……来る……」
 「貴様っ!何をっ……!?……」
  その時王室の扉が開いた。
  モーガンとライディヌの目は見開き、その先にはロックが立っていた。
  ロックはギルの様子に微笑した。
 「テメェ……今にも死にそうじゃねぇか……」
  満身創痍のギルはロックに悪態ついた。
 「へっ……い……言ってろ……。ダァホが……」
  モーガンはロックの登場に戸惑いを見せた。
 (青白い頭……侵入者か?……しかし、奴がここに居るという事は……)
  ライディヌは目を見開いたまま呟いた。
 「マッ……マッシュがやられたのかっ!?」
  ライディヌの言葉にモーガンは更に焦った。
 (あのマッシュがやられたっ!?……しかしっ!)
  モーガンは焦った表情のまま叫んだ。
 「相当の手練れのようだが……こっちには切り札があるっ!」
  ロックは親指を立てて、自分の背後を指した。
 「切り札って……これのことかい?」
  ロックの背後から、エリスに支えられたドルが現れた。
  ドルの登場に、モーガンとライディヌは絶句し、ギルは口を開いて惚けている。
  ロックはギルに言った。
 「代わってやろうか?死に損ない……」
  ギルはニヤリとした。
 「へっ……ふざけろ……」
  ギルはモーガンを睨み付け、ギルに睨み付けられたモーガンはギルにいきり立った。
 「死に損ないがぁっ!止めを刺してやるっ!」
  ギルはフラフラしながらモーガンとの距離を縮める。
 「し……死に損ないでも……テメェぐらいはぶっ倒せるぜ……。わ……忘れたのか?」
  ギルは拳に力をこめた。
 「俺は……アデル十傑『ウォン・リー』の……弟子だぜ……」
  ロックは呟いた。
 「ヤッパそうか……あの間合いの詰め方……」
  ロックの脳裏には、ギルに胸ぐらを掴まれた時の光景が甦った。
  ギルは距離を詰めながら、モーガンを睨み付けた。
 「覚悟しやがれ……モーガン……」
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