OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十二話 侵入と決闘

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  ギミックでロックの刀を受けていたマッシュは、剣でロックの首筋を狙った。
  ロックは素早く体を反転させて、その勢いのまま得意のカウンターに入ったが……。

  ガッキーーーンッ!

  マッシュの腰を狙った、ロックの攻撃は何かの金属音に阻まれた。
  マッシュはニヤリとして、ロックの頭上に剣を振り下ろした。
  ロックは攻撃を刀で受け流し、マッシュとの距離をとった。
  ロックはマッシュに言った。
 「アンダーガードを仕込んでやがるな……」
  アンダーガードとは衣類の下に着る、薄手の鉄のプロテクターだ。
  マッシュは不気味に笑った。
 「軍人として当然だ」
  マッシュはロックに剣を向けた。
 「私は防御を真髄としている。つまり私は誰にも負けないのだ……例え十傑であろうとな」
  ロックはマッシュを睨み付けた。
 「十傑だなんだと……テメェも最強をほざく口か?」
 「戦争初期に腕さえ失わなければ……私が十傑だった」
  マッシュの言葉には力がこもっており、その目はロックを睨み付けている。
  ロックはマッシュに言った。
 「それが現在は……ただのゼニゲバか……」
  マッシュは微笑した。
 「守銭奴とは人聞きの悪い……理想郷のための資金調達だ」
  すると戦いを観戦していたエリスが、マッシュに言った。
 「理想郷?」
 「左大臣様は私を必要として下さる……。左大臣様の理想を叶えるため……ライフシティーという資金源は必要なのだ」
  ロックの表情は険しくなった。
 「左大臣……」
  マッシュは続けた。
 「私は左大臣様の元で……新な歴史を創る英雄となるのだっ!」
 「なんなの?コイツ……」
  エリスは目を見開いて、マッシュを見ている。
  マッシュは再び剣をロックに向けた。
 「よって旧い伝説には……消えていただく。私が新な伝説になるために」
  マッシュの宣言を聞いて、ロックは不敵に笑った。
 「クククッ……」
  それを見たマッシュは、険しい表情をした。
 「何が可笑しい?」
  ロックは言った。
 「可笑しいよ……最強だの伝説だの……くだらねぇ……」
 「何だと……」
 「テメェは左大臣とジャミルに、都合のいいように使われるだけなんだよっ……」
  マッシュはロックを睨み付けた。
 「貴様……」
  ロックは続けた。
 「ジャミルに良いように言われて、アデルとライフシティーのパイプ役にされ……。いざとなりゃテメェは奴らの捨てゴマだ」
  マッシュの表情は怒りに満ちてきた。
 「貴様……私を……ジャミル将軍を愚弄するかっ!?」
  ロックは刀をマッシュに向けた。
 「俺は最強だの伝説だの、自分で思った事はねぇが……アデル十傑の名は軽かねぇぜ」
  マッシュも再びロックに剣を向けた。
 「許さん……」
  ロックは不敵に笑った。
 「十傑の名に未練も執着もねぇが……格の違いを見せてやるよ。その自慢の腕を、たたっ斬ってな……三下君……」
  マッシュは怒りの表情でロックに向かってきた。
 「黙れっ!亡霊がぁーっ!」


  時を同じくして、ギルは中央階段を駆け上がり、趣味の悪い派手な王室の扉の前まで来ていた。
  この扉の先に首長……自称国王のライディヌがいる。
  少し息を切らしていたギルは、扉に手を掛けて呼吸を整える。
 (ケリをつける……俺の手で……)
  覚悟を決めたギルは扉を開いた。
  扉の先は昔と変わらない趣味の悪い内装に、玉座に座ったライディヌと、それを称えるように側にいるモーガン……。
 「変わらねぇな……何も……」
  ギルはゆっくりと部屋に入り、一歩一歩と進んでいく。
  ライディヌとモーガンは、ギルが現れたにも関わらず、特に動じた様子はない。
  ギルは部屋の中央まで来ると、そこで足を止めた。
  ギルにライディヌは言った。
 「ギル……直接会うのは……何年ぶりだ?」
  ギルはライディヌを睨み付けた。
 「さぁな……覚えてねぇし、覚えたくもねぇ……ダァホが……」
  モーガンはギルに怒鳴った。
 「貴様ぁっ!国王に向かって……」
  ギルはモーガンの怒鳴りを遮るように言った。
 「王様ごっこは今日で終わりだ。ライフシティーを解放してもらう」
  ライディヌはそんなギルに対して、不敵な笑みを浮かべて、ただ見据えていた。


  ギルは王室に到着したが、下の部屋ではロックとマッシュの攻防が続いていた。
  ロックが斬りかかると、マッシュがギミックでそれを防御し、マッシュの反撃をロックがかわす。
  これがもう何回も繰り返されている。
  戦いを傍観しているエリスの表情にも、不安の色が出ていた。
 (ロック……ギミックを斬るのに拘り過ぎなんじゃ……)
  エリスに限らず、攻撃を受けているマッシュも、その事は感じていた。
  ロックは再びマッシュに斬り掛かったが……マッシュはいつものようにギミックでそれを受けた。
 「何度やっても……無駄だっ!」
  マッシュの表情は苛ついた様子で、ギミックでロックを振り払った。
  ロックは振り払われた反動で、そのまま距離を取って「ふぅー」っと呼吸をした。
  マッシュは苛ついた様子で言った。
 「何度やっても、このギミックを破壊することはできんぞっ!」
  ロックは黙って刀を再び構えた。
  ロックの態度に、マッシュは激昂した。
 「貴様ぁっ!私をからかっているのかっ!同じ太刀筋ばかりで……私を倒せると思っているのかっ!」
  マッシュは剣を振りかぶりながら、ロックに向かってきた。
  マッシュの迫力に目を反らし、エリスは思わずロックを見たが……。
  エリスは目を見開いた。
 (ロック……笑ってる?)
  確かにロックの表情は笑っていた。
  ロックは刀を構えて、マッシュを迎え撃つが……。
 「無駄だと言っているだろっ!」
  マッシュはギミックでロックの刀を受け、逆手の剣でロックに斬りかかろうとしたが……。

  ……ザシュ!……。

  切れの良い音に、エリス……そしてマッシュは目を見開いた。
  なんとマッシュのギミックが真っ二つに斬れて、その切れ端が床に落ちたのだ。
 「なっ!……何っ!?」
  世界最強クラスの硬度を誇る、ブラックメタル合金で造られたギミックが……刀で破壊されたのだ。
  マッシュは驚愕した。
 (最強のギミックが……たかが刀一本に……はっ!?……まさか……)
  ロックは得意気な表情で言った。
 「いくら硬かろうが……同じ箇所に何度も斬撃を与えりゃ……強度も落ちるわなぁ」
  エリスは目を見開いたまま言った。
 「だから何度ギミックを……」
  マッシュは表情を歪めた。
 (確かに理屈はそうかもしれんが……何度も同じ箇所だとっ!?……奴は数ミリの狂いもなく、同じ箇所に斬撃を与えたというのかっ!?)
  マッシュはロックを睨み付けた。
  ロックは口角を上げて、刀を肩で担いでいる。
  マッシュは落ちたギミックの切れ端を見た。
 「この……化け物め……」
  ロックは刀をマッシュに向けた。
 「これで絶対防御はなくなったぜ……」
  マッシュは表情を歪めた。
 「忘れたのか?私にはアンダーガード残っている……同じ失敗はしない」
 「なら……試してみるか?」
  ロックはそう言うと、刀を鞘に納め……少し前傾姿勢をとった。
  エリスはロックの姿勢に目を丸くした。
 「何?あの構え?」
  マッシュは目を見開いた。
 「あれは居合い……いや、抜刀術……」
  間合いに入った者を、抜刀したと同時に斬り殺す……正に一撃必殺の剣術……しかし……。
 (一刀目をかわしさえすれば……隙が生じる)
  マッシュは剣を構えた。
 「つまりそれは……私の勝ちとなるっ!」
  マッシュは剣を構えらがら、ジリジリとロックとの間合いを詰める。
 (抜刀術は相手が間合いに入ってから抜刀し、斬る……つまりリーチの長さが勝負になる)
  マッシュは剣を振りかぶった。
 「つまり……リーチの長い私の勝ちだぁっ!」
  マッシュは剣をロックの頭上に振り下ろした。
 (奴はまだ間合いではない……私の勝ち……!?……)
  勝ちを確信していたはずのマッシュは驚愕した。
  いつの間にかマッシュの懐にロックが入っていたのだ。
 (なっ……何っ!?……コイツ踏み込んで来たのかっ!?)
  次の瞬間……ロックは抜刀し、刀はマッシュの腹部を捉えた。
 (ぐおっ!剣筋が見えない……速い……。しかしアンダーガードが守って……)

  ……ミシ……メリメリ……。

  マッシュは腹部の異変をすぐに感じた。
 (破壊されている?……鉄のアンダーガードが……)
 「うおらぁーーーっ!」

  グワシャーーーンッ!

  豪快な破壊音と共に、マッシュは吹っ飛び、部屋の奥の壁に激突した。
  マッシュは壁に激突した衝撃で、気を失った。
  ロックはニヤリとした。
 「アンダーガードも……ブラックメタルにしとくんだったなぁ……三下君……」
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