OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十話 ダウンタウンと不良町医者ギル

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  ギルは大バァを連れてダウンタウンに帰って行った。
  その際にマキも大バァの付き添いで一緒にダウンタウンへ行ったのだが……。
  ギルがロックに対して何故あのような行動に出たのかは……結局わからずじまいだった。
  ロック一行は夕飯のため、ライフシティーのとあるレストランで食事をしていた。
  美味しそうにハイボールを喉に流し込むロックに、エリスは言った。
 「この町の事情はわかったけど……。何でアンタは胸ぐらを掴まれていたわけ?」
 「さぁな……気に入らなかっただけじゃねぇの?」
  ロックはさほど気にした様子ではなかったが……エリスはどこがやきもきしていた。
  ジンがロックに言った。
 「お前の素性を知っていたのだろ?」
 「みてぇだな……統一戦争時の軍医だったのかもな……」
 「ただの軍医ではないだろ?お前が簡単に胸ぐらを掴まれるのだから……」
  ロックの表情は険しくなった。
 「ああ……ヤローは完全に気配を消してやがった……。ヤローが治安隊を投げ飛ばした時も思ったが……」
  ユイが言った。
 「治安隊を投げたって……」
  ジンがロックに言った。
 「何を思った?」
  ロックは鳥の唐揚げを口に放りこんで言った。
 「……動きが妙だった……。まぁ心当たりはあるが……」


  ……同時刻ギルの小屋……

  小屋に戻り大バァは検診も終え、小屋の奥のベットで点滴に繋がれてすでに眠りについていた。
  付き添いのマキは心配そうな表情で大バァを見ている。
  そんなマキにギルは言った。
 「とにかく栄養が足りねぇからな……。出来るだけの食事と点滴で、栄養失調は解消できる。あとは経過を診てから判断する」
  マキはギルに深々とお辞儀をした。
 「ほんとうに……ありがとうございます」
 「気にするな……。それよりアンタは、アイツの仲間ってわけではなさそうだが?」
  マキは目を丸くした。
 「アイツ?……ロックさんですか?」
 「ああ……どういう経緯でアイツと一緒にいる?まぁ……答えたくなければ、答えなくてもいいが……」
 「いえ……そんな事は……」
  マキはこれ迄の経緯を、ギルに話した。しかし内容は当たり障りのないもので、エリスの力の事は伏せた。
  話を聞いたギルは難しい表情をし、腕組みをし、マキはそんなギルを不思議そうな表情で見ている。
  ギルは言った。
 「アンタも今日は疲れたろ?なんか食い物買ってきてやるよ……」
  ギルはそう言うと、部屋を後にした。
  部屋を出てそのまま小屋を出ると、小屋の前に誰かが立っていた。
  ギルはその人物を睨み付けた。
 「テメェ……何しに来やがった?」
  その人物はマグワイヤーホスピタルの院長……ジル・マグワイヤーだった。
  ギルの前に現れたジルは一人で、周りには誰もいない。
  辺りはすっかり暗くなっており、夜空には星が美しく輝いている。
  しかしジルの表情は険しく、そんなジルにギルは言った。
 「何か言いに来たんだろ?さっさと言えよ」
 「まずは……私の紹介した患者を受け入れてくれた事を感謝する」
  紹介した患者とは大バァの事だろう。 
  その事を素直に感謝すると、ジルはギルを睨み付けた。
 「それとは別に……お前また……治安隊を痛め付けたそうだな」
  ギルはふてくされた様子で言った。
 「チッ……下らねぇ小言かよ?……野郎は俺の患者を痛め付けやがったからだ」
  ギルの反省しない態度に、ジルは呆れた様子で言った。
 「ふぅ……お前……いい加減にしないと、私もこれ以上は庇いきれんぞ」
 「頼んでねぇよ……」
  そう吐き捨てるギルに、ジルは続けた。
 「いつまでここにいるつもりだ?」
  ギルはジルを睨んだ。
 「テメェと親父が……責務を果たすまでだよ。まぁそれでも、俺はここを出ていく気はねぇが……」
 「平行線だな……。また来る……」
  ジルはそう言うと、小屋を去ろうとしたが……。
 「待てよ……」
  ジルはピタリと動きを止めた。
  ギルはジルの背中に言った。
 「どういうつもりで……あの青頭ロックを、俺んとこによこした?」
  ジルは振り返らず言った。
 「別に……他意はないが、また揉めたのか?」
 「アイツ……元十傑だぞ……」
  その言葉に、ジルは目を見開いた。
 「そうか……知らなかった……」


  ……飛空挺ウィング……

  食事を終えた一行はウィングに戻り、フリースペースで今後の相談をしていた。
  相談とは大バァの事で、ギルの小屋では2~3日しか入院出来ないからだ。 
 「あの乱暴医者の所に3日いれるんだから……後4日分の資金があればいいんじゃないの?」
  そう言ったユイにジンが言った。
 「そうしたいのは、やまやまだが……かかる費用は単純計算であと四百万かかる。そうなればバイクレースの賞金がなくなって、旅の資金がなくなるぞ」
  エリスはジンの言葉に複雑な表情をした。
 「仕方ないんじゃない?……人の命がかかってんだよ……」
  ジンはユイの表情を見ると黙ってしまった。ユイの事を考えると無下にできないのだろう。
  するとここまで黙って座っていたロックが立ち上がった。
  エリスはロックに言った。
 「ロック……どうしたの?」
 「ちょっと出てくるわ……」
  そう言うと、ロックはフリースペースをあとにした。
  ロックがウィングの外に出ると、そこには意外な人物がいた。
  ジルだった。ジルはロックに一礼をした。
  ロックはジルに言った。
 「アンタのおかげで助かったよ……それより、よくここがわかったな」
 「ええ、まぁ……それよりも、弟が失礼をしたそうで……」
  ジルはロックに対して申し訳なさそうな表情だ。
  ロックは目を丸くした。
 「弟……やっぱそうだったか……アンタらは兄弟だったんだな」
 「あの患者さんの事は心配はいりません。愚弟ですが……医者としての腕は確かです」
  ロックは頭を掻いた。
 「で?その兄貴が俺に何の用だよ?……俺に謝りに来た……って訳じゃなさそうだが……」
  ジルは苦笑いした。
 「謝りに来たのは本当です。少しお話をしたいのも確かですが……」
 「話?」
 「弟……ギルの事です……」


  ……ライフシティー宮殿……

  ライフシティーの高台に位置するライフシティー宮殿は、古くからの王族の末裔が暮らす宮殿である。
  王族の末裔であるライディヌ14世は、表向きではライフシティー自治区の首長である。
  派手な王族衣装を身に纏ったライディヌは、ライフシティー治安隊隊長のモーガンと、派手な会議室で何かを話していた。
  治安隊の制服を綺麗に着こなしたモーガンは、屈強な真面目男といったところだ。
  モーガンはライディヌに言った。
 「ダウンタウンの処遇についてですが……」
  ライディヌは険しい表情で、顎の長い白髭を触りながら言った。
 「目障りなダウンタウン……一刻も早く消し去りたいものだ。しかしマグワイヤー一族がうるさくてのぉ」
 「ギル・マグワイヤーの存在により、治安隊の連中も不満が溜まっております」
  ライディヌは眉間にシワを寄せた。
 「マグワイヤー一族がいなくては、我が国の医療機関は停止してしまう……歯痒いのぉ……。なんとか手綱を握っておきたいが……」
  モーガンはニヤリとした。
 「ならば国王様……ギルと父親であるドル・マグワイヤーの身柄を拘束しては?」
  ライディヌが言った。
 「しかし大義名分がないぞ。無理に事を進めると、国民が黙っておらんぞ……。マグワイヤー一族は国民に人気がある」
  すると会議室の奥から男が一人現れた。
 「手はある……」
  ライディヌが言った。
 「おお……マッシュ大佐……」
  マッシュ大佐と呼ばれる男は、アデルからここライフシティーに、治安隊管理の為に派遣されている、アデル陸軍の大佐である。
  金髪の角刈りに、ゴツゴツした顔が特徴的な軍人だ。
  マッシュはニヤリとして、ライディヌに話を始めた。
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