OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第五話 夢の島と資金稼ぎ

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  ……淋しげな港……

  ロックとエリスは、ユイをつれて、ゴールドアイランドの端に位置する、淋しげな港に来ていた。
  日が沈みかけているので、辺りは薄暗くなってきた。
  港には船が少なく、薄暗さも手伝ってか、どことなく不気味な感じだ。
  ユイは港に停まっている、一隻の漁船を指差した。
 「あれがアタシら暮らしている船だよ……」
  ユイはふてくされた表情で、相変わらずツンケンしている。
  エリスは怪訝な表情をした。
 「あれで暮らしてるの?」
  ユイはエリスを睨んだ。
 「ホテルに泊まる金があったら、スリなんかしないよっ!」
  ロックはユイに言った。
 「とりあえず、病気のバァさんはともかく……テメェの姉ちゃんには、しっかりテメェの悪事を言っとかねぇとなっ!」
  するとユイが言った。
 「ねぇ……勘弁してよ……。飯も奢ったんだしさぁ……」
 「それとこれとは、話が別だ。このクソガキ」
  ユイの嘆願をロックがあっさり拒否すると、誰かの声がした。
 「ユイ……ユイじゃないの?」
  ロックとエリスが声の方を向くと、そこには黒くて長い髪を、後ろで束ねた女性がいた。
  女性はラフな格好で、その上から緑のエプロンを掛けている。
  ユイが頭を抱えていると、その女性はロックとエリスを見て言った。
 「ユイ……今まで何処に行っていたの?それにその人達は?」
  ロックはユイを見てニヤリとした。
 「テメェの姉ちゃんだな?」
  ユイは泣きそうな顔をし、小声でロックに言った。
 「ねぇ……頼むよぉ……。こんな事が姉ちゃんに知れたら、姉ちゃん……ショックで寝込んじゃうよぉ……」
  ロックは姉を見た。姉は気の弱そうな女性で、真面目そうだ。
  ロックは姉に言った。
 「いやぁ……お姉さん……。実はここにいるユイちゃんがね、繁華街で町のチンピラに絡まれていたんですよ」
  姉は目を丸くして驚いている。
 「まぁ……なんて事……」
  ロックは続けた。
 「そこで、たまたま俺らが通りかかって、助けてここまで送って来たんですよぉ……」
  ユイは内心「アンタがチンピラだろっ」と、思ったが……スリの事は黙ってくれそうなので、ホッとした。
  ユイは姉に言った。
 「そっ、そうなんだよ姉ちゃんっ!いやぁ、都会って怖いね……。このお兄さん達がいなかったら危なかったよ」
  エリスは三人のやり取りを見て、呆れた様子だ。
  するとユイの姉が、ロックとエリスにお辞儀をした。
 「どうもすみませんでした……私の妹がご迷惑を……」
  ロックが照れた様子で頭を掻いていると、エリスが言った。
 「いいんです。頭を上げて下さい……」
  ユイの姉が言った。
 「私……ユイの姉の、マキと言います。大したお礼は出来ませんが……どうぞ中へ……お茶ぐらい飲んで行って下さい。さぁ、どうぞ……」
  そう言うとマキは、自分達が暮らす漁船に、ロックとエリスを案内した。
  ロックはユイに耳打ちをした。
 「とりあえず貸しにしておいてやる」
 「子供にたかる気かよっ!」
  ロックは悪い笑顔をした。
 「都合のいい時だけ、子供になんな」
  ロックはユイにそう吐き捨てると、マキの後を歩いていった。
  するとエリスがユイに言った。
 「ごめんね……悪いヤツじゃないんだけど」
 「どこがだよっ!」

  マキに案内されて船に乗り込むと、船内はお世辞でもきれいとは言えなく、オンボロ船で、木製甲板はボロボロだった。
  甲板から操縦室に入り、その奥の部屋が居住スペースで、奥に老婆が座っていた。
  老婆の顔はしわくちゃで、体に毛布を被っており、見た感じかなりの高齢だと思われる。
  ロックとエリスは、狭い居住スペースで座る場所を探して、なんとか座った。
  マキはロックとエリスに、老婆を紹介した。
 「私たちの村の大バァ様です」
  エリスはマキに言った。
 「村って?」
  マキは言った。
 「私たちは北東大陸の村……『ムラサメ村』からやって来ました」
  するとロックがマキの言葉に反応した。
 「ムラサメ村って言ったら、『隠密の里』じゃねぇか……」
  マキは目を丸くした。
 「まぁ……ご存じですか?」
 「アデルにも何人かいるからな……」
  マキの表情は険しくなった。
 「アデル……貴方はアデルの軍人ですか?」
  ロックは首を横に振った。
 「元な……今はただの一般人だ。でもアンタらがムラサメ村の人間って事は……」
  マキは頷いた。
 「はい……私もユイも、隠密です。修行中の身ですが……」
  エリスが言った。
 「でもどうして、そんな人がこの島に?」
 「実は……大バァ様の病を治すために、私達は『ライフシティー』を目指してるのです」
  ライフシティーとは、世界で最も医療技術のある地域で、ゴールドアイランドから南西に下がった南西大陸にある。
  ロックは納得した様子で言った。
 「だから金がいるのか……」
  エリスは怪訝な表情をした。
 「なんで?わたしもライフシティーは知ってるけど……そんなにお金がいるの?」
  ロックはエリスに言った。
 「ライフシティーはアデルやクリステルシティーと違い、治療費が法外だ。まぁ、その代わり医療技術は最先端だけどな」
  エリスは納得した表情をした。
 「それでガジノで大金を稼ごうとしたのね」
  エリスの言葉に、ユイは頭を抱えた。
  するとマキは目を丸くした。
 「ガジノで?どういう事なの?ユイ……」
  ユイは慌てた様子で言った。
 「姉ちゃん……違う……」
  マキはユイを睨み付けた。
 「ユイ、貴女……ゴールドアイランドにいい仕事があるからって……言っていたわよね?」
  ロックがマキに言った。
 「よそ者がこの島で仕事につけるかよ……。この島はガジノで稼ぐ島だぜ……」
  マキは目を丸くしてロックを見た。
 「そうなんですかっ!?」
  エリスは言った。
 「お姉さん……知らなかったんですか?」
  マキは申し訳なさそうにした。
 「私……外の事はなにも知らなくて……」
  ユイは頭を抱えた。
 「はぁ……だから姉ちゃんに、知られたくなかったのに……」
  ユイが頭を抱えていると、ロックがマキに言った。
 「健全に資金を稼ぐ方法があるぜ……」
  ロックの言葉に、ユイとマキ……エリスも目を丸くした。
  ロックは言った。
 「俺とそのガキが……明日のレースに出りゃいいんだよ」
  突然のロックの提案に、ユイは興奮ぎみに言った。
 「なんでアタシが、何処の誰だかわかんない奴と、そんなレースに出なきゃなんないのさっ!」
  ロックは言った。
 「確かにまっとうなレースとは言えねぇ……。でも、お前がやろうとしてる事より、よっぽどまっとうだぜ」
  ユイは声を詰まらせた。
  すると今まで黙っていた大バァが、突然話し出した。
 「ユイ……その若者と出るのじゃ……」
  マキは大バァの肩を擦りながら言った。
 「大バァ様……」
  ユイは大バァに言った。
 「バァ……でも、何処の馬の骨かも知れないのに……」
  ロックは口を尖らせた。
 「なめてんじゃねぇぞ……クソガキ」
  大バァは言った。
 「ユイ……その者を侮るな……。その男……只者ではない……」
  マキは大バァの言葉に驚いている。
 (大バァ様の人を見る目は確か……。その大バァ様にここまで言わせるって……この人は……)
  ロックは小指で耳をほじりながら言った。
 「俺はどっちでもいいぜ……。どのみちレースには出るからな……なぁエリス……」
 「えっ?うん……そうだね……」
  エリスはキョトンとしている。
  マキは少し考えて、ロックに言った。
 「ユイをよろしくお願いします」
  ユイは目を見開いた。
 「ねっ、姉ちゃん?」
  ロックはニヤリとした。
 「へっ……決まりだな……」

  話が終わると、ロックとエリスは漁船の甲板でユイを待っていた。
  今晩はユイを飛空挺ウィングに連れて帰る事になり、ユイの準備を甲板で待っていた。
  するとユイではなく、マキが甲板に現れた。
  マキはロックに言った。
 「ロックさん……ユイを助けたのって、嘘ですよね?」
  ロックとエリスは目を丸くした。
  マキは言った。
 「あの娘が町の悪い連中に、やられる事はありませんから……。ユイに何かされたんですね?」
  ロックは軽く笑った。
 「へっ……さすがは姉ちゃんだな……。ちょっとアンタの妹に、財布をスラれたんだ」
  マキはロックの言葉に、泣きそうな顔をした。
 「あっ……あの娘……なんて事を……」
  エリスはバツの悪そうな顔で、マキに言った。
 「気にしないで……ロックのヤツ、スリ返しましたから」
  マキはその言葉に目を丸くした。
 「スリ返した?ユイから?……大バァ様の言葉といい……何者なんですか?アナタ達は?」
  ロックは言った。
 「ただの船乗りさ……」


  ……飛空挺ウィング…整備室……

  エアバイクは完成し、ジンは誇らしげな表情をしていた。
 「我ながら素晴らしい……」
  ミドの白いスクーターは、ジンの手によって見事なエアバイクに変貌した。
  ジェット機能が搭載されたエアバイクは、白く輝いている。
 「素晴らしい出来だ。明日のレースが今から楽しみだ……。しかし……」
  ジンは戻ってきたロックとエリスに言った。
 「ロック、エリス……それは何だ?」
  ジンの目線の先にはユイがいた。ユイは白のタンクトップの上から、黒い網目のT-シャツを羽織り、黒のタイトなホットパンツ……足元は動きやすいスニーカーを履いている。
  ロックは言った。
 「明日、コイツとレースに出るから……」
  ジンは頭を抱えた。
 「ロック……なにを考えてるのだ?……子供ではないか……」
  ユイはジンに口を尖らせた。
 「子供扱いするなよっ!アタシはもう18だよっ!オッサン……」
  ジンは目を見開いた。
 「オッ……オッサン……だと?……私はまだ29だぞ……」
  ジンの様子にロックとエリスは笑っている。
  ユイは不敵な笑みを浮かべた。
 「アタシからすりゃオッサンだよ……」
  ジンは言葉を詰まらせ、ワナワナしている。
  エリスは笑うのを我慢しながら言った。
 「まぁまぁ……ジン……。抑えておさえて……」
  ジンは悔しそうな表情をした。
 「こんな科学の、『か』の字もわからんような小娘に……私のエアバイクに跨がせるのか……」
  ロックは言った。
 「まぁそう言うなよ……。お前のバイクで、明日は優勝してやっからよっ!ありがとなっ!」
 「頭が痛い……私は先に休ましてもらう……」
  ジンはそう言うと、フラフラしながら自分の部屋に去って行った。
  ユイはムッとした表情で言った。
 「失礼なオッサンだなぁ……」
  ユイはロックとエリスに言った。
 「それにしてもアンタ達……何者?この飛空挺といい……」
  エリスが言った。
 「ただの旅人よ……」
 「なんの?」
 「探し物があるの……」
  怪訝な表情のユイに、ロックが言った。
 「んな事よりさっさと寝ろっ。テメェの部屋は用意してあっからよ……。明日、姉ちゃん見にくんだろ?」
 「チェッ……わかったよ……」
  そう言うとユイは整備室を後にした。
 「右から三つ目の部屋だからねっ!」
  エリスは去り際のユイにそう言うと、ロックを見た。
  ロックは言った。
 「なんだよ?」
 「なんであの娘とレース出るって、言い出したの?」
 「別に……俺には家族がいねぇからよ……。それに大事なもんは自分テメェで守るもんだ」
  エリスはニヤニヤしている。
 「へぇー……」
  ロックは怪訝な表情で言った。
 「なんだよ?」
 「別に……優しいなぁーって……」
  ロックは怒りの表情で言った。
 「るっせーっ!テメェもさっさと寝ろっ!」
  エリスは怒るロックを気にせず、ロックに背を向けて手を振った。
 「じゃ、おやすみーっ……」
  一人残された整備室で、ロックは口を尖らせた。
 「ケッ……かわいくねぇ女……」
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