OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第五話 夢の島と資金稼ぎ

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  ……翌日……

  ロック一行はウィングで一夜を過ごし、朝からジンはエアバイクの製作に勤しんでいた。
 「浮遊石の入手も考えないとな……」
  ジンは専用の収納棚から、四角で分厚い板状の浮遊石の原石を取りだし、専用の電動カッターで、適当なサイズにカットしていった。
 「今日中には完成するな……」
  そう言うとジンは、カットした浮遊石を片手に、作業に取り掛かった。 
  一方のロックとエリスは、ジンの手伝いも出来ないので、少し島を散歩することにした。
  海岸沿いに行くと、明日のレースの準備を、係員らしき者達が、柵を建てていた。
  どうやら鉄製の柵で、簡易コースを造っているようだ。
 「あれが、明日のコースだよね?なんか緊張してきた……」
  不安そうなエリスにロックは言った。
 「あんま考えない方がいいぜ」
  呑気なロックをエリスは睨み付けた。
 「何言ってんのっ!明日勝たないと、旅の資金がないのよっ!」
  怒りの表情のエリスに、ロックは少し怯んだ。
 「そっ、そんな怒んなよ……。あんまし緊張すると失敗するぜ……」
  エリスは再び不安そうな表情をした。
 「わかってるわよぉ……」
  ロックは呆れた様子で言った。
 「ダメだな……こりゃ……」
  海岸をしばらく散歩すると、ロックが言った。
 「腹へったし、なんか食おうぜ」
  エリスは少し考えて言った。
 「いいけど……ハイボールは禁止よ」
  ロックは渋い表情で言った。
 「わかってんよ」
 「ジンのお金もあまりないんだから……」
  ロックはうんざりした表情で言った。
 「んじゃあ、その辺の食堂でも行くか……」
  昼食をする事にした二人は、繁華街へと歩き出した。
  繁華街に入ると、海岸とはうってかわって、人が混雑している。
  二人は人混みを縫うように進む。
 「それにしても賑わってるわね……13番街より、人が多いんじゃない?」
 「まぁなぁ……さすが人気リゾートスポットだよ」
  ロックとエリスが話ながら歩いていると、誰かがロックにぶつかった。
  ぶつかったのは黒いショートヘアーの少女だった。
 「ごめんよ……」
  少女はロックに、ぶつかったのを詫びると、そそくさと去っていった。
  去っていった少女は、しばらく通りを進んで、人気のない路地裏に入り、辺りをキョロキョロして懐から男物の財布を取り出した。
 「へっ……ちょろいねぇ……」
  少女はロックの財布をスッていたのだ。
  少女はロックの財布を開けて中を確認した。
 「なんだこりゃあ?」
  少女は目を見開いた。ロックの財布には金はなく、代わりに飴玉や、ガジノの余りメダル……使えない物ばかり入っていた。
 「あちゃあ……ハズレかよぉ……」
  少女が落胆していると、通りの方で声がした。
 「ラッキーだぜ……空の財布が、金の入った財布に化けやがった……」
 「ロック……さっきの女の子の財布でしょ?返さなきゃあ……」
  会話を聞いて少女は、目を見開いき、身体中をまさぐった。
 「なっ、ないっ!アタシの財布が……」
  少女は慌てて路地裏から通りに飛び出した。すると、少女の目の前には、仁王立ちしたロックが立っていた。
  少女は苦笑いした。
 「はっ、はは……」
  ロックは目をギラつかせ、少女の頭を拳骨した。
  ロックの拳骨を喰らった少女は、半べそをかいてしゃがみこんだ。
 「いつーっ!……何しやがるっ!」
  ロックは少女を睨み付けた。
 「何しやがる……じゃねぇよっ!このクソガキ、俺の財布を盗むたぁ……。覚悟できてんだろなぁ?」
  エリスは苦笑いで言った。
 「ロック……程々にね……」
  ロックは少女の首根っこを掴んだ。
 「悪いことしたら警察……女子供は、関係ねぇ……」
  少女はギョッとした。
 「けっ、警察っ?それだけは勘弁をっ!」


  ……とある大衆居酒屋……

  ロックとエリス……スリの少女は、大衆居酒屋のテーブル席にいた。
 「ハイボールと、フライドチキン……それと……たこ焼きに、刺身の盛り合わせ」
  勢いよく店員に注文するロックに、エリスは言った。
 「ロック……ちょっと頼み過ぎじゃない?」
 「何言ってやがる……食える時に食っとけ。エリスも遠慮なく頼め……。あっ、オネェさん……とりあえずそれだけ持ってきて」
  ロックがそう言うと、店員は「かしこまりました」と言い、厨房へ去っていった。
  ロックとエリスの向かいに座ってる少女は、恨めしそうにロックを見ている。
  ロックは悪どくニヤリとした。
 「いやぁ、悪ぃなぁ……奢ってもらっちゃって……。あっ、でも当然か……俺、財布をスラれて傷付いてるから……」
  少女は泣きそうな顔をした。
 「とんでもない奴の財布を、盗ってしまった……」  
 「ハイボールお待たせしました……」
 「あっ、オネェさん……アイスカフェと、オレンジジュース追加で……」
  店員がハイボールを持ってくると、ロックは二人の飲物を追加した。
  ロックはハイボールを喉に流し込み、少女に言った。
 「かぁ~!うめぇ~!……ところでクソガキ……何でスリなんかしてやがる?」 
  少女はムッとした表情で言った。
 「ガキじゃないっ!アタシには……ユイ・キザキって、立派な名前があるんだっ!それに年は18だから、ガキじゃないっ!」
  ロックは冷たい視線をユイに送った。
 「クソガキ……テメェの自己紹介なんざ、聞いてねぇよ。何でスリなんかやってのかを聞いてんだ」  
  エリスはユイが可哀想になってきたのか、ロックに言った。
 「ちょっとロック……それくらいでいいんじゃない?奢ってもらってんだから……」
  ロックは口を尖らせて、エリスに言った。
 「るっせーっ……大人気どってからこそ、大人ののルールを教えてんだ。それにここの金を払うのは当然だっ!慰謝料請求されないだけ、ありがたいと思えってのっ!」
  するとユイがぼそりと言った。
 「金なんて一円も入ってなかったのに……」
  ユイの言葉に、ロックの目が光った。
 「中身の問題じゃねぇっ!……クソガキ、家は何処だ?親に文句言ってやる」
  するとロックの言葉に、ユイはふてくされた顔をした。
 「親なんていないよっ!」
  エリスが言った。
 「いないって……あなた、この島の娘?」
  ユイはエリスに口を尖らせた。
 「だったらスリなんか……やってないよっ!」
  この島は貧富の差があまりなく、島民は比較的裕福だ。それほどこのゴールドアイランドの収益は高いのだ。
  ロックは言った。
 「じゃあ何でこんな島にいんだ?」
  ユイはロックを睨んだ。
 「金がいるんだ……。この島は金持ちが集まるから、スリには持ってこいなのさ」
  ロックはユイを鼻で笑った。
 「フンッ……ケチな稼ぎ方だぜ……」
  ユイは声を荒げた。
 「うるさいっ!スリで全部稼げるかよっ!スッた金をガジノにつぎ込んで、そこで大稼ぎさっ!」
  ロックはユイを見下した表情で言った。
 「テメェ、ろくなガキじゃねぇなぁ……。全然健全じゃねぇよっ!」
  するとエリスは、ロックに冷たい視線を送った。
 「アンタも似たようなもんでしょが……」
  エリスはユイに言った。
 「だったら明日のレースに出たら良いじゃない……。その方が健全よ」
  ユイはまたもや口を尖らせた。
 「病気のバァと姉ちゃんつれて、バトルレースなんて、出れるかよっ!」
  ユイの言葉にロックはニヤリとした。
 「なるほど……親はいねぇが、家族はいるんだな」
  ユイは「しまった」といった表情をした。
  ロックは立ち上がり、ユイの首根っこを掴んだ。
 「そのバァさんと姉ちゃんの所に……案内してもらうか?」
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