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陽芹孝介

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第四章 絶望と希望

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  パーティールームに戻った四人は、待機組を仕切っていた九条、山村と互いに情報交換をした。
  皆沈んだ表情をしている。
  無理もない……昨日まで人一倍笑顔で、馬鹿みたいに騒いでいた愛美がいないのだ。
  容子はもちろん美夢も泣いている。順平にも椿にも、涙の跡がある。
  ……皆悲しく……そして恐ろしいのだ。
  頭の中はまだ混乱しているだろうが、本能的に理解している……この島に『殺人犯』が居ると。
  九条が言った。
 「そうか……やはり他殺か……でも拳銃って…」
  葵が言った。
 「可能性はいくつもありますが……山村船長、船に乗っていたのは僕たちが12人で間違いありませんね?」
  山村が答えた。
 「はい、間違いありません。私達以外の人間が船に乗り込んだらセンサーで反応するようになっています」
 「なるほど……まぁ仮にセンサーが故障して、誰が乗り込んで一緒にこの島に来たとしても、誰にも気付かれずに2~3日も、潜伏するのは……この狭い敷地では不可能ですね…」
  有紀が言った。
 「だとすると……我々の寝静まった夜にこの島にやって来たと?」
  葵は言った。
 「可能性は……無くはないです」
  歩は言った。
 「しばらくは……団体行動だな」
  するといつもは大人しい順平が声を荒げた。
 「冗談じゃないっ!この中に犯人が、いるかもしれないんすよっ!」
  九条は激昂した順平を見て、慌てて言った。
 「順平君……少し落ち着いて……」
  順平は引かない。
 「落ち着け?よく言えますね?俺はこの旅に一人で参加しました……あんた達と違って……」
  葵は順平に言った。
 「順平君……少し落ち着いて……では?君はどうしたいんですか?」
  順平は葵を睨み付けて言った。
 「自分の身は自分で守りますっ!」
  葵は言った。
 「籠城でもするつもりですか?」
 「ええ……幸い食料は腐るほどありますし、必要な物は隙を見て転送倉庫に取りに行けばいい……」
  葵は順平に言った。
 「今ここで勝手な行動を取れば……君は容疑者ですよ」
  順平はバカバカしいと、いった表情で葵に言った。
 「じゃあ俺が犯人だと言う証拠をだしてよっ!」
  葵はあっさり言った。
 「証拠はありません」
 「そりゃそうだよっ!俺に拳銃を持ち込めるわけがないっ!」
  そう言うと順平は食糧庫に行き、保存食をかき集めた。
  自分の部屋に戻ろうとする順平を、九条は抑えようとしたが、それを振りほどき、順平は部屋へ戻ってしまった。
  有紀はパーティールームの入口で、順平が部屋に入ったのを確認して言った。
 「順平は、部屋に無事に戻った」
  九条が言った。
 「やれやれ……まぁ、彼が疑心暗鬼になるのも無理はない」
  歩が九条に言った。
 「言ってる場合かよっ!今こそまとまるべきだろっ!」
  今まで黙っていた光一が言った。
 「確かに団体行動は必要だが、無理がある……」
  九条が言った。
 「どういう事です?堂島さん?」
  光一はゆっくりした口調で言った。
 「別に反対している訳ではないが……四六時中は無理だ。寝る時は?風呂は?トイレは?」
  葵がいつもの髪をクルクル回す仕草で言った。
 「堂島先生の言う事も一理あります……」
  葵は続けた。
 「ここで一つルールが必要です」
  九条が言った。
 「ルール……確かにそうだね…」
 「ええ……堂島先生の言うように24時間……皆と行動を共にするのは不可能です」
  有紀が言った。
 「では……どうする?」
 「例えば………朝昼晩の食事の時間をキッチリ決めて、その時間は全員で居る……。それ以外は、部屋の広さから考えて……二人か三人一組で行動をとる」
  九条が皮肉った。
 「順平君は出て行ったけどね」
 「それはしばらく様子を見ましょう……どうですか?皆さん」
  葵の提案に、皆は異論はないようだ。
  九条は言った。
 「とにかく朝食を済ませて、一度解散して……そうだな12時ちょうどにまた、ここに集合しよう」
  こうして一度朝食を皆ですることになった。思えばこうして集まって朝食するのは初めてだ。
  当然ながら場の空気は重たい。
  箸に手をつけない者もいる。
  ………当然だ………いるはず人が、いないのだから……。
  九条が言った。
 「皮肉なものだね、こういった事態になって……初めて皆で朝食をとるのだから……まぁ一人は部屋に戻ってしまったが……」
  おそらく彼が精一杯絞り出した言葉だろう……だが、誰も反応することはなかった。
  すると普段は……あまり話す事の無い椿が呟いた。
 「小林様は……本当に私達の中に犯人がいると、思っているのでしょうか?」
  椿の唐突な質問……いや、誰もが聞きたい質問に答える者はいなく……沈黙が場の空気を支配する。
  ただその中で言葉を発した人物がいた。
 「順平君も……混乱しているのでしょう……」
  言葉を発したのは葵だった。
  葵はさらに続けた。
 「気になるのは昨夜の全員の行動です……九条さんに先程聞きましたが……全員が昨夜は全員、0時までに就寝していたと言うことです」
  光一が言った。
 「月島殿……何が言いたいのだ?」
 「つまり……外部の犯行で無いのなら……ここにいる全員がアリバイの無い容疑者になります」
  葵の爆弾発言にその場がざわついた。
  葵はそんな場の様子を見て言った。
 「……まぁ……順平君は、その事を踏まえて僕たちを疑ったのでしょう……」
  九条は場を収める様に慌てて言った。
 「あくまで少ない可能性の話だよ……凶器は拳銃だ、僕たちに持ち込める代物じゃないよ」
  葵は空気を読んで九条に賛同した。
 「確かに僕たちに持ち込める代物じゃありません」
  九条は話を変えるよに言った。
 「とにかく今は何も考えず少し休もう……お茶でもしてね」
  頭を抱えて座っている九条を見て、山村と椿は食後のお茶の準備を始めた。
  皆がお茶の準備や朝食の、後片付けを気晴らしついでにしているのをよそに、葵は一人髪をクルクルさせて考えていた。
  すると葵の背後からいつものアイスカフェラテが渡される。
 「どうも……歩さん……」
  葵にアイスカフェラテを渡したのは歩だった。
 「隣……いいかい?」
 「ええ……どうぞ……」
  そう葵に言われると歩は、自分の珈琲をテーブルに置いて、葵の隣に座った。
  しばし二人の間は、沈黙に包まれている……。先程の事があってか、お互い気まずい。
 「後ろからアイスカフェラテを渡されたのは……今回で二度めです…」
  切り出したのは葵だった。
  歩は言った。
 「さっきは……すまなかった葵君……」
 「アイスカフェラテを頂いたので、手打ちです。僕にも配慮が足りませんでした…」
 「君は……変わってるな……」
 「よく言われます」
  歩は少し考えて言った。
 「どう考えてるんだい?今回の事…」
  葵は髪をクルクル回しながら言った。
 「犯人は……外部犯ではありません……残念ながら…」
  ハッキリとそう言う葵に、歩は肩を落として言った。
 「やっぱな……俺もそう思うよ……まぁ俺には根拠ないけど」
 「僕にも、確証はまだありませんが……不可解な点があります」
 「なんだい?」
 「確かに何らかの方法でこの島に昨夜、やって来たとし……愛美さんを殺害して、死体を外に出す。そして愛美さんの部屋に入り内側から鍵をかけて、潜伏する。可能性はゼロではありませんが、極めて低い……」
 「聞いた感じだと可能性高そうだけど……」
 葵は首を横に振って言った。
 「だとしたら、部屋の外で殺害されているはずです……。現場を検証しましたが、確実に部屋の中で殺害されてます。歩さんも立ち会ったはずですが……」
 「確かに……でもドアを開けた瞬間に撃たれたかも?」
 葵は首を振った。
 「それもありません……愛美さんのシャツに焦げ跡がありました……あれは銃口を身体に着けて撃たないと、焦げ跡はつきません」
  葵はさらに続けた。
 「因みにドアを開けさせて、無理矢理侵入し、殺害する……。これもないでしょう……いくら愛美さんでも見たこと無い人間を相手に、ドアを開けることは無いでしょう……ドア穴も付いてますから、少しくらいは外を確認できます…」
 「よって、顔見知りか……で、あとは?」
 歩は少しなげやりになっているが、葵は構わず言った。
 「全員にアリバイが無い事です……ただそれは、そんなに問題ではありません」
  歩は少し不思議そうに聞いた。
 「どういう事だい?」
 「逆の発想をすれば全員にアリバイがある事になります……そしてこの状況をみはからった犯行……手強いです」
  ここで葵は話を変えた。
 「それはそうと、歩さん……あなた何者です?」
 「どういう意味だい?」
 「あなたがただのカメラマンで無いのはもうわかってます。先日見えた腕の傷や火傷跡……」
 「あぁ……プールに落ちたときか……見えちゃったか……」
 「戦場か災害地のカメラマンかとも思いましたが……あなたの命に対する思いはまるで……」
  歩は表情を緩めて言った。
 「まったく君は…たいしたやつだよ。わかった……話すよ……。君は、信用できる」
  そして歩は自分の経歴を語りだした。
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