初戀

槙野 シオ

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第五十三話 蟻の思いも天に届く

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「ねえ久御山くみやま、シロクロくんたちと何するつもり?」
「合コンみたいなもん?」
「仕返しとかお礼参りとかじゃなく?」
「……絶対に赦さねえよ、オレは」
「久御山が危ない目に遭うようなことなら僕は反対だ」
「その辺は大丈夫だよ、下手なことはしない」

ベッドの上で湊は大きな溜息を吐いて、オレの顔をじっと見つめた。桐嶋きりしまの話では、湊の怪我はたいしたことはないらしい。粘膜の傷は治りが早いらしく、裂けた尻も縫うほどではないそうだ。裸足で歩いて付いた足の裏の傷が一番重症だ、と。それより気になることが二つ、三つあるらしいが…


「久御山…」
「どうした?」
「舌…欲しい」

なんつーエロい言い方すんだよ…

「キスしたい、とかじゃないんだ?」
「久御山の舌を舐め溶かしたい」
「ん、いいよ…溶かして」

ベッドに腰掛け湊の口唇を舐めると、するりとオレの舌をさらってクチュクチュ音を立てながら舌を溶かし始める。どうしたんだ、今日はやけに積極的な気が…

「湊、なんかいつもと違う」
「……ちょっと触ってみて」
「…? 何かあんの?」

布団の中に手を入れて湊の股間に触れる…って、おい。

「いやいや、なんでこんなガッチガチに完勃ちしてんの」
「わかんないんだけど…ずっと、したくてしょうがないんだよ…」
「でもいまできないから…」
「や、そっちじゃなくて」
「……え、もしかして挿れたいの!?」
「もう少し品のある言い方できないのか」
けだしや、吉々よくよとつぎいんぎょうじたい、と…」
「なんで古今物語集だよ」


いままで二年間、湊とは数え切れないくらいセックスして来たわけだが、湊が挿入したいと言ったことはなかった。以前話したときも、挿れたくなったら我慢すると言っていたくらいだ。何が湊をそうさせてるんだ。オレとしてはウェルカムだけど……手籠めにされたことと何か関係あるんだろうか。

ただ男としてオレを求めてくれてるってんなら全然問題ない。性欲が高まってるけど裂けててウケができないからタチで、ってんでも構わない。忌まわしい記憶を上書きしたい、とかでもいいんだ。でも、おかしい。手を縛られ、首をベルトで絞められ、吐くまで突っ込まれて生で中出しされた挙句便所代わりにされてんのによ?

それなのに、セックスしたいなんて思えるか?

何事もなかったような顔で、湊は笑う。手籠めにされたことより、オレに逢えなかったことのほうがキツかった? さすがにそこまで自惚れちゃいないけど、そうでもないと辻褄が合わないというか。それよりカテキョのことが湊の中でまだ根を張っててまるで癒されてないってことなのか。

「湊、しよ」
「えっ……」
「この部屋、鍵掛かるみたいだし」
「いや、でも久御山おまえ…」
「オレはノンケなんつー生き物じゃねえ」
「でも…ゲイでもないのに…」
「オレはオレでしょ?」

湊はうつむいて何かを考えているようだった。でもオレにはわからない。オレが湊に挿入されたとして何が変わるんだ? 何か失うものでもあんの? それがヨくて女を抱けなくなったとして、それになんの問題が? 痛かろうが裂けようが、それが湊のすることならオレはそれすら喜べるけどな。

「やっぱり一時的な、熱病みたいなものだと思うんだ…」
「うん、それでいいじゃない」
「これが最初で最後になるかもしれないし」
「最初になるんだから、それでいい」
「……僕は久御山を…こっち側・・・・に引きずり込みたくないんだ」
「なあ、湊」

オレ、明日交通事故で死ぬかもしれないし、事件に巻き込まれるかもしれない。隕石が落ちて来るかもしれないし、天災が起こるかもしれない。突然戦争が起こるかもしれないし、ミサイルが撃ち込まれるかもしれない。明日、絶対に無事で一日を過ごせる保障されてるヤツなんてこの世にはいないよ。

一年か、五年か、十年か、五十年か、オレと湊はあとどれだけ一緒にいられるんだろう。もし三日後に離ればなれになるとしたら、たった一日だって無駄にできないと思わない?

起こらない出来事を、想像の未来を、絶対だって決め付けていまを無視するのやめようよ。今日は明日のための保険期間じゃないよ。明日何事もなく過ごすための準備をする日じゃないよ。いま、湊が欲しいんだ。三年後の湊は三年後のオレが欲しがるから、そんな先のオレの心配はしなくていい。

「いま目の前にいる湊は、ここにいるオレが欲しくない?」
「……欲しいよ」
「オレと、他に何が必要?」
「おまえ以外…何もいらないよ…」


何度も、何度も抱き締めたはずの湊のカラダが、まるで初めて触れている温度と肌触りでオレにしがみ着く。艶のある黒髪に細くきれいな首。骨張った広い肩、形のいい上腕二頭筋。「男らしくなりたい」と一所懸命鍛えた胸筋でさえもこんなに愛おしくて胸の奥を焦がす。

虹彩の薄い茶色の瞳、しっとりと柔らかな口唇くちびる、滑らかで卑猥な舌をオレの口唇に這わせ、ゆっくりと口の中を探り出す。上顎を舌先でくすぐりながら、ジーンズのベルトを外しファスナーをさげると、オレの下腹に手を滑り込ませ窮屈に押さえ付けられていた硬いモノを優しく取り出した。

「わかるだろ? 抱き締められてキスされただけでこんなんなってるの」
「……僕もだよ」

ベッドの上で膝立ちしていたオレをそっと押し倒し、はち切れそうなほど膨張したモノの尖端を口唇でみながら、快感に抗えず溢れる体液を舌先ですくい、湊がオレを焦らす。められることももちろん好きだが、吮めてる湊の顔を見るのが堪らなく好きだ…

「…ん、湊…それヤバい…」
「賢者タイムに入っちゃうのはマズイね」

マズイ、って何がマズイんだ? 考える間もなく腰を持ち上げられ、湊はオレの脚を左右に開き太腿を押さえ込んだ。こういう体勢、初めてなんですケド!? 何をされるのか、はいつもやってる側だからわかるけど、されてることが丸見えなのがこんなに恥ずいとは知らなかった…

「み…湊…」
「ん…体勢つらい?」
「できれば…見えないほうが…」
「……どうして?」

しまった……いつも表情変えないからつい忘れがちだけど、こいつ、ドSだったじゃねえか! ああ、もう、完全にスイッチ入ってるだろ、これ! 手早くパンツとジーンズを剥ぎ取られ、オレは成す術もなくされるがままアレとかソレを露出した。

「どうして見えないほうがいいの?」
「…いや、あの、なんつーか居た堪れないっつーか」
「こんなエロい格好でエロいことされててもイケメンだね、久御山」
「おまえも格好いいよ、みな…ふゎあっっ!」
「舌、気持ちいい? 違和感しかない?」
「や、うん…あ…っ…わからん…ふぅっ…う」
「気持ちよくなってる顔、見たいな」

ソコを吮められるのは初めてではないけども…そして同時にしごかれるのも初めてではないけどもだな、湊……おまえの吮めてる顔、思いっきりオレの性癖に突き刺さるんだが。初めて湊とセックスした時に思ったんだよな。オレのためっていうより、自分が欲しくてやってるみたいな感じがすげえヨくて。

「こっちのほうがイイよね」

そう言いながら湊は、舌で後ろを慣らしながら堪え性のない淫乱なオレの愚息を…って、待て!

「湊、それ無理! あ…無理って…あっ…うぅ…」
「イイところで止めてあげるよ」

竿を扱かれるのはまだ耐えられるけど、頭をなで回されるのは厳しい…尖端部分にどんだけ神経通ってると思っ…あっ…しかも亀頭責めはなかなかイけない……この、全身の骨が抜かれてクラゲかスライムにでもなりそうな、ゾワゾワした感覚が延々と続くエロい拷問は一体なんなんだよ!

「う…っ…く…湊、もう無理…」
「ねえ久御山…聞こえる?」
「ん…っ…何…」
「指でいやらしいとこ凌辱されてる音」

へ……いつの間に後ろに指なんて挿入いれたんだ…これ、ローションかオイルの音なんだろうけど、準備万端いつでもオッケー♥みたいな、すげえヤる気満々な水音が…なんかオレが愛液垂らしてるみたいで…ヤバい…


「痛くない?」
「ん、痛くは…ない…」
「一応、指三本入れば挿入可能とは言われてるんだけど」
「おまえのムスコは三本程度じゃ無理だろ……」
「でも、エッチの前にフィストファックはどうかと思うよ?」
「それくらいの覚悟は必要な気が…」

なんだろう、この感覚……ダイレクトに性感帯攻められてるような感じとは違うけど、なんかじわじわクるな…いろいろネットで調べたけども…そこまで痛くもないし異物感もないのは、湊が上手いからなのか?

……いまちょっとイラっと来た。

湊にとってオレって初めての男じゃないんだよな。過去まで欲しがってもしょうがないけど、オレの知らない湊を知ってるヤツがいるってのがムカつく。それは湊も同じだろうけ

「…っ、うぅはあぁぁあっ!!!」
「痛い? 吐き気とか大丈夫?」
「い、いた…痛くはないけど、何…いまの…」
「前・立・腺」
「あっ、あ…なん…変な…あ」

湊の指先でトントンと突つかれると、なんとも言えない感覚に鳥肌が立つ…内臓直接触られてるみたいな、なんだこの感じ…あ、でも愚息の根元が絞まるような感じもする…


結構長い時間、丁寧に慣らしてくれてるけど湊は飽きないのかな、とそっと顔を見ると……眉間にしわを寄せ頬を紅潮させて、湊が肩で息をしていた。こんな湊、初めて見る……

「湊……もしかして、我慢してる…?」
「ん、それなりに…」
「え、挿入欲、高まってるの…?」
「どんな欲だよ…」

湊の腕を掴んで引き寄せ汗ばんだ首筋に歯を立てると、湊は小さく肩を跳ねさせた。

「挿入しよ? 脱童貞しよ?」
「童貞言うな」
「だって、挿れたくなってるんでしょ?」
「…うん、まあ」
「このチャンスを逃す手はないだろ!」
「おまえにとってはピンチじゃないのか?」

服を脱ぐ湊の仕草に心臓が高鳴り、あれ、これってシロクロと同じなのか? と一瞬心が折れそうになるも、ゴムを装着してそこにオイルを垂らし、立派なムスコをぬるりと握った湊の男っぽさに再び心臓が駆け出した。



「自分で挿入感コントロールできるから騎乗位がいいって言うけど、初めてだとそれは厳しいと思うんだよね。後ろからだと挿入はしやすいけど、深く挿さるから多分痛いと思う。一番緊張しないのは後側位かな…」
「……正常位でいいよ」
「角度によっては痛いかもしれないよ?」
「うん、でも正常位がいい」

オレのシャツを脱がせたあと、湊がオイルを口に含んだのを見て驚いた。え、人体に影響はないみたいだけど、飲むもんでもないのでは……そう思って心臓を加速させていると、湊が "入口" に口を付けオイルを注ぎ込んだ。な、なるほど…シリンジとか使うんじゃないんだ…

ぬるっとあたたかいモノを入口に押し付けられ、さすがに緊張でカラダが硬直する。湊は、いつもみたいに誘うような顔じゃなく、不安や心配が入り混じったような真剣な顔をしていた。

「痛かったら絶対我慢しないで言って…本気で僕、初めてだから」


グッと押し込まれる感覚に、どうしても力が入ってしまう。力を抜け、と見るサイト見るサイトすべてに書いてあったけど、どうすれば力が抜けるんだ!? 意識すればするほど力の抜き方がわからなくなる。痛いわけでも、怖いわけでもないのにカラダは入って来るのを拒絶する。そりゃそうだ…だって出口なんだもん…

「久御山、大丈夫? 痛くない?」
「大丈夫だけど緊張してるっぽい…ごめん…」
「うん、ちょっといきんでみてくれる?」
「へ? 力入れて大丈夫?」
「うん」

言われたとおり下腹に力を入れた瞬間、ギチっとかミシっとかメリっとかいう音が聞こえるんじゃないかというものすごい圧迫感に、下半身が重くなった。実際聞こえたのはオイルの滑る音だったと思う。

「…はっ…あ…久御山、痛くない?」
「痛くない…でもすごい腰から下が重い…」
「よかった…」
「もしかして挿入はいってる…!?」
「ん、先端はなんとか」

待って、待って湊、このものすごい圧迫感で、まだ先端だけ!? それ根元まで挿れたらオレの内臓の位置変わったりしない!?

「…ごめん久御山」
「ど、どうした……」
「メンタルとフィジカル、両方鷲掴みにされてもうヤバい」
「日本語で頼む…もしくは鬼滅の刃で説明してくれ」
「……禰豆子ねずこと初夜を迎えた善逸ぜんいつ、もしくは甘露寺かんろじと初夜を迎えた伊黒いぐろの気分」
「わかりやす……い゛い゛い゛っ…!!!」

もうヤバい、と言った湊がイきそうだってのはわかった…わかったけど、我慢してる湊の立派なムスコが更にビクンと脈を打って膨張した瞬間、オレの体内を押し広げていままで感じたことのない感触に声が出た…

「みな…何これ…腰抜けそ…」
「ごめん…前立腺に当たってるのかも…」
「え、あ、そ…なん…だあ゛あ゛あ゛っ!!!」
「…抜く?」
「う゛う゛…最後まで挿れてよ…」

頭さえ入ってしまえばそのあと痛みはない、らしい。でもきっとそれはムスコの形状によると思う……湊さん、ただでさえご立派だというのに、竿の中央に向かって太くなってくんだよな…押し広げられる感覚が……痛くはないけど苦しい…

「…挿入はいった?」
「半分…ちょい…くらいは…」
「いいよもう! 一気に挿れてよ! ここまでしたら裂けたりしないだろ!」
「裂けたりはしないだろうけど…」

オレの腰を支える湊の腕に力が入り、脳天が突き抜けたような、カラダが空洞になったような、言葉にはできない状態になったオレは、見事に大声で叫んだ。違う、痛いわけじゃない…そうじゃないけど、もうカラダが自分のものじゃないみたいだ。

「う゛あ゛あ゛…湊…ぉ…」
「ん…挿入はいったけど…大丈夫…?」
「ねえ…オレの体内なかってどうなの…」
「すごく……イイ…です…」
「う゛…よかった……ね、動かしてみて」
「おまえ、ほんとチャレンジャーだな……三秒でイくぞ…」
「いいよ…」

湊は遠慮がちに腰を動かしたが、もうオレのカラダはいっぱいいっぱいだった。ああ、湊がいつも「削れる」って言ってた意味がやっとわかったわ……マジで削れる…

「ん…あ…っ…時々ゴリッと当たる…死にそ…」
「久御山…狭い…」
「うっ…ん…んん…」
「…結合部分モロ見えでもうダメです」
「ふうう…湊、イく?」
「ん…イく…っ…」


ポタポタと汗を滴らせながら、湊は腕立てをする要領でオレの口唇をキュッと吸った。

「オレ、湊のものになった?」
「……うん、髪の一本まで僕のものだよ」

あ、いまちょっと泣きそうになった。

「ヨくなるまで毎日おきばりやす!」
「え、おまえ大丈夫か?」
「湊の傷治るまでこの方法でしかつながれないじゃん」
「そうだけど」
「それに、せっかくだから気持ちくなりたいし」
「…おまえ、女に産まれなくてほんとよかったな」


……そうだなあ、女に産まれてたら鬼畜な外道に仕返しなんてできないもんなあ。
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