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連載14:全てが終わる日

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連載14:全てが終わる日



『おぃおぃまたか?
そうそう電話されても困る、
俺らの事信じて今は待ってくれ…、
おぃミィナ聞いているのか?』
「………そこにチヒロとアキが」
『なっ…、誰だおまえ?!』
「居るんですね? ユィナさんも…」
『あぁあああもう一人の!』
「…ミナヨさんは知ってたんですね?」
『おぃやばい、
きっとこいつあの娘の兄だ!』
『え? どうしたのさ』
「みんなグルなんですか?
ミナヨさんも…、
あなたは誰なんですか」
 男の他に、
女の声も聞こえてしまい、
共犯が他にも居ると知ったユウキ。
『えっ、なんだって、グル?
ちちちがう! 勘違いするなぁぁああ』
「妹たちに会いたいんだ!
そこはどこなんだ!!」
『あんた何してんの、切りな! 早く』
『今は待ってくれ。もうすぐだ、すぐに!』
「切らないでくれ頼む、切るなぁああ!!」

 見知らぬ番号、初めて聞く二人の声、
すぐさまGPSサイトで調べたが場所は特定できず。
ハァハァハァハァ…
 激しさを増す体調不良に、
『彼女は知っていて俺に黙っていたんだ!
…でもこのままじゃ本当に動けなくなる…』
「…一人は嫌だ…一人は…」
 すると声が聞こえ、
「誰?」
 顔を上げた彼の前に、子供が立っていた。

「…一人は嫌だ…一人は…」

*東京:ヒロミ

「ご一緒しましょうか?」
「いいんだ。一人で行って来る…。
アキラが居れば良かったのだけど…、
あいつにならこの事の意味がもっと理解出来たのかもね…」
「あの、やっぱり…」
「ありがとう。
出してくださいな場所はココ」
 ヒロミは運転手にメモを渡していた。
「はい。行ってらっしゃいませ…」
「なんか電話あっても回さないでね、今は」
 家主はそう言うとタクシーで、
ミィナの言ったもう一人が居るクリニックへ向かって行き、
総出でお見送りしていたメイドたちは一斉に頭を下げていた。
『あぁでも…』
 思案げなカオルに、
「奥様なんか顔色悪そうでした…」
 ヒナノが話していた。
「あぁ、気にしなくていいわ。
さぁ仕事仕事、仕事に戻りましょう…」
 自分の持ち場へ戻って行くメイドたち、
カオルも戻ろうとしていたが、
ヒナノを呼び止めていた。
「ヒナさん後任せる」
「は? はい! お気をつけて」

 カオルはヒロミの後を追おうと、
車庫へ行きメイド服のまま大型バイクに跨っていた。



 数時間掛かりそこへ到着したヒロミは、
カオルが後を付いて来ているのを知っていて、
タクシーから降りると彼女の到着を待っていた。

 バイクが傍に来て停まり、
ヘルメットを脱ぐ彼女の髪は風に煽られまくりのボサボサで、
ヘッドバンドもよれていて、
「来なくても…」
 ヒロミが直してあげていた。
「…でも」
「入ろうか」
「はい。
でもいったいどういう事なんでしょうか…」
「ミィナの言うとおりだよきっと。
それにユィナとも関係があるらしいし、
会ってちゃんと話さないと…」
『私たちはあの人の本当の所を何も知らない…。
ミィナさんの片割れ、
双子の…、でも名前が同じって??』
 カオルは思いながらスカートのゴミを払い、
ヒロミの後から建物の中へ入って行った。

 受付で話をすると、
「こんにちははじめまして」
 クサナギがやって来て、
「こんにちは」
 挨拶を交わす3人。
「ご面会のコンゴウさんですか?
私担当医の…」
「クサナギ先生ですよね、
宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ。
ミィナさんの双子の妹さんから会ってくれと頼まれたそうですね」
「はい、妹の方とは古くからの友人で…」
「でも、双子だったって聞いてびっくりしてたんですよ。
ミィナさん姉妹が居るなんて一言も、
全然知らなかったものですから」
「そうなんですか」
「はい。ではこちらです」
 後を付いて行くヒロミは、
まだまだ緊張を隠せないといった様子で、
「あ、あのハムラミィナさん。
彼女はどういった病状なのでしょう」
 カオルが代わりに話していた。
「精神的なストレスで一時的に自我を無くされていた。
でも今はもう全快されてます。
ショック状態から多少性格が変わられてしまったようではありますけど、
ご存知無かった?」
「…すいません。
そこまで聞かされて無かったんです。
ただ伝言を伝えて欲しいとだけ…」
「そうですか。『伝言をわざわざ??』」
 
 クサナギはその扉を開けていた
「ハムラさん。
ご面会の方来られましたよ」
「面会?」
『あぁ』
 ヒロミはその後姿、
振り向いた顔に唖然とし、
「ミィナさん…?!」
 カオルは近寄り声を掛けていた。
「どなた?」
「妹さんの使者だそうですよ。
私はこれで」
「あ。ありがとうございました」
 言葉の出ないヒロミ、
出て行くクサナギにカオルは頭を下げていた。
「妹??
あぁ、自分で来れないから他人寄こした…、
つまらないなぁ。
あれ? 泣いてる…」
「会えば分かるって言ってた。
会えば分かるって…、
あなたミィナなの?」
「そうよぉ?」
「私たちの事を知らない、
ミィナのお姉さんなんですね」
 カオルも目の前のミィナを見つめていた。
「ん~違います!
お姉さんなんかじゃないし、
ましてや妹でもない。
でも血の繋がりはあるのかな?
そう、
あなたたちなんか知らない方のミィナね。
ご用件は?」
「…北海道のミィナから伝言があるの」
 唇を震わせるヒロミが言った。
「ん?」
「こっちへ来て欲しいって。
そして、全て終わらせようって…、
意味分かる?」
「ん~分かりますよ。でもね」
「でも?」
「行かない」
「ど、どうして?」
「そんな寒そうな所行きたくない…。
ユウキはどこ?
あいつを連れてくるのは息子の役目」
「息子…?!
あなたって、あぁあああハムラ、
ハムラユウキ!
ユウキのお母さん?!」
「息子を?
あっ、まさかあなたってお世話になってるとこの社長さん?」
「そ、そうです。
あたしはコンゴウヒロミ。
こっちがメイドのカオルちゃん。
ごめんなさい紹介が遅れて…、
あまりに似ていて驚いてて…」

 カオルは彼女から目が離せず軽く会釈し、
ヒロミがユウキにスポンサーを申し出るほど肩入れしたのは、
バンドやユウキの歌の完成度の高さはもちろんだったが、
それ以上にミィナの面影を見ていたからだったのだと、
母親を前にして本当に納得していた。

「どうして同じ名前なんでしょう?」
 カオルは尋ねた。
「同一人物だからぁ~」
『な?!』
 ヒロミの眉間に皺が寄り、
一瞬顔が険しくなっていた。
「ご冗談ばっかり」
 笑っているメイド。
「うふふ、どうでしょうねぇ。
本当の事聞いてないの?
あいつとんでもなく秘密だらけだったでしょ?」
「と、ところで、
あなたとユィナは何か関係が?
あなたの姪になるのか、
ならないのか分からないけど、
それだけでも教えて…」
「え? 今なんて…」
「あなたの妹さんの娘。
今は私の養女になっているユィナと、
あなたが何か重要な事で繋がっているって、
北海道のミィナが言ったの。
だからわざわざ頼まれて会いに来たの」
「あぁあああああ、
そう、あの娘ユィナって言うの?!
写真とか持って無い?
あったらあったら」
 ベッドから起き上がり自分の傍に来た姉に、
さらに緊張したヒロミだった。
「ちょと待って、
当たり前だけどあなたにもそっくり。
ほら」
「あぁああああ。やっぱりあの時の!」
「あの時?」
「一度だけ会った…」
「そうなの? いつ」
「事故を起こした日。
そして私は狂った…。
全て投げ出そうとして逃げた。
全部あいつのせい…、
この娘を、こいつをこっちに寄こしたから。
あいつは約束を破ったんだ!!」
「こいつ? こいつとは何よ!
あたしは義母だけど、それ以上は…」
 敵意を剥き出しの目で、
ミィナを見ているヒロミだった。
「ちょと待ってお二方とも興奮しないで、
落ち着いて、
落ち着いて話して下さい。
いったい何が起こったのか、
あなたの妹さんは何も教えてくれなかった。
あなたに会えば分かるとだけ、
今狂ったって言いましたよね逃げたって、
それが答えなんですか?
どういう意味なんでしょう、
妹さんはユィナ様のせいであなたから逃げたんですか?」
 二人の仲を取り持ちながらカオルが話していたが、
「あの子は、ユィナは誰の子なの?」
 カオルは冷静に冷静にと、
自分に言い聞かせながら話していた。
「どっちの子なんて分からない…、
ユウタかユタカの子には違いない…でも、
二人はあっという間に死んだ。
私を置いて…」
「やっぱりあの写真。
双子同士で付き合ってたんだね」
「…ユウキ、そしてユィナ…、
ふたりはもう出会った?」
「分からない。
多分無いと思うけど。
カオルちゃんは?」
「すいません分からないです…」
「そうなの、
出会わせたら終わる…、
子供は子供同士で終わるのかも知れない…」
「あなたねさっきから何言ってるの!
大事な自分の子供でしょう?
いくら頭が…」
「ヒロミさん!」
 それ以上言うなとたしなめるカオルだった。
「ご、ごめん…。
ちゃんと説明して貰わないと分からないんだ…」
「もう言ったよ?
ちゃんと言ったのにぃ…」
『あなたは知ってるミィナとは全然違う、
それだけは分かる…。
事故のせいならなお更…』
 ヒロミはそう思っていた。
「同じ人って事でしょうか…??
それはどういう…」
 カオルが思わず聞いていた。
「うふっ。
また怒らせちゃうからもう言わない。
うふふっ」
「カオルちゃんもういい帰りましょう。
何の事やらだったわ。
あなた、おねーさんお大事に!」
 ここをを離れようとする彼女に、
「いいんですか?」
 カオルは言った。
「良いも悪いも、
会えば分かるってミィナは言った。
そのとーりだったでしょ?
時間の無駄だったけど、
伝言は伝えたし返事も貰ったから…」
「ヒロミさん…」

 開けようとした扉が勝手に開き、
大きな花束を持った誰かが突然病室に現れ、
ヒロミを阻んでいた。
「サ、サワダ?! なんでここに」
「あ、ごめんなさい。
人が居るって知らずに…。
あれっ? なんであんたらが居る」
「帰るとこさ」
 吐き捨てるように言うヒロミは、
さっさと病室を出て行ってしまっていた。
「こ、こんにちはサワダさん」
「カオルちゃんも久しいねぇ。
何怒ってる主様、
ミィナに何か言われた?
何を言ったんだあいつは」
 サワダはミィナをチラっと見ていた。
「でも、そんなに早く帰る事も無いだろ、
せっかく久々に会ったんだ。
ライブの事とか聞かせてくれよユウキたちがんばってるか?」
「がんばってるよ、
ちょっと冷や汗かいたけど…。
それより、彼女とどういう関係なのよ?」
 呼び掛けられ振り向くヒロミはサワダに言った。
「いゃあのな実は…、
大昔の恋人同士なんだ俺たち。
今はちゃんと息子公認の仲だから変な勘ぐりするなよ」
「え?! そ、そうなの…大昔の…」
「酒はさすがに無いけど、
美味い紅茶ならある。庭でどうだ?
気持ちがいいぞここのイングリッシュガーデン」
「ちょっと…」
 廊下の奥の壁にもたれていたヒロミが、
近くへ来いと彼に顎を振ると、
「ん? 分かったから、ちょっと庭で待ってってくれ、これどうにかする」
 花束を持ち上げて見せたサワダ。

「おいミィナ彼女は息子のスポンサー様だぞ?
ちょとはいい顔して上げないとユウキが」
「怒らせたからもう無理かもねぇ」
「何があったんだ初対面だろう?
そんな事言わないで、
ほら君も庭でお茶飲もう。
いいね?」
「…あの大きい方のおねーさん、
私見た瞬間濡らしてたよ。きっと…」
「どうしてそうだと?」
「オマタ辺りに手を充ててぇ、
どうしていいか分からないみたいに拳作ってた」
「なるほど。
俺たちと似た者同士だから気が合うはず。
フフッ」
「犬の先生も呼ぶ?」
「今はダメ」
 サワダはさすがに昼間だとたしなめていた。

 ポーチテラスに置かれたテーブルで話し始めたヒロミとサワダ、
ミィナは席には座らず庭を散歩し始め、
カオルも一緒に彼女と歩いていた。

「双子だって知ってた?」
「あぁいや知り合いが居るくらいにしか思ってなかった…。
ハッキリとは言ってくれないんだ。
彼女は妹の事をいつも、
”あいつ”って呼んでたんだなと、
今にして思う。
あいつがあいつは今何してるとかよく言ってる。
まるでテレパシーでもあるみたいに」
「そう。
双子ってそーいうのあるみたいね。
知らないけど…、
彼女も秘密が多い人みたいね…」
「…秘密?
と言うよりまだまだあの状態だから、
たまにおかしな事言うから。
何言われて怒ったんだ?」
「妹から彼女宛に伝言を頼まれた。
会って来て欲しいって、
連れて来れるならとも。
そしたら彼女、
自分とミィナが同一人物だって言い始めて、
ったくこっちは娘の件もあって来てるって言うのに…」
「娘?
ヒロミに娘が居たのかそれは初耳だ。
そうなのか。同一人物…、ふーん」
「でもね、妹が言うには、
とてもおかしいの…」
「何が?」
「姉妹が会えたら全て終わらせようって、
終わらせるって何なのよ…」
「あぁそれならあの事だな」
「何?」
「彼女が前々から付けてる大事にしてるカレンダーの日付さ。
もうちょっとするとその○の付いた日が来るんだ」
「何がある? その日に」
「だから、
全てが終わる日だって事だろ?
意味はさっぱり」
「いつ?」
「ん~、まぁ言うけど気にするなよ?
ライブの日」
「ライブの日ですって?!
縁起でもない、
全てが始まる日の間違いじゃ?
終わるって何よやっぱり腹立つ!」
「彼女の事は今は俺に免じて許してくれ、
彼女、大怪我して心も体もボロボロだった。
知ってるだろ? ユウキも…」
「そ、そうね。分かる。ごめん…。
でも、
さすがに初めて会った相手がこれじゃ頭が混乱して…、
だって瓜二つなの…」
「そんなにか、
そうなのか。
それはますます会ってみたい…」
「鼻の下伸ばしてないで真面目に聞きな」
「………」
 飲んでいたカップを下ろしたサワダ。
「…全てを終わらせるって、
血の繋がりがそんな簡単に断ち切れると思う?
何の事なのよいったい。
子供たちの事もあいつらだの、
こいつらだの言って、
本当に心が病んでるとしか思えない…」
「で、どうする?
姉をあっちへ連れて行くのか…、
それなら保護者の俺としては一緒に」
「残念でした!
それは即、拒否された。
さむいとこ嫌ーって、
こっち来いって…」
「ははっ。あいつらしい、あ…」
 彼女に睨まれたサワダだったが、
「あ、忘れるとこだった」
 ヒロミはバッグから、
小さなビニール袋に入れた医療品セットの様な物を出そうとしていた。
「ん?」
 サワダはそれを見ていた。
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