15禁 ラブコメ「猫がこっち見てる」

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20-2:大魔女のキス

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20-15


 ゴミ掃除していたのは、庭兼、駐車場だった。

マンションへ向かって歩くと、イヤでも洋館が見えてくる…。
イリは建物を見ないように、見ないよう。伏目がちに歩いたが、騒がしい声が聞こえてきた。
「あら、珍しい。子供とおばーさんがいますわ~ 楽しそう♪」
 カナが言うので、思わず見てしまった。
「あ。もしかして、もう一人(深紫タカオミさん)の、おばーちゃんかな?」
「ん?」
 ミサキが汚れて真っ黒い顔をイリに向けた。
「もう一人にょって?」
「知ってる人ですの?」
『うっ。魔女っ子たちに、タカオミがもう一人居るなんて知れたらー 考えただけでもオソロシャー ヤバスギ! 口にチャックだ~!』
「あぁ。洋館にね、新しい人が越して来てたみたいよぉ~ アハハ。

 さぁ! ついに稽古の時間よぉー みんな頑張ろうね!」
 乾いた笑いで、別の話題にすり替えたイリだったが、
「情報通だな…」
『あいつ、俺らの知らないところで何してる?』
 ミサキの目が光り、カナに目配せした。
「そうなんですの…」
『行動がほぼ一緒なのに。いつの間に? おかしぃですわねぇ~』
 カナはミサキにうなづき、アヤンは二人を交互に見た。
『またテレパシーで会話しちぇるぅ~』
 この先何が起こるのか? 少し可愛そうになったアヤンは、イリの背をグイグイ押し集会場へ急がせた。

 イリが感じていた唐突な悪寒。それは大役を任されてしまったことへの予感でもあったが、彼女はその本当の意味をこれから知ることになるのであった…。



 ついに、いつもの街のいつもの駅で、普通に降りたタカオミ。さっきから通る人たちにジロジロ見られ、ずっとうつむいて歩いていた…。
普通の青年と、その後にくっ付いて歩く”いつの時代の不良なの?”コンビ…。
そんな二人が改札を抜けると、
「あのぉ~ 逃げたりしませんから… 腰。離してもらえませんか?」
「ん? 遠いのかその子の家」
「少し歩きますよ…」
「道知ってんならこっちだ」

「うわっ。チョッ!」
 ナナパパはタカオミの腰から振り回すよう、強引に方向転換させタクシー乗り場に向かわせた。

『…こんな時に限って、一台もいねーしっ!』

 二人は言葉も交わさずじっと待ってると、駅前ロータリーに車が止まった。

「おーぃ。タクシーなら当分こないと思うよー 雪で大事故発生中。良かったら乗せて行くけどー?」

 助手席側から顔を出した男は、大声で話しかけてきた。

『うわっちゃー め、眼鏡男だぁー! うっきゃー しかとだ。しかとっ!』


20-16

「お。友達か? 事故だって? ならあの車に乗せてもらおうかね。行くぞっと」
「あの人友達なんかじゃ無いです。乗りません、乗りませんってば」
「俺、早く娘に逢いたいのだよ。そっちの用事は早く終わるに越したことは無い。ウォリャーー」
『やだ! 絶対いやだー!』
ドサッ!
 タカオミは車に放り込まれてしまった。
「にーさん世話になるよ」
 ナナパパがドアを閉めて言った。
「いえいえー 困ったときはなんとやらです。ところで、絵描き君どこ行き?」
「………(よりによって、なんでこんな所に居合わせるんだよぉ~ このおっさんは!)」
「なんか、息子が友達に会いたいとか言っててね… さっさと目的地言わんかいな」
「え? そちらさんって、絵描き君のおとーさん?」
「あぁ。俺はそのうちこいつの義理の父になる! 青柳と申します。以後お見知りおきの程を」
「あぁ なるほどぉー 僕、大山田って言うんですけど。娘さんおめでとうございます。僕らも居合わせたんですよー ナナちゃんがタカオミ君に報告しに来たとき」
「おぉー ナナの知り合いでしたか~ ありがとう、ありがとう」
「で、タカオミ君。目的地はどこ?」
 振り向いて言う眼鏡男と、腰を小突いて睨むパパ。
「(あぁ~もぅ なるようになれ!)八丁目のガソリンスタンドらへんの、ピンクのマンションまでお願いします!」
 と、答えてしまい…。
車が走り出した直後、空車のタクシーとすれ違ってしまった。
タカオミは思わず手を伸ばしたが、どうすることもできなかった…。


20-17

「楽しかったのぉー でも、ばーちゃんは用事もあるし。お疲れじゃ また遊びにおいで」
「ねぇー 落書きさしぇてくれないのぉー テスト。テスト~」
「おぉー そーじゃった。すっかり忘れておったわぃ」
「テストって、滑り棒遊びのことだった?」
「ちゃうちゃう。アハハハハ お前ら一番好きな人の名前を言ってみなさい」
 ニコニコしてるばーさん。
「アイちゃんとマボロシちゃん!」
 マコト君は力強く言ったが、
「ふたりはだめじゃ~ どっちか一人じゃないとなぁー。アイは好きな子おらんのか?」

 アイちゃんはもじもじしていた。
「わたちー? うーん。う~んとねぇ。ママと、パパ~♪」
「えぇ~ 僕じゃないのぉ~ ショックー」
 顔を歪めたマコトは、拳をギュッと握った。。
「アッハッハッハ マコトや、今回はあきらめろ。まぁそのうち書かせてやるからまっとれ。フヒョヒョヒョヒョ」

 最後の一滑りを終え、アイとマコトが洋館から出て来た。
「たのちかった~ 猫ばーちゃん、疲れてなかったらもっと遊べたにょにね~」
「でも、結局”恋人たちの部屋”に落書きできなかった…。僕はアイちゃんのこと大好きなのにぃ~ アイちゃんひどぃ~」
「ななななななに~!?」
「なんですと!」
 ゴミ処理に手間取り、焦ってマンションへ戻ろうとしてる部員が走って来ていた。

意外な”言葉”に反応し急に方向転換し、
「ねぇ ぼくたちー! ねぇねぇ 今さ、恋人たちの部屋の話ししてなかった?」
「このへんにそのお部屋があるのー?」
 子供らに駆け寄った!
「あるよぉー ありゅけどー 猫のおばーちゃんに会わないといけないんだよー 疲れてるんだってさー」
「滑り棒で遊ぶのはテストじゃなかったし~ アイちゃんに裏切られたぁ~」

「猫のお化け~? ねね、そのお部屋ってこの洋館の中にあるの?」
「滑り棒? 後で、お菓子あげるからー ね♪」
「あそこの奥~」
 子供たちは表から回り込み、洋館の二階を指さした。
立ちすくむフユミとエリリンの前に、古ぼけた洋館【日暮園アパート】が、歴史を感じさせる趣きでドーンッとただ静かにそびえ建っていた…。
*洋館に名前が無かったことに今、気づきました…。


20-18

「し、信じられない。ま、まさかこんな近い所にあったなんて!」
『これで、幸せになれる~ トモヤの彼女になるのは私! あんな小娘にはやっぱり渡さない! 私が真っ先に書けば…』
 フユミが目の前の敵にガンを飛ばすと、
「行くしかない!」
 エリリンも睨み返し、火花が飛び散った!
『トモヤとラブラブになれるなら… フユミ…あんたとの縁もこれまでだ!』
 火の付いた導火線はロケットに火をつけ、ドドーッと走り出した二人だった。が、玄関口でぶつかり合いスッ転んでしまった。
「イッターィ 何焦ってるのよぉ! エリリン~ 抜け駆けは許さないんだからぁー」
「あぃたたたたたあ~ぃ あんたこそ! ここは公平に行くべきよ! いいわね!」
 メラメラと燃える上がる闘志。固く握られる拳。

二人は拳を固く握り、カナたちと交わした感動の淑女協定も破る勢いで、拳を振り下ろした!
「最初はグー じゃんけん ポンッ!」
「かったーわーぃ!」
「ゲゲーーッ!」
「遅れてるぞー おまえら~ 走らねぇーとモノホンのげん骨落ちるぞぉー ところで、何を賭けたじゃんけん? 夜の買出しとかー」
 じゃんけんに加わっていたミサキが言い、
ランニングへ走り出す部員のみんなが、じゃんけんに加わっていて、子供たちも面白がって参加していた。
「一回で勝っちまったけどなんか、良い事あるのかー なんかよこせー」

「これでも喰らえぇー!」
 喜んでる変態1号は、フユミとエリリンの怒りの拳をダブルで貰い、
「グッギャーー 久しぶりのやられ役ー!」
 ぶっ飛ばされてしまった…。
ズササササァー
「なんでぇ~ なんでなのぉ~」
「僕らは基本妖怪人間… いきなり普通の人間の輪に入れるなんて思っちゃいけないんだ…」
 ナヨナヨと座り込んだ1号が落としかけたカメラを死守した2号だった…。
「君たーち! 時間が無いの分かってるかー 次は基礎体力作りよー! 二列に並んでしゅっぱーっつ!」
 自転車で先導するミミーが大声で言った。
『うぇ~ すぐそこの幸せが~ 遠のいていくぅううう~』
『ハァ~ン トモヤまってて~ あなたと私の天国の日々が始まるのよ~』
 小さくなる洋館を背に、思いっきり落ち込んでしまったが、近くの土手を走りこむうち、
『エリリン!』
『フユミちゃん!』
  先を走るトモヤのキラキラ輝く汗を見て、何かを確認しあっていた…。


20-19

「じゃあここで」
 タカオミは降りようとしたが、
「彼女の家ってあれか?」
 ガソリンスタンドからは、淡いピンク色の外壁に囲まれたイリの住むマンションが見えていた。
「ですよ…」
「まだ少しあるぞー 外寒いからよ。前まで連れて行ってもらおうぜ」
「はじめからそのつもりだし。構いませんよ。
 ここで、きっと遅れてくる友人も待たないといけないし」
 眼鏡男はブルルっと震え、セルフで給油を始めた。
『ま、待ち合わせっ?!』
 嫌な予感がしたタカオミは、慌てて外へ飛び出した。
「おぃこら。逃げる気かぁー」
 捕まえようとしたパパの手は腰をかすめ、
キキィーー!
 一台の黒いワゴン車が、滑り込んで来て急停車した。
「おぃ 危ないだろー 何やってんだー」
 運転してる男が、窓を開け怒鳴った。
「す、すいませんーーん」
『あっぶなかった~ ヒェ~』
 あわや事故かっと、バランスを崩したタカオミはへたり込み、胸に手をあて心臓の鼓動を静めようとしていた。

『ゲロッ!』
 助手席の男は、思わず体を引っ込め顔を背けた…。
「あらー 絵描きくーんじゃなーぃ 何かと心配させる人ねぇ。大丈夫? 送ってあげようと思ったのに消えてたからびっくりー あの書き割り素敵だったわー 思わずキスしちゃった。アハ」
 後部座席からあの、受付のおねーさんが降りて来て手を貸してくれた。
「(キス?)ど、どうもありがとう。毎度、毎度スミマセン…」
「はぃ。これ忘れ物。大事なモノでしょう?」
 案内係のおねーさんは、脚立に置き忘れたイリの写真をタカオミに差し出した。
「書き割りのモデルねこの子。
 軽くジェラシー覚えちゃった~
 でも、ふたりの間になんかあったと睨んでるのだけど~♪

 アタシにも付け入る隙はある?」
 受け取ろうとしたタカオミに、おねーさんは意味深に写真を裏返し、渡した。
「?(付け入る隙?)」
「アイちゃんおはよーぅ。今日も美人だねぇ♪ 時間ピッタリに来るとは思わなかったよ。シオンは酔っ払って寝てるかな?」
 眼鏡男が言い、
「ぬぅわにぃ~!」
 タカオミがワゴンを覗くと、座席に沈み身を潜めたつもりの、金髪頭が見えていた…。
「あ! てめぇー やっと会えた!」
 シオンはドキッとして、酔って寝てるフリに切り替えた…。


20-20

「ねぇ アタシの名前はアイリなの。イリーって呼んでよ~ アイって呼ばれるの好きじゃないんだよね~」
「えぇ?」
 肩を怒らせ、助手席の窓を叩こうとしたタカオミは、驚いてもう一人のアイリを見つめた。
「おねーさんも! イリって言うんだ?」
「そうそう。名乗って無かったね~
 そうよー アタシは日向アイリ。
 一応女優よぉん。宜しくね~ 惣領タカオミ君♪

 え? 今”も”って言った?」
 アイリはタカオミを見つめ返し、目をパチクリさせた。
『日向… 太陽と月! 地球は…』
 ピンクのマンションを見て、
「あ。俺行かなきゃ…」
 シオンへの怒りもどこへやらで、ポケットから今朝方コンビニでつい買ってしまった。タカオミの精神安定剤でもある”マヨネーズ”をポケットから取り出し、人目もはばからずグィグィ飲み始めた!
信号が変わったのを確認すると、フラフラ横断歩道を歩き出した…。
「うわっ! おめぇー何飲んでる! キッショーィやっちゃなぁ~ こら逃げるなー」
 ナナパパが追い、
「あ!」
 アイリは雪でスリップしたトラックに気づいた!
気づいてないタカオミ…。
「戻れー!!」
 ナナパパが手を伸ばし叫んだ。

全てが、スローモーションのように見えはじめた…。

「ん」

 眼鏡男は、何事だと声のする方を見た!
『うわぁああー!』
 トラック運転手の悲痛な顔!
グギャガガガガガー!
急ブレーキの音。

雪煙。

気づいたタカオミ!
グワッシャーッ!
凄い衝撃音!

「絵描き!」

 シオンが車から飛び出した!

 タカオミは…

電柱に激突し、運転席がグシャグシャのトラックを呆然と見ていた…。

皆の顔がホッとした。

その時、

十字路の角から飛び出してきた車に…。

ドン

「キャーーー!」
 アイリが叫び、
急停車した普通乗用車に乗った家族は、顔を強張らせた。
後部座席の少年は、黄色い液体があちこちに飛び散っているのを見て、
『マッ マヨネーズ???』
 倒れた男の人に気づいた。
「ぁぁぁ… タカにぃー… イリちゃんの彼!」
 弟のアサトが言った。
「!!!」
 ヒロムパパは絶句した。
『えぇえええーーー』
 モエママは声を出せなかった…。

 跳ねられて、動かないタカオミに、アイリが駆け寄った。



 その頃イリは…
土手沿いで、初めての発声練習をさせられていて、上手く言えず笑っていた…。


20-21

「人が! 男の人が跳ねられました! 交通事故ー!! すぐ来てー え? 場所? あ。そうね、ここはー」
 跳ねたのはイリパパの運転する車ではなく、前の車だった。
その車のドライバーは外に出たはいいが、呆然と立ちすくんでいて、
イリママはとっさに、アサトが座席と座席の間に突き出すように持っていた携帯を取り上げ救急車を呼び、そして、娘が忘れて行った携帯を閉じた…。
「ど、どうしよう… イリちゃんに連絡すべき? こんな”酷い奴”のこと話すべき?」
『ぬわにぃー!!!』
 娘に恋人がいるってだけで動揺してたパパだったが、
息子が思わず口走った呟きに、追い討ちをかけられ目を吊り上げた!



「あはははは。
 口が回らない~ お腹の底からって言われても~ 声を出すのがこんなにきついとは~ 思ってもみなかった。 あははは… ハァ~」
 イリはお腹に手を当て奮闘していると、
「あえいうえおかこかこ かきくっけこー こけっこっこー コケェー」
バッサバッサ
 ミサキが両手をばたつかせ走り回った。
「うひゃははははは あんたそれニワトリ~ やめてやめてぇー」
 イリは、すでにおかしくなってる腹筋に力が入らず苦悶の表情をしてると、
パシーン! パーン! 
「あんたたち真面目にやりなさい!」
「とくにあななたちは必死でやらないとダメーー!」
 フユミとエリリンが”例のあれ”で、四人のお尻を流すように叩いて行った。
「キャッ! コントの王道小道具ですわ~」
 カナが言った。
「ハリセンだぁ~! だって、しょうがないよぉー 初めてなんだもにょ」
 アヤンは座り込みくたくたになっていて、フユミとエリリンが嬉しそうに笑っていた。
「はい! 次は二人一組になってー 腹筋しながらの発生練習ー! はじめー」
 ミミーが更なる難題を指示した。
「あいつらお針子とマネージャーだろ~ なんか今ニヤついてなかったか~?」
「ぶつくさ言わないのです。頑張るしかありませんわぁー ほらアヤンがんばって~」
「あ! ぃうえかこかこぉ~~ ヒー プギャー」
 カナは、必死の形相のアヤンの足を押さえていた。
「そうよアタシたちは頑張らないと あっ! ダメ腹筋しながら発生なんて無理ぃ~
 きゃはははは やめてー」
 足を持ってるミサキが、起き上がってきたイリの脇をくすぐった。
「出てるじゃん♪ こんなんで根を上げるな軟弱者めぇー 俺は超体育会系なんだぞぉー ギャハハハ ほーれ ほーれ」
「お願いやめてー 死ぬ~ キャハハハハハハ」
 足を取られてるイリは、上半身をくねらせばたついた。
「そこー! じゃれあわない!」
パッシパシーン!
 今度はおねーさんたちのダブルハリセンと、ミミーのハリセンも飛んできてトリプルで叩かれてしまった。


20-22

 救急車に乗せられたタカオミは、アイリに付き添われ病院に運ばれて行った。
その後を追う、眼鏡男の車に乗り換えた三人。
イリパパは凄い形相のまま助けが来たのを確認すると車を動かし、どこかへぶっ飛んで行った!
「ちょっとパパ落ち着いて~!」
 ママが言い、
『あっちゃー…』
 行き先は初めから決まっていて、アサトもママもこれから起こることを想像し困惑を隠せなかった…。



「俺があいつに無茶させたせいだ…」
 ナナパパが顔を覆い呟くと、
「まさか、これは事故です。誰のせいでもないですよ…」
 眼鏡男は背中をさすってあげた。 
手術室前の長いすで待つ事故に居合わせた四人。
『絵描き! まだあっち逝くんじゃないぞー』
 シオンは手を組み必死で祈っていた。
「大丈夫。きっと大丈夫よ」
 救急車からずっとタカオミの手を握っていたアイリは、冷たい手の感触を思い出し自分に言い聞かせるように呟き、今、はじまったばかりの、手術中を示す赤く光る表示板を見つめた…。



「夜中に決行よ! でも… その前に!」
 フユミが口火を切っていた。
「そうね! ほんとの決着をつける時が来たようね…」
 思わず力むエリリン。
「恨みっこ無しよ? いいわね?」
「この勝負私がいただく! 泣くのはフユミちゃんだけでいい…」
 フユミとエリリンは部員たちが発生練習に励んでいるのをよそに、再び女子の闘争本能をたぎらせ、熱くてじみーなバトルを再開した!
「さーいーしょーーはぁーー グ!」
 互いの拳が振り下ろされた!
「!!! 待って!」
「な、なによおー」
 ずっこけそうになったエリリン。
「周りを見て!」
 フユミが目をギョロギョロ動かすと、
『そうだった…』
 エリリンは振り向き、今度こそ邪魔が入らぬよう辺りを念入りにチェックしたが、まだ不安だと、少し離れた木の生えた茂みにこっそり移動して行った…。
「ふぅ~」
「誰にも見られてないわね?」
「ここなら安心よ」
「相合傘を書けるのは私!」
 エリリンが言った。
「恋人たちの部屋はあたしだけのモノ!」
「最初はー グッ!」
「ジャンケンポーーン!」
「うっ…」
 エリリンの険しい顔。
「あいこでしょ!」
「うぎゃーー!」
 フユミのしかめっ面。
「あいこでショーーーーッ!」
 何度やっても、あいこが続きまくってしまった…。


20-23

「決まらない…」

 フユミが言い、
「…ふたりの運命が均衡してるってこと?」
 エリリンが言った。
「仕切り直そう」
「そうね。休憩ね…」


 手をブラブラさせたり、ねじったり、組んだり、軽いストレッチをしてみたりと、その様子はまるで、スタートラインで時間を待つスポーツ選手のようだった…。 
二人は深呼吸し、空にかざした利き手に、愛と言う名の念を体中から送り込んだ。
フユミに紅いオーラが沸き起こり、エリリンからは蒼いオーラが渦を巻きはじめた!
ゴォーーーー シュルルルルーー
「いくぜ!」
 龍が空を飛ぶようにジャンプしたフユミ!
「おぅ!」
 鳳凰(ほうおう)が舞うかのように、両手を伸ばしたエリリン!
「さいしょはぐーーーー!」
「じゃんけん」
ゴォオオオオオーーッ
 振り下ろされる拳が、空間を切り裂き焦がし、
「ポーーーンンン!」
 紅いオーラと蒼いオーラが激しくぶつかりい弾けた!
そして、二人の間に永遠のような時が流れた…。
「やったーーー♪」
「ギャァーーーッ」
「もっかいやらせて!」
「うははははは」
「お願いだよー ウエェーーーン」
 地面に両手をつき倒れこんだ、少女の目に涙が滲んでいく…。
「えぇーーぃ 見苦しいぞー これが勝負なんだと初めから分かってただろう?」
「ビェーーン そんなぁ~ 親友でしょー?」
 ゴソゴソと這いエリリンの足にしがみつくフユミ…。
「親友? 主も弱い女子よのぉ~ 今夜の、”恋人たちの部屋”行きはきっちり手伝ってもらうからね~? それが真の友情を示す証となるぅのだぁ~ 今さらやり直しなどできるかー」
 フユミの顎をつかみ、話して聞かせたエリリン。パッと手を離すと、フユミの顔が地面でこすれた…。
「ビビビビッビェーーーン ヒーンッ イヤーー トモヤー」
 フユミは雑草を握り締め抜きまくってくやしがり、悲痛な叫び声が辺りに響いた…。

 勝敗は決まった!
やっぱり、1号だったのだ!
『うひょひょひょひょー お前らのスーカスーカの脳味噌で僕ちゃんに勝とうなんて思うなよ~ この再勝負もはじめっから僕が勝っていたのだよ? おあいにく様~ ぷくくくっくっく そーいうことだったのね~♪』 
 まぁちゃんと参加していればの話しだったが…。

1号は、二人が隠れた木の上からクラブの活動記録を撮っていたのだ…。そこへたまたま来た二人の会話を聞くとも無く盗み聞きしてしまっていたのだった。
『早く夜にならないかな~ ウププププ』
 1号の下品な笑いは辺りに聞こえることは無かった…。


20-24


 午前中のハードスケジュールが終わり、
「先生。このあと、管理人の面接がありますから小一時間ほど抜けさせてもらいますね」
 そそくさとお昼を食べ終わったカナが言った。
「はぃはぃ 若いのにとても貴重な経験をしますね~ 頑張ってらっしゃい。ォホッ」
「ありがとうございます~」
 水虫も稽古場兼、食堂で部員たちと一緒に食べていて、

イリとアヤンはぐったりと疲れ果て、

「がんばれよー」っと、元気はつらつなミサキだけが手を振っていた。
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