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18:魔女たちのキス

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18魔女たちのキス


 ミサキは寝返りをうった拍子に、壁に足をぶつけ

瞬間飛び起きたが、何も無かったように眠り。


 アヤンは自分より大きな

縫いぐるみ抱いてスヤスヤ眠り。


 ナナはきんつばに乗っかられ、もがき苦しみ眠り。



 トモヤは謎の人物”2号”がスーパーヒーローに変身し、

悪のロボと戦う夢を見て眠り。


 イリは息継ぎの練習でもしてるのか、

口をすぼめたり、膨らませたりして眠り。


 タカは膝を抱えて眠り、

オミーは親友の部屋のソファで眠っていた。


 誰もが眠る真夜中…

カナだけはなかなか寝付けず、

ホットミルクを入れたカップを両手で持ち

湯気を見ていた。

『…赤ちゃん…

 留学…

 何も知らないよね?

 私だったら…

 ………

 …ただ好きなのですよね?

 羨ましいな…』

 キッチンの小窓からは、

街灯に雪がちらつく中、一台の車が走るのが見えていた。

カナはホットミルクに少し口を付け、

『眠れそうにないな…』

 と、キッチンの明かりを消し寝室へ戻った。



 そして、太陽は登り。

普段と何も変わらない日が始まった。

イリは普通に学校へ行き、

普通に授業を受け。

普通にお昼をいつものメンバーで、

食べようとしていた…。


「………ぉっーお昼~ 

 お昼食べ…ます?

 今日は夕べの残り物なの。

 弟特製ボロボロハンバーグゥ…

 誰か何かと交換しない?

 ていうか、

 してくださいませんか?」

 すると、美味しそうな豚肉の生姜焼きと、

鶏の唐揚げが、ごそっとイリの小さなお弁当箱の

フタに山盛りに置かれた。

が、見る見る誰かの口へ消えていった…。



 イリはとにかく、

どーしていいか分からなかった。

でも、それを口に出す勇気は無かった。

「うわっ アサト君作なの? 

 見事に真っ黒でしゅね… 病気になるますよ…

 まぁ仕方ない…玉子焼きを上げましょう…」

 アヤンも重苦しそうだった。

「鮭の切り身半分ね♪

 焦げたのって案外美味いんだぜぇ?」

 ミサキが食べると、ゴリゴリって音がした…。

「うわ! これただの炭じゃん

 グゲェーッ」

 誰かがジュースを差し出した。

「ぉぉう ありがとな…」

チュー

 ミサキは一口すすり、たどたどしく礼を言った。

「私は生ハム~

 デザートのメロン付きですわ~」

 カナがイリに取っていいよとすすめた。

「ありがとーーー…

 (いったいなんなのよぉー)」

 イリは目でアヤンに訴えたが、

アヤンは大きなおにぎりにパクつき

ただひたすらパクついて…

何も応えてくれそうになかった…。


18-1

 イリは持って来た巾着袋から、

大事に大事に梱包したあのプラモを取り出した。

「これ… 

 やっぱり貰えないです…」

 当然のごとくクラブの女子部員たちは、

後をくっついて来ていて、イリを睨みつけていた!

「あぁ~ いいんだ いいんだよぉ?

 もう上げたんだから。

 イリちゃんの物さー

 僕が君の事好き! とか、好きとか!

 すきーーーだってことは!

 どーでもいいくらい好き!

 なんだから♪

 もう受け取れないよーん♪」

 女子部員たちはトモヤを潤んだ瞳で見つめ、

トモヤが”好き”を連発するたび、

イリを睨み付けた!


 やたら声を張るトモヤと、金魚のふんたちに睨まれ…

恥ずかしくてたまらず。

すぐにでもここから離れたかったが…、

「そうだよー イリちゃーん トモヤくんのそれ

 もらっておけばいいのよ~

 彼が君を好きとか! 好きなんだって~とか

 死ぬほど好きとかー

 それお家に飾っておくと~

 あなたに彼が、

 どれくらい想われてるのか!

 分かってくるかもでしゅよ~ 

 だから遠慮ちないで、貰っておきたまへ~」

 アヤンがひょいっと柱の影から現れて言った!

『な! なんであなたがそーいうこと言う~?!』

 するといきなり麗しい声が響き渡った。

『ピンポンパンポーン~♪

 今、教室とグラウンドの間、

 水飲み場近くのーえーっと、青屋根の下で

 トモヤ君が生涯を賭けて誓う愛の告白を

 睦月アイリさんこと、イリちゃんに~

 しようとしていまーすわ~

 キャー トモヤ素敵~

 ビリビリシビレちゃぅぜぇ~♪

 お前ら! これ聞いたら今すぐダ~ッシュだっ!

 皆様もぜひぜひ、

 二人の愛の成就を応援してくださいませ~♪

 お食事中失礼しましたわ~

 愛はあなたと。風祭カナ♪

 好きなら奪い取れ!

 スクネミサキでお送りしました~。

 ピンポンパンポーン~♪』

 カナとミサキは、放送ブースを乗っ取っていて、

双眼鏡で二人の様子を観察していた。

ミサキにくっついて来た1号は、

一人しか居ない放送委員に、

何やら写真を見せつけていた。

「これ、君の好きな子だよね? これ欲しいでしょう?

 しばらくの間使わせてくださいね ヒョヒョ」

うんうん♪ と、受け取った放送員は。

嬉しそうに、カナの指定した音楽を流した。

それは、若い子が聞くには大人びていたが、

甘く切ない名曲”コーリングユー”

職員たちは何事かと思っていたが、

”水虫”は弁当を食べる箸を休め、

曲に聞き入った。



『えぇええええ!

 ナナナナナなに今の放送~!

 ま、魔女っ子たちが復活したぁ~?!

 アタシとトモヤ君。くっつけようとしてる~~

 ドッシェーーー!』


18-2

 アヤンはイリに微笑むと、

続きはあなたの番とばかりに、

しなやかに両手を広げ、トモヤに一礼した。

イリが焦りまくっていると、

学校の生徒たち以外にも、

放送を聞きつけた近所の主婦たちまでもが

雪を蹴散らし!

集まって来ていた。

「いしや~きぃいも~ お芋!

 ほっかほっかの食べごろ~だよ~ん♪」

 そしたら、石焼芋屋まで現れ。

トモヤはそのトラックまで走り

マイクを掴んでいた! 

「僕はー君を、

 睦月アイリさんを、愛してる!

 ここで君が去って行こうとも

 何度でも君に愛を囁こう!

 嫌がられたら引き

 君が危ういなら現れては消える波になる!

 この命。君に捧げよう。

 さぁ僕の胸にナイフを突き立ててくれ

 その瞬間僕は塵になるかもしれない…

 でも、僕は君と言う愛しい存在を

 知ってからもはや死人同然なんだ…」



 石焼芋屋のスピーカーから、 

トモヤの思いが、精一杯の恋心がイリに注がれた!

そのセリフはあまりにも仰々しく

芝居じみていたが、

確かにそれは今度の芝居のセリフで、

借り物に過ぎなかった…。

だけど、トモヤはこのセリフを練習するたび、

相手をイリだと思い、演じえていたのだ。

多少のアレンジはあるものの、

自然と口をついてしまっていた。



 集まった野次馬は、切ないが力強い言葉に息を飲み、

一斉にイリを見つめた。

トモヤ親衛隊であるおねーさまたちは、

彼とイリを交互に見過ぎて、

首をゴキゴキいわせていた…。



そして!

キンコンカンコーン~♪

「あ! チャイムチャイム~ チャイムゥ~…

 さーお勉強の時間です~」

 昼休みが終わった合図は

彼女に救いの手を差し伸べ、

その場から逃げるように去って行くイリだった。

「チェーッ! 即興とは思えない

 抜群の演出だったのにな~

 けど、さすがにいきなりはダメだねぇ」

 双眼鏡を下ろし、ミサキが言った。

「まだまだ 序の口ですわ~

 お別れ作戦は始まったばかり!

 うっふっふ♪ 見てなさいよー

 タカオミさん…

 わたくしは、あなたの本性見極めますわよぉ~」

 いつになく力の入り方が違うカナに、

ミサキは不思議に思ったが、

「うしゃー 教室にもどろー

 あんがとね~ おにーさん」

 と、駆け出した。

「ありがとうございました~ 委員さん

 次も何かあったら宜しくお願いしますわ~

 アハッ♪」

 カナが見ると、

彼は写真にこっそりチューしていた。



 集まってた学生も、その他大勢も次に期待しようと。

蜘蛛の子を散らすように消えていき。

トモヤは焼き芋屋のおじさんに

スイマセンとマイクを返すと、

背中をバンッと叩かれ、

感動した!っと

袋いっぱいの焼き芋を貰っていた。

そして、イリの手に。

また返せないロボプラモが残ってしまった。





18-3

『そっか…

 あの話し…

 ミサキに助けられたとき、

 聞かれてるよね…

 そして、魔女っ子たちが蘇った…

 …だからトモヤ君…と…

 でもアタシ…

 ハァ…』

 ため息ばかりが口を吐き、

午後の授業は一切なにも頭に入らなかった。



 そんな友の様子に魔女子たちは、

授業中も、折りたたんだメモで

やり取りしあっていた。

|ため息ばっか吐いてるな…

|しょだねぇ…で、次の作戦はどーしゅるの?

|次の手はもっと心情に訴えますわよぉ~

|司令塔どの、あなたの指揮は見事です。

 このままずっと付いてくぜ!

|ねぇところでさ、どーして1号2号が

 うろついているにょか! 

 もうちょっと詳しく説明ちて!

|実はアヤンにもびっくりさせることがあってね~♪

 慌てるなって ヘヘヘ

|うんうん。イリちゃんと同じ側で

 半分味方のフリしていて欲しいのですわ~

 考えてることがあって

 もう少し少し嫌そうな顔しててくださいな。

|いきなり味方欺いてるってことでしゅか?

 なんだか分からないけど、

 なんとか耐えましゅ~

プッシュー プシュルルル プシュ~

 アヤンは不服のため息? を吐いた。

その時、クラスの後のドアが誰にも気づかれず、

スッと開き、棒がニューッと出てきた。

プシュ!

棒から何かが射出され、カナの背中に当たった。

『ん?』

 振り向くとイスの下に小さな丸まった物があり、

広げて読むと…目が輝いた!

『ヤッタ~♪』

もう一度振り向くと、

ドアから突き出た親指が揺れ。スーッと

引っ込んでいった。

吹き矢!で届いた。

吉報と思われるメモは

ミサキに渡り彼女はしっかり、

「うぉーーーこりゃすごぃ♪」

 と、立ち上がって叫びクラス中をビビらせた…。

黒板にチョークを当てようとしていた、

数学の先生はゆっくり振り向いて言った。

「ん? スクネさん…

 まだ書きかけの問題だけど…

 早々に解けたみたいだね~?

 はい! では答えなさいー!」

「はい! そこまで予知できませんでしたーっ

 ハハハハハ すいません~」

 と、答えてしまい

先生にデコピンされてしまった。



 最後の授業は終わり、部室へ向かう四人。

イリは話したことも無い生徒たちに、

囃し立てられ、肩を叩かれ、

「僕も君が好きだーっ」と冷やかす者が続出し、

昼休みからずっと、困り果てていた…。

わざわざこのクラスへ来るのは遠回りだったが、

トモヤが階段から飛び出し、

相変わらずのニコニコ顔でイリを目指し走って来た。

『わわ また来たっ~!

 でも、おねーさんたちいない?』

 どこかに隠れたかったが、

逃げ場の無いまっすぐな廊下。

親友たちの背に隠れることもままならず。

うろたえてると、スッと通り過ぎた。

『ありゃ』

 肩透かしを食らった感じがしたが、

ホッとしてると、

ゾクッとするような冷たい視線を感じ、

何者かに両脇を抱えられえてしまった。

やっぱりクラブの女子部員たちが、

背後からやって来ていたのだった!

『トモヤ君にまとわり付けばいいのに~

 なんでアタシ?!』

 彼女たちはトモヤには何もできないので、

イリに彼を近づけまいと…

バスケのような動きで、キビキビ動いていた…。

『あほだぁーー この人たち絶対アホー

 やだよぉー アタシなんにも悪いこと

 してないよぉ~

 このねー様たちと1号たち込みで…

 今後一緒に行動することになるの!?

 ハァーー憂うつだぁ~~』

 そう思ってるとカメラの音で、

1号2号も居るのが分かった…。


18-4

「あ。カナさん 多分お口に合わないと思うけど

 良かったらこれ食べて~」

 と、すっかり冷めてしまっていたが、

 石焼き芋の入った袋を渡した。

「あ。ありがと~ イリも大好きですわ~

 ねぇ~ 好き! ですわよねー

 トモヤくんが~♪」

 カナが受け取りながら言った。

「そうそうあいつ芋好きだからな~

 でも屁こいてトモヤに嫌われてはなんだから。

 俺が喰った残りをやろう わははは」

 そう言いつつ、ミサキは即効

焼き芋に喰らい付いた。

『イリ~ あたちだけはあなたの味方!

 今は魔女子じゃないからあんちんちてぇ~

 さっき言ったこと、調子に乗りすぎちゃった

 だって、イリとーっても

 寂しそうだったし…』

 アヤンがイリの警護の隙をつき囁くと、

『ありがとう♪ ありがとぅ~

 もう泣きそうだよぉ~』

 と、イリはブンブンうなづいた。

「ところでイリさぁー

 この学校史上初かもしれない大告白の

 感想教えてぇ~ 俺ならイチコロだなぁ~

 トモヤ可愛いしさ!

 もうイエスって言っちゃえば~

 気が楽になる~ モグモグ」

「じゃあ あんたが付き


 オワッ! モゴモガモゴオ……」

 ミサキが付き合えば良いと、言おうとしたが、

フユミに口を覆われてしまった。

『トモヤ君を傷付けるようなこと…

 金輪際(こんりんざい)口にしてはいけません…』

 ボサボサ髪のエリリンが、

ギラッと目を光らせ囁いた。

「そっ! そーだよ睦月さん!

 付き合ってもらえないとーーー

 ぼぼぼぼぼくー

 この世から消えて無くなるぅー

 かもなんだよー

 いや。うまくいけば天国なんだけどぉ~

 ウヒョヒョヒョヒヨッ

 でも、このとーりお願いだ!

 トモヤ君さん様! と、付き合ってあげてー!」

『な、なによそれ 

 大体なんであなたにまで!

 お願いされなくちゃいけないのぉ~?』

 2号は訳の分からないことをまくし立て、

ビデオカメラをイリに向け懇願し、

『余計なこと言うんじゃねぇーー!』

 と、イリから引き離されミサキに蹴られた!

ドスッ!

『え? 今の音なに? 誰か蹴られた?』

 イリは状況が見えず。おろおろした。

「良いこと? よーくお聞きなさい…

 メス猫ぉ~とかいろいろ言ったのは

 あやまるよ… フンッ! 

 やだ! そこは譲らないぃ~!

 …でもでも~」

 今度はフユミが、棘のある声で囁いた。

『それあやまってないですよぉー

 っていうか。怖いぃ~

 どこに連れて行かれるのぉー!!』

 なぜだか目隠しまでされてしまったイリは、

まるでどこかへ強制送還される、

犯罪者扱いだった…。

『トモヤ君と付き合ってあげて!!』

 フユミとエリリンは同時に話した!

「えぇえええええええ~~」

 ほんとはそう叫びたかったが、実際には…

『もぐぐぁがああああ~』

 としか、言えなかった…。

『さ、さい悪ぅ~だぁーーーーー!!!

 お願いします。お願いしますー

 おねーさんたちは敵でも味方でもないけどぉ~

 あなたたちが最後の砦!

 最後の壁!

 そして最大の希望だったのにぃ~~

 ろーしてそんな、いきなり…

 魔女っ子たちの味方に~~~!』

 慌てまくってその場から逃げようとしたが、

力強い女子部員たちに…身動きが取れない!

『やだ! 離して怖いよ アヤン!

 どこ行くの? ちょっとあなたたち

 イャーーッ!!』

 イリは恐怖に怯えた…。

だが、皆も同じ所…ただ部室へ向かって…

いるだけの話しではあった…。


18-5



 タカオミはいつもと変わらず…

天使のイリを完成させるため、キャンバスに向かっている日に、なるはずだった…が、オミーが頼んだ運送屋は場所が分からず迷いに迷い、かなり遅れて到着した。

そして、タカも引越しに借り出されてしまった。

「ふぅ~ 久々にいい運動したな…」

 タカはあらかた運び入れたダンボールに囲まれ、

『…さすがオミーの部屋だぁね… これって、イリ…のパパとママのだろうか?』

 心地よい疲れで汗をかき、すごい数の相合傘改めて眺めていた。

「ただいま~ 体動かして、少しは気持ちが落ちついただろ? はいよっ」

 買い物に出かけていたオミーが、昼飯だと弁当やら、暖かいお茶やらをタカに渡した。

「動いてるときはな…」

 タカは弁当を黙々と食べ始め、

「心配すんなってー!」

 タカの傷ついた心は簡単には癒せないと、オミーにも分かっていた。

「だよな~ いくらナナでもそこまでは… いや、そうじゃないんだ… そんなことじゃ…」

 タカは口ごもり、お茶を飲んだ。

「うんうん… 今日は無理言って悪かったな~ 掃除やら、荷物運びやら手伝ってくれて お前がこのアパートに居たとは露知らず。 ほんとっ助かったよ。 ありがとなー」

「いやー 俺もお前が居て…助かったし、お互い様ってとこさ」

「あのさ、もしかしたらー 俺のばーちゃんにここに住んでるの知らないだろ? 知らないっぽいよな」

「え~~~!? 嘘ぉ~ マジ? 俺も越してきたの最近だし。 二階の人となんて一切面識も無い。 まじかよぉ~ ばーちゃん人の顔見るなり予言すっから、苦手なんだよ」

「そうかーやっぱりか~ アハハハハ でもま、あの人気まぐれだから。いつ帰って来るか分からんけどなー あ。そだ! そーだった。お前に見せないとだった」

 オミーは食いかけの弁当を、積みあがったダンボールに置き、タカを手招きした。

 穴がポッカリ開いていた。

「ほら。おまえの部屋が見え~る」

 オミーが床下収納ボックスを外していた。

「なっ! なんだこりぁー こっからあいつら進入しやがったのか! まったくとんでもない奴らだ!! 俺、もうここ越したいよ… ハァー… でも、この洋館も、部屋も気に入ってるし… ついでに言うと金も無い…」

「抜けた天井どうすんだ?」

 オミは床下に顔を突っ込んで言った。

「え? もちろんあの劇団野郎に修理させる! しかも、ナナと俺のことは…すっかりばれた… だから~な~にも怖くない!」

「そうそうその意気! その意気! じゃとりあえず大工に修理を頼んでおくよ」

「大工?」

「そこそこ。そこに住んでるってさー」

 ボックスを元に戻しながら、オミーは向かいの部屋だと顎で示した。


18-6

「すげー色んな人住んでて驚いちゃうね… どーせまた一癖も二癖もありそうな悪寒がするんだがー まぁ宜しく頼むよ。請求書はシオンに回すから!」

「元気出てきたな♪」

「あぁ 俺もやることあるし、考えなきゃいけないこともあるし… 早く絵、描きたいし」

「うしうし! ちょっとの間ここバタつくけどごめんな」

「平気平気。俺とりあえずナナ探して話ししないと」

「そ、そうなのか! 一人でだいじょうぶか?」

「とりあえず詳しくきかにゃ。落ち込んでても始まらないし…」

「なんかあったらすぐ知らせろよ。俺の仕事は基本人待ちだからな~ ハッハッハ」

 タカオミは、かすかにあった記憶を頼りにまっすぐここへ来た。

『ナナ ナナ ナナ ナナ ナナ!!』

 エントランスホールの住居人用ポストを探すと、すぐにナナの部屋番号が分かった!

【レディース悪夢隊長 小僧院ナナ】と書かれた、派手ででかい名札が刺さっていた…。

「やっぱりここだった… うっしゃーー!! うっしゃーっ! きっちり話しつけたるでぇ~!!」

 気合を入れエレベータに乗り込み、最上階のボタンを力強く押した。

扉が閉じようとした時。

「のりまっせ~ ごめんなさいよー」

 っと、扉を押さえ…タカオミはぞろぞろ乗り込んで来た集団に、ぎゅぎゅう詰めにされてしまった…。

「お。最上階押してあるな」

 女の誰かが言うと、タカオミを目付きの悪い集団はジロジロ見ていた…。

「怒ってなきゃいいけど…」

「言っとくが、プロデューサとかと遊んだ話しすんなよ?」

「わかってるってば。土産もあるし、適当に誤魔化すよぉ」

「しっかし、楽しかったなぁ~ うちらも、こっち住んじゃおっかー? キャハハハハ」

「だなぁー」チーン

ガララララーッ

 扉が開くと女の集団はペチャクチャ話し降りて行った…。

壁を向くように貼り付いていたタカオミは、むせ返るような化粧品の匂いから開放されホッとして振り返った。

「にーさん降りねぇーの?」

 袖にセツコちゃんと書いた女が[開]ボタンを押したまま一人残っていた…。

「(ウワッ!)アーーッ! いっけねーー 忘れ物したみたい…です。ど、ども」

 額から冷たい汗が流れた…。
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