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18:魔女たちのキス
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18魔女たちのキス
ミサキは寝返りをうった拍子に、壁に足をぶつけ
瞬間飛び起きたが、何も無かったように眠り。
アヤンは自分より大きな
縫いぐるみ抱いてスヤスヤ眠り。
ナナはきんつばに乗っかられ、もがき苦しみ眠り。
トモヤは謎の人物”2号”がスーパーヒーローに変身し、
悪のロボと戦う夢を見て眠り。
イリは息継ぎの練習でもしてるのか、
口をすぼめたり、膨らませたりして眠り。
タカは膝を抱えて眠り、
オミーは親友の部屋のソファで眠っていた。
誰もが眠る真夜中…
カナだけはなかなか寝付けず、
ホットミルクを入れたカップを両手で持ち
湯気を見ていた。
『…赤ちゃん…
留学…
何も知らないよね?
私だったら…
………
…ただ好きなのですよね?
羨ましいな…』
キッチンの小窓からは、
街灯に雪がちらつく中、一台の車が走るのが見えていた。
カナはホットミルクに少し口を付け、
『眠れそうにないな…』
と、キッチンの明かりを消し寝室へ戻った。
*
そして、太陽は登り。
普段と何も変わらない日が始まった。
イリは普通に学校へ行き、
普通に授業を受け。
普通にお昼をいつものメンバーで、
食べようとしていた…。
「………ぉっーお昼~
お昼食べ…ます?
今日は夕べの残り物なの。
弟特製ボロボロハンバーグゥ…
誰か何かと交換しない?
ていうか、
してくださいませんか?」
すると、美味しそうな豚肉の生姜焼きと、
鶏の唐揚げが、ごそっとイリの小さなお弁当箱の
フタに山盛りに置かれた。
が、見る見る誰かの口へ消えていった…。
イリはとにかく、
どーしていいか分からなかった。
でも、それを口に出す勇気は無かった。
「うわっ アサト君作なの?
見事に真っ黒でしゅね… 病気になるますよ…
まぁ仕方ない…玉子焼きを上げましょう…」
アヤンも重苦しそうだった。
「鮭の切り身半分ね♪
焦げたのって案外美味いんだぜぇ?」
ミサキが食べると、ゴリゴリって音がした…。
「うわ! これただの炭じゃん
グゲェーッ」
誰かがジュースを差し出した。
「ぉぉう ありがとな…」
チュー
ミサキは一口すすり、たどたどしく礼を言った。
「私は生ハム~
デザートのメロン付きですわ~」
カナがイリに取っていいよとすすめた。
「ありがとーーー…
(いったいなんなのよぉー)」
イリは目でアヤンに訴えたが、
アヤンは大きなおにぎりにパクつき
ただひたすらパクついて…
何も応えてくれそうになかった…。
18-1
イリは持って来た巾着袋から、
大事に大事に梱包したあのプラモを取り出した。
「これ…
やっぱり貰えないです…」
当然のごとくクラブの女子部員たちは、
後をくっついて来ていて、イリを睨みつけていた!
「あぁ~ いいんだ いいんだよぉ?
もう上げたんだから。
イリちゃんの物さー
僕が君の事好き! とか、好きとか!
すきーーーだってことは!
どーでもいいくらい好き!
なんだから♪
もう受け取れないよーん♪」
女子部員たちはトモヤを潤んだ瞳で見つめ、
トモヤが”好き”を連発するたび、
イリを睨み付けた!
やたら声を張るトモヤと、金魚のふんたちに睨まれ…
恥ずかしくてたまらず。
すぐにでもここから離れたかったが…、
「そうだよー イリちゃーん トモヤくんのそれ
もらっておけばいいのよ~
彼が君を好きとか! 好きなんだって~とか
死ぬほど好きとかー
それお家に飾っておくと~
あなたに彼が、
どれくらい想われてるのか!
分かってくるかもでしゅよ~
だから遠慮ちないで、貰っておきたまへ~」
アヤンがひょいっと柱の影から現れて言った!
『な! なんであなたがそーいうこと言う~?!』
するといきなり麗しい声が響き渡った。
『ピンポンパンポーン~♪
今、教室とグラウンドの間、
水飲み場近くのーえーっと、青屋根の下で
トモヤ君が生涯を賭けて誓う愛の告白を
睦月アイリさんこと、イリちゃんに~
しようとしていまーすわ~
キャー トモヤ素敵~
ビリビリシビレちゃぅぜぇ~♪
お前ら! これ聞いたら今すぐダ~ッシュだっ!
皆様もぜひぜひ、
二人の愛の成就を応援してくださいませ~♪
お食事中失礼しましたわ~
愛はあなたと。風祭カナ♪
好きなら奪い取れ!
スクネミサキでお送りしました~。
ピンポンパンポーン~♪』
カナとミサキは、放送ブースを乗っ取っていて、
双眼鏡で二人の様子を観察していた。
ミサキにくっついて来た1号は、
一人しか居ない放送委員に、
何やら写真を見せつけていた。
「これ、君の好きな子だよね? これ欲しいでしょう?
しばらくの間使わせてくださいね ヒョヒョ」
うんうん♪ と、受け取った放送員は。
嬉しそうに、カナの指定した音楽を流した。
それは、若い子が聞くには大人びていたが、
甘く切ない名曲”コーリングユー”
職員たちは何事かと思っていたが、
”水虫”は弁当を食べる箸を休め、
曲に聞き入った。
『えぇええええ!
ナナナナナなに今の放送~!
ま、魔女っ子たちが復活したぁ~?!
アタシとトモヤ君。くっつけようとしてる~~
ドッシェーーー!』
18-2
アヤンはイリに微笑むと、
続きはあなたの番とばかりに、
しなやかに両手を広げ、トモヤに一礼した。
イリが焦りまくっていると、
学校の生徒たち以外にも、
放送を聞きつけた近所の主婦たちまでもが
雪を蹴散らし!
集まって来ていた。
「いしや~きぃいも~ お芋!
ほっかほっかの食べごろ~だよ~ん♪」
そしたら、石焼芋屋まで現れ。
トモヤはそのトラックまで走り
マイクを掴んでいた!
「僕はー君を、
睦月アイリさんを、愛してる!
ここで君が去って行こうとも
何度でも君に愛を囁こう!
嫌がられたら引き
君が危ういなら現れては消える波になる!
この命。君に捧げよう。
さぁ僕の胸にナイフを突き立ててくれ
その瞬間僕は塵になるかもしれない…
でも、僕は君と言う愛しい存在を
知ってからもはや死人同然なんだ…」
石焼芋屋のスピーカーから、
トモヤの思いが、精一杯の恋心がイリに注がれた!
そのセリフはあまりにも仰々しく
芝居じみていたが、
確かにそれは今度の芝居のセリフで、
借り物に過ぎなかった…。
だけど、トモヤはこのセリフを練習するたび、
相手をイリだと思い、演じえていたのだ。
多少のアレンジはあるものの、
自然と口をついてしまっていた。
集まった野次馬は、切ないが力強い言葉に息を飲み、
一斉にイリを見つめた。
トモヤ親衛隊であるおねーさまたちは、
彼とイリを交互に見過ぎて、
首をゴキゴキいわせていた…。
そして!
キンコンカンコーン~♪
「あ! チャイムチャイム~ チャイムゥ~…
さーお勉強の時間です~」
昼休みが終わった合図は
彼女に救いの手を差し伸べ、
その場から逃げるように去って行くイリだった。
「チェーッ! 即興とは思えない
抜群の演出だったのにな~
けど、さすがにいきなりはダメだねぇ」
双眼鏡を下ろし、ミサキが言った。
「まだまだ 序の口ですわ~
お別れ作戦は始まったばかり!
うっふっふ♪ 見てなさいよー
タカオミさん…
わたくしは、あなたの本性見極めますわよぉ~」
いつになく力の入り方が違うカナに、
ミサキは不思議に思ったが、
「うしゃー 教室にもどろー
あんがとね~ おにーさん」
と、駆け出した。
「ありがとうございました~ 委員さん
次も何かあったら宜しくお願いしますわ~
アハッ♪」
カナが見ると、
彼は写真にこっそりチューしていた。
*
集まってた学生も、その他大勢も次に期待しようと。
蜘蛛の子を散らすように消えていき。
トモヤは焼き芋屋のおじさんに
スイマセンとマイクを返すと、
背中をバンッと叩かれ、
感動した!っと
袋いっぱいの焼き芋を貰っていた。
そして、イリの手に。
また返せないロボプラモが残ってしまった。
*
18-3
『そっか…
あの話し…
ミサキに助けられたとき、
聞かれてるよね…
そして、魔女っ子たちが蘇った…
…だからトモヤ君…と…
でもアタシ…
ハァ…』
ため息ばかりが口を吐き、
午後の授業は一切なにも頭に入らなかった。
そんな友の様子に魔女子たちは、
授業中も、折りたたんだメモで
やり取りしあっていた。
|ため息ばっか吐いてるな…
|しょだねぇ…で、次の作戦はどーしゅるの?
|次の手はもっと心情に訴えますわよぉ~
|司令塔どの、あなたの指揮は見事です。
このままずっと付いてくぜ!
|ねぇところでさ、どーして1号2号が
うろついているにょか!
もうちょっと詳しく説明ちて!
|実はアヤンにもびっくりさせることがあってね~♪
慌てるなって ヘヘヘ
|うんうん。イリちゃんと同じ側で
半分味方のフリしていて欲しいのですわ~
考えてることがあって
もう少し少し嫌そうな顔しててくださいな。
|いきなり味方欺いてるってことでしゅか?
なんだか分からないけど、
なんとか耐えましゅ~
プッシュー プシュルルル プシュ~
アヤンは不服のため息? を吐いた。
その時、クラスの後のドアが誰にも気づかれず、
スッと開き、棒がニューッと出てきた。
プシュ!
棒から何かが射出され、カナの背中に当たった。
『ん?』
振り向くとイスの下に小さな丸まった物があり、
広げて読むと…目が輝いた!
『ヤッタ~♪』
もう一度振り向くと、
ドアから突き出た親指が揺れ。スーッと
引っ込んでいった。
吹き矢!で届いた。
吉報と思われるメモは
ミサキに渡り彼女はしっかり、
「うぉーーーこりゃすごぃ♪」
と、立ち上がって叫びクラス中をビビらせた…。
黒板にチョークを当てようとしていた、
数学の先生はゆっくり振り向いて言った。
「ん? スクネさん…
まだ書きかけの問題だけど…
早々に解けたみたいだね~?
はい! では答えなさいー!」
「はい! そこまで予知できませんでしたーっ
ハハハハハ すいません~」
と、答えてしまい
先生にデコピンされてしまった。
*
最後の授業は終わり、部室へ向かう四人。
イリは話したことも無い生徒たちに、
囃し立てられ、肩を叩かれ、
「僕も君が好きだーっ」と冷やかす者が続出し、
昼休みからずっと、困り果てていた…。
わざわざこのクラスへ来るのは遠回りだったが、
トモヤが階段から飛び出し、
相変わらずのニコニコ顔でイリを目指し走って来た。
『わわ また来たっ~!
でも、おねーさんたちいない?』
どこかに隠れたかったが、
逃げ場の無いまっすぐな廊下。
親友たちの背に隠れることもままならず。
うろたえてると、スッと通り過ぎた。
『ありゃ』
肩透かしを食らった感じがしたが、
ホッとしてると、
ゾクッとするような冷たい視線を感じ、
何者かに両脇を抱えられえてしまった。
やっぱりクラブの女子部員たちが、
背後からやって来ていたのだった!
『トモヤ君にまとわり付けばいいのに~
なんでアタシ?!』
彼女たちはトモヤには何もできないので、
イリに彼を近づけまいと…
バスケのような動きで、キビキビ動いていた…。
『あほだぁーー この人たち絶対アホー
やだよぉー アタシなんにも悪いこと
してないよぉ~
このねー様たちと1号たち込みで…
今後一緒に行動することになるの!?
ハァーー憂うつだぁ~~』
そう思ってるとカメラの音で、
1号2号も居るのが分かった…。
18-4
「あ。カナさん 多分お口に合わないと思うけど
良かったらこれ食べて~」
と、すっかり冷めてしまっていたが、
石焼き芋の入った袋を渡した。
「あ。ありがと~ イリも大好きですわ~
ねぇ~ 好き! ですわよねー
トモヤくんが~♪」
カナが受け取りながら言った。
「そうそうあいつ芋好きだからな~
でも屁こいてトモヤに嫌われてはなんだから。
俺が喰った残りをやろう わははは」
そう言いつつ、ミサキは即効
焼き芋に喰らい付いた。
『イリ~ あたちだけはあなたの味方!
今は魔女子じゃないからあんちんちてぇ~
さっき言ったこと、調子に乗りすぎちゃった
だって、イリとーっても
寂しそうだったし…』
アヤンがイリの警護の隙をつき囁くと、
『ありがとう♪ ありがとぅ~
もう泣きそうだよぉ~』
と、イリはブンブンうなづいた。
「ところでイリさぁー
この学校史上初かもしれない大告白の
感想教えてぇ~ 俺ならイチコロだなぁ~
トモヤ可愛いしさ!
もうイエスって言っちゃえば~
気が楽になる~ モグモグ」
「じゃあ あんたが付き
オワッ! モゴモガモゴオ……」
ミサキが付き合えば良いと、言おうとしたが、
フユミに口を覆われてしまった。
『トモヤ君を傷付けるようなこと…
金輪際(こんりんざい)口にしてはいけません…』
ボサボサ髪のエリリンが、
ギラッと目を光らせ囁いた。
「そっ! そーだよ睦月さん!
付き合ってもらえないとーーー
ぼぼぼぼぼくー
この世から消えて無くなるぅー
かもなんだよー
いや。うまくいけば天国なんだけどぉ~
ウヒョヒョヒョヒヨッ
でも、このとーりお願いだ!
トモヤ君さん様! と、付き合ってあげてー!」
『な、なによそれ
大体なんであなたにまで!
お願いされなくちゃいけないのぉ~?』
2号は訳の分からないことをまくし立て、
ビデオカメラをイリに向け懇願し、
『余計なこと言うんじゃねぇーー!』
と、イリから引き離されミサキに蹴られた!
ドスッ!
『え? 今の音なに? 誰か蹴られた?』
イリは状況が見えず。おろおろした。
「良いこと? よーくお聞きなさい…
メス猫ぉ~とかいろいろ言ったのは
あやまるよ… フンッ!
やだ! そこは譲らないぃ~!
…でもでも~」
今度はフユミが、棘のある声で囁いた。
『それあやまってないですよぉー
っていうか。怖いぃ~
どこに連れて行かれるのぉー!!』
なぜだか目隠しまでされてしまったイリは、
まるでどこかへ強制送還される、
犯罪者扱いだった…。
『トモヤ君と付き合ってあげて!!』
フユミとエリリンは同時に話した!
「えぇえええええええ~~」
ほんとはそう叫びたかったが、実際には…
『もぐぐぁがああああ~』
としか、言えなかった…。
『さ、さい悪ぅ~だぁーーーーー!!!
お願いします。お願いしますー
おねーさんたちは敵でも味方でもないけどぉ~
あなたたちが最後の砦!
最後の壁!
そして最大の希望だったのにぃ~~
ろーしてそんな、いきなり…
魔女っ子たちの味方に~~~!』
慌てまくってその場から逃げようとしたが、
力強い女子部員たちに…身動きが取れない!
『やだ! 離して怖いよ アヤン!
どこ行くの? ちょっとあなたたち
イャーーッ!!』
イリは恐怖に怯えた…。
だが、皆も同じ所…ただ部室へ向かって…
いるだけの話しではあった…。
18-5
*
タカオミはいつもと変わらず…
天使のイリを完成させるため、キャンバスに向かっている日に、なるはずだった…が、オミーが頼んだ運送屋は場所が分からず迷いに迷い、かなり遅れて到着した。
そして、タカも引越しに借り出されてしまった。
「ふぅ~ 久々にいい運動したな…」
タカはあらかた運び入れたダンボールに囲まれ、
『…さすがオミーの部屋だぁね… これって、イリ…のパパとママのだろうか?』
心地よい疲れで汗をかき、すごい数の相合傘改めて眺めていた。
「ただいま~ 体動かして、少しは気持ちが落ちついただろ? はいよっ」
買い物に出かけていたオミーが、昼飯だと弁当やら、暖かいお茶やらをタカに渡した。
「動いてるときはな…」
タカは弁当を黙々と食べ始め、
「心配すんなってー!」
タカの傷ついた心は簡単には癒せないと、オミーにも分かっていた。
「だよな~ いくらナナでもそこまでは… いや、そうじゃないんだ… そんなことじゃ…」
タカは口ごもり、お茶を飲んだ。
「うんうん… 今日は無理言って悪かったな~ 掃除やら、荷物運びやら手伝ってくれて お前がこのアパートに居たとは露知らず。 ほんとっ助かったよ。 ありがとなー」
「いやー 俺もお前が居て…助かったし、お互い様ってとこさ」
「あのさ、もしかしたらー 俺のばーちゃんにここに住んでるの知らないだろ? 知らないっぽいよな」
「え~~~!? 嘘ぉ~ マジ? 俺も越してきたの最近だし。 二階の人となんて一切面識も無い。 まじかよぉ~ ばーちゃん人の顔見るなり予言すっから、苦手なんだよ」
「そうかーやっぱりか~ アハハハハ でもま、あの人気まぐれだから。いつ帰って来るか分からんけどなー あ。そだ! そーだった。お前に見せないとだった」
オミーは食いかけの弁当を、積みあがったダンボールに置き、タカを手招きした。
穴がポッカリ開いていた。
「ほら。おまえの部屋が見え~る」
オミーが床下収納ボックスを外していた。
「なっ! なんだこりぁー こっからあいつら進入しやがったのか! まったくとんでもない奴らだ!! 俺、もうここ越したいよ… ハァー… でも、この洋館も、部屋も気に入ってるし… ついでに言うと金も無い…」
「抜けた天井どうすんだ?」
オミは床下に顔を突っ込んで言った。
「え? もちろんあの劇団野郎に修理させる! しかも、ナナと俺のことは…すっかりばれた… だから~な~にも怖くない!」
「そうそうその意気! その意気! じゃとりあえず大工に修理を頼んでおくよ」
「大工?」
「そこそこ。そこに住んでるってさー」
ボックスを元に戻しながら、オミーは向かいの部屋だと顎で示した。
18-6
「すげー色んな人住んでて驚いちゃうね… どーせまた一癖も二癖もありそうな悪寒がするんだがー まぁ宜しく頼むよ。請求書はシオンに回すから!」
「元気出てきたな♪」
「あぁ 俺もやることあるし、考えなきゃいけないこともあるし… 早く絵、描きたいし」
「うしうし! ちょっとの間ここバタつくけどごめんな」
「平気平気。俺とりあえずナナ探して話ししないと」
「そ、そうなのか! 一人でだいじょうぶか?」
「とりあえず詳しくきかにゃ。落ち込んでても始まらないし…」
「なんかあったらすぐ知らせろよ。俺の仕事は基本人待ちだからな~ ハッハッハ」
タカオミは、かすかにあった記憶を頼りにまっすぐここへ来た。
『ナナ ナナ ナナ ナナ ナナ!!』
エントランスホールの住居人用ポストを探すと、すぐにナナの部屋番号が分かった!
【レディース悪夢隊長 小僧院ナナ】と書かれた、派手ででかい名札が刺さっていた…。
「やっぱりここだった… うっしゃーー!! うっしゃーっ! きっちり話しつけたるでぇ~!!」
気合を入れエレベータに乗り込み、最上階のボタンを力強く押した。
扉が閉じようとした時。
「のりまっせ~ ごめんなさいよー」
っと、扉を押さえ…タカオミはぞろぞろ乗り込んで来た集団に、ぎゅぎゅう詰めにされてしまった…。
「お。最上階押してあるな」
女の誰かが言うと、タカオミを目付きの悪い集団はジロジロ見ていた…。
「怒ってなきゃいいけど…」
「言っとくが、プロデューサとかと遊んだ話しすんなよ?」
「わかってるってば。土産もあるし、適当に誤魔化すよぉ」
「しっかし、楽しかったなぁ~ うちらも、こっち住んじゃおっかー? キャハハハハ」
「だなぁー」チーン
ガララララーッ
扉が開くと女の集団はペチャクチャ話し降りて行った…。
壁を向くように貼り付いていたタカオミは、むせ返るような化粧品の匂いから開放されホッとして振り返った。
「にーさん降りねぇーの?」
袖にセツコちゃんと書いた女が[開]ボタンを押したまま一人残っていた…。
「(ウワッ!)アーーッ! いっけねーー 忘れ物したみたい…です。ど、ども」
額から冷たい汗が流れた…。
ミサキは寝返りをうった拍子に、壁に足をぶつけ
瞬間飛び起きたが、何も無かったように眠り。
アヤンは自分より大きな
縫いぐるみ抱いてスヤスヤ眠り。
ナナはきんつばに乗っかられ、もがき苦しみ眠り。
トモヤは謎の人物”2号”がスーパーヒーローに変身し、
悪のロボと戦う夢を見て眠り。
イリは息継ぎの練習でもしてるのか、
口をすぼめたり、膨らませたりして眠り。
タカは膝を抱えて眠り、
オミーは親友の部屋のソファで眠っていた。
誰もが眠る真夜中…
カナだけはなかなか寝付けず、
ホットミルクを入れたカップを両手で持ち
湯気を見ていた。
『…赤ちゃん…
留学…
何も知らないよね?
私だったら…
………
…ただ好きなのですよね?
羨ましいな…』
キッチンの小窓からは、
街灯に雪がちらつく中、一台の車が走るのが見えていた。
カナはホットミルクに少し口を付け、
『眠れそうにないな…』
と、キッチンの明かりを消し寝室へ戻った。
*
そして、太陽は登り。
普段と何も変わらない日が始まった。
イリは普通に学校へ行き、
普通に授業を受け。
普通にお昼をいつものメンバーで、
食べようとしていた…。
「………ぉっーお昼~
お昼食べ…ます?
今日は夕べの残り物なの。
弟特製ボロボロハンバーグゥ…
誰か何かと交換しない?
ていうか、
してくださいませんか?」
すると、美味しそうな豚肉の生姜焼きと、
鶏の唐揚げが、ごそっとイリの小さなお弁当箱の
フタに山盛りに置かれた。
が、見る見る誰かの口へ消えていった…。
イリはとにかく、
どーしていいか分からなかった。
でも、それを口に出す勇気は無かった。
「うわっ アサト君作なの?
見事に真っ黒でしゅね… 病気になるますよ…
まぁ仕方ない…玉子焼きを上げましょう…」
アヤンも重苦しそうだった。
「鮭の切り身半分ね♪
焦げたのって案外美味いんだぜぇ?」
ミサキが食べると、ゴリゴリって音がした…。
「うわ! これただの炭じゃん
グゲェーッ」
誰かがジュースを差し出した。
「ぉぉう ありがとな…」
チュー
ミサキは一口すすり、たどたどしく礼を言った。
「私は生ハム~
デザートのメロン付きですわ~」
カナがイリに取っていいよとすすめた。
「ありがとーーー…
(いったいなんなのよぉー)」
イリは目でアヤンに訴えたが、
アヤンは大きなおにぎりにパクつき
ただひたすらパクついて…
何も応えてくれそうになかった…。
18-1
イリは持って来た巾着袋から、
大事に大事に梱包したあのプラモを取り出した。
「これ…
やっぱり貰えないです…」
当然のごとくクラブの女子部員たちは、
後をくっついて来ていて、イリを睨みつけていた!
「あぁ~ いいんだ いいんだよぉ?
もう上げたんだから。
イリちゃんの物さー
僕が君の事好き! とか、好きとか!
すきーーーだってことは!
どーでもいいくらい好き!
なんだから♪
もう受け取れないよーん♪」
女子部員たちはトモヤを潤んだ瞳で見つめ、
トモヤが”好き”を連発するたび、
イリを睨み付けた!
やたら声を張るトモヤと、金魚のふんたちに睨まれ…
恥ずかしくてたまらず。
すぐにでもここから離れたかったが…、
「そうだよー イリちゃーん トモヤくんのそれ
もらっておけばいいのよ~
彼が君を好きとか! 好きなんだって~とか
死ぬほど好きとかー
それお家に飾っておくと~
あなたに彼が、
どれくらい想われてるのか!
分かってくるかもでしゅよ~
だから遠慮ちないで、貰っておきたまへ~」
アヤンがひょいっと柱の影から現れて言った!
『な! なんであなたがそーいうこと言う~?!』
するといきなり麗しい声が響き渡った。
『ピンポンパンポーン~♪
今、教室とグラウンドの間、
水飲み場近くのーえーっと、青屋根の下で
トモヤ君が生涯を賭けて誓う愛の告白を
睦月アイリさんこと、イリちゃんに~
しようとしていまーすわ~
キャー トモヤ素敵~
ビリビリシビレちゃぅぜぇ~♪
お前ら! これ聞いたら今すぐダ~ッシュだっ!
皆様もぜひぜひ、
二人の愛の成就を応援してくださいませ~♪
お食事中失礼しましたわ~
愛はあなたと。風祭カナ♪
好きなら奪い取れ!
スクネミサキでお送りしました~。
ピンポンパンポーン~♪』
カナとミサキは、放送ブースを乗っ取っていて、
双眼鏡で二人の様子を観察していた。
ミサキにくっついて来た1号は、
一人しか居ない放送委員に、
何やら写真を見せつけていた。
「これ、君の好きな子だよね? これ欲しいでしょう?
しばらくの間使わせてくださいね ヒョヒョ」
うんうん♪ と、受け取った放送員は。
嬉しそうに、カナの指定した音楽を流した。
それは、若い子が聞くには大人びていたが、
甘く切ない名曲”コーリングユー”
職員たちは何事かと思っていたが、
”水虫”は弁当を食べる箸を休め、
曲に聞き入った。
『えぇええええ!
ナナナナナなに今の放送~!
ま、魔女っ子たちが復活したぁ~?!
アタシとトモヤ君。くっつけようとしてる~~
ドッシェーーー!』
18-2
アヤンはイリに微笑むと、
続きはあなたの番とばかりに、
しなやかに両手を広げ、トモヤに一礼した。
イリが焦りまくっていると、
学校の生徒たち以外にも、
放送を聞きつけた近所の主婦たちまでもが
雪を蹴散らし!
集まって来ていた。
「いしや~きぃいも~ お芋!
ほっかほっかの食べごろ~だよ~ん♪」
そしたら、石焼芋屋まで現れ。
トモヤはそのトラックまで走り
マイクを掴んでいた!
「僕はー君を、
睦月アイリさんを、愛してる!
ここで君が去って行こうとも
何度でも君に愛を囁こう!
嫌がられたら引き
君が危ういなら現れては消える波になる!
この命。君に捧げよう。
さぁ僕の胸にナイフを突き立ててくれ
その瞬間僕は塵になるかもしれない…
でも、僕は君と言う愛しい存在を
知ってからもはや死人同然なんだ…」
石焼芋屋のスピーカーから、
トモヤの思いが、精一杯の恋心がイリに注がれた!
そのセリフはあまりにも仰々しく
芝居じみていたが、
確かにそれは今度の芝居のセリフで、
借り物に過ぎなかった…。
だけど、トモヤはこのセリフを練習するたび、
相手をイリだと思い、演じえていたのだ。
多少のアレンジはあるものの、
自然と口をついてしまっていた。
集まった野次馬は、切ないが力強い言葉に息を飲み、
一斉にイリを見つめた。
トモヤ親衛隊であるおねーさまたちは、
彼とイリを交互に見過ぎて、
首をゴキゴキいわせていた…。
そして!
キンコンカンコーン~♪
「あ! チャイムチャイム~ チャイムゥ~…
さーお勉強の時間です~」
昼休みが終わった合図は
彼女に救いの手を差し伸べ、
その場から逃げるように去って行くイリだった。
「チェーッ! 即興とは思えない
抜群の演出だったのにな~
けど、さすがにいきなりはダメだねぇ」
双眼鏡を下ろし、ミサキが言った。
「まだまだ 序の口ですわ~
お別れ作戦は始まったばかり!
うっふっふ♪ 見てなさいよー
タカオミさん…
わたくしは、あなたの本性見極めますわよぉ~」
いつになく力の入り方が違うカナに、
ミサキは不思議に思ったが、
「うしゃー 教室にもどろー
あんがとね~ おにーさん」
と、駆け出した。
「ありがとうございました~ 委員さん
次も何かあったら宜しくお願いしますわ~
アハッ♪」
カナが見ると、
彼は写真にこっそりチューしていた。
*
集まってた学生も、その他大勢も次に期待しようと。
蜘蛛の子を散らすように消えていき。
トモヤは焼き芋屋のおじさんに
スイマセンとマイクを返すと、
背中をバンッと叩かれ、
感動した!っと
袋いっぱいの焼き芋を貰っていた。
そして、イリの手に。
また返せないロボプラモが残ってしまった。
*
18-3
『そっか…
あの話し…
ミサキに助けられたとき、
聞かれてるよね…
そして、魔女っ子たちが蘇った…
…だからトモヤ君…と…
でもアタシ…
ハァ…』
ため息ばかりが口を吐き、
午後の授業は一切なにも頭に入らなかった。
そんな友の様子に魔女子たちは、
授業中も、折りたたんだメモで
やり取りしあっていた。
|ため息ばっか吐いてるな…
|しょだねぇ…で、次の作戦はどーしゅるの?
|次の手はもっと心情に訴えますわよぉ~
|司令塔どの、あなたの指揮は見事です。
このままずっと付いてくぜ!
|ねぇところでさ、どーして1号2号が
うろついているにょか!
もうちょっと詳しく説明ちて!
|実はアヤンにもびっくりさせることがあってね~♪
慌てるなって ヘヘヘ
|うんうん。イリちゃんと同じ側で
半分味方のフリしていて欲しいのですわ~
考えてることがあって
もう少し少し嫌そうな顔しててくださいな。
|いきなり味方欺いてるってことでしゅか?
なんだか分からないけど、
なんとか耐えましゅ~
プッシュー プシュルルル プシュ~
アヤンは不服のため息? を吐いた。
その時、クラスの後のドアが誰にも気づかれず、
スッと開き、棒がニューッと出てきた。
プシュ!
棒から何かが射出され、カナの背中に当たった。
『ん?』
振り向くとイスの下に小さな丸まった物があり、
広げて読むと…目が輝いた!
『ヤッタ~♪』
もう一度振り向くと、
ドアから突き出た親指が揺れ。スーッと
引っ込んでいった。
吹き矢!で届いた。
吉報と思われるメモは
ミサキに渡り彼女はしっかり、
「うぉーーーこりゃすごぃ♪」
と、立ち上がって叫びクラス中をビビらせた…。
黒板にチョークを当てようとしていた、
数学の先生はゆっくり振り向いて言った。
「ん? スクネさん…
まだ書きかけの問題だけど…
早々に解けたみたいだね~?
はい! では答えなさいー!」
「はい! そこまで予知できませんでしたーっ
ハハハハハ すいません~」
と、答えてしまい
先生にデコピンされてしまった。
*
最後の授業は終わり、部室へ向かう四人。
イリは話したことも無い生徒たちに、
囃し立てられ、肩を叩かれ、
「僕も君が好きだーっ」と冷やかす者が続出し、
昼休みからずっと、困り果てていた…。
わざわざこのクラスへ来るのは遠回りだったが、
トモヤが階段から飛び出し、
相変わらずのニコニコ顔でイリを目指し走って来た。
『わわ また来たっ~!
でも、おねーさんたちいない?』
どこかに隠れたかったが、
逃げ場の無いまっすぐな廊下。
親友たちの背に隠れることもままならず。
うろたえてると、スッと通り過ぎた。
『ありゃ』
肩透かしを食らった感じがしたが、
ホッとしてると、
ゾクッとするような冷たい視線を感じ、
何者かに両脇を抱えられえてしまった。
やっぱりクラブの女子部員たちが、
背後からやって来ていたのだった!
『トモヤ君にまとわり付けばいいのに~
なんでアタシ?!』
彼女たちはトモヤには何もできないので、
イリに彼を近づけまいと…
バスケのような動きで、キビキビ動いていた…。
『あほだぁーー この人たち絶対アホー
やだよぉー アタシなんにも悪いこと
してないよぉ~
このねー様たちと1号たち込みで…
今後一緒に行動することになるの!?
ハァーー憂うつだぁ~~』
そう思ってるとカメラの音で、
1号2号も居るのが分かった…。
18-4
「あ。カナさん 多分お口に合わないと思うけど
良かったらこれ食べて~」
と、すっかり冷めてしまっていたが、
石焼き芋の入った袋を渡した。
「あ。ありがと~ イリも大好きですわ~
ねぇ~ 好き! ですわよねー
トモヤくんが~♪」
カナが受け取りながら言った。
「そうそうあいつ芋好きだからな~
でも屁こいてトモヤに嫌われてはなんだから。
俺が喰った残りをやろう わははは」
そう言いつつ、ミサキは即効
焼き芋に喰らい付いた。
『イリ~ あたちだけはあなたの味方!
今は魔女子じゃないからあんちんちてぇ~
さっき言ったこと、調子に乗りすぎちゃった
だって、イリとーっても
寂しそうだったし…』
アヤンがイリの警護の隙をつき囁くと、
『ありがとう♪ ありがとぅ~
もう泣きそうだよぉ~』
と、イリはブンブンうなづいた。
「ところでイリさぁー
この学校史上初かもしれない大告白の
感想教えてぇ~ 俺ならイチコロだなぁ~
トモヤ可愛いしさ!
もうイエスって言っちゃえば~
気が楽になる~ モグモグ」
「じゃあ あんたが付き
オワッ! モゴモガモゴオ……」
ミサキが付き合えば良いと、言おうとしたが、
フユミに口を覆われてしまった。
『トモヤ君を傷付けるようなこと…
金輪際(こんりんざい)口にしてはいけません…』
ボサボサ髪のエリリンが、
ギラッと目を光らせ囁いた。
「そっ! そーだよ睦月さん!
付き合ってもらえないとーーー
ぼぼぼぼぼくー
この世から消えて無くなるぅー
かもなんだよー
いや。うまくいけば天国なんだけどぉ~
ウヒョヒョヒョヒヨッ
でも、このとーりお願いだ!
トモヤ君さん様! と、付き合ってあげてー!」
『な、なによそれ
大体なんであなたにまで!
お願いされなくちゃいけないのぉ~?』
2号は訳の分からないことをまくし立て、
ビデオカメラをイリに向け懇願し、
『余計なこと言うんじゃねぇーー!』
と、イリから引き離されミサキに蹴られた!
ドスッ!
『え? 今の音なに? 誰か蹴られた?』
イリは状況が見えず。おろおろした。
「良いこと? よーくお聞きなさい…
メス猫ぉ~とかいろいろ言ったのは
あやまるよ… フンッ!
やだ! そこは譲らないぃ~!
…でもでも~」
今度はフユミが、棘のある声で囁いた。
『それあやまってないですよぉー
っていうか。怖いぃ~
どこに連れて行かれるのぉー!!』
なぜだか目隠しまでされてしまったイリは、
まるでどこかへ強制送還される、
犯罪者扱いだった…。
『トモヤ君と付き合ってあげて!!』
フユミとエリリンは同時に話した!
「えぇえええええええ~~」
ほんとはそう叫びたかったが、実際には…
『もぐぐぁがああああ~』
としか、言えなかった…。
『さ、さい悪ぅ~だぁーーーーー!!!
お願いします。お願いしますー
おねーさんたちは敵でも味方でもないけどぉ~
あなたたちが最後の砦!
最後の壁!
そして最大の希望だったのにぃ~~
ろーしてそんな、いきなり…
魔女っ子たちの味方に~~~!』
慌てまくってその場から逃げようとしたが、
力強い女子部員たちに…身動きが取れない!
『やだ! 離して怖いよ アヤン!
どこ行くの? ちょっとあなたたち
イャーーッ!!』
イリは恐怖に怯えた…。
だが、皆も同じ所…ただ部室へ向かって…
いるだけの話しではあった…。
18-5
*
タカオミはいつもと変わらず…
天使のイリを完成させるため、キャンバスに向かっている日に、なるはずだった…が、オミーが頼んだ運送屋は場所が分からず迷いに迷い、かなり遅れて到着した。
そして、タカも引越しに借り出されてしまった。
「ふぅ~ 久々にいい運動したな…」
タカはあらかた運び入れたダンボールに囲まれ、
『…さすがオミーの部屋だぁね… これって、イリ…のパパとママのだろうか?』
心地よい疲れで汗をかき、すごい数の相合傘改めて眺めていた。
「ただいま~ 体動かして、少しは気持ちが落ちついただろ? はいよっ」
買い物に出かけていたオミーが、昼飯だと弁当やら、暖かいお茶やらをタカに渡した。
「動いてるときはな…」
タカは弁当を黙々と食べ始め、
「心配すんなってー!」
タカの傷ついた心は簡単には癒せないと、オミーにも分かっていた。
「だよな~ いくらナナでもそこまでは… いや、そうじゃないんだ… そんなことじゃ…」
タカは口ごもり、お茶を飲んだ。
「うんうん… 今日は無理言って悪かったな~ 掃除やら、荷物運びやら手伝ってくれて お前がこのアパートに居たとは露知らず。 ほんとっ助かったよ。 ありがとなー」
「いやー 俺もお前が居て…助かったし、お互い様ってとこさ」
「あのさ、もしかしたらー 俺のばーちゃんにここに住んでるの知らないだろ? 知らないっぽいよな」
「え~~~!? 嘘ぉ~ マジ? 俺も越してきたの最近だし。 二階の人となんて一切面識も無い。 まじかよぉ~ ばーちゃん人の顔見るなり予言すっから、苦手なんだよ」
「そうかーやっぱりか~ アハハハハ でもま、あの人気まぐれだから。いつ帰って来るか分からんけどなー あ。そだ! そーだった。お前に見せないとだった」
オミーは食いかけの弁当を、積みあがったダンボールに置き、タカを手招きした。
穴がポッカリ開いていた。
「ほら。おまえの部屋が見え~る」
オミーが床下収納ボックスを外していた。
「なっ! なんだこりぁー こっからあいつら進入しやがったのか! まったくとんでもない奴らだ!! 俺、もうここ越したいよ… ハァー… でも、この洋館も、部屋も気に入ってるし… ついでに言うと金も無い…」
「抜けた天井どうすんだ?」
オミは床下に顔を突っ込んで言った。
「え? もちろんあの劇団野郎に修理させる! しかも、ナナと俺のことは…すっかりばれた… だから~な~にも怖くない!」
「そうそうその意気! その意気! じゃとりあえず大工に修理を頼んでおくよ」
「大工?」
「そこそこ。そこに住んでるってさー」
ボックスを元に戻しながら、オミーは向かいの部屋だと顎で示した。
18-6
「すげー色んな人住んでて驚いちゃうね… どーせまた一癖も二癖もありそうな悪寒がするんだがー まぁ宜しく頼むよ。請求書はシオンに回すから!」
「元気出てきたな♪」
「あぁ 俺もやることあるし、考えなきゃいけないこともあるし… 早く絵、描きたいし」
「うしうし! ちょっとの間ここバタつくけどごめんな」
「平気平気。俺とりあえずナナ探して話ししないと」
「そ、そうなのか! 一人でだいじょうぶか?」
「とりあえず詳しくきかにゃ。落ち込んでても始まらないし…」
「なんかあったらすぐ知らせろよ。俺の仕事は基本人待ちだからな~ ハッハッハ」
タカオミは、かすかにあった記憶を頼りにまっすぐここへ来た。
『ナナ ナナ ナナ ナナ ナナ!!』
エントランスホールの住居人用ポストを探すと、すぐにナナの部屋番号が分かった!
【レディース悪夢隊長 小僧院ナナ】と書かれた、派手ででかい名札が刺さっていた…。
「やっぱりここだった… うっしゃーー!! うっしゃーっ! きっちり話しつけたるでぇ~!!」
気合を入れエレベータに乗り込み、最上階のボタンを力強く押した。
扉が閉じようとした時。
「のりまっせ~ ごめんなさいよー」
っと、扉を押さえ…タカオミはぞろぞろ乗り込んで来た集団に、ぎゅぎゅう詰めにされてしまった…。
「お。最上階押してあるな」
女の誰かが言うと、タカオミを目付きの悪い集団はジロジロ見ていた…。
「怒ってなきゃいいけど…」
「言っとくが、プロデューサとかと遊んだ話しすんなよ?」
「わかってるってば。土産もあるし、適当に誤魔化すよぉ」
「しっかし、楽しかったなぁ~ うちらも、こっち住んじゃおっかー? キャハハハハ」
「だなぁー」チーン
ガララララーッ
扉が開くと女の集団はペチャクチャ話し降りて行った…。
壁を向くように貼り付いていたタカオミは、むせ返るような化粧品の匂いから開放されホッとして振り返った。
「にーさん降りねぇーの?」
袖にセツコちゃんと書いた女が[開]ボタンを押したまま一人残っていた…。
「(ウワッ!)アーーッ! いっけねーー 忘れ物したみたい…です。ど、ども」
額から冷たい汗が流れた…。
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