15禁 ラブコメ「猫がこっち見てる」

C.B

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7:そしてキス

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7:そしてキス


 恋する人の抱擁と長いキスで、

彼女の震えはおさまっていった。

「落ち着いた?」

「…まだ」

 今度はイリがタカオミを抱きキスをした。

「寒いよ、風邪ひいちゃう」

「看病するもん」

「じゃなくって。部屋行って服着ないと」

「………」

 タカオミを抱いたまま動こうとしないイリ。

「カナ…カナちんと抱き合ってた…」

「ぇ? 誰が? 誰と?」

「タカにぃ~!」

「えぇえええ 俺とあの子、カナちゃんと?

 嘘だろぉ~身に覚えがない。


 誓って言うがそんなことあり得ないぞ」

 タカオミは自分の胸に手を当てた。

「…タカにぃ~丸い部屋でカナちんと


 抱き合ってた…窓から見たもん… ヘックション」

「やべぇ 早く部屋へもどろ」


 タカオミはイリをお姫様抱っこで軽々と持ち上げ

早足で歩くと、カナんちのドア越しに

ヒカルさんがこっち見てニヤつき、

グーにした親指を人差し指で挟み、卑猥に動かしているのが見えた。

「あ! まさか、あの人のやったおふざけを見たのか?

 まじかぁ~おぃおぃ。

 ほら、このオバサン。前に話した黒瀬ヒカルさん。

 ギャラリーのオーナーだよ」

「天使ちゃんね~♪ こんばんは。

 はじめましてヨロシクね♪

 こら!タカなにやってんの、

こんな可愛い子泣かせて、早く部屋に入りなさい!」

ヒカルさんは、タカオミの描きかけの絵と、

そっくりなイリに、小さな羽をだぶらせた。

「ちょっ。ヒカルさんが!

 後ろからハグした一瞬の事を、

イリが見ててこーなったんだよ!

 俺のせいじゃないよ」

 不服顔のタカオミ。

「おねーさん。おねーさんが… タカにぃの本当の… 恋人?」

 イリはヒカルさんの目を見て言った。

「…そうよ。

 そうねぇ~恋人。

 ならいいわねぇ~って思うけど、

 無いよそんなこと。安心しなさいな」

 ヒカルさんはイリのほっぺをプニュプニュ押し、

納得させ、

「ほら、おでんの良い匂いがしてるわ~

 お詫びしなさいあんたたち。

 今晩は酒盛りね♪」

 中の三人にそう言うと、手をポンっと打ち、

今度はその三人にヒソヒソ耳打ちした。

「あはぁ~ぃ♪」

 っと、カナも、アヤンも、ミサキも

ニコニコとイソイソとイリを部屋の奥へ連れて行き、

ヒカルさんは入ってこようとする

タカオミを押し出した。

肩をポンポン叩くと、自分は中に入りドアを閉めた。

ガッチャン!

虚しく響くドアの音に、

「男子禁制? あ! あのオバハン今も

 男だぞぉ~ヘーックショイィ~~」

 取り残されたタカオミは寒くて凍えだしてしまった。





 大きな三面鏡の前に立たさたイリ。

毛布が脱がされると、

寝室のウォークインクローゼットが開かれた。

バン!

センスの良いシンプルなタンスの引き出しが、

下から上に段差ができるよう次々に開かれ、

シュッ シュッ シュッ

アクセサリーが綺麗に並べられた小さな装飾箱も

中身をベッドに撒き散らかされた。

ジャラッラ~

「子猫ちゃんたち準備はいいかな?

 まだ小さな羽根の天使ちゃんを最高のレディにするよ!」

 ヒカルさんはベッドに足を組んで座り手を叩いた。

「おぅ!」ミサキが言った。

「は~ぃ」カナが言った。

「ウキャ~」アヤンが言った。

 毛布を脱がされたイリは、

三人プラス一名は総出で、

カナの持つ高校生にはあり得ない

ゴージャスな下着や、アクセサリー。

大人と子供の合間を縫うようなドレスを

次々に引っ張り出されあてがわれていった。

カナはメイクを施し、髪を整え、

ミサキはアヤンのチョイスした物を

ヒカルさんに見てもらい、

「違うな」っと、

首が横に振れるたびそれをポイと投げ、

別のをアヤンに要求し、

イリはまるで、舞踏会に遅れに遅れ、

焦って着替える12時前のシンデレラだった。



 カナは最後にルージュを引き終え、

「よしっと~♪」

鏡で確認しご満悦だった。

アヤンはクローゼットから出てきて、

手に余るいっぱいの服を抱え、

頭や肩に下着が乗っかっていて、

ミサキは腕組みし遠目でうんうんとうなづいていた。

「すてき~~

 あ~でも、もう一つ…もう一個、違うな…」

 ヒカルさんはクローゼットに入り別のブーツに取り替え、

「よし完璧!」と、イリの両腕を叩いた。

 三面鏡に写るイリは普段のイリとは、

まったくの別人になっていた。

自分たちが仕上げた素敵な作品とはいえ、

突然の変わり様に皆をうっとりさせた。



 軽い巻き毛で、顔にかかる少し垂れた髪。

淡い化粧に、大きくなった目。

濡れて光る唇。

キラキラ輝く、イヤリングとネックレス。

ピンク色で、フワっとしたミニのワンピは、

胸元よりも背中が大きく開き、腰の辺りに大きな

薔薇が立体的に刺繍され、下着は上下とも黒で、膝上まである黒の長靴下。

靴は今年流行のハーフブーツという出で立ちに

仕上げられていた。

「渡したく無い!! イリ~ ブヒ~ン ブヒヒヒ~ン」

 っと、雄たけびを上げ

興奮したミサキが飛びつこうとした。

「早く行って! この獣は押さえておきます。

 こらミサキ~! 君は女子なの、女の子~!」

 アヤンはその何処に隠れてるのか分からない

謎の怪力で、ミサキを押し倒し羽交い絞めにしていた。

「いゃ~なんか、男兄弟ばっかでやんちゃに

 育ったからかなぁ~ 

 死んだ兄貴がたまに乗り移るみたい…

 冗談だよ冗談だってば~

 あはははは」

「ハイハイ じゃれないの、見届けるよ!」

 ヒカルさんは皆の尻を叩きイリの手を取った。





 唐突にドアは開き、イリが出てきた。

彼女はぼんやりしていたが、

その素敵な変わり様にほんの数分で着替えた

とは思えず、うっとりとするタカオミだった。

「……魔法?」

 言葉に詰まったタカオミがやっと口を開けると、

ドアが少し開いた。

「うふふ。あとは、若い方に任せて

 ふたりっきりでどうぞ~」

 と、ヒカルさん。

「ごら、あんちゃん!

 イリ泣かせたら、俺の兄貴共々

 殴り込みに行くからなそのつもりでな!」

「ファイトー イリ~! あとで、

おでん食べに来てね~時間があればだけど

 うふふ~♪」

 と、アヤンは持っていたフェイクファーのコートと、

マフラーを差し出した。

 タカオミは照れながら一つのマフラーを二人でまわし、

イリにコートをかけ、手を取り、

「きれいだよイリ」

 と、ふっくらした、プルプル唇にキスしようと

顔を近づけた。が、ドアが中から叩かれた。

コンコンコン

「?」

 振り向くとドアの隙間から伸びた手に

ある物を見て、真っ赤になった。

「あ。忘れてた。はい。

あなたのベッドの落し物~ リンゴは最悪だから」

 ヒカルさんが囁き、六個の繋がったコンドームを垂らしていた。

タカオミはそれを奪い取り、

「拾ってくんじゃね~」

 っと、イリをまたお姫様抱っこし

焦って自分の部屋に帰って行った。


「しかし、カナちゃんだっけ…

 あんたほんとに高校生?

 あれ、みんな一流ブランドのだよね。

(宝石にいたっては、全部本物だろう)

…凄すぎる」


「はい」

 ニコニコして言う彼女の

はんぱないバックボーンにヒカルさんは唸った。

「じゃあ掃除だ。掃除しよう~手伝ってあげる。

 あれ、そう言えばあのでかいのどこ行った?」

「あ。忘れてた! 親方じゃなくて、

 眼鏡さんはバスルームでーす。

 工具持ってかなきゃ

 あ~あと水道屋まだ来ないかな~

 カナもっかい電話して~」

「おっけー」

 カナは携帯で水道屋にまた連絡し、

忘れられていた眼鏡男は

蛇口に指を突っ込んだまま身動きもできず。

チョロチョロ飛び出す湯を浴び冷や汗をかいていた。

「まだか、まだなのか、これが今日の僕の天命か!

 僕はこう見えても忙しい身…

 熱いのも苦手なのだが、

 なんか冷えてきた!

 しぬぅ~~しんじまぅ~

 風呂場で凍死する~

 寒すぎると器官が凍って息が止まるってさ!

 今の僕の場合なら体温が

 下がって心停止かぁぁぁあ~

 なんだか…めまいがする…

 ゼェゼェ

 息ができない

 ミサキーーー!

 早く戻ってこーぃ!」

 顔はやつれ叫び疲れていると、

デブ猫がジャグジーから出てきて

ホカホカの湯気を立て

濡れた体で甘えるよう、

体を押し当ててきた。

「ニャ~ン ニャニャ~ン~ ニャニャンニャ~ン」

「な、なに? なんだよ。まさか、体を洗えと?」

「ゴロゴロゴロゴロ ニャ~ン♪」

 デブ猫はそのとおりだと言わんばかりに甘えた声で鳴いた。





 カナの呼んだ水道屋は困惑していた。

「まただ」

「どした?」

「風呂のシャワー壊れたから修理しに来てくれって二回も」

「えー説明した?」

「はい。でもね、声が可愛くてさ~おしとやかで。

 行ってあげたくなっちゃう~」

「声の可愛いのは顔に比例してることが多いからな…

 じゃなくて、うちは水道屋だけど

 蛇口は直しませんっ!」

 そう、カナが携帯でかけたのは

水道屋は水道屋でも、

市の”水道局”だった…。





 アパートに戻ったタカオミは、

ヒーターが付けっぱで暖められた部屋に安心し、

イリをベッドに降ろした。

手にコンドームを下げたままなのに気づき、

慌ててズボンのポケットにねじ込むと、

『ふたりっきりの部屋だ!』

 っと思った。

いつもはどうってことない二人の時。

だけど、イリの魔法にかけられたタカオミは

落ちつかずそわそわし、

「ちょっと待ってって、ぉお茶入れてくる。

 イリは紅茶だね」

 声が上ずり急に動こうとしたとたん、

外して無いマフラーに引っ張られ、

イリが倒れそうなのを押さえた。

そして、二人はベッドの上で重なってしまい、

タカオミの手は柔らかい彼女の胸に触れ、

慌てて引っ込めた。

そしたら、

イリに腰をギュッと抱かれてしまった。

『!』

「タカにぃ~ アタシのこと好き?」

 イリの目は真剣だった。
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