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6:涙のキス

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6:涙のキス

 普通こんな物を平然と扱えるのは、

すげ~田舎のばーさんか、

カブト虫の牝だと思い、

知らずにそうだと思い捕まえてしまう

雪国生まれの奴くらいしかいないとだろうけど、

イリはただの酔っ払いで、

平然とそれを摘まみニンマリ笑っていた。

 少女たちはそれが大嫌いなのは

火を見るより明らかで、

大絶叫のまま一目散にバスルームから

飛び出して行った!

当然、後を追うイリ。

「ぉお嬢らまぁ~! ろしたんれすかぁ~

 こんな時期にカブト虫の牝って珍しくないれすかぁ~

 なのかな? らんれもいいやぁ~

 もしかしれ、これぉ嬢らまの隠しペット~?

 にょほほほ~窓からポイッしますか~

 それろも、れ~れ~なんれ、逃げるんれす~」

 カナの後をしつこく追い回すイリ。

「うわぁああ やめろ~~ バカ~~~」

 シャワーを恐怖のあまり根元から千切ったミサキ。

水が勢い良く噴き出し、

あたりが水浸しになっていった。

ずるずるしたホースを鞭のように持ちイリを威嚇した。

 狂ったように逃げ惑う少女たち。

部屋中にシャボン玉が飛び交い、

そこだけ切り取ればなんとも美しい光景ではあった。

「来るな! 寄るな! 悪霊退散~~~!!」

 っと、アヤンは風呂桶で頭を守り、

シャンプーボトルからピンクの液体をエイエイっと

イリに向かってかけまくり、

バスルームからの水はこちらの

部屋にも浸水しはじめていた。

カナは一目散にマンションを出ようとしたが、

ロックを外しても重く開かないドアに涙目で、

「おもぃ! おもいょぉ~

 のろぃ?!

 イリの呪い?!

 ~なんで開かないこのドアめぇ~

 えぇ~~ぃ ひらきなさーぃ!」

 叫びながら体当するとドアはあっけなく開き、

万歳の格好でその場にこけてしまった。


 ミサキは風に揺れるカーテンを不思議に思ったが、

イリのゴキブリに気が気で無く。

無謀にも窓から飛び出そうとした!

ガララッ!

「!!!」

 すると、下にいる、ヒカルさん、シラさん、

眼鏡男が目を丸くしてこっちを見ていた。

一番驚いていたのはシラさんで、

ミサキはその制服姿を上から下へ、

下から上へ舐めるように見て”ビビリ”

目の前にいるコート姿の男と目が合った。

「うぉ♪」

 シオンは猫に手を伸ばし捕まえていたが、

突然現れた裸の少女にときめき、

『ラッキィ~~やっぱデブ猫より 子猫こちゃんだよなぁ~

 ウヒョヒョヒョ♪』

 と、思ったのもつかの間、

ミサキはヘラヘラ顔の男を睨み、千切れたシャワーホースで


首を絞めあげると、顔を思いっきり蹴り上げた!

「ギァヤアアアア~ へんたぃーーーー!!!」

 ミサキは叫んだ!

「ゲェ~! なんでだぁ~~!」

 シオンは、少女の蹴り上げた足の間の

”天国”を見たまま

首に巻きつくホースを取ろうともがいた!

ミサキは、怒ったままの仁王立ちで、

変態金髪野郎の最期を見届けようとしていた。

シオンは梯子ごと地面を支点に洋館側へ弾かれ、

弧を描いた。

「わわわわ!!!!」

 あっけに取られた下の三人は何もできず

見守るしかなかった。


梯子はマンションから離れ、

洋館へ倒れると見せかけ、マンション側へ


戻ろうとしつつ揺れ、

まっすぐ垂直に立ち止まってしまった。

ビョ~~~ン

プルプルプルル・・・

「お! おぉおお~」

 奇跡の様子に下の三人は歓声を上げ拍手したが、

梯子は揺らぎゆっくりマンション側へ

倒れかけたが、ミサキが待ち構えていて、

再び蹴たぐったが、やっと裸の自分に気づいた。

「キャァアアアア イャ~~~ン

 イリ~! もうやめろ~~」

 っとカーテンにクルクル包まり体を隠した。

「ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・・・」

 シオンは怯え、

「どっちに倒れてもやばい!」

 と、梯子にしがみ付き、半身丸見栄の姿に

下界の三人は、またため息を吐いたが、

シラさんが慌てて梯子を押さえようとしたのが仇となり、

ブンブン揺れはじめた!

そして、シオンだけをどこか遠く本当の天国?へ

ぶっ飛ばしてしまった!

「友よ星になれ。南無阿弥陀仏」

 空を飛ぶ友人の軌跡を見つめ眼鏡男は合掌した。

「わはぁ~~ 飛んだわねぇ、飛んだ~~

 すごぉ~~ぃ!

 でも、赤ん坊?~小さいなぁ…

 やばくない? あっはっはっは」

 他人事のヒカルさんは、

ずれたビキニブリーフから見えていたシオンの”あれ”を

自分の小指の第二関節くらいを押さえ見比べ笑った。

年長のシラさんはヒーヒー言い、

梯子を死守し汗だくになっていたが、

トランポリンにデブ猫がポ~~ンポ~~ンと跳ね、


何度か繰り返したあと、

またマンションの部屋に戻るのを見て安心し、

「あぁ良かったマドちゃん。

 じゃあ、これ返してくるから」

 と、どこかへ去って行った。





「ギャッ!」

 ドアからいきなり飛び出してきた裸の少女に

激突されたタカオミも一緒に転んでしまい、

なぜだか互いの股に顔を突っ込み苦痛の声で唸った。

そして、そこへ後を追うイリが瞳をキラキラ輝かせ、

シャボン玉に包まれやって来た!

「カナさまぁ~~ そんなとこれ寝るろ

 風邪ひきますよぉ~

 あらまぁ。はしたないれす!

 殿方となんという格好なのれすかぁ~

 そんらぉ嬢らまにはお説教をぉ~~ あらぁ?」

 イリはふと、あっけに取られて

動けない双子の顔を見た。

「あらぁまぁ~こんら所にも虫ぃ~

 お掃除お掃除~♪」

 っと、シゲミの大きなホクロを掴み上げ、

「うわ! 何だコイツーイテテテテェ!」

 焦ってその手を振り払おうとしたが、

イリの見せ付けるゴキブリに恐れおののき、

へたり込んでしまった。

目をゴシゴシしながら、イリはまだいる

”三匹目の虫”をシズオの顔に見つけた。

「あれれ~ なんか目がおかしいれす~


 同じ人がだぶって見えらすよ~


 ここは虫天国?


 冬なのに元気いいれすねぇ~


 カナらま虫好きにも困っらもんれす。


 はいはい、おそうじ~」

 言い終わると、ゴキブリの髭を口に咥えてしまった!

そして、両手で双子のホクロを掴み、

嫌がる二人を部屋に引きづり込もうとした。

「うわぁあああああ ギャアアア

 ゴキブリ少女~~!

 やめろ~やみてやみて ギャーー」

「ばか、やめろ! こら! 離せっバカ~~」

 恐怖で力の出ない双子は入り口の壁を最後の力で掴み、

蟲女子から逃れようと必死だった。

『なんだ? 何が起こった? これはなんだろう・・・』

 タカオミは、目の前にある”そこ”を見て、

『生暖かい精肉、切ったザクロや貝類など…

 もしや、薔薇星雲!』

 など等を想像していた。

そして、それがなんなのか直ぐに分かってしまった!

『うわぁあああ!』

 カナのあそこが目の前に広がっていたのだ。

顔が赤くなる前にガバッと跳ね起きた。

しかし、もう顔は真っ赤だった。

『ん? これは?』

 カナも、急に硬く山のようになったそこを

何だろうと思い、顔でこすってみた…。

『なんですの?…これなーに?』

 そこをすりすりされ、

「うゎあああああ~~」

 っと、下からごそごそ這い出す誰かにカナは驚き、

我にかえった。

「な、なにごとですのぉ~~~~

 あぁ あらしとしたことが!

 はだかーー

 キャアアアア~」

 カナは、イリとイリに引きずられる双子を

押しのけ部屋の奥へかけて行った。

「いったいぜんたい何事なんだよぉ~

 まったくぅ」

 まだ、真っ赤なタカオミは

恥ずかしいのを隠すように、

ジーンズをバタバタ叩き埃を払った。

「ん? ろしたの~~」

 イリが振り向くと、口元の黒い物も揺れた。

「イリ?!」

 イリと目があったタカオミにはそれが見えていなかった。

だけど、なぜ彼女がここにいるのか理解できなかった。

「タカにぃ~!!!」

 やっと会えたタカオミに興奮したイリは

二つのホクロを離したが、

口のゴキブリは激しく揺れて飛び、

シゲミの左頬にベったりくっ付いた。

「ギャアアアアアアーーー」

 叫ぶシゲミ。

「ウワァ~!!!

 アァア・・・

 ウワハハハハハハハハハ」

 それを見て大笑いするシズオに、

憤慨してる姉は震えながら顔を近づけ、

これを取れと無言で圧力をかけた。

顔をフルフルさせ拒否する弟に、凄い形相で迫る姉。

二人は這いつくばったまま、

ゴキブリのように廊下を追いかけっこし、

消えて行ったが遠くで小さな弟の絶叫が響いた。



「タカにぃ~~

 やっと逢えたぁあああ ア~~ンア~~ン」

 立ちつくし、泣き出してしまったイリ。

「なんで、いったいなんでここにいる?

 なんで泣くの?

 なんで、ハ・ダ・カなんだよぉ~」

 タカオミの疑問が次々と口をついたが、

とりあえず何か着せようと自分のセーターを脱いで

着せようとしたが、イリはそれを奪うように取ると、

「タカにぃ~ カナ…

 カナカナカナカナカナっとお幸せに~

 ビェ~~~ン」

 っと、号泣し廊下を走りだした。

「えぇええええ? カナカナカナ??

 お幸せってなんだよ? イリ~」

 深まるばかりの謎にイリを追おうとすると、

着替えたアヤンが毛布を差し出した。

着ているジャージは体に合わずブカブカだ。

「タカにぃさん! なんで、彼氏さんがここに

 いるのか分からないけど、

 あたちイリの友だちでしゅ~

 あの子今日ものすごい情緒不安なの…

 だからお願いしましゅ」

 ペコっと頭を下げたアヤンの後ろに、

カナとミサキも同じデザインのジャージ姿で、

モップとバケツを持ち不安そうにしていた。

「あ。ありがとぅ」

 三人の顔を見て、まっしぐらにイリのとこへ走るタカオミ。



「こら! あんたたち! 

 何やってんのまったくもぅ~人騒がせな!」

 ドアを盾にするよう、

イリとタカオミの様子を伺っている三人に、

やって来たヒカルさんは叱ろうとしたが、

ミサキは片手を顔の前に立て詫びるふうに頭と一緒に振り、

カナは口元に指を立てシーシー静かにしてと諭し、

アヤンはあっちあっちと廊下の先を指さした。

「ん? あらあら。


 若い二人が暗がりで何してますか?」

 と、微笑み、付いて来た眼鏡男は

ミサキと目が合い、あなたはこっちこっちと

手招きされ付いて行くと

部屋はビショビショで、

水は今も玄関へ流れ出ようとしていた。



 濡れてない場所を探しながら歩くと、

壊れたシャワーからまだお湯が

ビュービュー噴き出ていて、あたりは湯気で真っ白だった。

「ねぇ これ直せない?」

 ミサキは手を合わせ懇願した。

「えぇ~ 工具無い?

 シーツとか紐とか針金とかあれば持ってきて。

 補強くらいならできそうだけど。

 24時間営業の水道修理屋に連絡したほうが早いな」

 眼鏡男のメガネも曇り、

メガネを外し服の裾で拭うと、

図体がでかい割りにつぶらな瞳に

ミサキは笑いそうなるのをこらえた。

「わはぁっ。わっかりましたぁ~親方~

 カナに言ってくる~ところで親方の名前は?」

「・・・僕は、大山田マスタツ。君は?」

「ぁ、あたしは鋤久音(スクネ)ミサキ~」

 ミサキは走りかけたが、

振り返り壁越しに首だけ出してまた質問した。

「親方ぁ~あのさ、


 さっきの”おまわりさん”って近所の交番の人?」

「親方じゃないってば…

あぁさっきの人、不知火さんのことか。

僕らシラさんって呼んでるんだけど、

あの人たたまたま居合わせただけだよ。

お咎め無いと思うから怖がらなくていいよ…

うんうん。

ちゅーか、早く戻って来いよ。

こりゃきっつい」

 親方は仕方ないので、

座りこみ壊れた蛇口に指を突っ込み栓をしていた。

「そっか~ふ~ん ふんふんふ~ん プププ」

 ミサキは口を尖らせたが、

ニヤっと笑うとカナの所へかけていった。

すると、入れ替わるようにのそのそデブ猫が現れ、

ジャグジーに湯が少ないのを確認すると…

中へヒョイっと入ってしまった。

ジャプーン バシャバシャ ちゃぽん…。

デブ猫はのほほんと湯に浸かり、

とても気持ち良さげに目を細めた。

「おぃこら! お前まさか…風呂か?

 風呂に入りたかっただけかなのか?!

 これが目的だったのか~!

 なんて猫だぁ…まったくぅ~」

 眼鏡男はうなだれ、

猫は鼻歌でも歌うように喉を鳴らしはじめた。

ゴロゴロゴロゴロ~♪





 イリは廊下の突き当たり、

明り取りの踊り場でセーターを抱え

うずくまっていた。

「イリ」

 そっと近づき肩を抱くと震えて、泣いているのが分かった。

「もう。大丈夫・・・」

 そして、毛布をかけ抱きしめたが、

拒否するような素振りのイリをこちら側に向け、

毛布の中を覗くようにキスをした。

今日のキスは涙の味がした。
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