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5:虫にキス!
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5:虫にキス!
日もどっぷりと暮れた頃、
事件は洋館の住人たちを驚かせた。
タカオミはパンをかじったまま気づいた。
「わわっ! あいつ何してる?!」
「あんた、よくそんなの食べれるわね~何!
なによ今の泣き声」
ヒカルさんも、太った猫が二階のマンションの手すりで
半身を乗り出し、引っ掛かってるのか、
もがきまくっている姿を見た。
ミギャアアアア~~~!!
眼鏡男もそれに気づいた。
「えらいこっちゃ!」
焦った男は窓から庭に飛び出し、
今も積もる雪にドスドス足跡を付けデブ猫の真下へ向かった。
双子のシゲミ(姉)、シズオ(弟)も、
「キャアアアア なになになにぃ~~~
マドちゃ~~ん!!」
っと、声をハモらせ、
眼鏡男の部屋から少し遅れて飛び降りてきた。
シオンは、外の藪を捜索中にそのことに気づいた。
「マド? なにごとだ~っ!!」
コートの裾を枝に引っ掛け最下部のボタンを飛ばし、
派手なビキニパンツを晒すと
道に出たとたん滑って転んだ。
それを、通りかかった親子にガン見され母は娘の目を隠した。
「見ちゃダメ!」
と、言いながら転んだ男のそこを、
まだガン見してる母…。
しかし、子は覆われた指の隙間から別の物を追い、
コロンコロンコロコロコロ~ン~
それは勢い良く車道へ転がり、グシャッ!っと
トラックに潰され、
キャッキャッキャッと喜んだ。
シオンは、マドレーヌの鳴く姿を門から見つけ
「やばい!」
っと、双子に知らせようと走ったが、
ドアは開いたままで、眼鏡男の部屋の扉も開け放たれてるのを見た。
「待ってろデブ猫!」
そして、自室の押し入れに置いてあった大きな荷物を取り出した。
「マドちゃん。引っかかったの~
キャァア~ 眼鏡男なんとかして~」
「いや、双子が上行って事情説明してくれ。
僕は、ここで待機してるから」
「あぁ、そうね。それがいい、行ってくる~」
「おぃおぃ あいつに喰わせ過ぎだろ。
あんな太らせたら猫じゃない、
なんか違う生き物になるぞ~どこ行く?」
シオンは、眼鏡男の部屋の窓から
小走りに去る双子に話しかけた。
「上の住人になんとかしてもらう~」
双子が、マンションの陰に消えると、シオンは眼鏡男を呼んだ。
「おーぃ 大山田。こっち来て手伝ってくれ~」
「ん? こりゃなんだ。なんでこんな物持ってる?」
眼鏡男は大山田と言う名らしく、
シオンが持ってきた物を一目で”それ”と分かった。
「これ? フィットネスにいいんだぜ~
劇団のだけどな保管頼まれててさ。
お前も使いたければ貸すよ。
ほぃ、そっち持って降ろしてくれ」
シオンは大山田に半分持たせ、自分も窓から降りた。
その様子を見ていたタカオミも慌てて外へ出たが、
大人のヒカルさんは暖かい部屋で
優雅にお茶をすすり、見物を決め込んだ。
「だいじょうぶかなあいつ。
なんかすんごいことになってるけど、クマ」
「クマぁ?
あぁ、君はあいつのことクマって呼んでんのか。
大変だよ。あのデブ猫のせいで。ちょうど良かった。絵描き君も手伝ってくれ」
「絵描き君?
あぁ、いいですよ。何したら?」
「これ、設置したら、動かないようにしっかり
押さえてくれればいい」
シオンは言った。
「え~~ これ使う? まさかこれで捕まえる…
嘘でしょ~ やばいよ~危ないって。
それよか、大きな布あれば下で受け止めれる。
あ! 上の住人に救ってもらった方が早い俺行くよ!」
タカオミは鳴きわめく猫と”それ”を
上下に見ながら言った。
「あいつクマじゃない。
マドレーヌって名。
ここのアパートで大事に大事に飼ってる女神。
上にはもう双子が行ってる」
丸い大きな”それ”を組み立てている大山田がボソっと言った。
「そうだな、やっぱ危ないか?
これ使うの。でもな大丈夫! 俺はこう見えて
中学から体操部だったんだ!
ちょっとこいつの勘取り戻すから押さえてて」
「勘? 今戻すのかよ!」
タカオミは呆れ、
それの正体は小さいが立派な”トランポリン”だった。
シオンはこれを使って
マドレーヌを救出しようとしていたらしかった・・・。
「無茶だって! 二次被害はごめんだよ。
おぃ止めろって!」
タカオミが言った。
「僕も、気が動転してて言いなりになったが、
こいつがただのアホってこと忘れてた・・・
乗せられた僕は間抜けだ~
あぁ、情け無い・・・
布の方がなんぼかマシだろう
そうだ! シーツ持ってこよう」
大山田はそう言うと、自室の窓によじ登ろうとした…が、
降りたはいいが大柄な体で上がれないことを知り、
がっくり肩を落し玄関に回った。
「あぁなんかもう見てられない。俺も上の行ってきます」
タカオミはマンションへ行く前に、
ヒカルさんにベッドから毛布とか、
シーツ持ってきてと頼み走り去った。
「りょうか~ぃ。
分かった。分かったわよ。
たかだか猫なのにやれやれだわ・・・
でもぉ~タカちゃんの寝室だって~
ドキドキする~ ムフフフフッフ」
ヒカルさんはニヤニヤしながら、寝室を開け…
真っ先にベッドの下を覗いた。
「あら~~~!
あらまぁ!
あららぁ~~!!!
無い?
男の子ってたいていここに隠すわよね~
あたしも隠したのよ~お母さんに見つかって大泣きされたわ~
あたしもショックだったわ~
”薔薇の蕾”って言う・・・本。
創刊号からの季刊本全部買って、箱に入れて隠してたのにぃ~
お前は男なんだ~ってお父さんにはぶたれ・・・
弟には、口を聞いてもらえず・・・
妹だけだった…
あたしを好いていてくれたのは・・・
たまに、服借りて超怒られたけどぉ~ ウフ
あぁ。あたしのことはいいわね、もう、遠い思い出・・・
今じゃ、あたしをぶったお父さん・・・
別の女と結婚したし・・・ずっと逢って無いし・・・
こんな話し、どうでもいいわ!
あの子のエロ本どこ~?
でも、芸術家にエロ本は要らない?
要らないかなぁ~想像の塊だから?
モデルさんと、仲良くなればぁ~ムフフフフ~」
誰かに語るよう一人話すヒカルさん…。
ベッド下は諦め、
今度はクローゼットを物色しようと決めたが、
とりあえず言われたとおり毛布を剥ぎ取った。
すると、それはコロンと顔を出した。
「ぉ? おおおお!
あらまぁ~みぃ~つけちゃった~あたしって天才!
しか~し、これって・・・ムフ~ン
興奮しちゃうじゃない~♪」
そして、ついに何かを発見しご満悦のご様子で、
布団に紛れていた物を拾った。
一方一人残されたシオン。
「え~俺のプランはどうなる。まぁいい。
天才的な跳躍で見事あのデブを捕まえてやろう!
うははははは」
トランポリンと距離を見ながら後ずさりし、
高笑いのまま助走をつけスタートを切った!
そして、飛ぼうとした瞬間、
ピィーピピピピピー ピッピッピーーーーー!
ホイッスルが鳴った。
「やめなさ~~ぃ!」
おっとっとっと体制を崩し、
転びそうになるのをこらえ、
笛を吹いた人物も、長い重そうな物を抱え
走って来ていて、汗だくだった。
シオンはその人物が持って来た物を、
ほいさっと受け取りマンションの壁に立てかけた。
「シラさん! これどっから持って来た~♪」
シオンは振り返りシラさんという男を尊敬の眼差しで見た。
「これでもう大丈夫でしょう ゼ~ハァ~」
シラさんは、膝に手を置き前のめりで息を切らし、
体を反らすと腰を叩いた。
「あらま。良いのあるじゃないこれでもう安心ね~
誰が連絡したの?
”おまわりさん”はやっぱ庶民の味方よね~
毛布とりあえず張って
最悪の事態に備えますか」
ヒカルさんがやって来て、
シラさんの制服を見て頼もしく思った。
毛布の端を持たせ微笑むと、
シラさんは
『こいつ元男だ!』
と感づき、
顔をヒクつかせハハっと笑った・・・。
「おぉ~梯子だ! シラさん持って来たんです? さすがだ~」
眼鏡男もシーツ片手に戻って来た。
シラさんは毛布の別の端を、眼鏡男にも持たせると、
「チェッ! 結局俺の天才的な救出劇は
見せれなくなったか、
アクション俳優としては見せ所が無くなって
ショック~だ~!」
と、ブツブツ言いながら梯子を上って行くシオン。
「何言ってんの! 無理に決まってるじゃない!
顔はかっこいいけど…頭ゆるゆる~」
ヒカルさんは蜂の一刺しを浴びせた。
「すんません。ほんっとアホ・・・
ほんっとこいつアホなんです。泣けてきます」
眼鏡男はペコペコ頭を下げ、涙を拭う振りをした。
「アホアホ言うなぁ~~
ここで立ち止まってもいいのか?
あのデブがど~なっても知らんぞ~!
お前らここまで上ってこ~ぃ バーカ バーカ」
そのとき、強い風が吹きシオンのコートが
バタバタ揺れ下半身が剥き出しになった。
下から見てる三人は、
その姿があまりに情け無くため息を吐いた・・・。
ドンドンドン!
双子はカナのドアを二人で交互に叩いた。
部屋の主の名はポストで確認していた。
「風祭さ~ん。居ますか~向かいのアパートの者です~
風祭カナさ~~ん
緊急事態なの~開けてくださぃ~」
連呼する双子の声は廊下に空しく響き渡った。
ミギャアアアア~~~!!
猫が泣き喚く声が小さく聞こえ、開く気配の無い扉。
それでも、必死にドアを叩き、チャイムを鳴らしまくった。
ピンポーン~♪ ピンポーン~♪ ピンポーン~♪ ピンポーン~♪
ドンドンドンドンドンドン! ドンドンドンドンドンドン!
「お願い~おねがぃだよぉ~
マドレーヌが大変たいへんなのぉ~」
「いないの~~~いないのぉ~~!」
涙目のシズオが姉を見た。
「いや、窓雲ってたろ。部屋暖められてる証拠! 絶対居る!」
シゲミは強く答えた。
「そうだね! なんか、おでんっぽぃ良い匂いもするし、
これは居るね。寝て無いよねきっと、多分・・・」
シズオは鼻を鳴らし、
「お風呂!」
っと、二人同時に感づいた。
外で事件が起こってることを知らない乙女たち。
ジャグジーから出てそれぞれの背中を磨き、
風呂に入れた超高級シャンパンのせいで、
イリはもとより、カナ、アヤン、ミサキともども
全員酔っぱらい。
火照った体でロレツが回らなくなっていた。
「イリィ~あんらが、なに言ってるかわからにゃいよぉ~
ろうして、あんらがあたちのメイドロレイになりゅのん?
らんか、おかしな勘違いしてらい?
部屋はいくりゃでもあるんらから~
ろこでも好きにつかっれいいわ~ん
パォ~ン」
手を象の鼻のように使うカナ。
「ありがろぉ~ ありがろぉ~
カナ~ほんろにありがろ~ ビェ~~~ン
ウェ~~~ン メイドで雇ってくれるのれるのれぇ~
前もあらっちゃぅ~ ウェ~~~ン」
しっかり、泣き上戸のイリ。
カナだけを必死にゴシゴシ磨き上げている。
「いゃ~ん いいっれば! イリィ~前はらめ!
キャハハハハ ラメ~」
「らめれす! ぉお嬢、ぉ嬢様はとてもお綺麗なお方。
れも、あの方がいつ来られても、
いつお逢いにらられても
素敵な状態にしておかねばぁ~
メイドろれいろしれろ立つ瀬が
ごらいまへん~」
イリもカナもミサキもアヤンも泡まみれ。
バスルームにたくさんのシャボン玉を飛ばしてる。
「こいつ、ほんろおかしな奴ぅ~
どっか逝っちゃってる~
ブハハハハハハ~
・・・れもさ~ろーやって親説得すりゃいいんら?
それが問題らなぁ~アヤン~」
アヤンの背中を洗いながら、
ミサキは自分の頭を掻きむしった。
「ろうよねぇ~反対られりゅに決まってるもんら~
どちたらいいらろ~にょ~ ハァ・・・」
嘆く二人の前にイリは顔をにゅ~っと伸ばし
仁王立ちすると、顔の泡を拭き取った。
すると、なんとなく、
泡の形が片側だけ昔の軍人さんの髭のようになっていた。
「あんららちが、住めらくても、アラシは住むんらぁ~~
最愛のタカにぃ~のためにらぁ~
ワラシは、本ろうの愛を見つけるんら~
愛は無償。
愛は無情。
愛は白いレースのカーテン越しに、
そっと見守り続けることれもあるんらぁ~!
カナ~ちゃーん!
タカにぃをよろちく~ビェ~~ン」
凄い剣幕でまくし立てたと思ったら、
またカナの胸で泣きはじめた意味不明のイリ。
「ママの胸で泣きなさ~ぃ 可愛そうな子~」
っと、胸をプルプル揺らし
ギュウと抱きしめ頭を撫でた。
「れれ~なんれ、ここでイリ彼が出てくるんれしゅ~?
ここは、カナのマンションらよぉ~」
イリをまじまじ見つめるアヤン。
「アヤンちん。こいつぅ~まじー頭キテル・・・
関わらないほうがええかも~
若いのに、残念らこってぇすらぁ~
れも、やっぱ…
ろう考えてもここにゃ住めない よぉ~~ん」
ミサキが言った。
「まったくもってそうれすなぁ~」
プシュ~~フシュルルプシュ~っと、
電池の切れたロボットみたいに
ガクンッと頭を垂らすアヤン。
「れもまぁ~今日はアヤン特製おでん
らべてお祝いしようぜ~
カヤ~今日は引越しおめでとぉ~
プレゼントはそのうちあげるからら~
イェ~~ィ♪」
ミサキは、シャワーヘッドを取り、
みんなに湯をかけ笑った。
アヤンも負けじと、ジャグジーに飛び込み大喜びで、
「カナ~ 新居おめでとぉ~
わたちも、こんな素敵なお部屋に住みたいれ~っす。
今の心境はいかがれすか~」
と、バシャバシャ湯を浴びせた。
「うれしいれ~っす。
みんなで住もうよ~さみちくないからさ~~」
っと、カナも笑い、嬉しそに逃げ回っていた。
「おらかすいた~ 喰うぞォ~~
喰って喰って喰らいまくってやるろ~
酒もじゃんじゃんもっれこ~ぃ!
ワラシは天使なのれぇ~~っす!
ブヒブヒブヒ~!」
そして…バスルームのすみに何かを見つけた。
「おやぁ~???」
トトットっとそれに近づき、
うずくまった。
「お嬢らまぁ~いけまへんね~
メイドのアラシが退治してあげましゅ~
ヒックヒック ウィ~」
それを、ヒョイっと摘まみ皆の前に吊るした。
それはまだピクピクしていた。
階段をかけ上がるタカオミ。
カナの部屋の前に、上下に重なった二つの顔。
耳をべったり扉に貼り付けた双子が居て、
ホクロのせいで目が六つあるように見え、
『ほんとに双子なのか…』
と、その光景はなんとも怪しく少し引いていた。
「な、中の人まだ、気づいて無い?」
「うん!
なんかお風呂入ってるんだと思う~
あ~あなた。こないだ越してきた絵描きさん~
ご挨拶が遅れましたね。
上が弟のシズオ。
下が姉のシゲミで~っす。
よろしく~」
それぞれに指をさし合う双子。
「あ。こっちも、挨拶無しでごめんなさい
ハハハ でも、さっきも言われたけど、
なんで、俺が絵描きって言うか、
絵描き志望なの知ってるんだ?」
タカオミの不思議顔。
「それはあなたの運命だから~♪」
「え?!」
思ってもない返事に戸惑うタカオミだったが、
騒ぐような小さな音に気づいた。
「あ!」
声をハモらせた双子も、
部屋からする物音に気づき、さらにドアに密着した。
「あ。なんか水音がするね~
騒いでるね~楽しそうだね~」
シゲミが言うと、
「うんうん。じゃれあってる女の子たちの声だ。
そろそろ、お風呂から出て来るかな」
シズオが言った。
その時だった。
一瞬の静寂の後、少女たちの楽しげな声がいきなり、
「ギャアアアアアアアアアアアア~!」
「ウギャグェ~~~~~~~~~~~!!」
「フングワァアアアウンギャオヮ~!!」
ホラー映画のヒロイン並みの大絶叫に変わった!
猫じゃない、少女たちの悲鳴は
洋館の住人たちを瞬時に凍りつかせた!
イリが持っている物・・・それは、
寒さで死にかけている、
ゴキブリ・・・だった。
日もどっぷりと暮れた頃、
事件は洋館の住人たちを驚かせた。
タカオミはパンをかじったまま気づいた。
「わわっ! あいつ何してる?!」
「あんた、よくそんなの食べれるわね~何!
なによ今の泣き声」
ヒカルさんも、太った猫が二階のマンションの手すりで
半身を乗り出し、引っ掛かってるのか、
もがきまくっている姿を見た。
ミギャアアアア~~~!!
眼鏡男もそれに気づいた。
「えらいこっちゃ!」
焦った男は窓から庭に飛び出し、
今も積もる雪にドスドス足跡を付けデブ猫の真下へ向かった。
双子のシゲミ(姉)、シズオ(弟)も、
「キャアアアア なになになにぃ~~~
マドちゃ~~ん!!」
っと、声をハモらせ、
眼鏡男の部屋から少し遅れて飛び降りてきた。
シオンは、外の藪を捜索中にそのことに気づいた。
「マド? なにごとだ~っ!!」
コートの裾を枝に引っ掛け最下部のボタンを飛ばし、
派手なビキニパンツを晒すと
道に出たとたん滑って転んだ。
それを、通りかかった親子にガン見され母は娘の目を隠した。
「見ちゃダメ!」
と、言いながら転んだ男のそこを、
まだガン見してる母…。
しかし、子は覆われた指の隙間から別の物を追い、
コロンコロンコロコロコロ~ン~
それは勢い良く車道へ転がり、グシャッ!っと
トラックに潰され、
キャッキャッキャッと喜んだ。
シオンは、マドレーヌの鳴く姿を門から見つけ
「やばい!」
っと、双子に知らせようと走ったが、
ドアは開いたままで、眼鏡男の部屋の扉も開け放たれてるのを見た。
「待ってろデブ猫!」
そして、自室の押し入れに置いてあった大きな荷物を取り出した。
「マドちゃん。引っかかったの~
キャァア~ 眼鏡男なんとかして~」
「いや、双子が上行って事情説明してくれ。
僕は、ここで待機してるから」
「あぁ、そうね。それがいい、行ってくる~」
「おぃおぃ あいつに喰わせ過ぎだろ。
あんな太らせたら猫じゃない、
なんか違う生き物になるぞ~どこ行く?」
シオンは、眼鏡男の部屋の窓から
小走りに去る双子に話しかけた。
「上の住人になんとかしてもらう~」
双子が、マンションの陰に消えると、シオンは眼鏡男を呼んだ。
「おーぃ 大山田。こっち来て手伝ってくれ~」
「ん? こりゃなんだ。なんでこんな物持ってる?」
眼鏡男は大山田と言う名らしく、
シオンが持ってきた物を一目で”それ”と分かった。
「これ? フィットネスにいいんだぜ~
劇団のだけどな保管頼まれててさ。
お前も使いたければ貸すよ。
ほぃ、そっち持って降ろしてくれ」
シオンは大山田に半分持たせ、自分も窓から降りた。
その様子を見ていたタカオミも慌てて外へ出たが、
大人のヒカルさんは暖かい部屋で
優雅にお茶をすすり、見物を決め込んだ。
「だいじょうぶかなあいつ。
なんかすんごいことになってるけど、クマ」
「クマぁ?
あぁ、君はあいつのことクマって呼んでんのか。
大変だよ。あのデブ猫のせいで。ちょうど良かった。絵描き君も手伝ってくれ」
「絵描き君?
あぁ、いいですよ。何したら?」
「これ、設置したら、動かないようにしっかり
押さえてくれればいい」
シオンは言った。
「え~~ これ使う? まさかこれで捕まえる…
嘘でしょ~ やばいよ~危ないって。
それよか、大きな布あれば下で受け止めれる。
あ! 上の住人に救ってもらった方が早い俺行くよ!」
タカオミは鳴きわめく猫と”それ”を
上下に見ながら言った。
「あいつクマじゃない。
マドレーヌって名。
ここのアパートで大事に大事に飼ってる女神。
上にはもう双子が行ってる」
丸い大きな”それ”を組み立てている大山田がボソっと言った。
「そうだな、やっぱ危ないか?
これ使うの。でもな大丈夫! 俺はこう見えて
中学から体操部だったんだ!
ちょっとこいつの勘取り戻すから押さえてて」
「勘? 今戻すのかよ!」
タカオミは呆れ、
それの正体は小さいが立派な”トランポリン”だった。
シオンはこれを使って
マドレーヌを救出しようとしていたらしかった・・・。
「無茶だって! 二次被害はごめんだよ。
おぃ止めろって!」
タカオミが言った。
「僕も、気が動転してて言いなりになったが、
こいつがただのアホってこと忘れてた・・・
乗せられた僕は間抜けだ~
あぁ、情け無い・・・
布の方がなんぼかマシだろう
そうだ! シーツ持ってこよう」
大山田はそう言うと、自室の窓によじ登ろうとした…が、
降りたはいいが大柄な体で上がれないことを知り、
がっくり肩を落し玄関に回った。
「あぁなんかもう見てられない。俺も上の行ってきます」
タカオミはマンションへ行く前に、
ヒカルさんにベッドから毛布とか、
シーツ持ってきてと頼み走り去った。
「りょうか~ぃ。
分かった。分かったわよ。
たかだか猫なのにやれやれだわ・・・
でもぉ~タカちゃんの寝室だって~
ドキドキする~ ムフフフフッフ」
ヒカルさんはニヤニヤしながら、寝室を開け…
真っ先にベッドの下を覗いた。
「あら~~~!
あらまぁ!
あららぁ~~!!!
無い?
男の子ってたいていここに隠すわよね~
あたしも隠したのよ~お母さんに見つかって大泣きされたわ~
あたしもショックだったわ~
”薔薇の蕾”って言う・・・本。
創刊号からの季刊本全部買って、箱に入れて隠してたのにぃ~
お前は男なんだ~ってお父さんにはぶたれ・・・
弟には、口を聞いてもらえず・・・
妹だけだった…
あたしを好いていてくれたのは・・・
たまに、服借りて超怒られたけどぉ~ ウフ
あぁ。あたしのことはいいわね、もう、遠い思い出・・・
今じゃ、あたしをぶったお父さん・・・
別の女と結婚したし・・・ずっと逢って無いし・・・
こんな話し、どうでもいいわ!
あの子のエロ本どこ~?
でも、芸術家にエロ本は要らない?
要らないかなぁ~想像の塊だから?
モデルさんと、仲良くなればぁ~ムフフフフ~」
誰かに語るよう一人話すヒカルさん…。
ベッド下は諦め、
今度はクローゼットを物色しようと決めたが、
とりあえず言われたとおり毛布を剥ぎ取った。
すると、それはコロンと顔を出した。
「ぉ? おおおお!
あらまぁ~みぃ~つけちゃった~あたしって天才!
しか~し、これって・・・ムフ~ン
興奮しちゃうじゃない~♪」
そして、ついに何かを発見しご満悦のご様子で、
布団に紛れていた物を拾った。
一方一人残されたシオン。
「え~俺のプランはどうなる。まぁいい。
天才的な跳躍で見事あのデブを捕まえてやろう!
うははははは」
トランポリンと距離を見ながら後ずさりし、
高笑いのまま助走をつけスタートを切った!
そして、飛ぼうとした瞬間、
ピィーピピピピピー ピッピッピーーーーー!
ホイッスルが鳴った。
「やめなさ~~ぃ!」
おっとっとっと体制を崩し、
転びそうになるのをこらえ、
笛を吹いた人物も、長い重そうな物を抱え
走って来ていて、汗だくだった。
シオンはその人物が持って来た物を、
ほいさっと受け取りマンションの壁に立てかけた。
「シラさん! これどっから持って来た~♪」
シオンは振り返りシラさんという男を尊敬の眼差しで見た。
「これでもう大丈夫でしょう ゼ~ハァ~」
シラさんは、膝に手を置き前のめりで息を切らし、
体を反らすと腰を叩いた。
「あらま。良いのあるじゃないこれでもう安心ね~
誰が連絡したの?
”おまわりさん”はやっぱ庶民の味方よね~
毛布とりあえず張って
最悪の事態に備えますか」
ヒカルさんがやって来て、
シラさんの制服を見て頼もしく思った。
毛布の端を持たせ微笑むと、
シラさんは
『こいつ元男だ!』
と感づき、
顔をヒクつかせハハっと笑った・・・。
「おぉ~梯子だ! シラさん持って来たんです? さすがだ~」
眼鏡男もシーツ片手に戻って来た。
シラさんは毛布の別の端を、眼鏡男にも持たせると、
「チェッ! 結局俺の天才的な救出劇は
見せれなくなったか、
アクション俳優としては見せ所が無くなって
ショック~だ~!」
と、ブツブツ言いながら梯子を上って行くシオン。
「何言ってんの! 無理に決まってるじゃない!
顔はかっこいいけど…頭ゆるゆる~」
ヒカルさんは蜂の一刺しを浴びせた。
「すんません。ほんっとアホ・・・
ほんっとこいつアホなんです。泣けてきます」
眼鏡男はペコペコ頭を下げ、涙を拭う振りをした。
「アホアホ言うなぁ~~
ここで立ち止まってもいいのか?
あのデブがど~なっても知らんぞ~!
お前らここまで上ってこ~ぃ バーカ バーカ」
そのとき、強い風が吹きシオンのコートが
バタバタ揺れ下半身が剥き出しになった。
下から見てる三人は、
その姿があまりに情け無くため息を吐いた・・・。
ドンドンドン!
双子はカナのドアを二人で交互に叩いた。
部屋の主の名はポストで確認していた。
「風祭さ~ん。居ますか~向かいのアパートの者です~
風祭カナさ~~ん
緊急事態なの~開けてくださぃ~」
連呼する双子の声は廊下に空しく響き渡った。
ミギャアアアア~~~!!
猫が泣き喚く声が小さく聞こえ、開く気配の無い扉。
それでも、必死にドアを叩き、チャイムを鳴らしまくった。
ピンポーン~♪ ピンポーン~♪ ピンポーン~♪ ピンポーン~♪
ドンドンドンドンドンドン! ドンドンドンドンドンドン!
「お願い~おねがぃだよぉ~
マドレーヌが大変たいへんなのぉ~」
「いないの~~~いないのぉ~~!」
涙目のシズオが姉を見た。
「いや、窓雲ってたろ。部屋暖められてる証拠! 絶対居る!」
シゲミは強く答えた。
「そうだね! なんか、おでんっぽぃ良い匂いもするし、
これは居るね。寝て無いよねきっと、多分・・・」
シズオは鼻を鳴らし、
「お風呂!」
っと、二人同時に感づいた。
外で事件が起こってることを知らない乙女たち。
ジャグジーから出てそれぞれの背中を磨き、
風呂に入れた超高級シャンパンのせいで、
イリはもとより、カナ、アヤン、ミサキともども
全員酔っぱらい。
火照った体でロレツが回らなくなっていた。
「イリィ~あんらが、なに言ってるかわからにゃいよぉ~
ろうして、あんらがあたちのメイドロレイになりゅのん?
らんか、おかしな勘違いしてらい?
部屋はいくりゃでもあるんらから~
ろこでも好きにつかっれいいわ~ん
パォ~ン」
手を象の鼻のように使うカナ。
「ありがろぉ~ ありがろぉ~
カナ~ほんろにありがろ~ ビェ~~~ン
ウェ~~~ン メイドで雇ってくれるのれるのれぇ~
前もあらっちゃぅ~ ウェ~~~ン」
しっかり、泣き上戸のイリ。
カナだけを必死にゴシゴシ磨き上げている。
「いゃ~ん いいっれば! イリィ~前はらめ!
キャハハハハ ラメ~」
「らめれす! ぉお嬢、ぉ嬢様はとてもお綺麗なお方。
れも、あの方がいつ来られても、
いつお逢いにらられても
素敵な状態にしておかねばぁ~
メイドろれいろしれろ立つ瀬が
ごらいまへん~」
イリもカナもミサキもアヤンも泡まみれ。
バスルームにたくさんのシャボン玉を飛ばしてる。
「こいつ、ほんろおかしな奴ぅ~
どっか逝っちゃってる~
ブハハハハハハ~
・・・れもさ~ろーやって親説得すりゃいいんら?
それが問題らなぁ~アヤン~」
アヤンの背中を洗いながら、
ミサキは自分の頭を掻きむしった。
「ろうよねぇ~反対られりゅに決まってるもんら~
どちたらいいらろ~にょ~ ハァ・・・」
嘆く二人の前にイリは顔をにゅ~っと伸ばし
仁王立ちすると、顔の泡を拭き取った。
すると、なんとなく、
泡の形が片側だけ昔の軍人さんの髭のようになっていた。
「あんららちが、住めらくても、アラシは住むんらぁ~~
最愛のタカにぃ~のためにらぁ~
ワラシは、本ろうの愛を見つけるんら~
愛は無償。
愛は無情。
愛は白いレースのカーテン越しに、
そっと見守り続けることれもあるんらぁ~!
カナ~ちゃーん!
タカにぃをよろちく~ビェ~~ン」
凄い剣幕でまくし立てたと思ったら、
またカナの胸で泣きはじめた意味不明のイリ。
「ママの胸で泣きなさ~ぃ 可愛そうな子~」
っと、胸をプルプル揺らし
ギュウと抱きしめ頭を撫でた。
「れれ~なんれ、ここでイリ彼が出てくるんれしゅ~?
ここは、カナのマンションらよぉ~」
イリをまじまじ見つめるアヤン。
「アヤンちん。こいつぅ~まじー頭キテル・・・
関わらないほうがええかも~
若いのに、残念らこってぇすらぁ~
れも、やっぱ…
ろう考えてもここにゃ住めない よぉ~~ん」
ミサキが言った。
「まったくもってそうれすなぁ~」
プシュ~~フシュルルプシュ~っと、
電池の切れたロボットみたいに
ガクンッと頭を垂らすアヤン。
「れもまぁ~今日はアヤン特製おでん
らべてお祝いしようぜ~
カヤ~今日は引越しおめでとぉ~
プレゼントはそのうちあげるからら~
イェ~~ィ♪」
ミサキは、シャワーヘッドを取り、
みんなに湯をかけ笑った。
アヤンも負けじと、ジャグジーに飛び込み大喜びで、
「カナ~ 新居おめでとぉ~
わたちも、こんな素敵なお部屋に住みたいれ~っす。
今の心境はいかがれすか~」
と、バシャバシャ湯を浴びせた。
「うれしいれ~っす。
みんなで住もうよ~さみちくないからさ~~」
っと、カナも笑い、嬉しそに逃げ回っていた。
「おらかすいた~ 喰うぞォ~~
喰って喰って喰らいまくってやるろ~
酒もじゃんじゃんもっれこ~ぃ!
ワラシは天使なのれぇ~~っす!
ブヒブヒブヒ~!」
そして…バスルームのすみに何かを見つけた。
「おやぁ~???」
トトットっとそれに近づき、
うずくまった。
「お嬢らまぁ~いけまへんね~
メイドのアラシが退治してあげましゅ~
ヒックヒック ウィ~」
それを、ヒョイっと摘まみ皆の前に吊るした。
それはまだピクピクしていた。
階段をかけ上がるタカオミ。
カナの部屋の前に、上下に重なった二つの顔。
耳をべったり扉に貼り付けた双子が居て、
ホクロのせいで目が六つあるように見え、
『ほんとに双子なのか…』
と、その光景はなんとも怪しく少し引いていた。
「な、中の人まだ、気づいて無い?」
「うん!
なんかお風呂入ってるんだと思う~
あ~あなた。こないだ越してきた絵描きさん~
ご挨拶が遅れましたね。
上が弟のシズオ。
下が姉のシゲミで~っす。
よろしく~」
それぞれに指をさし合う双子。
「あ。こっちも、挨拶無しでごめんなさい
ハハハ でも、さっきも言われたけど、
なんで、俺が絵描きって言うか、
絵描き志望なの知ってるんだ?」
タカオミの不思議顔。
「それはあなたの運命だから~♪」
「え?!」
思ってもない返事に戸惑うタカオミだったが、
騒ぐような小さな音に気づいた。
「あ!」
声をハモらせた双子も、
部屋からする物音に気づき、さらにドアに密着した。
「あ。なんか水音がするね~
騒いでるね~楽しそうだね~」
シゲミが言うと、
「うんうん。じゃれあってる女の子たちの声だ。
そろそろ、お風呂から出て来るかな」
シズオが言った。
その時だった。
一瞬の静寂の後、少女たちの楽しげな声がいきなり、
「ギャアアアアアアアアアアアア~!」
「ウギャグェ~~~~~~~~~~~!!」
「フングワァアアアウンギャオヮ~!!」
ホラー映画のヒロイン並みの大絶叫に変わった!
猫じゃない、少女たちの悲鳴は
洋館の住人たちを瞬時に凍りつかせた!
イリが持っている物・・・それは、
寒さで死にかけている、
ゴキブリ・・・だった。
応援ありがとうございます!
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