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2:スキからはじまるキス

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2:スキからはじまるキス


「うわ! すごい… なにこれ~」
 アタシは読み終わってほんとに驚いた。

あまりといえばあまりの内容にアタシならドン引きするな~って思った。
それは、短い物語風になっている手紙… 【海と空と】っていう、タイトルまで書かれていた。


「ねぇ。ママはこれ、ラブレター? もらって嬉しかったの? それで、付き合いはじめた?」
「まさか~ ドン引きしたわよぉ~ あはははは」
「えぇ~~なんで? なんでパパと結婚したの??」
 はじめて聞かされる話に興味津々のアタシ。
「この人とは合わないわって思ってたんだけどー、このお話が頭にこびり付いてはなれてなかったみたいなの・・・ そしたら、どんどん気になりはじめたのよねぇ 自分でもよくわからないうちにっていうか~ はじめて食べた物が口に合うのか合わないのか分からないまま、好きになっちゃったって感じ? それで、一回くらいはデートしてもいいかなーって。 そっしたら・・・そしたら・・・」
 ママは照れて続きを言おうとしなかった。
「そしたら? そしたら? 教えなさいって。ママさん」
 ココアを口にしたまま身を乗り出すアタシ。
「そしたら、あなたができちゃったぁ~… ハッハッハッハ あはははは~ これ見せたことは、パパに内緒! いいわね?」
 ママはニコニコしながら、手紙を大事に大事に封筒へ戻し、
「これ、上げる 大事にしてねママの宝物なんだから うふふ。で、パパと何かあったらこれ差し出しなさいきっと折れてくれるから アハ」
 ママはけらけら笑いながらアタシに差し出した。 
「えぇ~~ そんな大事な物もらってもぉ~ 無くしたりしたら今度はママに、しばかれる!!」
 アタシはびっくりした。なんで、急にパパのラブレターを読ませ、アタシにくれたのか不思議でならなかった。
「いいから いいから ね♪」
 でも、アタシは手紙をもらったことより別のことで、ショックを隠せなかったのだ・・・。
『・・・アタシって訳わかんないうちに、初めてのデートで、できちゃった婚! ・・・なのか・・・ ふぇええええぇえええ~ もっとこうロマンチックな展開じゃないのぉ~ ママも軽いよぉ~ ・・・なんかヤダなぁ~~』
「ところで、アイリ あなた 好きな人できたでしょ?」
 ママはアタシを覗きこむよう、試すように聞いてきた。
ドキッ!
 母の視線はマイハートをかすめた!
「ぇえええーっと ぁっ アタシに? う~んっと あはは あたしは、まだまだ子供だから恋愛なんてまだまだですよ~ おかーたま」
 ずばり言い当てられドギマギした。
「お年頃なんだから、何も恥ずかしがること無いの、いっぱい恋しなきゃダメ。一番の彼を見つけないとね~ でも、もし、見つけたら、きちんと紹介できる男にすること~! そうなら、こっちも応援してあげれるし。いいですか? 肝心なことは、まずはあたしに言いなさいね。パパに直接はダメよ! また部屋から出てこなくなるかもだし~あはははは」
「ぅんぅん~ ハイハイ 分かってますってば」
 アタシは生返事しながら、手紙を大事に抱え自分の部屋に戻った。
タカにぃ~とのことは、悪友たち三人以外は知らないのだ。
そのうち話そうと、両親にきちんと紹介しようと思っていたのだけど・・・
こないだのことで心が落ち着かないアタシだった…。
それよりも何よりも彼は今が一番大事な時・・・。
『ハァ・・・・・・』
 アタシは深いため息を吐き、ママがなんで、パパからのラブレターをアタシに見せたのか・・・ ママはアタシが誰かと付き合ってることに気づいてて、きちんと紹介しなさい! できないような相手認めないって公言されたんだと思った・・・。でも、でも、ママは良いにしても、パパはやばいぃ~
あの人アタシが小学校の時、誕生日に呼んだ、ボーイフレンドのシンジ君から、プレゼントだって言われ、キスされて。それで、怒りまくったあげく、部屋にこもったまま出てこなくなって・・・ 誕生日はオジャン・・・ まったく、愛すべきパパちゃん・・・。
タカにぃ~を紹介するときは、アタシも覚悟を決めないとだ・・・。

 アタシはパパのラブレターをパタパタしながら
『伝家の宝刀だね~♪』
 と思ってると、シンナー系の匂いに気づいた。
開いていたドアから弟の部屋を見ると、
「ブゥ~~ン バビュ~ンーー! ドドドドド~~!!! ズババッバ~ン」
 とか、言いながら作りたてのロボプラモを振り回してるアサトがいた・・・。
『子供だ・・・お前はまったくもって子供だ・・・ 中学生なんだからブ~~ンはないだろぅ? 彼女のミヨちゃんが泣くよ・・・そろそろ卒業しなさいぃ~ 早く大人になって・・・大人?
ていうか、まさかこの子…もう経験してるかな? ミヨちゃんと付き合い長いもんなぁ。
・・・もっこりだぁ~ いや~ん アサト君すご~ぃいい~!!
俺のドドドーでミヨはドカーンだぜぇ~~!
キャ~~~! アサトォ~~!
ドカ~・・・
ん? 
うわぁ~何妄想しちゃってるのアタシ! オェェエエエ~・・・』

 自室のベッドにうつぶせ。
枕を頭に乗せると、地上にたった一人のような静かな時の流れを感じた・・・。
ヌードモデルになったのはあの日が最初。
そして、最後・・・。
一日二回だけ、好きにかけておいでと言われた携帯も、もったいなくてかけれない・・・ 
邪魔な存在みたいで、怖くてかけれない・・・
まだたった、たったの明日で…
二十七日目…
すごい!
その間、もちろん逢ってないし、声も聞いてない…。
寂しくてしかたなかった・・・。
あんなことしなきゃ良かった?
好きな人の頼みなんだよ?
心は乱れっぱだった・・・。



「タカにぃ~ もう、いいの? 明日は来なくていい?」
 タカにぃ~はアタシに毛布をかけ、アイスクリームのお徳用バケツみたいなのを持たせ、ポテトチップの袋をグシャグシャにすると、上からバラバラ振りかけて言った。
「うまいんだぞぉ~ これ 気に入るよ」
 アタシはえ?っとか思いつつタカにぃに大きなスプーンから、アイスを食べさせてもらった。
でも、あたしはポテチチョコアイスのことより、答えが気になっていて、味はどうでもよかった・・・。
「ほんとなら、ずっとモデルで来て欲しいけど、本来ならそーすべきなんだけど。イリとはその、えっと、や ばいから アハハ だから~作品ができるか、俺が落ち着くまでデートもね・・・ ごめんな 拗ねるなよ? いいかい?」
「携帯? 携帯はぁ~?」
 と、聞くと。食べようとしたアイスを、タカにぃが横からパクリと食べた。
アタシはタカにぃの口のはじに付いたチョコを、ペロッと舐めた。
「携帯はね~OK! でもね・・・」
 彼は口ごもった。

 帰り際に見せたもらったキャンバスには線がいっぱい走ってて、
素人のアタシには何がなんだかさっぱり分からなかったけど、
タカにぃ~は笑いながら、自分の胸に親指を付き立てていた。
それは、心にしっかり刻んだよってことらしかったけど、
涙ぐむアタシを玄関でギュってして、キスしてくれたタカにぃ。
笑顔のタカにぃ~・・・。



『タカにぃ・・・』
 そっと、唇に指を当てると、タカにぃ~の唇の感触がそこにあった・・・。
初めて裸で抱き合ったふたり。
ただ、それだけ・・・のふたり・・・。
『・・・ぁ』
 アタシは、ベッドにうつぶせた…。
目頭が熱くなっていた。
『タカにぃ~ タカにぃ~ にぃ~~ タカオミ~』
 溢れていく思い・・・。
体がベッドに中に沈みそうに重く・・・ 泣きそうなのを必死でこらえた・・・。
『さみしいよー さみしいょ~ タカにぃ~ アタシを置いてどこかへ行かないでぇタカにぃ! どこかにいっちゃうの? コワイコワイコワイ・・・』
 アタシは・・・ アタシは・・・ そのまま眠ってしまったらしかった・・・。

 晩ご飯だぞー起きろ超ハラペコお姉~ロボ~って弟が、さっきのロボで攻撃しに来た。
バビューーン ドドドドーって擬音がうるさくて、今度はふて寝を決めこんだが、
「あ!」
 っと、跳ね起きると、おなかの上からプラモが転がった。
『あん? ぁあ~これ。アタシが前に作ってって言ってたロボだぁ そうだったのね~ 弟よありがとう~♪ おね~ちゃんの妄想を許してね~ゴハンゴハン♪』
 アタシは、好きだったアニメの主人公が乗るロボプラモを手にし、ちょっとしたことを思い付き、
「クマクマクマ~ クマクマクマ~ロボ~ ビュ~~~ン ドドドド~」
 弟の頭で遊びながら食卓へ座った。
少しだけ心が晴れていた。
「イリちゃん それクマ違う。ライディンだよ戦士ライディン 分かってる?」
「知ってるって いいのいいの 今はこの子クマなのクマ うふふ」
 私が思いついたこと、それは?



次の日

『を。ををを をを・・・ をぉ~~ うーん・・・』
 アタシは自分の机でぶつぶつ唸っていた。
「あ。雪~」
 誰かの一言にクラスじゅうが、窓に走った。
ワ~ワ~と今年初めての雪に皆がざわついた。
「雪よ~ 雪!」
 ロリ声のちっちゃな萩原アヤンが言った。
「アイリちゃ~ん」
 超お金持ちのお嬢様。風祭カナが言った。
「お~ぃ あのことバラすぞ~」
 男っぽぃスクネ ミサキが、意味深に耳元で囁いた。
イリは、3人の悪友が話しかけてきたのに気づく気配がなく、タコ口に挟んだペンで詩の続きに悩んでいた。
「うぁ、ヒミツバラスぞにも反応しなぃ~」
 イリの顔を覗くミサキ。
「ほほぅ 詩ですか、どらどら」
 爪先立ちで覗きこむアヤン。
「この子熱中すると、誰の声も届かないからなぁ」
 長い髪をかき上げおっとりとした声で言うカナ。
「イリの文才を見て見ましょ それ~っと ほれ カナ読め読め♪」
 長身を生かしイリのポエムノートをひょいっと取り上げたミサキは、カナに渡した。
カナはコホンと咳払いし、舞台役者のように、オペラ歌手のように、手を伸ばし胸を張り、おごそかに朗読をはじめた。
「キスからはじまる・・・コホン・・・
 キスからはじまる
 アタシはあなたのキスから生まれる

 してくれないならアタシから~・・・」
「うぁ ちょっと何すんの 返して~ あ~読んじゃダメ 恥ずかしいぃ~~やめなさ~ぃ」
 アタシは読ませてなるものかと慌てたが、ちっちゃいアヤンに顔を窓側へ向けられやっと気づいた。
「あ! 雪だぁ~ 雪だよぉ ちょっと ちょっとぉ~ あんたたちってば」
 東側の窓一面にふわふわ舞う小雪を指さし、皆を見て興奮した。

 ふわりふわり雪がふる。
あの人の肩にもポツリ、私の顔にもポツリ。
街は銀色。
ふたりは一つのマフラーを巻きあって帰るけど、途中に別れ道があり、あなたは左で、アタシ右・・・。
真ん中の電信柱にマフラーがひっかかり、彼の首からスルスルと外れ、
アタシにだけ巻きついたまま・・・
電信柱に絡まったマフラーに首がしめられていく・・・。
『悲しすぎるぅ~~』
 アタシは、そんな情景を妄想し涙ぐんだ・・・。
でも、苦しい。ほんとに苦しくぃ~!
「雪に見とれてる場合じゃないだろう。にぃーちゃん彼とはもうやった? ん~ やっただろ? やったね?! いぇ~~教えろ~ おまぃの恋はあたしたちの後押しではじまったんだからな~」
 下品な言葉のミサキがアタシの首をしめていた。
「わたくしたちに報告の義務をお忘れなくてよ? おほほほほ」
 カナは詩を書いたノートを扇代わりに、自分をパタパタと煽っていた。
「話ちて~ちょうだ~ぃ 聞かせてぇ~ 少しだけ生まれた日の早いおね~さまぁ~ ウププププ」
 アヤノはぴょんぴょん跳ね満面の笑みだ。
巨大な耳の小悪魔三名にアタシはタジタジで、教室の角、掃除道具置き場へ押しやられていった。
「えっとぉ~・・・」
 彼女たちの耳でアタシは包まれた…。
「で? ででで~?」
 悪魔は口をそろえ、言った。
 そのままアタシは掃除道具の入ったロッカーへガチャガチャ音を立て、ついに押し込まれてしまい・・・

彼女たちはなぜか掃除道具を手にし、振りかざしていた・・・。
「おまえたちぃ~~~ 良くお聞き!」
 アタシは背を伸ばし、一歩一歩相手を威光で押し返すように反撃に出た。
驚きひれふす三人の魔女っ子たち。
そして、口に手をやると、皆の耳がそこに集まった。
「・・・もぅ~あんたちちって最低・・・ でね・・・ それでね・・・ してないよぉ・・・ まだですよぉ~~うん。まだなのぉ~ アハハハハハッ」
 アタシは小声で聞かせた・・・。
長い沈黙が流れ・・・
三人はそれぞれ、自分の席にそそくさと帰って行かれた・・・。
さー仕事仕事っと言わんばかりに、
どこかの鍵をくるくる指で回し、英文のペーパーバックを取り出し読みふけるカナ・・・。

タイトルは”Morino Ishimatu” もりのいしまつ? 何それ?
ミサキは椅子の上に胡坐で合掌し瞑想を始め、
アヤンはハーブ?のような葉を両手に持ち、品定めを始めた・・・。
「でもね~~~!」
 あたしは恥ずかしさをこらえ叫んだ。
すると、お三人様。
ビデオの巻き戻しみたいにキュルキュキュキュ~っ戻ってきて、アタシの口に耳を寄せて止まった。
『あんたたちって何?! ~こわすぎ・・・』
 アタシは冷や汗をたらし、
あの日の事件を、素直に、ありのまま話し・・・話すと・・・すると、また沈黙が流れた・・・。
アタシは額に変な汗を滲ませ…垂らした・・・。
すると・・・ 皆の目がキラキラ輝いた!
「うぉ~~すげぇえええええ エッチするよりすげぇ~~エロすぎるぜぇ~!」
 ミサキは力任せにアタシの肩をバンバン叩き、
「あぁああん。素敵ぃ~~~ 何それ、ずるぅ~ぃいいい 恋愛映画みたいぃじゃな~ぃ」
 カナが抱きついてきた。
アヤンは、アヤンは・・・声も出せないのか、肩をいからせアゥアゥ言っていた・・・。
「でもね・・・」
 アタシは今の気持ちを素直に話し・・・ そして、さみしくって、切なくて泣き出してしまった。
涙があふれ止まらない・・・。
聞いていた三人も、親友の悲しみにつられ一斉に泣きだす始末。
その異様な光景をさっき入ってきた、
次の授業の美術のせんせ”水虫”ってあだ名の、不知火先生が呆然と眺めていた。
「あー 君らどしたのかなー 授業だけど ホッホッ」
 水虫は病み上がりで力無さげにたずねた。
真っ先にミサキが駆け寄った。
「先生 ごめん、ここね。血がドバーっだ! わかるよね?生理だ。 ぽんぽんいたいいたいぃ~~だから、ほれ! あたしの目を見ろ 泣いてっだろ? 真っ赤だよな? 乙女はつらいの~早退しま! おさき~!」
 コイツはほんとに女か?
たしなみってものを知らないのか~! 
自分の股を指し、生理とのたまい教室を後にした。
次に、カナが走った。
「あ。先生! たった今母が危篤って携帯で、早退します! あぁあああ~~ん おかぁさま~ご無事でぇえ」
 長い髪と涙がキラキラ光り教室から消え、そして、アヤノの番。
「せんせぇ~ 睦月さんが、凄い気分悪いそーなので、エグエグ お家に連れて帰ります~ ウェウェエエエ~ン わたち保険委員ですし~ しつれいしま~っす」
 と、うそぶき、アタシのおなかに強烈な鉄建を喰らわせた!
アタシは、こんなちっちゃな体のどこにそんな力が! 
って思いながら悶絶し、襟首を掴まれ引きずられ様はまるで死骸・・・。
せんせにペコペコしながら、申し訳程度に小さく手ふっていた・・・。
『こわいよぉ~~~ こわいぉ~~ なんなのぉ~ 何する気ぃいいい~ですかぁあああ~!? この人たち本当の悪魔ぁあ~!?』
 別の意味でまた、涙が止まらなくなったイリだった。


 吹雪く校舎を背に、正門に立つ三人の凛々しぃ女子高生と死骸のアタシ。
ビュービュ~と雪が流れ、嵐の前触れのように思えた。
「で、どうする?」
 ミサキが言った。
『うわぁああ、何も決めてないのかぁああ』
 っとアタシ。
「そうねぇ・・・そうねぇ~ あ。イリちゃん、彼のアパートまで案内して~」
 カナちゃんが手をポンっと叩いて言った。
「あぁ、それがいい! タカさんは本当にこの子を愛しているのか否か! 直に会って問い詰めてやる! キャッキャッ♪」
 アヤンってこんな硬派な子だった??
アタシはいつになく凛々しいお嬢さん方に惚れ惚れしたが、
『え~~ 何を 何が? えぇえええ~~ 直談判って何? 気持ちを聞くって何?
 堪忍ぇ~ 堪忍ぇ~~かんにんえ~~~ 教えない絶対教えない!
 無理!!!!!
 教えるわけにはいかないぃ~ タカにぃ~と約束したんだもん。
 良い子で待つって、アタシ天使になるんだもん!
 タカにぃ~~助けてぇ~~ あ。だめ、
 助けを求めちゃダメダメダメ~
 人の恋路を邪魔?
 お手伝いする奴は~地獄だっけ?
 豆腐に蹴られて、ペシペシされちゃうんだからぁ~~うぇ~~ん』
 体中に冷たい汗が溢れ、滴り落ちた・・・。



 そして、あたしは散々嘘を言い、彼女らを引っ張り回した・・・。
というか、彼のアパートは込みいった路地を抜けた所にあり、根っからの方向音痴も手伝い、ここがどこかすら分からなくなりつつあった。



 三人の魔女っ子は一斉に蒼ざめた顔をアタシに向け、これが最後よって顔をしていた・・・。
「おぃこら! 本当のことを言え~ 言わないとヌードのこと匿名で あのパパにばらずぞぉ~ ゼェゼェ ヒュゴォ~」
「ねむっちゃラメ~ おきなさい ねむったら死ムゥ~ 道はどっちらのよぉ~ ヘックチン! ズズズ・・・風邪ヒイチャウ~ おなかすいたぁ~」
「いいから、はきなさい女らしくないわよぉ~ もう、寒くて凍えそうなのぉ~ ねぇ、おねが~ぃ イリ~ 寒さの感想はお肌に悪いぃ~ あ! ここって… そうだ、休憩しましょう。あたしんちこの近くになったんだ~ うふふ」
 カナは教室で回していた鍵をまた、くるくる回した。
「あぇ カナんちって、この辺りでももっと奥のお金持ち住宅街じゃなかった?」
 アタシは、ふと思い出して聞き、垂れた鼻をティッシユで拭った。
「パパが、お前も一人前の大人になるためだって、中古マンション買ってくれて~ このすぐ近くなの~ 多分もう荷物も整理されてると思うのですわ~ 冷蔵庫も中身もね。リフォーム済みだし床暖ばっちりよ~」
「それいぃ~ まずは暖まって腹ごしらえだ! 行くぞカナんちぃー イリー今度はちゃんと教えるんだぞぉ~ ハァハァ」
「すごいね~ さすが超リッチなカナちん。般ピーとは格が違いましゅ~ ヘックシュン・・・ しゃむいよぉ~ こごえちゃうぅ~ ヘックッチン ズルル 早く行こぉ~」

 アタシたちは、カナの的確な案内で、そのマンションへ向かった。



「うわぁ~ すごお~ぃ」
 アタシとアヤンはその部屋の間取りや広さにうっとりした。
「冷蔵庫どこだ~~ おわ、これ外国制のでかいのだー すげぇ~」
 ミサキはまっさきに台所へ向かい、何やらワーワー言っていた。
部屋はタイマーですでに暖められていて、とても快適だった。
アタシたちは、居間に陣取り、ミサキが勝手に持ってきた。
お菓子や飲み物でやっと一息つけたのだった。
皆の会話が落ち着いたとき、アタシは話しを切り出した。
「あのね。あのね。みんなの気持ちは嬉しい・・・ でも、タカにぃをアタシは信じてるし、 ほんとはもう何も寂しがることなんてないの・・・だからぁ~ アタシが大人になるしかないって思ってるの・・・ だからね」
「うんうん、俺らもちょっとお節介すぎたと反省してるよ ごめんな~」
 ミサキが言った。
「うん。ごめんね、イリちゃん私としたことが、アハ ごめんなさいね・・・」
 カナが言った。
「ごめんれ~ あたちって頭に血が上ると、何するかわからなくなる~の」
 アヤンが言った。
「いいの。いいの。あんたたちはほんと悪友だわ あはははは」
 アタシはアタシの言いたいことを素直に言い、彼女たちも、それを気持ち良く受け止めてくれたようだった。
「で、あたしね。良いこと思いついたの~ 多分、少しは寂しく無くなる方法なの♪」
 アタシは窓辺に向かいカーテンを開いた。
「どういう方法???」
 皆、聞いてきた。
「クマに会いに行こうと思ってるの 彼じゃなくてクマ アハハ」
「クマ?」
 アヤンが聞いた。
「彼んちに出入りしてる猫のことよぉ~ それにアタシが勝手にクマって名前付けたのほら、ちょうどこんな猫・・・」
 窓のすぐそこで、
ガリガリカリカリと、
大きな猫が必死に部屋に入ろうともがいていた・・・。
「そっか~ 猫に会いに行くのなら、タカにぃにも止められないな さすがイリは乙女だ! なかなかやりおる ガッハッハ」
「ねぇ。カナちん~この子飼ってんの?」
 アヤノが窓に付いた露で猫の顔をなぞりながら聞いた。
「え? 違うよー そんな雑種しらな~ぃ なにしてんかしらん。この子」
 窓辺に近づいてカナが言った。 
「でかい~何キロあるかな? 入れちゃえ~」
 ミサキが窓を開けると、冷たい風と大きな猫が乱入して来た。
「うぁ さむ! 外はすごいですね~ 君、凍死するとこだったねぇ~」
 カナがそう言うと、猫は辺りを見回しうろついたが、アタシの横へ戻りあくびをするとじっとアタシを見つめた。
アタシは、カーテンを閉め、猫を見返した・・・。
そして、カーテンを開け、外の景色を見てまた、猫を見た・・・。
それをもう一回繰り返して、ヘタっと座りこんだ。
大きな猫は、アタシの足で体をこすり。
ゴロニャ~ンっとダミ声で鳴き、ひっくり返った・・・。
「へぇ~ イリって猫にすぐなつかれるんだね~ あたしゃすぐにげられっけどな~」
 お煎餅をバリバリ食べてるミサキが言った。
『クマ・・・ あなたはクマ・・・ クマクマクマ~ うわぁあああ』
 アタシは驚いて腰を抜かしてしまっていた・・・。
そして、そして、そして・・・ 窓の外。
同じ敷地内に古い洋風な家が立っていて、風見鶏がぐるぐる吹雪く風で回っていた。
背の高い木立の先にほんの少し家並みが見え…
そして、そして! その建物こそ!
『タカにぃ~のアパートだぁああああああああ~』
 アタシは、のど元まででかけた言葉を、牛みたいに反芻していた・・・。

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