上 下
19 / 19
第2章     学舎と友

19

しおりを挟む


「マリア様、お食事は少し召し上がれますか?」

メアリーは寝台に横になっているマリアが
起きたのを確認してそう聞いた


マリアは少し考え、小さく頷く
メアリーはマリアの体を少し支えながら優しく起こした


「無理に全部お食べにならなくて良いですからね」

と野菜が細かく入ったスープを小さなトレーに乗せて
マリアに渡した

マリアはそのスープの匂いを嗅いで

「お母様のスープ‥」

と言った

「そうですよ、奥様がマリア様の為に
 朝から作っておられました」

それを聞いてマリアはスプーンを持ち、一口、口に運んだ

「お母様の味ね‥」

と嬉しそうに笑った

スープを半分食べた時、コンコンとドアが鳴った
メアリーがドアを開けると、他のメイドが
花瓶に入った赤く色付くの花を持ってきた

「マリア様に王太子様からの贈り物だそうです」

嬉しそうに言うメイド

「赤いゼラニウムですね」

とメアリーは寝台のそばにある棚に置いた

「レオン様から‥」

赤いゼラニウムの花言葉は"君ありて幸福"

小さな事にも自分を気遣ってくれるレオンにマリアは

「私は今までレオン様に何もあげれていないわ‥」

とぽつりと言う

それを聞いたメアリーはマリアの手にあるトレーを取り

「早く良くなってお元気な姿を見せてあげることが
 レオン様は1番喜ばれると私は思いますよ」


マリアはあの時の事を思い出す

"君が生まれ時から僕の好きな子は決まっていたよ"

でも同時に令嬢達が言っていた言葉も思い出した

"ベルナール家に女の子が生まれたから白紙にされた"


「(もし、生まれていなければレオン様の隣にいたのは
 私ではなく、ローズ様だったのかな‥)」

マリアは胸が締め付けられるように苦しかった

「メアリー‥っ」

ぽろぽろと涙を溢すマリア
メアリーはマリアのそばに座り、優しくマリアを抱きしめ


「マリア様、大丈夫ですよ。
 もう少しお休みになりましょうか」

とマリアの背中をポンポンとしてマリアを寝かせた



ーーーーーーー


メアリーはマリアが寝息を立たのを確認して
静かに部屋を出た


部屋の前にはアレンがいた


「寝たか?」

「はい」

そう言ったアレン

「マリア様はまだ子供でいらっしゃいます
 だから心がまだ追いついていないんでしょう」

「レイチェル嬢がマリアを案じてここに来た日の事を
 言っているのか?」

アレンはメアリーを見ていった

マリアが熱を出した翌日レイチェルが
ベルナール公爵家に訪れた

最初は心配をして来たのかと思っていたアレン

談話室に案内したレイチェルが何か他の事を言いたそうに
していたのをアレンは尋ねた

「何か気になることが‥?」

レイチェルはえ、と驚いた様子のあと周りで
配給をするメイドをちらっと見た

「(メイド達がいると話せないのか‥
  まぁメイドに聞かれても面倒だな)」

アレンはメイドに

「メアリーを呼んできてくれ。
 その後は他の仕事に戻っていい」

そう言うとメイドは素直に部屋を出た

「あ、あの!メアリーと言う人は‥」

「メアリーはマリアの専属侍女だよ
 マリアの事は1番知ってるし、口も堅いから
 安心していいよ」

「そうなんですね‥」

とレイチェルは言った


しばらくしてコンコンと鳴った

「どうぞ」

失礼します と一白置いてメアリーが入ってきた

「メアリー、こちらの御令嬢はマリアのご学友
 レイチェル・クライスだよ」

「マリア様からお名前と仲良くしてくださっている事は
 毎日聞いています。侍女のメアリーと申します」

丁寧にお礼をするメアリーにレイチェルは
慌てて席を立ち、自己紹介をした

「さてと、レイチェル嬢」

レイチェルがビクッとした
それを見たアレンは

「僕はそんな君を取って食べたりはしないから
 そんな緊張しないで」

と笑った

アレンは本当にあの時のレイチェルと同一人物なのか
と可笑しくなった

「いえ!そんな事、思ってもないです、はい」

挙動不審で少し言葉がおかしくなるレイチェル


「君は変わってるね、他の令嬢とは何か違うよ」

と紅茶を飲むアレン

「へ、へ、変ですか⁉︎確かにお母様には
 落ち着きがないってよく叱られて‥」

レイチェルがそう言い終わる前にアレンの
大きな笑いが聞こえた

「え‥?」

レイチェルは目の前で大笑いするアレンを
驚いた目で見た

「アレン様。レイチェル様が驚いてますよ」

メアリーが無表情で言った

「はー‥ごめんごめん、面白いわ」

面白い‥?と頭にハテナマークが付いたレイチェル

「はぁーおかし。僕、嫌いじゃないよ君」

そう言ったアレンにレイチェルは顔を真っ赤にした


レイチェルはしばらく無言でいたが
小さく何かを言い始めた

「アレン様、あの時‥カレッジのパーティーで
 マリアが様子がおかしかったのにはお気づきに
 なられてますか?」

と言った

「いや‥でも普通ではなかったのはわかる」

「‥‥こんな事マリアがいない時に言っていいのか
 わからないですけど‥マリアがかわいそうで‥」

「かわいそう‥?とは」

レイチェルは自分の服をぎゅっとした

「マリアが聞いたそうです。他の御令嬢達が
 話をされているのを」

「話を?」

「はい。レオン様とローズ様の事で」

アレンは何かに気づいた様子だった

「マリアがそう言ったのかい?」

こくんと頷くレイチェル

「マリアが生まれる前に‥お2人は婚約者だったと
 でもベルナール公爵家にマリアが生まれた時に
 決まっていた話が白紙に戻され、昔からの決まり通り
 マリアは王太子様の婚約者になったって」

アレンはハァとため息をついた

「まさか、あの時にそんな話を聞いていたなんて
 そりゃ寝込むわ」

と言って

「その話をレオンには?」

「言ってません、多分知らないはずです。
 あの時マリアから聞いたのは私だけだと」

「レオンには言わないで欲しい。
 聞いたらレオンはその令嬢達に何をするか」

レイチェルは驚いた

「酷い事はしないだろうけどまぁ‥カレッジには
 もう入れないだろね」

と笑うアレン

レイチェルはレオンを怒らせる事は絶対にしないと誓う


「ベルナール家はね、先先代のお爺様の時から
 もう100年以上女児が授からなかったんだ」

アレンが話始めた

「それで母上が父上と婚姻をして僕が生まれ
 2年後にマリアが生まれた。未熟児としてね」

レイチェルは静かに聞いていた

「当時医者には長くは生きれないだろうと言われ
 母上は憔悴しきっていたと聞いた。
 同時にごめんなさいと父上に謝っていたらしい
 でも母上は乳母に預けず自分で何もかも世話をして
 マリアを育てた。その甲斐あってかマリアが一歳の時
 医者はもう心配ないと判断をした。
 だから正式にはマリアが生まれたから
 白紙に戻った訳ではなく当時王家と何かあって
 話がなくなっただけで本当に婚約をしていた事実もないと
 レオンからも父上や陛下からも僕は聞いている」

「‥‥」

「ベルナールはマリアを元々王家に
 嫁がせる気はなかったんだよ

 レイチェル嬢、君は貴族に生まれ政略結婚が
 普通の時代に運命の相手がいると思うかい?」

アレンはレイチェルを見て言った

「‥絶対とは言えませんが難しいですよね」

「でもマリアとレオンは違う
 あの2人はお互いを誰だか知る前に出会っている
 2回もだよ?信じられる?」

「2回ですか?」

「あぁマリアはまだ赤子だったから確実に覚えて
 いないだろうけどレオンも4才になる前だったから
 覚えていないだろ‥僕も母上に聞いただけだしね」


マリアが2才になる少し前に国王陛下夫妻に親友として
顔を見せにきた時、眠るマリアを王室のメイドに預けて
しばらくしてマリアの泣き声がして部屋に行くと
レオンがマリアをあやしていた姿を見て両家は正式に
マリアをレオンの相手にと了承した


そんな話を聞いたレイチェルは

「マリアには王太子様以上のお相手はいないんですね」

嬉しそうに笑って言った

「それはレオンもだよ。知ってか知らずしてか
 レオンはマリアにベタ惚れだしね」

ふふふと笑うレイチェル

「レオンも奥手だし、マリアを大事にし過ぎたせいか
 また手しか握ってないからなぁ‥なぁメアリー」

「はい」

そんなのをなんでこの2人は知っているんだろと
疑問に思うレイチェルだった




ーーーーーーー



「長々とお邪魔致しまして、ありがとうございました」

レイチェルは見送ってくれるアレンとメアリーに
お礼をした

「僕も引き止めて悪かったね」

「いえ、色んなお話もできて楽しかったです」

と笑うレイチェル

「またマリアがカレッジに行き始めた時は宜しくね」

とアレンは言って

「はい!楽しみに待ってます、じゃあ家の者を
 待たせてるのでこれで‥」

と運転手が待っている車に行こうとしたレイチェル

「あ、忘れものだよ」

アレンが声を掛けてレイチェルが振り返ると
アレンの顔が近くにあり同時に頬にキスをされた

「僕の忘れもの」

と美しく笑うアレンにレイチェルは

「あ、あ、よかったですーー‼︎‼︎」

とよくわからない言葉を言いながら車に乗り込んだ
でも車の中で小さく赤い顔をしながら手を振っていた


アレンはその姿にウブで可愛いなぁと笑っていた



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。