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4章 ささやかな日常

41.俺は、恥さらしにはならねえ!!

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 王国騎士団二次試験。
 模擬戦を繰り広げてきた受験者達。
 最後はユーリの番だった。

 ユーリの対戦相手は青い髪をした彼と同世代と思われる少年。

「これより、模擬戦最終試合、ユーリ・アスタルト対クリン・トールスの試合を始める!一同構え!」

 双方は武器を構えて戦闘態勢に入った。
 2人は同じ長めの剣を武器として持ち、お互いの顔をじっと見て動きを読んでいた。

 慎重に互いの動きを読む2人…。
 その時だった。
 ユーリの顔から一滴の汗がポチャンと地面に落ちた。

 その瞬間、対戦相手のクリンが動いた。

「は、速い!?」

 一瞬の出来事だったが、ユーリは剣の動きを素早く察知し自身の持つ剣で攻撃を防いだ。

 今度はユーリが剣を振った。

 だがクリンは瞬時に後方へ避けて回避し、すぐにユーリに奇襲を仕掛けた。

地壁ウォールウォー!!」

 ユーリは地面から壁を生成する魔法を発動。これによりクリンの奇襲は防げたものの、魔法を解除した矢先、今度は体当たりを食らってしまった。

「ぐは!」

 クリンの体当たりをもろに食らい押し倒されたユーリ。
 負けじとユーリも攻撃を続けた。

 力任せに剣を振り続けているが、クリンの剣捌きは互角であった。

 剣では難しいと思うと今度は魔法を放った。

フレア!」

フレア!、フレア!」

 フレアの連発をお見舞いしていくが、クリンの俊敏な動きに翻弄され当たる事は無かった。

(なんで、なんで当たんねえんだよ!!何なんだよこいつ!!??)

 ユーリはイライラし始めた。
 なかなか思うようにいかない事の連発であった為に、限界が来そうになっていたのであった。
 そんなユーリを見てクリンは言った…。

「もしかして、イラついてるの?」
「は!?」

 図星を突かれていた。
 イラついている上に、疲れが出始めた彼からしたらその発言でもう感情が爆発寸前に追い込まれてしまっていた。

「俺が"イラついている"…だと…?」

 しかし、既にユーリは爆発状態であった。

「いちいちうるせえんだよ!!こちとら、領主の子供としての立場もあるし、引き下がれねえんだよ!」

 怒りに任せてユーリは剣を振った。


 そんなユーリの姿を見たリタ達は彼の様子に不安を抱いていた。

「お姉ちゃん…ユーリ義兄さん、なんか怒ってるみたいだけど…?」
(ユーリお兄様…どうしちゃったのかな…?)

 リタとティオが心配している中で、別の場所から見ていたサイガは彼の状況を察していた。
 義理とはいえ、長年同じ屋根の下で過ごしてきた弟であるユーリの性格を把握しての察しだった。

(ユーリ…お前には秘めたる想いがあるはずだ…決して弱い人間なんかじゃない…)


 場所は戻り、闘技場…。

(なんも出来やしねえのか…こんなんじゃ…家に泥を塗ってるだけだ…このままじゃ、俺はアスタルト家の恥さらしになるだけじゃねえか…)

 そんな状況の最中…。ユーリには内心あるものが頭によぎった。
 それは今は亡きであった。
 優秀な両親を誇りに思っていたユーリ。
 突然の別れとなり、悲しんでいたがもうこの世にいないと解っていてもなお悲しかった。
 それでも思った。
 "アスタルト家に仕えていた両親のように、自分もアスタルト家の役に立ちたい"と。

(俺は、恥さらしにはならねえ!!)

 強い思いを胸に抱いたユーリ。

 彼の持つ剣がクリンの剣を弾いた。

「な、なに!?」
「……へ!どうだ!」

 優勢になったと確信したユーリ。

 その姿は観客席のリタ達も喜んでいた。

「ユーリ義兄さんが圧倒だ!」
「ユーリお兄様!ファイト!」

 その後もユーリは剣と魔法による攻撃を繰り返し圧勝していた。

 相手であるクリンは避け続けるもバランスを崩し尻餅をついて倒れた。

「い!あ!しまった!」
「悪いな!これで終わりだぁ!」

 これでユーリの"勝利"は確定した!






 かに思われていた。

「な、なに!?」

 ユーリがクリンに剣を振りかざすと驚くべき事が起きた。

 なんと、クリンの体が一瞬で透けて煙のような状態となりそのまま消滅した。

「こ、これは…」
「残念だったね…」
「え!ぐあああぁぁぁ!」

 さらに驚くべき事に、ユーリの後ろにさっき煙となって消えたと、思っていたクリンの姿があった。

 またしてもさらにその瞬間…クリンの持っていた剣の鞘による打撃によって、ユーリは場外に出てしまった…。

幻影ミラージュ…さっき僕が発動させていた魔法さ…」
幻影ミラージュ…!?」

 クリンの発動した魔法、『幻影ミラージュ』…。

 それは文字通り幻影を生み出す魔法。ユーリはクリンの魔法によるを見せられていたのだった。

「それまで!勝者、クリン・トールス!!」

 こうしてユーリはクリンに敗北してしまった。

 よって、二次試験の模擬戦の全てが終了。

 受験者一同は、闘技場の中心へと集まった。

「これにて王国騎士団入団試験全科目を終了とする!」

(くそ…負けちまった…すまねえみんな…すまねえリタ…家の名前に泥を塗っちまった…俺は恥さらし確定だ…)


「ユーリ…お兄様…」


 試験の全科目が終了し、次の合格発表まで休憩時間となった。

 一家は食堂へ行き、昼食を取ることとなった。
 勿論、そこにはユーリもいた。

「このポテトサラダ挟んだサンドイッチ美味しい!」
「ティオ、これも美味しいわよ!」
「わあ!タマゴサンド!」

 リタとティオはわいわいと食事をしていたが、ユーリは沈んでいた。

「気にするなユーリ…お前は頑張った…」
「そうよ、気にしないで…来年頑張れば良いじゃない…」

 ガイアとコスモはユーリを宥めるが、それでも彼の心は晴れなかった。

「あの…ユーリお兄様…」
「何だよ…」
「私、カツサンドを作って来ましたので良かったら食べたください…」

 それはリタのお手製カツサンドだった。
 ユーリにとってカツサンドは好物であったが、こんな状況だからか喜ぶことは出来なかったものの、リタのお手製と知って申し訳無さから食べることにした。

「ほら、食べろ…せっかくリタがお前のために作ってきたんだ…」
「分かった、リタ…頂くよ…」

 そういってユーリはカツサンドを食べた。
 その時だった…。
 ユーリは涙を流した。

「美味い…美味いよ…リタ…」

 ユーリは涙を流したが、それはカツサンドのあまりの美味しさで感動したとかではなく…
 試験での自分の失態に堪えられなくなったからである。

(やっぱり情けねえ…これじゃあ天国あっちにいる父さん母さんに示しがつかねえ…とんでもねえ恥さらしだ…)
「ユーリお兄様…?」

 リタはなぜ彼が泣いているのか理解できなかった…。


 やがて昼食は終わり、受験者達は再び闘技場へ向かった。

 それは、騎士団の入団試験の合格発表であった。

「ではこれより、合格者を発表する!名前を呼ばれた者は出てくるように!」

 試験官が合格者の名前を次々と呼んだ。その中には、ユーリの対戦相手のクリンもいた…。

「クリン・トールス!」
「はい!」
(これで全員か…俺はまた来年…)
「そして…ユーリ・アスタルト!」
「え!?」

 なんと、ユーリの名前が出てきた。

 ユーリは何かの間違いかと耳を疑ったが…。

「ユーリ・アスタルト!どうした!」
「え、はい!」

 名前を呼ばれたユーリはそのまま前へ出た。

 そして彼は疑問に思った顔で試験官に問う。

「なんで俺が合格なんですか!?俺、負けたのに…」
「最初に言った事を覚えているか?」
「え!?」

 そう言われてユーリは試験開始前を思い出していた。

 ーー『全身全霊を持って戦うんだ!但し、あくまで模擬戦、相手を死なせるような事が万が一無いように!』ーー

「この試験の本来の目的は、お前達受験者の魔力・戦闘力・身体能力を測る為のものだ!模擬戦の勝敗など関係ない!」
「え!?」

 唖然とするユーリであったが…内心は喜んでいた…。

「以上!この者達を合格とし、新たに騎士団の仲間として迎え入れる!」

 周囲が合格者を祝って拍手をした。

 そして観客席にいたアスタルト家も拍手をしていた。

「ティオ、お兄様が合格だって!」
「うん!僕ちゃんと信じてたよ!」
(やった、やったよ!父さん、母さん!)

 こうして王国騎士団入団試験は幕を閉じた。

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