上 下
39 / 60
4章 ささやかな日常

38."あ~ん"は僕だけにして!!

しおりを挟む
 ヴィンツェルト学院の合格通知を受けたリタとティオ(ついでにサティも)。

 それぞれは学院での生活に向けてちょっとずつ準備をしていた。

 ーー時期は、1月の終盤。


 束の間の休息に、リタはティオを連れてある場所へ向かった。

 それは、領地の一角にあるだった。

 元々ティオもそこに入る予定であったが、アスタルト家の養子となった事でそれ自体は無かった事になっていたが、定期的にリタに連れてってもらっていた。

「みんな!来たよ!!」
「あ!リタ様!」
「わ~い!!」

 沢山の子供達がリタによって来た。

 リタは持ってきたお菓子やおもちゃと言ったプレゼントを子供達に次々と渡していった。

 一方ティオはそんなたくさんあるお菓子、おもちゃを見てどれが誰に上げるか分からなくなって混乱しかけていた。

 そして何とか無事に配り終えて一段落した頃だった…。

 1人の8歳ぐらいの男の子がリタに近づいて来た。

「リタ様、なでなでして」
「あ、エルマ!いいよ!」

 その少年…。名前は"エルマ"という。

 3歳の時に両親を事故で亡くしてしまい、この孤児院に来たという過去を持つ。


 3歳の時にリタに、出会ってからは彼女に懐いて今は両親を亡くした悲しみは癒えたが、ティオはエルマを目の敵にしていてさらには嫉妬までしていた。

 前に一度エルマに会った時にリタと仲良くしているのを見て以来の嫉妬であった。


 孤児院に来て1時間経過した。

 リタは子供達におやつを作る事にした。

 今日作るおやつは、もちもちのドーナツだった。

 リタを手伝おうとしてティオが隣に立っていた。

 生地をこねてから真ん中に穴を空けた円状を整えていよいよ油で揚げる工程へと入った。

 油による泡立ちは熱かったが、おいしそうなにおいが室内を漂っていて子供達、そしてティオも食べるのを楽しみにしていた。

 そしてこんがり揚げたドーナツに、チョコを塗ったり、上下に切って生クリームをかけて挟んだりと色んなバリエーションのドーナツが出来上がった。

「みんな~!ドーナツできたよ~!」

 「わ~い!」と待ちに待ったと言わんばかりに子供達は大喜びした。

 そして楽しみにしていたおやつの時間となり、子供達、そしてリタとティオはテーブルについてドーナツを食べ始めた。

「リタ様、ドーナツおいしい!」
「うふふ、よかった!ティオも手伝ってくれてありがとう!」
「うん!これ、僕が作ったドーナツ!美味しい!」

 リタは子供達が美味しそうにドーナツを食べてくれたことに大満足の笑みを浮かべていた。
 一方でティオは、ドーナツを食べられて大満足の笑みを浮かべていた。

「リタ様!僕もドーナツ!」
「んもう、エルマったら…」

 エルマがリタに"あ~ん"としてほしそうな顔をしていた。

 そしてそれを見たティオはついに我慢できなくなり…

「あ~ん!おいしい!」

 まるでエルマから横取りしたかの如くリタの手にあったドーナツの一部を口にした。

「ティオ?」
「お姉ちゃんのドーナツは美味しいけど…"あ~ん"は僕だけにして!!」

 エルマに対する嫉妬心からついにティオは本音を行ってしまった。
 だが、言ったは言ったでティオはものすごく恥ずかしい想いをしていたが、リタは気に留めることなくティオを宥めるのだった。

「うふふ…ティオ、そんな事しなくてもティオにも"あ~ん"してあげるから…」
「え?」

 ティオはこの時理解した。
 リタはエルマに対して特別に接している訳ではなく、他の子供達も平等に可愛がっていたという事を…。
 結局ティオはまたしても恥ずかしい想いをする羽目になってしまったのだった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...