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前編 第三章「動き出す歯車」
国外任務1
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「あ、アリス様だ!」
「おはようございます!」
「おはようございまーす!」
「いい朝ですね!」
「市場を見ていかれませんか?」
人間に姿を変えていないというのに、アリスの名前を嬉々として呼ぶ人が多い。
フィリップとカイヤは後ろからついてまわるが、三組目から声を掛けられた時点で考えるのをやめた。
仕方ないことだ。国王であるライニールよりも慕われているのだから。
ここで魔族だの魔王だの敵だの味方だの、考えるのは馬鹿らしかった。ただ大人しく供回りのようについてまわるのが、この場合での一番頭を使わないシンプルな方法だったのだ。
「みんなもう慣れきってるねぇ……」
「アリス様に慣れないだなんてそんな、無礼なことさせません!」
「いや……ルーシー。私の見た目と境遇、やる事やりたい事を知ったら、こんな事にはならないよ」
「ではアリス様が、統治に成功したということですな!」
「そうだねぇ……」
どちらかと言えば洗脳である。
そう口にしようとして、アリスは黙った。せっかく友好的になってくれているのだから、それをわざわざ口にするというのは無粋なことだ。
それにアリスのよく口にする「邪魔をするなら排除する」と言ったことにも、当てはまらない。だからこれ以上考えるべきではないのだ。
「あれから、どう?」
「家族ホムンクルスに関しましては、片付いております。最近平和になったせいか、乱闘が続きまして。巻き込まれたホムンクルスの治療などに追われる程度ですな」
パラケルススに進捗を聞けば、思いのほかいい返答が戻ってきた。
街の住民全員の家族を〝造る〟となると、相当な時間を要すると思われたがそうでもないらしい。
元々ゾンビであるパラケルススは睡眠を必要としないので、朝も昼も夜も働けるというもの。
勿論だがあまり連続で働かれても、それはそれでブラックだとアリスも止めた。
そんな訳で定期的に、休憩を挟むように伝えたのだ。
最初は「いいえ、早くこなしてアリス様のご期待に応えますとも」などと言っていたが、アリスが適当に理由をこじつけて――最終的には命令という形で休みを取るよう言った。
休みを挟んだところで、そもそもアベスカの住民自体が少なかったこともあり、仕事は順調を極めた。
希望者の募り方も人伝いだったため、もう最近はそう言った家族が舞い込んでこないのだ。
「そっか。ありがとう、パラケルスス」
「勿体なきお言葉」
「ひと段落ってことだよね。新たな計画を練ろうか」
エンプティ達に任せてきたリーレイとユータリスの、残りの身体検査も終わってることだ。
今後についてまた話をするべきだとアリスは思った。
「パラケルススはこれから城においで。これからの事を話し合わなくちゃ。ルーシーはこのままアベスカ常駐。内容は追って説明するね」
「御意」
「はぁーい!」
魔王城の玉座の間に、〈転移門〉が開く。高ランクの魔術を日常的に使い回しているのは、この城ではアリスのみだ。
当然その〈転移門〉から出てくるのは、アリスである。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、アリス様」
「うん、エンプティ」
「検査は概ね終了しております。混乱などなく、所有している他のスキルなども十分に振る舞えるものかと」
エンプティから報告を受けながら、アリスは歩く。
広々とした空間の最奥に設置された玉座に、あぐらをかいて座り込んだ。
「そか、ありがとね」
「いいえ。それで、アリス様。これからのご予定は?」
「パラケルススを呼んだ。ホムンクルス作成がほぼ終わったそうだから、次の仕事を振るよ」
「畏まりました」
エンプティが返事をしたところで、ゾロゾロと他の幹部がこの空間にやってくる。
「アリス様ッッ!!! お待たせ致しましたッッッ!!!」
「ふぃ~、最下位は免れた! ってあれ、ルー子は?」
「3着ぅ~! 僕ってばぁ、速くて可愛いだなんて最高だよねぇ」
「私めの仕事も頂けるのでしょうか?」
「間に合いましたぞ~」
「どうしましょう、どうしましょう……。一番遅いのはわたくしですわ……」
ハインツが爆音とも言える大声で入室。
ベルとリーレイが、その閉じる扉の隙間から瞬時に入る。
続いてしずしずとシスター・ユータリスが入ってくる。
転移の魔術でパラケルススが直接転移。
そして一番最後にオロオロとエキドナが入ってきた。
全員が玉座の前にたどり着き、自然な動作で跪く。
アリスの横に立っていたエンプティも、その中に加わった。
「みんな来てくれてありがと。ルーシーはアベスカに残してあるよ。監視がいないと怖いからね」
「なるほどです! あたしの疑問にお答え頂き、感謝申し上げます」
ベルとルーシーは仲がいい。
性格や趣味嗜好が違えど、見た目の年齢を近くなるよう設定しているおかげか、まるでクラスメイトのようによく一緒にいる。
アリスが会議をすると言っているのに、そのルーシーの姿が見当たらないことにベルは不思議に思ったのだ。
アリスは改めて話を開始した。
「まず私が不在の間、仕事を進めて城を守ってくれて、みんなありがとうね。じゃあエキドナから」
「はい……。各施設の点検は九割ほど済んでおります、おります……。しかしながら、必要な部屋が都度……話題に上がりまして……」
「うんうん」
「その度にヴァルデマル様をお借りして、魔術にて拡張を行っております……」
「イタチごっこだねぇ」
元々ヴァルデマルによって作られた、無駄な施設が多かった。
先日の浴場もそうだが、ヴァルデマルが使用しないのに作られた部屋や場所が多すぎるのだ。
それらを全てエキドナは欠陥がないか、何か仕掛けられていないかを探っている。
また、最近ではサキュバスを受け入れたり、スノウズを受け入れたりと入居者も増えている。そのため拡張に追われて、結局作業が進まないのだ。
「うーん、わかった。まだ勇者を招くつもりはないから、最低限、襲撃を防いでくれればそれでいいよ」
「御心のままに……」
「じゃあお次はハインツ。なにかある?」
「はッッ! 私は最近魔族のレベル向上を行っております!」
「あぁなるほど」
ハインツは対軍に特化した構成である。それと同時に、軍を率いるスキルも持ち合わせている。
具体的には強化をするスキルだ。
しかし威力が強すぎるせいで、レベルが未熟であると反動として後遺症が残る可能性がある。折角募った部下たちが、一回限りの使い捨てになるのは面倒である。
もちろん完全に死んでしまうというわけではないので、治癒魔術にて後遺症を取っ払えばいい話だ。
だがそれではあまりにも、コストパフォーマンスが悪すぎるのである。
「出来ればどの程度までレベルを上げておけばッ、廃人にならないかを調べたいのですがッ!」
「うーん。それじゃあパラケルススに協力してもらって。ヴァルデマルやフィリベルトから、〝素材〟を貰えば150レベルまで作れないかな?」
「最大レベルに到達出来るかはわかりませぬが……、承知いたしましたぞ」
「それじゃあ、みんな他にある~?」
アリスがそう聞くと、みなが首を横に振った。
ベルは元々任されている仕事という仕事がないし、エンプティは〝先日の一件〟でデスクワークにつきっきりだ。
シスター・ユータリスとリーレイは、創造後の仕事がないので適当なところで手伝いをしている程度だ。
だからこれからの話し合いにて、新たな仕事を待っている状態である。
「あの、アリス様」
「うん?」
「誠に勝手だとは理解しているのですが、あまりに内勤が続いていたので、自分もそろそろ外に出たいですな」
自主的に意見したのはパラケルススだった。
アベスカでの仕事は終わり、現在は次の仕事を待っている状態だ。
このままアベスカに常駐するとしても、やることはホムンクルスのメンテナンスや、本人の言う〝医者の真似事〟くらいだろう。
そんな意見を出したパラケルススに反論したのは、エンプティだった。
「ちょっと、パラケルスス。あまりにも自己中心的だわ。自らやりたいことを言うだなん――」
「いいよ」
「アリス様~!?」
「だってパラケルススは、頑張ってもらったから。幹部の中では、スキルの使用頻度も高かったと思うよ?」
「で、ですがっ」
すぐさま承諾したアリスだったが、頑固なエンプティが了承するわけもなく。
彼女を黙らせられるような案を出さねばならない。
頭を捻って何か良案はないか、とない脳みそをフル回転させる。
「あ」と声を上げてから、アリスは続けた。
「じゃあどうだろう。ユータリスは一応シスターでしょう?」
「そうですが……」
「パラケルススとユータリスで、アリ=マイアの他国に出向いてもらおう。それで、私の偉業を布教してもらおう」
「!!!」
「なんと」
「私もパラケルスス様と、ご一緒してよろしいのですか?」
アリスがそう言うと、エンプティも黙った。黙るどころかキラキラと目を輝かせている。
これはつまり「素晴らしい意見だ」と彼女の中で納得したのだ。
シスター・ユータリスだけならば、レベルの関係もあって少々不安だ。
だが回復にも特化しているパラケルススがいれば、万が一戦闘になったとしても不利にはならないはず。
何よりもアリスのことを広めてもらう。それはエンプティにとって、喜ばしいことだった。
「となればアリス様の宗教を、広めるということですかッッ!」
「ん? まぁそうかな」
「では宗教名を決めねばなりませんね!」
「確かに……。じゃあトレラント教で」
シンプルだったが、アリスのフルネームを知らない人間にとっては、新たな宗教だと思うだけだろう。
だがアベスカの民などアリスの正体を知っている信者からすれば、ぴったりな名前だった。
一体誰が宗教の神で、崇める対象なのか。信者しか知らない現人神の実態。
正直アリスからすれば特に何も考えないで出した名前だったが、他の幹部がそれを否定するはずもなく。
反対意見もないまま宗教名は〝トレラント教〟で決定したのだった。
「して、場所はどちらに向かえば?」
「そうだな。とりあえず隣国のオベールで頼むよ」
「心得ましたぞ」
「おはようございます!」
「おはようございまーす!」
「いい朝ですね!」
「市場を見ていかれませんか?」
人間に姿を変えていないというのに、アリスの名前を嬉々として呼ぶ人が多い。
フィリップとカイヤは後ろからついてまわるが、三組目から声を掛けられた時点で考えるのをやめた。
仕方ないことだ。国王であるライニールよりも慕われているのだから。
ここで魔族だの魔王だの敵だの味方だの、考えるのは馬鹿らしかった。ただ大人しく供回りのようについてまわるのが、この場合での一番頭を使わないシンプルな方法だったのだ。
「みんなもう慣れきってるねぇ……」
「アリス様に慣れないだなんてそんな、無礼なことさせません!」
「いや……ルーシー。私の見た目と境遇、やる事やりたい事を知ったら、こんな事にはならないよ」
「ではアリス様が、統治に成功したということですな!」
「そうだねぇ……」
どちらかと言えば洗脳である。
そう口にしようとして、アリスは黙った。せっかく友好的になってくれているのだから、それをわざわざ口にするというのは無粋なことだ。
それにアリスのよく口にする「邪魔をするなら排除する」と言ったことにも、当てはまらない。だからこれ以上考えるべきではないのだ。
「あれから、どう?」
「家族ホムンクルスに関しましては、片付いております。最近平和になったせいか、乱闘が続きまして。巻き込まれたホムンクルスの治療などに追われる程度ですな」
パラケルススに進捗を聞けば、思いのほかいい返答が戻ってきた。
街の住民全員の家族を〝造る〟となると、相当な時間を要すると思われたがそうでもないらしい。
元々ゾンビであるパラケルススは睡眠を必要としないので、朝も昼も夜も働けるというもの。
勿論だがあまり連続で働かれても、それはそれでブラックだとアリスも止めた。
そんな訳で定期的に、休憩を挟むように伝えたのだ。
最初は「いいえ、早くこなしてアリス様のご期待に応えますとも」などと言っていたが、アリスが適当に理由をこじつけて――最終的には命令という形で休みを取るよう言った。
休みを挟んだところで、そもそもアベスカの住民自体が少なかったこともあり、仕事は順調を極めた。
希望者の募り方も人伝いだったため、もう最近はそう言った家族が舞い込んでこないのだ。
「そっか。ありがとう、パラケルスス」
「勿体なきお言葉」
「ひと段落ってことだよね。新たな計画を練ろうか」
エンプティ達に任せてきたリーレイとユータリスの、残りの身体検査も終わってることだ。
今後についてまた話をするべきだとアリスは思った。
「パラケルススはこれから城においで。これからの事を話し合わなくちゃ。ルーシーはこのままアベスカ常駐。内容は追って説明するね」
「御意」
「はぁーい!」
魔王城の玉座の間に、〈転移門〉が開く。高ランクの魔術を日常的に使い回しているのは、この城ではアリスのみだ。
当然その〈転移門〉から出てくるのは、アリスである。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、アリス様」
「うん、エンプティ」
「検査は概ね終了しております。混乱などなく、所有している他のスキルなども十分に振る舞えるものかと」
エンプティから報告を受けながら、アリスは歩く。
広々とした空間の最奥に設置された玉座に、あぐらをかいて座り込んだ。
「そか、ありがとね」
「いいえ。それで、アリス様。これからのご予定は?」
「パラケルススを呼んだ。ホムンクルス作成がほぼ終わったそうだから、次の仕事を振るよ」
「畏まりました」
エンプティが返事をしたところで、ゾロゾロと他の幹部がこの空間にやってくる。
「アリス様ッッ!!! お待たせ致しましたッッッ!!!」
「ふぃ~、最下位は免れた! ってあれ、ルー子は?」
「3着ぅ~! 僕ってばぁ、速くて可愛いだなんて最高だよねぇ」
「私めの仕事も頂けるのでしょうか?」
「間に合いましたぞ~」
「どうしましょう、どうしましょう……。一番遅いのはわたくしですわ……」
ハインツが爆音とも言える大声で入室。
ベルとリーレイが、その閉じる扉の隙間から瞬時に入る。
続いてしずしずとシスター・ユータリスが入ってくる。
転移の魔術でパラケルススが直接転移。
そして一番最後にオロオロとエキドナが入ってきた。
全員が玉座の前にたどり着き、自然な動作で跪く。
アリスの横に立っていたエンプティも、その中に加わった。
「みんな来てくれてありがと。ルーシーはアベスカに残してあるよ。監視がいないと怖いからね」
「なるほどです! あたしの疑問にお答え頂き、感謝申し上げます」
ベルとルーシーは仲がいい。
性格や趣味嗜好が違えど、見た目の年齢を近くなるよう設定しているおかげか、まるでクラスメイトのようによく一緒にいる。
アリスが会議をすると言っているのに、そのルーシーの姿が見当たらないことにベルは不思議に思ったのだ。
アリスは改めて話を開始した。
「まず私が不在の間、仕事を進めて城を守ってくれて、みんなありがとうね。じゃあエキドナから」
「はい……。各施設の点検は九割ほど済んでおります、おります……。しかしながら、必要な部屋が都度……話題に上がりまして……」
「うんうん」
「その度にヴァルデマル様をお借りして、魔術にて拡張を行っております……」
「イタチごっこだねぇ」
元々ヴァルデマルによって作られた、無駄な施設が多かった。
先日の浴場もそうだが、ヴァルデマルが使用しないのに作られた部屋や場所が多すぎるのだ。
それらを全てエキドナは欠陥がないか、何か仕掛けられていないかを探っている。
また、最近ではサキュバスを受け入れたり、スノウズを受け入れたりと入居者も増えている。そのため拡張に追われて、結局作業が進まないのだ。
「うーん、わかった。まだ勇者を招くつもりはないから、最低限、襲撃を防いでくれればそれでいいよ」
「御心のままに……」
「じゃあお次はハインツ。なにかある?」
「はッッ! 私は最近魔族のレベル向上を行っております!」
「あぁなるほど」
ハインツは対軍に特化した構成である。それと同時に、軍を率いるスキルも持ち合わせている。
具体的には強化をするスキルだ。
しかし威力が強すぎるせいで、レベルが未熟であると反動として後遺症が残る可能性がある。折角募った部下たちが、一回限りの使い捨てになるのは面倒である。
もちろん完全に死んでしまうというわけではないので、治癒魔術にて後遺症を取っ払えばいい話だ。
だがそれではあまりにも、コストパフォーマンスが悪すぎるのである。
「出来ればどの程度までレベルを上げておけばッ、廃人にならないかを調べたいのですがッ!」
「うーん。それじゃあパラケルススに協力してもらって。ヴァルデマルやフィリベルトから、〝素材〟を貰えば150レベルまで作れないかな?」
「最大レベルに到達出来るかはわかりませぬが……、承知いたしましたぞ」
「それじゃあ、みんな他にある~?」
アリスがそう聞くと、みなが首を横に振った。
ベルは元々任されている仕事という仕事がないし、エンプティは〝先日の一件〟でデスクワークにつきっきりだ。
シスター・ユータリスとリーレイは、創造後の仕事がないので適当なところで手伝いをしている程度だ。
だからこれからの話し合いにて、新たな仕事を待っている状態である。
「あの、アリス様」
「うん?」
「誠に勝手だとは理解しているのですが、あまりに内勤が続いていたので、自分もそろそろ外に出たいですな」
自主的に意見したのはパラケルススだった。
アベスカでの仕事は終わり、現在は次の仕事を待っている状態だ。
このままアベスカに常駐するとしても、やることはホムンクルスのメンテナンスや、本人の言う〝医者の真似事〟くらいだろう。
そんな意見を出したパラケルススに反論したのは、エンプティだった。
「ちょっと、パラケルスス。あまりにも自己中心的だわ。自らやりたいことを言うだなん――」
「いいよ」
「アリス様~!?」
「だってパラケルススは、頑張ってもらったから。幹部の中では、スキルの使用頻度も高かったと思うよ?」
「で、ですがっ」
すぐさま承諾したアリスだったが、頑固なエンプティが了承するわけもなく。
彼女を黙らせられるような案を出さねばならない。
頭を捻って何か良案はないか、とない脳みそをフル回転させる。
「あ」と声を上げてから、アリスは続けた。
「じゃあどうだろう。ユータリスは一応シスターでしょう?」
「そうですが……」
「パラケルススとユータリスで、アリ=マイアの他国に出向いてもらおう。それで、私の偉業を布教してもらおう」
「!!!」
「なんと」
「私もパラケルスス様と、ご一緒してよろしいのですか?」
アリスがそう言うと、エンプティも黙った。黙るどころかキラキラと目を輝かせている。
これはつまり「素晴らしい意見だ」と彼女の中で納得したのだ。
シスター・ユータリスだけならば、レベルの関係もあって少々不安だ。
だが回復にも特化しているパラケルススがいれば、万が一戦闘になったとしても不利にはならないはず。
何よりもアリスのことを広めてもらう。それはエンプティにとって、喜ばしいことだった。
「となればアリス様の宗教を、広めるということですかッッ!」
「ん? まぁそうかな」
「では宗教名を決めねばなりませんね!」
「確かに……。じゃあトレラント教で」
シンプルだったが、アリスのフルネームを知らない人間にとっては、新たな宗教だと思うだけだろう。
だがアベスカの民などアリスの正体を知っている信者からすれば、ぴったりな名前だった。
一体誰が宗教の神で、崇める対象なのか。信者しか知らない現人神の実態。
正直アリスからすれば特に何も考えないで出した名前だったが、他の幹部がそれを否定するはずもなく。
反対意見もないまま宗教名は〝トレラント教〟で決定したのだった。
「して、場所はどちらに向かえば?」
「そうだな。とりあえず隣国のオベールで頼むよ」
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