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前編 第三章「動き出す歯車」
補填1
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「……と、言うわけで彼らが新しく加わったメンバーだよ」
魔王城、玉座の間。
アリスは全員を集めていた。アベスカに出張していたルーシーとパラケルススも含め、幹部全員がその場に会していたのだ。
それはもちろん、新たに手に入れた部下の情報を共有するためだ。
「はじめましてぇ、みなさん。僕はリーレイって言いまぁす♡」
リーレイ。
可愛らしい少年でもあり、少女の可憐さを併せ持った〝男の娘〟である。
斜めに切り揃えたぱっつんの前髪は淡いブルーをしていて、サラサラのセミロングヘアだ。
キラキラと輝く瞳はガラス玉で、彼が人形であると主張する。陶器のような白い肌は、ほんのりと各所が赤く色づいている。
大きなフリルのシャツに、グレーのスカパンを纏っている。ちらりと覗く関節は、人形によくある球体関節だ。
「リーレイはみんなと一緒で200レベルだから。ステータスは……まぁ各自で見てくれればわかると思うけど、機動力高めかな。あと変装が得意なんだ」
「はぁい! いっぱいお着替えできますよぉ」
「アリス様! あたしより速いんですか!?」
「ベルよりは遅いよ~」
「よ、よかった……アイデンティティが……守られた……」
焦っているベルを横目に、残りの一人の紹介をすすめる。
「じゃあ次ね」
「はい。シスター・ユータリスと申します」
淑やかにニッコリと微笑む顔は、どうも不気味で胡散臭い。
――シスター・ユータリス。
その名の通り修道服を纏った女だ。ウィンプルから覗く頭髪は、きらきらとしたプラチナブロンドである。
深い青の瞳が、何でも見透かすように周りを見ている。
「彼女のレベルは180。拷問官で知識人だよ。ヨナーシュ達が知らないことも知ってるから」
「お任せくださいませ」
「ではあの雑魚共は解雇ですね?」
微笑んで嬉々として喋るエンプティに、少し呆れながらもアリスは否定する。
貴重な高レベルの人員を「はい、さよなら」と切り離せるほど、アリスも有能ではない。
「ヴァルデマル達にも使い道はあるから……」
「失礼しました」
「それじゃあ、みんな二人と仲良くねー」
「御意」
紹介が終わると、アリスは玉座に腰掛けた。
リーレイとユータリスも各々の場所へと戻り、アリスへ傅く。
久々に幹部全員が揃ったのだ。ここで少し情報共有をしておくべきだろう、とハインツが口を開く。
「しかしッ、ジョルネイダも勇者を手に入れるとは! 我々の存在を感づいたのでしょうか!?」
「んー、そうでもなさそうだけど?」
「それよりは純粋な戦力として召喚したようですぞ」
「というと?」
アリスもオリヴァーから、詳しい話を聞いたわけではない。
新たな勇者が戦争に参加する可能性がある。それくらいで、魔王の存在を見たとかそういう話は言っていなかった。
そんな中パラケルススが民から聞いた話を、みなにわかりやすく喋り始めた。
「パルドウィンはそろそろ戦争が近いですからな。パルドウィンの勇者どもは棄権するそうですが、ジョルネイダはそれを知りませぬ。ジョルネイダはパルドウィンの勇者が参戦する前提で、調達したんではないですかな」
「それが一番聞いた中で、もっともらしい理由だねぇ……」
「では〝神〟という存在は、いずれ牙を剥くであろう新たな勇者に備えて、我々にも新たな戦力を与えたということですねッッ!」
「そうみたいだねー」
あの場で神と会話した限りでは、今回の勇者召喚は本当にイレギュラーであったように思えた。
しかしながらあまりにもベストタイミングすぎるせいで、それも信じて良いものか分からなくなる。
兎にも角にも、アリスは新たな部下を得られた。
この世界での強者を手に入れるのが難しい中で、そういった部下を増やせたことは貴重であり大事なことだ。
何よりも永遠に超えられない――1レベルを突破した部下を得られたのは、強みの一つだろう。
「アリス様、発言をお許しください」
「ん? いいよ、エンプティ」
「その二人の、身体検査をされては如何でしょう?」
エンプティの発言に、アリスは感心する。
エンプティの言う〝身体検査〟というのは、身長や体重をはかることではない。
与えられたスキルを使いこなし、習得済みの魔術の発動、戦闘能力を始めとする有している能力のテストだ。
別にアリスを、部下を疑っているわけではないが、生み落とされたタイミングが異なるがゆえに心配なのだろう。
新しいことには、エンプティの心配性がつきものだ。
「創造されたばかりの身、これからなにか任務に当たるとしても、十全に動けなければ大問題です。我々も当初は手探りでしたから、事前に確認出来たらと……」
「そうだね。じゃあ移動しようか」
「アリス様! あーしとパラケルススは、アベスカに戻っていいですか~?」
アリスが玉座から腰を上げると、ルーシーが挙手して発言する。
アベスカ組は時間を空けさせてもらい、わざわざ魔王城へ戻ってきてもらっていた。一時的とは言え時間を割いてもらっていたのだ。
ルーシーはまだしも、パラケルススには仕事があるのだ。
部下の能力テストなんて全員いなくても滞りなく進むわけで、アリスが二人の帰還を拒否する理由にもならない。
「仕事中に呼び戻したんだっけ。いいよいいよー」
「ありがとです!」
パラケルススとルーシーは、頭を下げるとそのまま転移の魔術でアベスカへと戻っていった。
残った部下達は、テストのための舞台へ移動するべく立ち上がる。
「じゃあ行きましょお~!」
「私も戦闘テストがあるのでしょうか? あまり得意ではないのですが……」
歩き出そうとするリーレイとシスター・ユータリス。
だが残っている他の面々は動こうとしない。むしろ歩いていく二人を不思議な目でみていた。
誰も扉へ向かう二人を止めないので、口を開いたのはアリス。
「ちょっと待ちなさいな、お二人さん。この城はアホみたいに広いんだから。バカ正直に徒歩なんて駄目だよ」
「アリス様はよく迷子になられるから、いちいち歩かれないのよ。大抵は〈転移門〉を使われるわ。覚えておきなさい」
「エンプティさんは一言多いぞ?」
アリスは血色の悪い白い肌を真っ赤にしながら、エンプティの肩を叩く。
図星だったからに他ならない。せっかく格好良く〈転移門〉を見せて驚かせようとしているというのに、エンプティが事実を言ってしまうのだから。
アリス以外、幹部は部屋を把握している。全てとは言わないが、アリスよりもこの城を歩き回る時間が長い故だろう。
エキドナ、エンプティ、ハインツは特にそうだ。城の改築と防衛を任されている以上、知らない施設があるのはおかしいのだ。
「もう。……ごほん。じゃあ行こうか」
アリスは改めて〈転移門〉を召喚した。慣れた様子でみながそこに入っていく。
通った先は格闘場。アリスも他の幹部もよくお世話になっている、練習場だ。
「じゃあまずユータリスね。スキル2つは……今は使えないから、捕虜の上級悪魔にでも使って試して。〝本〟は使える?」
「少々お待ちを――〈教典〉」
シスター・ユータリスがスキル名を告げると、どこからか分厚いハードカバーの漆黒の本が現れる。
シスター・ユータリスの前でふわふわと浮いているその本は、彼女からの次の動作を待っている。
そして彼女が表紙を指でゆっくりとなぞれば、なぞった部分から血液のような赤色が広がっていく。全体が真っ赤に染まると、今度は本がひとりでに開き始めた。
「作動はするみたいだね。それじゃあ……ジョルネイダで一番偉い人は?」
「はい。えぇと、テオフィル・ル・シャプリエ大公ですね」
「よしよし、大丈夫そうだ」
〈教典〉はシスター・ユータリスのスキルの一つ。
この世界に関する知識が全てそこに書かれている。
アリスは知識人としてヨナーシュを買っていたが、それは彼の知見したことのみにすぎない。
アリスの本当に知りたいことを知らない可能性だってある。それをどうしても避けたかった。
今後シスター・ユータリスは、幹部の知識人として重宝されることだろう。
それはアリスに限った話ではなく、エンプティやハインツなどもよく関わってくることだ。だから誰もがシスター・ユータリスのスキルを見て、関心を寄せていた。
「というわけで、このスキルは世界のすべてが詰まってる。もしも分からないことがあったら、ユータリスに聞いてね」
「了解致しました!!」
「かしこまりました、アリス様」
「あー、あと、彼女の他のスキルは拷問向きだから……、ハインツ。後でテストしてもらえる?」
「なんと! 承知しました!」
「じゃあ次はリーレイかな。ベル、おいで」
リーレイが前に出て、呼ばれたベルも前に出る。
シスター・ユータリスは戦闘向きとは言えないので省いたが――リーレイは戦うことが出来る。
なんと言ってもベルに次ぐ機動力を持っているので、相手にできるのはベルかアリスだけだ。
他の幹部は邪魔にならないよう下がっていく。全員が下がったのを確認すると、アリスが口を開いた。
「スピードがちゃんと出るか確認するだけだから。武器は禁止ね」
「はいはーい」
「わっかりましたぁ♡」
「それじゃあ――はじめ!」
魔王城、玉座の間。
アリスは全員を集めていた。アベスカに出張していたルーシーとパラケルススも含め、幹部全員がその場に会していたのだ。
それはもちろん、新たに手に入れた部下の情報を共有するためだ。
「はじめましてぇ、みなさん。僕はリーレイって言いまぁす♡」
リーレイ。
可愛らしい少年でもあり、少女の可憐さを併せ持った〝男の娘〟である。
斜めに切り揃えたぱっつんの前髪は淡いブルーをしていて、サラサラのセミロングヘアだ。
キラキラと輝く瞳はガラス玉で、彼が人形であると主張する。陶器のような白い肌は、ほんのりと各所が赤く色づいている。
大きなフリルのシャツに、グレーのスカパンを纏っている。ちらりと覗く関節は、人形によくある球体関節だ。
「リーレイはみんなと一緒で200レベルだから。ステータスは……まぁ各自で見てくれればわかると思うけど、機動力高めかな。あと変装が得意なんだ」
「はぁい! いっぱいお着替えできますよぉ」
「アリス様! あたしより速いんですか!?」
「ベルよりは遅いよ~」
「よ、よかった……アイデンティティが……守られた……」
焦っているベルを横目に、残りの一人の紹介をすすめる。
「じゃあ次ね」
「はい。シスター・ユータリスと申します」
淑やかにニッコリと微笑む顔は、どうも不気味で胡散臭い。
――シスター・ユータリス。
その名の通り修道服を纏った女だ。ウィンプルから覗く頭髪は、きらきらとしたプラチナブロンドである。
深い青の瞳が、何でも見透かすように周りを見ている。
「彼女のレベルは180。拷問官で知識人だよ。ヨナーシュ達が知らないことも知ってるから」
「お任せくださいませ」
「ではあの雑魚共は解雇ですね?」
微笑んで嬉々として喋るエンプティに、少し呆れながらもアリスは否定する。
貴重な高レベルの人員を「はい、さよなら」と切り離せるほど、アリスも有能ではない。
「ヴァルデマル達にも使い道はあるから……」
「失礼しました」
「それじゃあ、みんな二人と仲良くねー」
「御意」
紹介が終わると、アリスは玉座に腰掛けた。
リーレイとユータリスも各々の場所へと戻り、アリスへ傅く。
久々に幹部全員が揃ったのだ。ここで少し情報共有をしておくべきだろう、とハインツが口を開く。
「しかしッ、ジョルネイダも勇者を手に入れるとは! 我々の存在を感づいたのでしょうか!?」
「んー、そうでもなさそうだけど?」
「それよりは純粋な戦力として召喚したようですぞ」
「というと?」
アリスもオリヴァーから、詳しい話を聞いたわけではない。
新たな勇者が戦争に参加する可能性がある。それくらいで、魔王の存在を見たとかそういう話は言っていなかった。
そんな中パラケルススが民から聞いた話を、みなにわかりやすく喋り始めた。
「パルドウィンはそろそろ戦争が近いですからな。パルドウィンの勇者どもは棄権するそうですが、ジョルネイダはそれを知りませぬ。ジョルネイダはパルドウィンの勇者が参戦する前提で、調達したんではないですかな」
「それが一番聞いた中で、もっともらしい理由だねぇ……」
「では〝神〟という存在は、いずれ牙を剥くであろう新たな勇者に備えて、我々にも新たな戦力を与えたということですねッッ!」
「そうみたいだねー」
あの場で神と会話した限りでは、今回の勇者召喚は本当にイレギュラーであったように思えた。
しかしながらあまりにもベストタイミングすぎるせいで、それも信じて良いものか分からなくなる。
兎にも角にも、アリスは新たな部下を得られた。
この世界での強者を手に入れるのが難しい中で、そういった部下を増やせたことは貴重であり大事なことだ。
何よりも永遠に超えられない――1レベルを突破した部下を得られたのは、強みの一つだろう。
「アリス様、発言をお許しください」
「ん? いいよ、エンプティ」
「その二人の、身体検査をされては如何でしょう?」
エンプティの発言に、アリスは感心する。
エンプティの言う〝身体検査〟というのは、身長や体重をはかることではない。
与えられたスキルを使いこなし、習得済みの魔術の発動、戦闘能力を始めとする有している能力のテストだ。
別にアリスを、部下を疑っているわけではないが、生み落とされたタイミングが異なるがゆえに心配なのだろう。
新しいことには、エンプティの心配性がつきものだ。
「創造されたばかりの身、これからなにか任務に当たるとしても、十全に動けなければ大問題です。我々も当初は手探りでしたから、事前に確認出来たらと……」
「そうだね。じゃあ移動しようか」
「アリス様! あーしとパラケルススは、アベスカに戻っていいですか~?」
アリスが玉座から腰を上げると、ルーシーが挙手して発言する。
アベスカ組は時間を空けさせてもらい、わざわざ魔王城へ戻ってきてもらっていた。一時的とは言え時間を割いてもらっていたのだ。
ルーシーはまだしも、パラケルススには仕事があるのだ。
部下の能力テストなんて全員いなくても滞りなく進むわけで、アリスが二人の帰還を拒否する理由にもならない。
「仕事中に呼び戻したんだっけ。いいよいいよー」
「ありがとです!」
パラケルススとルーシーは、頭を下げるとそのまま転移の魔術でアベスカへと戻っていった。
残った部下達は、テストのための舞台へ移動するべく立ち上がる。
「じゃあ行きましょお~!」
「私も戦闘テストがあるのでしょうか? あまり得意ではないのですが……」
歩き出そうとするリーレイとシスター・ユータリス。
だが残っている他の面々は動こうとしない。むしろ歩いていく二人を不思議な目でみていた。
誰も扉へ向かう二人を止めないので、口を開いたのはアリス。
「ちょっと待ちなさいな、お二人さん。この城はアホみたいに広いんだから。バカ正直に徒歩なんて駄目だよ」
「アリス様はよく迷子になられるから、いちいち歩かれないのよ。大抵は〈転移門〉を使われるわ。覚えておきなさい」
「エンプティさんは一言多いぞ?」
アリスは血色の悪い白い肌を真っ赤にしながら、エンプティの肩を叩く。
図星だったからに他ならない。せっかく格好良く〈転移門〉を見せて驚かせようとしているというのに、エンプティが事実を言ってしまうのだから。
アリス以外、幹部は部屋を把握している。全てとは言わないが、アリスよりもこの城を歩き回る時間が長い故だろう。
エキドナ、エンプティ、ハインツは特にそうだ。城の改築と防衛を任されている以上、知らない施設があるのはおかしいのだ。
「もう。……ごほん。じゃあ行こうか」
アリスは改めて〈転移門〉を召喚した。慣れた様子でみながそこに入っていく。
通った先は格闘場。アリスも他の幹部もよくお世話になっている、練習場だ。
「じゃあまずユータリスね。スキル2つは……今は使えないから、捕虜の上級悪魔にでも使って試して。〝本〟は使える?」
「少々お待ちを――〈教典〉」
シスター・ユータリスがスキル名を告げると、どこからか分厚いハードカバーの漆黒の本が現れる。
シスター・ユータリスの前でふわふわと浮いているその本は、彼女からの次の動作を待っている。
そして彼女が表紙を指でゆっくりとなぞれば、なぞった部分から血液のような赤色が広がっていく。全体が真っ赤に染まると、今度は本がひとりでに開き始めた。
「作動はするみたいだね。それじゃあ……ジョルネイダで一番偉い人は?」
「はい。えぇと、テオフィル・ル・シャプリエ大公ですね」
「よしよし、大丈夫そうだ」
〈教典〉はシスター・ユータリスのスキルの一つ。
この世界に関する知識が全てそこに書かれている。
アリスは知識人としてヨナーシュを買っていたが、それは彼の知見したことのみにすぎない。
アリスの本当に知りたいことを知らない可能性だってある。それをどうしても避けたかった。
今後シスター・ユータリスは、幹部の知識人として重宝されることだろう。
それはアリスに限った話ではなく、エンプティやハインツなどもよく関わってくることだ。だから誰もがシスター・ユータリスのスキルを見て、関心を寄せていた。
「というわけで、このスキルは世界のすべてが詰まってる。もしも分からないことがあったら、ユータリスに聞いてね」
「了解致しました!!」
「かしこまりました、アリス様」
「あー、あと、彼女の他のスキルは拷問向きだから……、ハインツ。後でテストしてもらえる?」
「なんと! 承知しました!」
「じゃあ次はリーレイかな。ベル、おいで」
リーレイが前に出て、呼ばれたベルも前に出る。
シスター・ユータリスは戦闘向きとは言えないので省いたが――リーレイは戦うことが出来る。
なんと言ってもベルに次ぐ機動力を持っているので、相手にできるのはベルかアリスだけだ。
他の幹部は邪魔にならないよう下がっていく。全員が下がったのを確認すると、アリスが口を開いた。
「スピードがちゃんと出るか確認するだけだから。武器は禁止ね」
「はいはーい」
「わっかりましたぁ♡」
「それじゃあ――はじめ!」
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