74 / 76
良いダイエットがあると言われて聞いてみたらセ◯クスはスポーツと言われました。
11
しおりを挟むエルバ様に抱き寄せられて転移した先にはスイさん一家がいた。
土の上で三人は跪いたまま肩を押さえつけられている。
スイさんとルルさんは顔面蒼白だが、イアンくんは私の姿を見つけた瞬間に睨みつけてきた。
「っ」
思わずビクリと体が強張った。
そんな私を囲う腕に力を入れたエルバ様は、おもむろに指を鳴らす。
パチン
最初彼が魔法を使ったのは分かったが、一体何をしたのかは分からなかった。
彼が私の前で魔法を使う時には景色が変わったり、何かが浮いたりと変化があったのだが今回は何も起きない。
(……?)
不思議に頭を捻っていると、
「…ぅ…ぅ…」
イアンくんからくぐもった声が聞こえてきた。
そこにいる全員の視線が彼に集まる。
前を見つめたままの彼の瞳はぼんやりとしていて、焦点が合っているようで合っていなかった。
彼はまるで白昼夢を見ているかのようだ。
「エルバ様…彼は?」
「催眠魔法の一種だよ」
「ちょっとした夢を見てもらっている、君を理解出来る様な、ね」
「大丈夫、全てじゃない、少しだけだ」
「彼の君への侮辱や心にもない謝罪を聞くよりも、この方がよっぽど効率的だろう?」
「そんなに時間は掛からない」と言う彼はいつも通りニコニコとはしているが、三日月に細められた眼には酷薄さが窺えた。
(催眠?……何を見せているの?)
彼の言った事が良く分からない。
「やめろ……ぅ、ぐ…」
でもイアンくんの様子から、良くない事とは分かった。
(…少しだけ??)
夢を見させられているイアンくんは初め顔を赤くして怒ったかと思うと、今度は青くなったり呻いたり泣いたりとしている。
どうにかしなければ、と焦りに胸が早鐘を打った。
イアンくんに掛かっている催眠魔法とはどういった物なのか。
数年前に開発されたとは聞いているし、授業でも触れていたのを必死に思い出す。
優良だけれども人を思うまま扱えるそれは強力過ぎて、詳細については秘匿されている。
使うには国の許可が必要で使い手は殆どいないため、エルバ様が使える事に少しだけ驚いた。
そして彼の言った「私を理解出来る様な」というのは、私の過去を再現して見せているのだろうか。
それは第三者としてただ見るだけの物なのか、それとも、他人の経験をその感情まで追体験させる物なのか。
イアンくんの反応を見ると後者な気がした。
側にいるスイさんとルルさんは龍人達に抑えられながら、顔を青ざめさせてそんな息子の姿を見ている。
尋常ではない事が分かるのだろう。
「ば、罰は私が受けますから!どうか息子を赦してください!」
「おやめください!」と二人は必死にエルバ様に頼んでいる。
その間もイアンくんの反応は止まる事なく弱くなっていく。
その変化が怖くて、私は彼が壊れてしまうのでは無いかと必死に静止を願った。
「エルバ様、もう十分です、やめてください!」
もし本当に私の過去を見せているのなら、過去に、私は死を望んでいたのだから。
イアンくんが私のようになるかは分からないけれど、もしそうなってしまったらと考えると体から血の気が引いていく。
「やめてください!お願いします!」
「まだだ」
私を囲う腕は優しいのに、いつもの彼ではなかった。
イアンくんを見る彼の眼は、まるで汚らしい物を見るような……私を虐めていた、他人の眼に似ていた。
そして、イアンくんの顔から全ての感情が抜け落ちた。
「や、めて…やめて!!!!!」
叫びながら彼の腕から抜け出し、イアンくんに駆け寄りその体を抱き締める。
魔法の無効化を強く願った。
魔王の時に魔法は全て無効化していたから、もしかしたらと思った。
ふ、と彼の体から力が抜けた。
彼が解放された事が伝わってきてほっと胸を撫で下ろすが、何故もっと早く気付かなかったのかと後悔が湧き上がる。
「…っ!」
次の瞬間、彼の絶望も伝わってきた。
過去の感覚が蘇る。
希望の何もない、過去の絶望が。
引き摺られそうになるけれど、抱き締めた時に作り上げた御手の揺籠に全力で魔力を送る。
女神様から与えられた『癒し』には心の傷にも効果があるのを、以前エルバ様が気付いてくれていた。
(エルバ様…)
彼がどうしてこんな事をしたのかは分かる。
彼の瞳には彼らには無かった怒りがあった。
私を甚振る人達の瞳の奥にあるのは嫌悪や侮蔑や嘲りだったから、先程の彼の眼は彼らとは似て非なる物だ。
(後で話し合わないと…でもまずは、彼を私と同じには絶対にしない)
私の痛みは私だけの物で良いのだから。
他の人はこんな痛みなんて経験しなくて良い。
私以外の人は皆んな、あんな理不尽を経験する事無く、生まれてから死ぬまでずっと幸せなままで良い。
腕の中の彼が穏やかに眠るまで、魔力を送り続けた。
眠る男を両親と共に解放し、あの男の元から戻ってきたリビアを有無を言わさず腕の中に閉じ込める。
救うためとはいえ、彼女に抱き締められる男への嫉妬に胸を焦がす俺は随分と心が狭くなった。
俺の腕の中から彼女が抜け出した光景が蘇る。
あの男にした事は後悔など露程もしていないが、彼女の先程の必死な様に見限られてしまったかと焦燥に駆られる。
逃がさないようにといつもよりも腕に力を込めたが、苦しくは無いだろう。
腕の中の彼女を窺うと、ピンクブロンドが見上げてきた。
いつもよりも強い眼差しをしている。
不安が頭を過ぎった。
彼女が俺から離れるつもりは無いとは思うが、もしそうしたいと望まれたらどうしようか。
趣味では無いが鎖でも付けて、二度と誰にも傷付けられないように、離れられないように閉じ込めようか。
「…エルバ様が、私のためにとした事とは分かります」
「ですが、もう二度としないでください」
見上げる彼女がそう言うのに、そんな思考から切り離される。
「私は私のような痛みを知る人を一人として作りたくありません」
「もし次に同じような事があったら…例えそれ以上に私が傷付けられたとしたら、その時は一緒にどうするかを考えてくれませんか?」
真剣に話す彼女にほっとした。
俺と彼女の意に沿わない事をしなくて済んだ。
彼女は向き合おうとしてくれている。
「…あぁ、そうすると約束するよ」
微笑みを浮かべて約束の言葉を使う。
もう二度と誰にも彼女を傷付けさせなければ良い。
復興もあと少しで終わる。
政の間は屋敷の外には出さない。
聖域の手伝いも共に行こう。
(俺は二度としないよ)
そう心の中で約束する。
やり方はいくらでもある。
既に先程の催眠魔法は拷問にも使われている。
発明したのはあの甥っ子達で彼ら以上の使い手はいないし、誰でも使える訳では無いが数少ない使い手を龍の国では囲っている。
この時代の政には善も悪も無い。
その事を彼女は知らなくて良い。
俺が用意した綺麗な世界で、彼女は綺麗な物だけを見ていれば良い。
その事実をいつか彼女が知ったら、どう思うだろうか。
今回の様に赦してくれるのか、それとも離れてしまうのか。
(それでも離せないんだ、ごめんね)
エルバは感情を匂わせない笑みを浮かべて指を鳴らした。
0
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
洗浄魔法はほどほどに。
歪有 絵緖
恋愛
虎の獣人に転生したヴィーラは、魔法のある世界で狩人をしている。前世の記憶から、臭いに敏感なヴィーラは、常に洗浄魔法で清潔にして臭いも消しながら生活していた。ある日、狩猟者で飲み友達かつ片思い相手のセオと飲みに行くと、セオの友人が番を得たと言う。その話を聞きながら飲み、いつもの洗浄魔法を忘れてトイレから戻ると、セオの態度が一変する。
転生者がめずらしくはない、魔法のある獣人世界に転生した女性が、片思いから両想いになってその勢いのまま結ばれる話。
主人公が狩人なので、残酷描写は念のため。
ムーンライトノベルズからの転載です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる