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ヒーローがいきなりヒロインにち◯こ突っ込んでくるんですが、見守るべきですか?
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しおりを挟む産婦人科から帰り、ハデスとお風呂に入っている。
相変わらずの狭い湯船に、彼に後ろから抱えられていた。
(家族が増えたらもっと広い家に引っ越さないといけないね)
そう思っていると、後ろのハデスがお腹に手を当ててきて、頭にキスを落としてきた。
「ふふ」
後ろにある漆黒の瞳を見上げると、愛しげに細められたそれが降ってくる。
(綺麗…)
夜空よりも暗くなったけれど、より光が際立って美しい。
彼の色が何故黒くなったのか、理由を聞いても答えてはくれなかった。
いつもとは違う彼に抱かれた時に何かあったのだろうか。
でも、その少し前の記憶をどうしても思い出せない。
(これも転生したせいなのかな)
彼の手に手を重ねて、閉じられる彼の瞳を見ながら唇へのキスを受け入れる。
唇が離れると
「のぼせるから出よう」
と彼に促された。
ドライヤーを掛けてもらいながら、私達の子はどんな子なのだろうと考える。
ハデスの様な力を持っているのだろうか。
住む次元が違うのに子を成せるなんてびっくりだ。
いつか、この子は父親の世界に行ってみたいと言うようになるのだろうか。
(そう言えば、前世の私は何で死んだんだっけ…前は思い出せてた気がするんだけど出来なくなっちゃった)
ハデスが言っていたけれど、記憶が不完全だったり、いきなり思い出せなくなるのは力が足りない中で転生したかららしい。
(でも、どうして転生したんだろ、それも真反対の弱いこの次元の世界に)
以前、「次元って何?」とハデスに聞いた事がある。
彼は料理中だったから、卵で教えてくれた。
「簡単に言うと空間の広がりだが、この目玉焼きの様な物と考えれば良い」
「白身が宇宙という空間で黄身がその宇宙に存在する世界だ」
「この黄身は一つではなく、白身の中に無数に存在している」
「この白身には端はあるが次元に端は無く、全ての次元は重なり合っていて、その重なりも無限だ」
こんな風に、と出来た目玉焼きを重ねていく。
そんなに焼いて大丈夫かなと思う位の量だ。
重ねた目玉焼きを横にして端と端を繋げた。
「カナの好きなドーナツの様に無数の次元が繋がり存在している」
「弱い次元から強い次元へ力は龍脈を辿り流れている」
「次元には強弱があり、それは優劣になる」
「それらの次元を創ったのは、存在すると存在しないが同時に存在する『混沌の神』だ」
とハデスは言った。
(なるほど………)
大量の目玉焼きはどうするのかとか、おやつのドーナツ使えば良かったんじゃないかなとか思ったけれど、楽しそうなハデスにまぁいいかと思う。
理解出来たか自信は無いが、彼のそんな話を聞くのは好きだ。
(前世でも、色々な研究をしていたハデスの話を聞くのが好きだったな)
ほとんどの目玉焼きを食べたハデスは「もう卵は見たくない」とげんなりとしながらも、私の質問に答えてくれた。
「俺と前世のカナの居た神界は強い次元に存在していて、この次元とは真反対にある」
「次元の強弱は生まれる魂=思念体の強弱と同じだ、弱きは強きには勝てない」
そうハデスは言っていた。
ならば、もし転生するとしたら普通は同じ強さの次元か、より強い次元を選ぶ気がするのだが、強い次元に行くには相応の力が必要なようだ。
(転生にはやっぱり何か理由があったの?弱い次元に来るくらいに力が足りなかった?)
思考の渦に嵌りそうな頭をハデスがマッサージしてくれる。
(………気持ち良い)
その気持ち良さに、思考が止まる。
(まぁ、いいや)
(考えた所で思い出せないし)
私は一度この世界に転生してしまったから、魂はこの世界の人よりはちょっと強いがあまり大差は無いらしい。
だけれども、「俺と交わっていれば力も元に戻る」と言われたのを思い出して顔が火照った。
「どうした?」
それに気付いた彼に問われて、何でもないと首を横に振る。
夕飯を食べた後、
「ずっと気になってたんだけど、ハデスはどうやって私を見つけたの?」
とカナが問い掛けてきた。
どのように答えようか。
ハデスはアルガリに教えられるまで、ティアの魂がどの次元に居るのか分からなかった。
もしかしたら消えてしまったかもしれないと絶望していたが、あの男に『ある知識』と引き換えに彼女の居場所を教えられた時は歓喜した。
(まぁ、そのまま伝えても支障は無いか)
ハデスはベッドでカナを抱き締めながら口を開く。
「……次元は重なり合っていると教えたな」
「それらの次元に生きる知的生命体はお互いに創造と破壊を繰り返している」
「その創造と破壊の繋がりも無限に存在し、神には神がいてそのまた神もいるんだが……ややこしいか」
腕の中で頭を捻っているカナが可愛くて笑みが浮かぶ。
「例えば、俺が神の世界を創造したとすると、俺はその神の世界に住む人々の神と言う事だ」
「逆に、俺が創造した神達もどこかの世界の神という事になる」
「なるほど…」と言いながらも難しい顔をする彼女に、「そういう物だと思ってくれ」と続けた。
「弱い次元の神は自分が神である事に気付かず、弱い彼らには力が集まりにくいため俺の様な能力も使え無い」
「創造の仕方や能力は次元により異なっているんだが、この次元では小説や漫画という形で世界を創造し、触れる事は出来ないが人々の運命を変える力を持っている様だ」
「そうなんだ…」
彼女は難しい顔をしながらも今度は納得したようだが、ここからが話の本番だ。
「カナが小説として描いた世界は、別の『神』が創造した物だ」
「え、そうなの?」
カナは驚いたようにこちらを仰ぎ見た。
「ああ、カナの魂に僅かに残った神力で奪える位に弱い次元の『神』なのだろうが、カナはそれらを奪ってしまった」
「そしてフィーネを生み出した…俺と番わせようとしていたな?」
冷えた視線でカナを見つめると、
「う、そ、それは…その時はそういう設定だったし…」
と狼狽えたが、はぁ、と溜息を吐き出す。
「ご、ごめんね?」
「まぁ良い、安定期に入ったらじっくり聞くから」
蠱惑的な笑みを浮かべるハデスに、カナは顔を赤くした。
その様子にハデスは、ふ、と笑う。
さらに頬を火照らせながらも、「それで?」とカナは続きを促した。
「恐らく、アルガリとあの男の持っている『デスクトップパソコン』は、『神』が自分の創り出した世界を取り戻すために生み出したんだろう」
「そして利用された」
「お陰でカナを見つける事が出来たんだ」
迅の記憶が戻ったのも、かの『神』の采配かもしれないが。
(感謝はしているが、意地の悪い『神』だな)
とハデスは思う。
そして、あの男に教えた知識『永遠の命を得る方法』を考える。
永遠を生きるには、『神』が設定した理を変えれば良い。
恐らく、それを教えてやったあの男は今頃成し得ているのだろう。
(俺も『神』を説得しないとな)
ハデスはカナを抱き締めながら、そのお腹を優しく撫でた。
いつか本物のティアが現れた時。
いつか彼が魔法から目覚めた時。
そう思うと、とても不安だった。
けれどハデスの話を聞いて、本当に私の前世はティアだったのだとホッとした。
私は彼を好きになっても良いと、彼の愛を受け入れても良いと許されたから。
そして同じ色になった彼に、仄暗い喜びを感じる。
(やっと、堕ちてきてくれた)
その漆黒を見る度に、前世からずっと有ったドロドロとした気持ちが喜ぶのを感じていた。
それを彼が知ったら離れて行ってしまうだろうか。
そんな思いを振り切るように、下腹を撫でるハデスの手の上に自分のを重ねる。
「……私、いつかハデスの創造した世界を一緒に旅してみたい」
「海中世界もあるんだよね?じゃあ習い事は水泳かな」
と笑うと、「そうだな」と彼も笑った。
漆黒を纏い、微笑む彼に見惚れる。
例え消えたとしても、
(ずっと一緒が良いな)
とカナは願った。
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