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ヒーローがいきなりヒロインにち◯こ突っ込んでくるんですが、見守るべきですか?
11 ※ ハデス✖️カナ
しおりを挟む窓から朝日が差し込む。
爽やかな朝だが、六畳一間の部屋は二人分の荒い呼吸と情事の匂いで満ちていた。
「カナ、おはよう」
「…ん♡…ハデス…ふ、ぅ♡…もう、おわり…」
後ろから甘やかに挨拶をしてくるハデスは、スッキリとして表情も晴れ晴れとしている。
対して、彼に片足を抱えられ剛直を挿れられているカナは、体を火照らせて汗だくで彼に行為の終わりを強請っていた。
初めての出会い以降、彼はあの服従させる力を使っては来ない。
だが、セックスを覚えたサル、発情期の猫のように抱いてきて、日に何度も体を重ねてくるようになった。
ここ毎日、早起きな彼は朝勃ちを必ず寝ている私に挿れてくる。
遠慮の無いその刺激でいつも起こされて、男性の生理現象とは言え、朝が弱い私にとっては堪ったものではなかった。
(それに、また夜には襲われるのだし…)
「そうだな、今日は婚姻届を出しに行く日だからな」
朝から寝込みを襲ってきた彼は機嫌良くそう言って、中から自身を引き摺り出した。
「は、ぁ♡」
いつもなら後3回はされているから、確かに彼は婚姻届を提出しに行くのを待ち望んでいるのかもしれない。
はぁ、はぁ、と未だ整わない呼吸を吐き出しながら、複雑な気持ちになる。
(彼と結婚、か)
結婚を申し込まれた時、何度も彼に問い掛けた。
「私はもうティアじゃないよ、前世も、違うかもしれないよ?」
「違わない、お前はティアでありカナだ」
「俺を利用すれば良い」
そう言って左手の薬指にキスを落とされた。
「後で指輪を買いに行こう」
甘く微笑む彼には、私の考えもお見通しらしい。
考えてみれば、彼は文句の付け所が無い。
姿形はピカイチ、性格は基本的に癖が無く穏やかで聞き上手、料理洗濯家事全般完璧だ。
彼の料理は味・見た目・バランス全て私に合わせて作られていて、ここ最近の私の体調は右肩上がりに良くなっている。
肌荒れも改善し、目の下の隈も消えて万年冷え性までも無くなった。
私の趣味についても彼は理解してくれている。
TL小説執筆を彼は応援してくれるし、彼の登場する小説の題名を諳んじられた時は恥ずかしくて死ぬかと思った。
だが「そんなカナも好きだ」と言ってくれて、私は正直とても嬉しかった。
「実際にやってみた方がもっと書けるんじゃないか?」
とお約束のように押し倒されて、ちょっとだけ積極的になってしまった気がする。
……痛い目を見たのでもうやらないけど。
因みにエッチも上手い……と思います。
この時点で彼との結婚に乗り気にならない男っ気無しのアラサー女子は少ないとは思うが、世の中先立つものはやっぱりお金である。
ハデスに犯され、『ティア』の記憶が蘇ってから二日後だった。
仕事は勝手に辞めさせられていた。
彼から解放された後、日付と時計を見て顔を青くした私に彼はその事を告げてきた。
どんな冗談だ、昨日の今日で会社を辞められる訳がないと確認したら「もう来なくて良いから」と淡々と電話を切られた。
怒鳴られると思ったのだが拍子抜けだ。
恐らく彼が力を使ったのだろう。
「カナは働かなくて良い」
と言う彼は、後ろから私を抱き締めて離れようとはしない。
彼は神だから大丈夫なのだろうが、私はただの人間だから生活しなければならないのだ。
「ここの家賃だって払わないといけないし…」
再就職先だって見つかるか分からないと落ち込んでいく私に、
「それなら心配はいらない」
とハデスは片手にトスっと神器『ノートパソコン』を召喚した。
画面を開き、数字とグラフを見せられる。
「勝手にカナの貯金を使ってしまったが、近い将来ざっと5億ドルにはなる」
「……………は、?………」
突拍子もない話で目が点になったままの私に、彼は説明してくれた。
私のいる世界はエネルギー資源が枯渇する寸前だったと言う。
確かにメディアはこぞってそれをニュースにしていたのを思い出した。
彼は再生可能な新エネルギーの知識を名も無い善良な科学者に天啓として授けたらしい。
「行動は速やかに、でなければ世界は滅びる」
と言うお告げもしたらしく、その科学者の行動は早かった。
次の日には何処ぞの、これまたハデスが天啓で告げた企業と契約し、新エネルギー開発事業としてその会社の株は跳ね上がった。
何と、それまでは私のなけなしの貯金で殆どの株が買えた位の名も無い企業がだ。
一月後の今、本当に資産は5億ドルになってしまった。
株の一部を売った大金は私名義の口座に入っているが、恐れ多くて彼に管理してもらっている。
だが彼は好きに使って良いと言うしお小遣いもくれるから、私の趣味はとても充実するようになった。
結局は金かと言われてしまうと反論は出来ないが、職を失っていなければ彼を養うのもやぶさかでは無かった。
前世でも彼はちょっと抜けているティアをいつも助けてくれていたから、そんな彼を今度は私が助けると思うと頑張れたのだが、やはり彼は要領が良いなと思う。
体を清められ、そんな事を思いながら私は朝食を食べている。
彼はコーヒーを飲みながらノートパソコンで作業をしていた。
株価の値動きを見るのと創造した世界の管理をする、彼の日課だ。
神器なのだが、彼の古代ギリシャ風の格好と現代的なノートパソコンはチグハグだった。
彼は家では大抵その格好をしているが、慣れているから過ごしやすいらしい。
(もうちょっと相応しい物を考えれば良かったな)
そう思うが、
(ティアも神器はノートパソコンだったっけ…)
と不思議な感覚を抱いた。
自分が小説を書くために考え出した架空の設定だったのに、前世かもしれない世界ではそれが現実だった。
ティアだった頃の記憶をはっきりと思い出せる。
その頃の姿は今とそんなに変わらない十人並みだが、神力のお陰なのか輝いていた。
ティアだった私は神で、世界を創造していた。
今の私はというとティアの時に持っていた力は無いが、アルは私を『神の神』と呼んでいたし、小説を書き、その中で一つの世界を創るという行為は確かに創造と同じなのかもしれない。
だが考えれば考える程、頭はこんがらがってしまう。
何故『神』だった私が『神の神』になったのかとか。
それとアルにティアにされたと思ったが、今は良く分からなくなった。
本当に私の前世はティアだったのだろうか。
一つ分かる事とすれば、
(ティアは………私はハデスが好きだった)
今の彼への気持ちも前世の記憶に引き摺られているのかもしれない。
朝食を食べながら彼を見る。
真剣だが余裕のある、仕事が出来る大人の男だ。
格好良くて見惚れてしまう。
急に彼が顔を上げて、ふ、と笑った。
それだけで胸がキュンとなるものだから、慌ててご飯を掻き込んだら咽せた。
「お茶を飲むんだ」
と彼に手渡されたそれを飲む。
態々背中を撫でに来てくれる彼に、好きと思ってしまう。
(もう私末期かも…)
非現実的な現実を手放せなくなりそうだ。
役場へ行き、婚姻届を提出した。
ハデスはどうやったのか戸籍を持っていた。
職員の人達が祝福の目で見てくるが、女性達の中には彼に見惚れている人もいる。
(そりゃあ格好良いもの)
と少しモヤモヤとする。
現代風な出立ちに変えた彼は、何処ぞのモデルですか、俳優ですか、と忽ち囲まれそうな位に格好良い。
スラリと伸びた長い足にテーパードパンツを履いて、サマーニットを着こなし、肩幅ががっしりしていて腰は引き締まっているのが分かる。
私を微笑みながらエスコートする彼は羨望の的だ。
その隣にいるのが十人並みの私だと言う事に、皆内心目ん玉飛び出るくらいに驚いているだろう。
(ここの職員さんは本当に出来た人達だ)
とほっとする。
彼と買い物に行く時は、道行く人の中には何であの女がと睨んでくる人もいるから。
気にしないと思ってはいても、心の何処かで自分は彼に不釣り合いだと思う自分がいる。
そんな気持ちを千里眼で見たのだろうか。
「いつかカナが堂々と俺の妻だと、俺しか見えなくなる位にカナを愛すから」
落ち込む私に彼はそう言った。
嬉しかったけれど、同時に怖くなった。
いつか本物のティアが現れた時。
いつか彼が魔法から目覚めた時。
彼と離れる事が辛くなりそうで。
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