世界が滅亡したので、獣人世界で幸せになります!〜番が三人いるんですが、女神様どういう事ですか!?〜

玉石 トマト

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ヒーローがいきなりヒロインにち◯こ突っ込んでくるんですが、見守るべきですか?

6 査問と神殺し

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そこは神界にあるフィーネの平屋のリビングだった。

(戻って、きた…?)

思念体となったフィーネは、堕ちる前のふわふわパジャマに戻っている。

短い間離れていただけだというのに、とても懐かしく思うと同時に何故か寂しくも感じた。

そんな気持ちから目を逸らして、自分を戻したであろう目の前の師に視線を向ける。

短髪の艶やかな濃紺の髪に、同じ色の夜空のような瞳には銀河が輝いている。

何の感情も感じさせない顔は無機質のように滑らかで無表情だが、男らしく美しい。

アルとは系統が違う美形だ。

フィーネが生まれた時に師事していた、幾星霜を生きる神。

彼はギリシャ神のような服を身に纏い、腕を組んで座り込むフィーネを無表情に見ていた。

尊敬する師の前では不適切だと思い、一瞬で装いを変える。

古代ギリシャのキトンだ。

思念体なので自由自在に変えられる。

「………」

「きゅ!?きゅぎゅー!!!」

そうしている内に師はぐしゃっと、いつの間にか手の中に掴んでいたあの毛玉を潰した。

苦しげな断末魔が部屋に響く。

「あ?!え?!」

毛玉は手の中で塵となり消えていった。

可愛い生き物に何をと彼を見るが、

「あれはこことお前の世界を繋いでいた………お前は何をしていた?」

「ぁ、ぇ、と…」

その言葉に、「私を堕としたのは毛玉だったのか?」と今更に気付く。

「アルの手先だよね?」とか、「だけどどうやって?」とかいう疑問は、師の無言の圧力で頭の隅に追いやられた。

何をしていたと言われてもどう答えたら良いのかと逡巡する。

「…あの男は?」

そう問われてギクッとする。

無表情で美丈夫な顔を見ながらも必死で頭を働かせるが、始めの言葉すら浮かんではこない。

「………」

彼は微動だにする事なく答えを待っている。

助けてくれた彼には感謝するが、どこまで知っているのかと冷や汗が出てきた。

もしかしてアルとの行為も知られているのか。

「はぁ、…俺はたった今連絡の無いお前の査問のためにここを訪れた」
「お前は肉体を得たようだが下界で何をしていた?」

黙り込むフィーネに焦れたのか彼が付け足す。

その言葉から、少なくともアルとのエッチを知られてはいないようだとホッとした。

「その…」

彼に下界に堕とされてからの出来事を掻い摘んで話す。

勿論アルとの行為関連以外だ。

「はぁ」

再び大きな溜息を吐かれた。

「俺はお前に確かに教えた筈だ、下界に干渉してはいけないと」

「はぃ…」

「お前はその理由まで話さなかった事を悔やませる奴だな」

「…理由、ですか?」

決まり事に理由などあったのかと驚く。

そして師は教えてくれた。

何故神が知的生命体に干渉する事を禁じているのかを。

「…神殺しがあった」

「っ」

驚き息を呑むフィーネを見ながら、彼は実際にその場面を見たかのように過去を語り始めた。



幾星霜も前の事、ある優しい神がいた。

彼女は下界を見る事が好きで、人間が好きだった。

ある時、その苦しむ姿を見ていられなくて世界に介入し始めた。

自ら人間の肉体に入り、側で見守った。

しばらくは上手くいっていた。

その美しい世界は常春で飢える事もなく、苦のない世界で人間達は遊び暮らしていた。

皆がその世界を楽園と呼ぶ程に。

「…だが、彼女は殺されてしまった」

「……」

「神を食べれば同じ力を得られると思った人間に殺されて食べられた」

「っ」

「肉体と繋がっている内に殺されれば神も死ぬ事を我等は知った」

神達は恐怖に慄いた。

それを重く見た彼等は、新しく生まれた同胞に『肉体を得られない』と教えるようになった。

「『干渉してはいけない』とも」

そこで師は言葉を切る。

「………」

フィーネは青い顔をしている。

頭が混乱していた。

「我々の存在を知的生命体に勘付かれてはいけないんだ」
「例え創世に神という存在の痕跡があったとしても、身近にしてはいけない」

「……はい」

「神界さえ無事ならば、一度目の過ちは許そう」
「だが、最早お前の介入は帳消しには出来ない」
「例えお前のせいでその世界が滅んだとしても、これ以上の手出しを禁ずる」
「以上だ」

それと介入の履歴は見ているぞと言い、暗く沈んだ表情で固まるフィーネを置いて師の姿は平屋から消えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




しばらくして、フィーネはのろのろとソファに腰を落とす。

いつもの自分の定位置だ。

下界に居た時はアルの膝の上が定位置だったな、と浮かんでくるのを首を振って消し去った。

「…自業自得」

下界へと堕とされ肉体に縛られて、無理矢理体を繋げられた。

それらは自分が世界に介入し過ぎたせいで起きたのだ。

今はその繋がりは感じない。

「私は間違っていたのですね…」

知的生命体を可愛い我が子と呼び、彼等の営みを見るのが好きだった。

特に彼等が作る愛の物語が大好きだった。

そして悲しむ子達に胸が締め付けられた。

彼等に愛のある優しい世界を、と望んだ事は間違いだったのだろうか。

「……分かりません」

(今ある世界を全て滅ぼして、『テンプレ』の通りに世界を創り直す?)
(あんなに綺麗な世界を、みのりちゃん達を、人々を、アル、を…?)

ブンブンとフィーネは頭を振る。

そんな事をするには、自分は本当に介入し過ぎてしまったようだ。

(絶対に嫌)

滅ぼすのも、このまま何もせずに世界が滅びるのを見るのも嫌だ。

「でも、どうするの?」

考えは堂々巡りする。


ふ、とノートパソコンを見て『テンプレ』という言葉に、師に世界創造やルールを教えられていた頃を思い出す。

それはずっと前、彼に意見した時だ。

「このテンプレ通りだと、永遠に持続可能なエネルギーがない限り、どう考えたって世界が存続して発展し続けるなんて無理ですよね?」
「世界を作るだけ作ってあとは見てるだけって」
「無責任種付けだと思います」

いつか世界が滅ぶ事を前提としているようなテンプレート。

「………お前は、とても人間的な考えを持っているな」


(師に無責任種付けとか…)

あの頃は生まれたばかりで若かった、とフィーネは遠い目をする。

何故その言葉を知っていたかは端折る。


「テンプレ…か」


そのまた昔の師の教えを思い出す。

その時のテーマは、


『何故世界創造にテンプレートがあるか』だ。


それは『神』についてから始まる。


神は、世界を創造するために生まれる。

時が来れば消える定めだが、創造を止めると神力は無くなり消えてしまう。

神が生き続けるには、世界を創造し続け神力を回収するしかない。

世界を創造するには神力が必要で、神力は知的生命体の文明が発展する事で強まる。

そのために、神は知的生命体の進化と文明の発展を優先させるのだ。


知的生命体が喜怒哀楽の強い感情を感じる方が世界は発展し、より多くの神力が集まる傾向にあった。

だからより過酷な環境の世界を創る神もいたが、それは容易く滅ぶ傾向にもあった。


ある世界は核爆弾で。
ある世界は魔王に滅ぼされて。
ある世界は人間自らが生み出した機械に乗っ取られて。


ならば創造する人間を従順な機械の様にしてしまえば良いと思うが、出来ないのだ。

知的生命体は必ず神に似せて創られる。

魂は神の思念体とほとんど同じ物だ。

それ自体に手出しは出来ない。

人間の肉体を環境に合わせた物にしたり、力を授けたりする事は出来るが。

人間が抱く感情は神も同じで、気性の激しい神もいれば大人しい神もいる。

だから、匙加減が難しくテンプレが出来た。

効率良く神力を回収し、滅びないためのテンプレが。


「……だけど、やっぱりそれって自分が生み出した物の責任を考えてないよね」
「目を逸らしてるよね」
「下界には、同じ感情を持つ人が居るんだから」

フィーネはずっと前から自分が思っていた考えに、やはりまた辿り着いた。


「ごめんなさい師匠、それでも私は可愛い子達を幸せにしたいのです」


そう口にしたフィーネは決心したように、自動で切れてしまったノートパソコンの電源ボタンを押した。

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