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本編

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「お食事です」

カミラさんがお盆をリアンさんに手渡した。

スープの入った皿が四人分載っていた。

(待って、行かないでカミラさん!!)

必死にそう念じて見つめるが、視線に気付かないカミラさんは、チラリと気遣わしげにこちらを見た後、一礼してすぐに出て行ってしまった。

(あぁ、行っちゃった)

「来たね♪」

先程の発言など忘れたかのように、ビオさんがスープを見て喜ぶ。

(そんなにお腹空いてたの?)

疑問に思うが、忘れてくれたのなら良い。

恥ずかしいのは未だに慣れない。

「はい、みのちゃん食べて♪」

「?うん」

ビオさんに体を起こされ、スープ皿を渡される。

すごくスープが好きなのかな、とそのご機嫌な様子に頭に疑問符が浮かぶ。

(まぁ、良いか)

「いただきます」

スープは程よく温かく、塩気が少し効いていて優しい。

体に染み渡っていくようだ。

(安定しておいしいなぁ)

カミラさんの料理は何でも美味しい。

世界を回る間、ずっとみのり達の食事を作ってくれていた。

観光は出来ないからとご当地料理も作ってくれた。

ちょうど良い量のスープを味わいながらも、あっという間に飲み干してしまった。

半日意識がなかったから、お腹が空いていた。

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さま♡」

まるで、新妻のように皿を受け取るビオさんは相変わらずご機嫌だ。

お盆に空になった皿が四人分乗っている。

「ふふ、じゃあみのちゃん、もう遅いし寝ようか♪」

「え?」

まだ目覚めたばかりなのだが。

「大丈夫、眠れるよ♪」

彼は何故か自信がありそうだ。

促されてベッドに横になる。

四人で寝ても十分に広いベッドは特注らしい。

三人が職人を急かしてまで用意した物だ。

職人には申し訳ないが、仲良く皆んなで眠れるのは嬉しい。

横になっても彼らは何もしてこない。

(??)

「おやすみ♡」

何もされない事にほっとしたのか、がっかりしたのか、複雑な気持ちを抱えたまま、ビオさんの言うように眠気が襲ってくる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



夜の帳が下り、辺りが静かになった頃。

みのり達のテント入り口の護衛は眠っているようだ。

「効いてるわ」

「…ローズ、本当にあの獣達にも効いてるんだろうな?」

「大丈夫よ、ちゃんとその筋の人から買ったんだから」

少し高く付いたが、父の伝手から買ったのだ。

効果は確実だろう。

テント入り口を潜る。

付き人に見張り役を命じた。

テント内はオレンジ色の光で満たされているが、細部を見るには暗い。

ベッドへ近づくと、女と美しい男達は寝ているようだ。

ふふ、と笑う。

やっと美しい男達が自分のものになるのだから自然笑みが溢れた。

媚薬も、あのいけすかない付き人が作ったスープに入れている。

もちろん処女でも感じて乱れる物を。

するすると身に纏うものを脱ぎ、シュミーズになる。

スティーブは脱がずに女の元へ行くようだ。

スティーブに計画を話した後、「まぁ、結婚前だしな」との建前の後に、彼は二つ返事で了承した。

(あんたにはスティーブがお似合いよ)
(私が彼等に愛されてる様を汚されながら見ていればいいわ)

もしかしたらスティーブとの性交でも泣いて喜ぶんじゃないかしら、とローズはニヤリと下卑た笑みを浮かべた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



やはり半日眠っていたからなのだろう。

浅い眠りに落ちていたみのりは、掛けていた上掛けを捲られて、シュミーズの裾を持ち上げられる感覚に、やっぱりするの?と寝ぼけ眼で相手を見る。

「何だこの布」

逆光で顔は見えないが、その体躯は番達より小さい。

「っ、だ、誰?!」

「ちっ、黙れ、あいつらが起きるだろうが」

体が知らない相手に押さえつけられていて、混乱と恐怖で固まってしまう。

「俺が相手してやるんだから嬉しいだろ?」
「何度も森の中に連れてかれてたよな?」
「あんなにヤられて大分具合が良んだろうなぁ、俺が確かめてやるよ」

その言葉と共に、男の手が下着を脱がそうとした。

「っ、やめて!!!!」

「ちっ、何だよ、脱がせねぇ」

男の指は何か薄い膜に当たり、下着を捕らえられない。

その間もみのりは抵抗し続ける。

「ちょっとやめてよ、起きたらどうするの」

「分かってるよ、黙れって言ってんだろっ!」

男が手を振り上げてきて、殴られる!と目を瞑った瞬間、

「ウガァアッッ」

バキィッとすごい音がしたかと思うと、体を押さえつけていた男が宙を飛んでいった。

寝ていたシアンさんが拳を振り抜き、リアンさんに抱き締められる。

「はぁ?眠ってたんじゃ、」

眠るビオさんに顔を近付けようとしていた聖女が、目を見開いて驚いていた。




「あんなの効くわけないよ?」

聖女は自分の下から声がして、バッと後退る。

「な、なんで?」

ビオが起き上がり、聖女を見据えた。

「何してるの?」

問われた聖女は、私なら大丈夫と男達を誘う。

「あ、そ、その子だと満足出来ないでしょうから、慰めにきたのよ?ねぇ、私とシましょ?」
「私の方が可愛いし魅力的だし、満足させてあげる」

その答えを聞いたビオは、顔を歪ませて聖女を睨む。

「は?あんたのどこが可愛くて魅力的なの?」
「性格ブスはお断りな?」

「な、何ですって!?」

「カミラ」

リアンが呼ぶと、暗闇の中からアサシンの姿でカミラが現れ、聖女と勇者をそれぞれに縛り上げる。

「あ、あんたっ、眠ってたんじゃ…」

「そいつを連れて行け、言った通りにな」

気を失っている勇者を痩身のカミラさんが担ぎ上げテントの外に連れて行く。

彼女は実はすごい力持ちなのだ。

一人になった聖女は呆然と床の上でシュミーズのまま縛られていた。

「さて、饗宴といこうか♪」

「は?」

聖女は自分の立てた計画の失敗に、ようやく気付き混乱した。

「どうしてスープに簡単に薬を入れられたと思う?」

「……」

「あんたに見せるためにわざわざ森の中でエッチしてたんだよね」
「欲求不満みたいだったから利用させてもらったよ」

「は?わ、私が欲求不満?」

「飢えた雌犬の顔で俺達に近寄るし、勇者は良くしてくれなかったんだね?バレバレだよ」
「予想通りの行動しちゃって、相当溜まってたみたいだねぇ?」

クスクスとビオが笑う。

「え?、は?」

顔を赤くしたり青くしたりと忙しい聖女は、状況に付いていけないようだ。

だが、みのりも付いていけていなかった。

(ぇ、と聖女が欲求不満?)
(最近外でされてたのって聖女に見せるため?)

自分と番とのあれやこれやを見られていたと思うと、羞恥で顔が熱くなる。

自分を抱き締めるリアンさんを見上げると安心させるように微笑まれた。

「媚薬と睡眠薬まで使って何しようとしてたの?」

「………」

全てバレてしまっている聖女は混乱したまま黙り込んだ。

ビオはニヤリとしながら続ける。

「実はね、付き人も護衛もみーんな起きて見てたんだよ」

「う、嘘、あの薬は強いのよ?!簡単には起きられないはず…」

はっ、として聖女は口をつぐむ。

「簡単に自白しちゃダメでしょ?」
「まぁ、あんたの付き人も証言してくれたから、自分を責めないでね?」

わざとらしい言い方に、聖女がビオを睨み付ける。

(あの裏切り者!!!!)

付き人は小さな頃から仕えていた者だ。

金で雇っていたが、おべっかが上手く可愛がっていたのに。

近しい人の裏切りに怒りで顔を歪ませる聖女を、みのりは哀れに思うが、薬を盛ってまで害そうとしてきた相手だ。

許せない。

ズクン

「ぁ」

(な、に?)

急に体の奥がイライラし始めた。

「ん、」

我慢しようとしても、そのイラつきはすぐに大きくなる。

「大丈夫か、みのり」

「…ぅ、ん」

抱き締めるリアンさんの感触や匂いにくらくらして、すりすりとその体に擦り寄ってしまう。

「みのり…」

彼は熱く見つめてくるのに、触れてこようとはしてこなかった。

もしかして聖女達が盛ったという媚薬の効果だろうか。

ビオさんと聖女の話から彼らも私と同じように薬を盛られているはずなのに、どうしてそんなに余裕があるのだろうか。

「みのちゃん効いてきたみたいだね」

ビオはみのりを見てから聖女に向き直る。

「あんたも可哀想だからね、欲求不満解消させてあげるよ」

「「え?」」

みのりと聖女の声が重なった。

一方は絶望の、もう一方は喜びの表情を浮かべる。

ビオはみのりに体を寄せ、彼女の火照る唇を舐め上げた。

「見てて良いから、自分で慰めていいよ」

そう言うと、聖女の縛りが解けた。
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