世界が滅亡したので、獣人世界で幸せになります!〜番が三人いるんですが、女神様どういう事ですか!?〜

玉石 トマト

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本編

31 十七国会議

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紋様を刻んだ二日後、牛獣人国にて、私と三人は十七国会議に招かれていた。

招かれると言うよりも、強制だ。

(お腹痛くなりそう……)

緊張して額から汗が出てきた。

「そんなに緊張するな、練習したように挨拶して微笑んでれば良い」

隣に立つリアンさんが手を握り宥めてくれる。

「ぅん」

だが、深呼吸をしても一向に緊張は解れない。

「大丈夫だよ、もう話は通してあるし」
「でも緊張してるみのちゃん可愛いね♡」
「ここで気持ち良くしてあげようか?緊張しなくなるくらい」

とビオさんが耳元で囁いた内容に、絶対それだけは嫌だとブンブンと頭を振り断る。

「ビオ、みのりを揶揄うな」

呆れたようにシアンさんが諌めてくれる。

「神の愛し子様、マクシミリアン王太子殿下、チェビオット第三王子殿下、ムルシアン将軍閣下、お待たせ致しました」

こちらへと促され、案内役に付いて回廊を歩いていく。

案内役の牛獣人は、肌は白くて髪の毛が黒と白のまだらだった。

シアンさんのような褐色の肌の人は、ここ牛獣人国に着いてからも見掛けてはいない。

希少なのかもと思った。


兵士や道行く人が礼をとる。

背の高く分厚い扉を抜けると、豪奢な長机と椅子に座る、様々な種族の王や女王達がこちらを見てきた。

その机と椅子が王達を乗せたまま、円形に連なっていたのを扇に広がるように滑らかに動く。

この世界には17の種族がいて、それぞれに国を持っている。

前世とは違い、同じ人種を肌や髪の色などで分けてはいない。

そして何と、王や女王達は皆顔が凄く良かった。

(あ、国のトップは皆イケメンってアドバイスしたな)

小説で多かったし、乙女の憧れである。

王達の目の前で立ち止まり、練習したように挨拶をする。

顔を上げて改めて王達を見ると、その中に狼と羊と牛の王もいた。

狼の王は、リアンさんがそっくりそのまま年を重ねたようなミドルガイだ。

羊の王はビオさんとはあまり似ておらず、彼は母親似らしい。

ニコリと微笑まれたのでペコリと小さくお辞儀する。

牛の王は、案内役の人や回廊ですれ違う人達と同じ髪色と肌だが、瞳が青く、他の人には無い色でシアンさんと同じだった。

もしかして血が繋がっているのかと思ったが、彼は孤児だったと聞いていたから違うのだろう。


「今日は来てくれてありがとう、神の愛し子と呼ばれる子」


真ん中に座る20代後半位の、肌に所々鱗を持った王が落ち着いた声で口火を切る。

艶のある暗い紅色の髪に紅い瞳、瞳孔が縦に細長い。

所々鱗のある尖った耳、そして彫りの深い彫刻のように美しい顔をしていた。

だが、畏怖を抱かせる風格がある。

「早速だが、番の契約を検分させてもらおう」

部屋の中には、大きなスクリーンといくつかの小さなスクリーンが天井間際の壁に浮かんでいる。

シアンさんが私のうなじを曝け出し、そこにある三つの噛み跡が定着している事を全てのスクリーンが映し出した。

小さなざわめきが広がる。

「本当に番が三人のようだ、それも獣化のできる三人の物でもある」

鱗を持った王は言う。

「神の愛し子と番が出会った状況は聞いている、最早疑う事はしないが」
「猿の王よ、貴方は何か言う事があるだろうか」

「……神の愛し子は我が国に降り立ったお方だ、なるほど次代の狼の王は狡賢い」
「我らから奪うとはな」

話を振られた猿の王はどこかやつれていた。

だがその瞳は力強い。




「奪うとは、失笑ですね、みのりは神よりこの世界に贈られた私の番」
「出会うべくして出会う運命がただ猿の国にあっただけです」

リアンがそう言葉を返した。

「其方が我が国に来た目的は外交と聞いていたのだが?」

「ええ、当初の目的は果たせました、しかしそこで番と出会えたのは予想外の僥倖でした」
「番と出会った場合、国を越えて住処を選ぶ事は国同士の取り決めで許されている事です」
「後日両国の申請も恙無く済んでおります」

みのりの召喚魔法については報告していない。

番との出会いは辻褄が合うように偽装されている。

猿の王は、苦々しい顔でリアンを見据えた。

「上手くやったようだな、態々地方に赴き其方を知らぬうつけ者に許可させるとは」
「神の愛し子殿の出自は両親共他界している孤児とは真か?」

「ええ、事実です」

今の時代では、孤児の出自など細かく分かるはずもない。

孤児院での記録も改竄済みだ。

孤児院を出てからの事は調べようもない。

「混乱に乗じて上手くやりおって」
「例え神の愛し子でなくとも、其方の番だと分かっていたならば許可などしなかったものを」
「真偽を確かめられぬ故許可を取り下げる事もできぬ、なぁ龍の王?」

顔に鱗のある龍の王はニコニコとしながら、二人のやり取りを聞いていた。

(龍の王!!ファンタジー!!)

みのりは龍と聞いて心の中で興奮していた。

失礼でもじっくりと見たいのを我慢して普通を全力で装う。

「決まりだからね」
「それに獣化が出来る獣人の申請を不当に許可せず、自国に取り込もうとするのは協定違反だ」

にこやかに笑いながらも、龍の王の細められた瞳は鋭く猿の王を見る。

「そうであったな」

と笑顔で返す猿の王も太々しい。

「では、神の愛し子殿は辺境の地の洞窟にいたとのことだが、外交目的であるのに何故そのような辺境の地まで行ったのか」

「それについては私から」

とビオが話し出す。

「みのりがリアンと出会った時には、既に『ナヤール』という街が側に出来ていたはずです」

「…なぜ其方が知っている」


「私が作った街ですから」


「………は?」


猿の王は口をあんぐりと開けて驚いた。

他国に街を作るとはどういう事だ、と、そんな報告は上がって来てはいない。

「特筆すべき所の無いただの下着工場ですから、報告までは必要ないと判断されたのでしょう」

そんなはずは無い。

街まで出来てしまうくらいなのだから。

ビオは抑制薬を開発した時から商業にも幅広く手を出していた。

抑制薬は国に権利を譲渡してあるが、自分名義で下着会社を起業して密かに猿獣人国に支部を作っていた。

みのりと暮らすための対策をビオは色々としていた。

こうなる事も予想していたのかもしれない。

『ナヤール』の街周辺の地域を治める領主は、その下着の優良性を知っていながらも報告していなかったのだ。

ビオの協力の下、密かに街を発展させ雇用と流通を生もうとしていた。

「何か理由があったのかもしれません、特筆すべき所の無いただの下着ですが、魅力的ではあるかもしれませんね」

ビオが案内役に合図すると、カラカラと音をたてながら部屋にディスプレイトルソが入ってくる。

それに飾られていたのは、

「「「「「な?!」」」」

そう、エロ下着である。

「いいね」

と龍の王はニコニコだ。

「閨用の下着ですので、リンゼン辺境伯は報告しづらかったのかもしれません」

気を遣わせてしまいました、と悩ましげにビオは言うが、全く悩んでなどいなさそうな顔である。

皆一様にごほん、ごほん、と咳払いをしつつ、「しょうがないんじゃないか?」とか、「妾の国にも…」とか「猿の国がうらやま、ごほんごほん」とか言っている。

(そういえば、獣人は性に奔放とかもアドバイスしたなぁ)

と貫禄のあった王達のその様子に、女神様ちゃんと聞いてくれたんだねとみのりは遠い目をする。

「つまり、狼の王太子はその閨用の下着の視察に訪れた先で番と出会った、という事だね?」

「ええ、是非とも支部も見たいと飛空艇を飛ばしてまで猿の国を訪れたのです」
「リアンも王太子という立場上、自国のため、優良なものに行動を起こすのは当然の事」
「ですがまさか猿の王が知らなかったとは…」

龍の王とビオはまるで示し合わせたかのように話す。

「貴方はもっと自国を見ることだね」

と龍の王はニコニコを崩さず猿の王に言う。

魔王の件しかり、下着会社の件しかりを揶揄している。

「はぁ……そのようだ」

猿の王は、壮年に差し掛かっていながらも美しい顔を苦々しく歪めて嘆息する。

「魔王討伐が成就した折には、我も関わらせてもらうぞ」

「ええ、要相談ですね♪」

ビオさんはニコニコである。

その顔は龍の王とどこか似ている気がした。
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