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本編

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「私は今後必ず番に頼り、喚ぶ事を誓います」

番達の話し声に目が覚めたみのりは、ビオに後ろから抱かれながら三人の前で約束させられていた。

ビオが左胸に触れると、紋様が浮かび上がり消える。

約束を違えた時に何か罰があるらしいが、いくら聞いても教えてはくれなかった。

目覚めてすぐに、

「意地悪してごめんね、でもみのちゃんも俺たちに意地悪したんだからおあいこね♡」

と言われて紋様について説明された。

シアンさんと二人で、リアンさんの説得と私のために暗躍していた事も。

二人を喚ばなかった事で、辛い想いをさせていたとは思わなかった。

私は相手の事を考えているようで、相手の頼って欲しいという感情などは考えていなかったのだ。

相手の状況を考えずに喚ぶ事はやっぱり良くないと思うけれど、もっとやり方はあったのかもしれない。

私はただ、嫌われてしまう事を恐れていた。

好きとか愛とかの感情に未だ疎く、無意識に自分のために予防線を張ってしまうのだ。

(頼る、か)

「はい、いいよ♪」
「みのちゃんの説得のおかげで俺達も紋様刻めたから、これで仲良く番えるよ♪」

左胸の紋様が浮かんで消えたのを確認したビオさんが言う。

「うん、ありがとう」

そう感謝しながら、彼を見上げて思う。

(こんな風にリアンさんも説得出来たのは、私ではなくてビオさんのおかげ)
(…私は何も出来なかった)

私を想ってくれている人。

彼から愛してると言われた事は無いがここまでしてくれて、私は彼に想いを返していない。

もう、彼への感情が何かは分かっている。

「ビオさん…」

「なぁに?」

「好き……愛して、ます」

私からの告白みたいだ。

みたいというか、そうだ。

(は、恥ずかしい、どうしよう全く違かったら、)

彼の顔を見ながら、みのりは赤くなったり青くなったりしていた。

目の前の番が微動だにしないから、余計不安になってくる。

はぁぁぁああ

彼が大きく溜息を吐きながら、

「直接言われると破壊力ヤバい……」
「みのちゃんに言わせたくて俺から言うの我慢してたんだよ」
「はぁ、可愛くて爆発しそう…ホント俺グッジョブじゃない?」

私の肩口に顔を伏せたビオさんがクスクスと笑うのがくすぐったくて、凄く嬉しそうだから私も笑ってしまう。

後ろに感じる熱が一段と熱くなった気がした。

「このままもう一戦シたいところだけど、そろそろ眠くて限界」
「また後で改めて告白してね♡一回じゃなくて何回でも良いよ♡」

ビオさんはそう言うと、私を抱き締めたまま横になって目を瞑る。

シアンさんが反対側に横になって川の字になる。

ベッドが大きいから三人で寝ても十分広い。

「はぁ、俺のベッドなんだが…仕方ない…」

リアンさんはそう言うと、仕事してくると部屋から出て行く。

しばらくして両隣から寝息が聞こえてくる。

体に巻き付いている二人の腕が重くて身動き出来ない。

(私眠れるかな?)

二人は凄く頑張ってくれたし、腕を退かすのは忍びなかった。

諦めて先程の紋様についてを思い出す。

三人の紋様は、気絶する程の痛みと聞いて

「みのりの紋様は痛い事は無いから大丈夫だ」

とリアンさんが言ってくれた事に、申し訳ない気持ちになった。

(いつか紋様が無くても、仲の良い関係が築けると、いい、な…)

やはり疲れていたのか、隣に羊さんがいるからか、みのりは心地良い眠りに身を任せた。









(リアン視点)


リアンは、自分から離れようとする番を追うのに投げ出した仕事を片付けるため、執務室に向かっている。

番の契約のメリットの一つに、番の気配に敏感になるというものがある。

例えば、王都内位の広さであればみのりの居場所はある程度分かるのだ。

(みのりを捕まえたは良いが、最早俺だけの番では無くなってしまったな)

そう思う一方、今は意外と受け入れてしまっている事が不思議だ。

以前から獣化関係で交流があり、少なからず情を持っていたからだろうか。

みのりが嬉しそうにビオに抱き着いた時は殺意が湧いたが、彼女が俺達を平等に愛すならば、嫌われるような真似はしたくない。

(まぁ、全くのマイナスにはならなかったからな)

とリアンは自分が付けた条件を思い出し、頬を緩ませて執務室に入る。

「殿下におかれましては、ご機嫌ですね」

いつもの皮肉げな声を辿ると、眼鏡を掛けたエンリケが自分の机に腰掛け資料を見ていた。

「ああ、誰かが賊の肩を持っていたようでな」

「誰かが現実を見ずに女にうつつを抜かしていましたからね」

賊も攻略し易かった事でしょう、と眼鏡をクイッとしながら付け加える。

(ああ言えばこう言う奴だ)

「俺の噂をあいつらに教えたのはお前だな」

「番様にも会わせてもらえず、忠言も聞いてももらえず邪険にされて、悲しくて思わずツルっと口から飛び出た独り言を聞かれたのでしょうね」

「………」

「………」

「……………すまなかったと思っている」

はぁ

エンリケが溜息を吐く。

「貴方は賢いが、愚直です」
「自分の感情に惑わされる事があるのは分かっていました」
「それを補佐するのも私の役目、この国の次代の王は貴方しかいないと信じている私が、貴方の碇となる事もまた役目です」
「今回のことは気になさらないよう」

「………」

本当にどこまで俺の事を分かっているんだ。

この男の忠誠が嬉しいが、身が引き締まる。


「それと、番様は随分と平和な世界から来たようですね」

「……」

エンリケの口調がまた皮肉げに変わる。

「殿下と番の事を話し合うために随分と苦心していたようですが、手が甘い」
「自分の首にナイフでも当てて血の一つでも流してやれば、殿下でなくともここの者は話を聞いたでしょうに」
「カミラも何かしらの提言も出来た事でしょう」

「自分の力で、人に頼らないでと言うのはそういう世界から来たからでしょうか」
「人に頼れないのかもしれませんが、王太子妃として、または他二人の番の相手として未来が危ぶまれますね」
「邪な思いのある者に容易く掌で弄ばれることでしょう」

「婚約者教育もスローペースと流されはするけれども覚悟が無い様子、これからの事に頭が痛くなります」


「………そう言ってやるな、みのりはこの世界に来たばかりなんだ」


「そう悠長に言っていられますか、諸外国では既に魔王や勇者聖女の話題で持ちきりです」

「殿下が広めた小説のおかげで、神の愛し子様もすぐに受け入れられるでしょう」
「それも番三人とも獣化のできるお方達ともなれば、魔王討伐のために呼び出されるのも必至、勇者や聖女の真偽は分かりませんが、共闘も持ち掛けられるでしょう」

「少し調べましたが、勇者や聖女の良い噂は聞こえてきません、唯一の弱点であるみのり様を狙われる事もあるかもしれません」
「みのり様自身も誰に頼り、誰を遠ざけるか考え、身を守れるようにならなければいけません」

エンリケは間髪入れずに話したが、彼の話は的確なのだがいつも長い。

「分かっている…みのりの事は考えよう」
「魔王誕生の背景と、勇者と聖女についても調べさせる」
「魔王の影響については頼むぞ」

「はいはい、御意に」
「私とカミラの休みの事なんて忘れてますよね」

「…………」

(しまった、忘れてた)

その後、リアンの机の上に追加で山のような書類が置かれたとかいないとか。
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