世界が滅亡したので、獣人世界で幸せになります!〜番が三人いるんですが、女神様どういう事ですか!?〜

玉石 トマト

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それから一週間が経ち、リアンさんが相当なヤキモチ焼きだと分かった。

他の男性を見つめるのはダメと釘を刺されたし、実際に嫉妬されると身が持たないのだ。

私たちは未だ『蜜月』らしく、仕事を休んでいる彼は私にピッタリと張り付いている。

『蜜月』というのは、結婚したり番った者同士がデートをしたり、イチャイチャする期間とカミラは教えてくれた。

通常一月はその期間を設ける所、彼は王太子なので二週間が限界とも聞いて、この期間はなるべくヤキモチを焼かせないように気をつけようと思った。

でも彼がヤキモチ焼きだとすると、シアンさんやビオさんの事はどうすれば良いのか分からなくなってしまう。

ビオさんの言うように『番仲間同士仲良く』というのは、難しいのではないだろうか。

二人とはリアンさんと再会してから一度も会っていない。

私が召喚魔法で喚び出すのは、やはり仕事中だったらとか、寝ていたらとか考えてしまって出来そうにない。

二人は召喚魔法を使えるんじゃないのかな、と思うが、何かあったのかと心配してしまう。

(もしかして、嫌われた?)
(ダメ、信じるって決めたでしょ)

(もし、このまま三人が仲良くできなかったらどうすれば良いの?)
(でも…もしも、無理なら誰か一人を選ぶなんて出来ない…).

(抑制薬があれば、何とかやってけるかな…)

何もする事がない時に、色々な考えが湧いては消える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王太子宮に来てニ週間が経った。

蜜月も終わり、リアンさんは仕事に復帰している。

シアンさんとビオさんとエッチをしていないための欠乏症は、抑制薬が召喚できる事が分かって少し疼くくらいで収まっている。

今でも私の身の回りの事は全て彼とカミラがやってくれていて、受け取るばかりで申し訳ない。

その気持ちを彼に相談したら、何と「俺の婚約者としての教育を受けるから今は暇をしていて良い」と言われた。

その話しを聞いた時、私は固まってしまった。

シアンさんとビオさんもいる。

二人とも大事な番だ。

さらに、前世の事もあって怖くなった。

(教育って何するの?怖い)
(もう辛いことを我慢したまま頑張りたくない)
(ちゃんと二人の事も話し合わなきゃ、まだリアンさんの婚約者になる訳にはいかない)
(まだこんな覚悟も無いヤツを王太子妃にしてはいけない)

「待って…」と彼を止めて番の二人の事を話そうとしたら、その場で事に及ばれて二の句が継げなくなった。

それ以降も、全くそこから先の話が進まない。

何とか話し合おうとしても、「私の他の二人の番の事なんだけど…」と言った庭園の木陰で初めての青姦をされ、その後も「あの、二人の事で…」と話し掛けたウォークインクローゼットで、「リアンさん、二人…」とバルコニーで。

ここなら大丈夫だろう、と人のいる廊下で二人の事を話そうとしたら、人払いをされて窓に手を着いて。

リアンさんの休憩中の短い間を狙っても、私だけ気持ち良くさせられて考えられなくされてしまう。

トイレ中は、人としてダメだと思ってやらなかった。

婚約者の教育については私の気持ちも汲んでくれて、スローペースでとなったけれど婚約者にするのは決定事項らしい。

彼の婚約者になるのが嫌な訳ではない、ちゃんと話し合いたいだけなのだ。

もうそこまでくると諦めて、別の方法をとることにした。

(リアンさんから一旦離れるしかない)
(今私が出来ることをしなきゃ…もしそれが出来なかったら…ここでどちらかを召喚するしかない)

とにかく、この王太子宮から出て姿を変えて遠くに行って、しばらく何かを作って売って生活する。

そこで二人に相談しよう。

(それか、最悪そのまま一人で暮らすか…)
(小説の受け売りだけど、生活は何とかなる)

それしか考えられなかった。


とりあえず、変装グッズを召喚して『持ち物』に入れておく。

(何で生計を立てようか)

以前、異世界転生小説で読んだ化粧水とかが良いんじゃないかな、とか、あとはドレスとか帽子とか。

『召喚』スキルが使える内に、それらの成り立ちの本を何十冊と召喚して持ち物に入れておいた。

(足がつかないように細々とやれば大丈夫、この時代の少し先を行くだけだし、ダメだったら女神様から何かあるはず)

とそんな未来のことにドキドキする自分に言い聞かせる。



暇な時に本を読んで必要な物を召喚して、宮の中を観察して婚約者教育を受ける。

身構えていた教育はちゃんとスローペースでやってくれて、この世界の事やマナーも教えてくれるから、結構楽しんでやれている。

その中でも、ダンスが一番好きだ。

側から見ていても優雅で素敵だし、自分がこんな風に踊れたらと思うとやる気が出る。

そしてリアンさんと踊る事もある。

彼はダンスも上手で、スマートにリードしてくれてとても格好良い。

他の人には、彼と自分では月とすっぽんが踊っているように見えると思うけれど、彼と踊ると時間を忘れてしまうくらい楽しいのだ。

(シアンさんとビオさんはダンス好きかな?)

度々二人のことを考えてしまう。



私の教育係はラキアナ夫人、ダンス教師はサナーヤさんという二人が担当してくれている。

二人ともとても美人な狼獣人のお姉さんだ。

ラキアナ夫人はちょっとスキンシップが多くて時々意地悪な気がするけれど、とても物知りで頼りになる、憧れを絵に描いたような人だ。

サナーヤさんはパチリと大きな目が特徴の、口数は少ないけれど、とてもダンスが上手で物腰の柔らかな人だ。

二人とも良い匂いがして、初めて会った時から人見知りのある私が、一瞬で好きになったことに自分が驚いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして、いよいよ脱出計画実行の日。

出ました透明マント!!

思い付きで召喚してみたら本当に出て、びっくりした。

でも、空飛ぶ絨毯はダメだったけれど。

そしてナビマップがここで光った。

外に出たいって思ったら道順を案内してくれて、本当に女神様様です。


お風呂が済んだ後、カミラに用事を頼んで部屋から離れてもらった。

リアンさんは遅くなると言っていた。

良い風も吹いている。

お風呂上がりで、寝巻きでブラも着けてない格好だがやるしかない。

部屋にお香を焚いて、部屋に充満するのを待つ。

それから部屋の扉とバルコニーへの扉を開けておいてベッドに潜り込み、ベッドカーテンを閉める。

ここ数日実行の日のために毎日お香以外の行動をとっていた。

「暑ーい、風が欲しいなぁ」とか言いながら。

実は一度リアンが遅い日、夜に庭園を散歩したくて一人で出て行ったことがあった。

偵察も兼ねて。

そしたら宮の扉を抜けた時、いつの間にか目の前に、いつの日かのアサシン(今度は男性だった)が跪いていて仰天したことがある。

多分彼の事だから監視は付けてると思った。

伊達に小説読み漁ってた訳じゃない。

まさか部屋の中まで見るとは思えないが。

そうだったら、彼とのあれこれも全部見られていた事になる。

多分絶対無い、と思いたい。

早く早く、と自分と等身大の狼のぬいぐるみ(私の匂いが付くように抱き締めて寝ていると、遅く帰ってきたリアンさんの機嫌が良くなる)を出して身代わりにベッドに置く。

そして透明マントを被り、バルコニーからの風でひらりとカーテンが揺れた時に、身を滑り込ませて出る。

狼獣人の嗅覚対策はぬいぐるみとお香だ。

お香は結構匂いの強い物を選んだ。

私の匂いが分からなくなるのを狙っている。

風がお香の匂いを吹き飛ばしてしまうが、監視している人の鼻を一時的に麻痺させられればそれで良い。

そのまますいすいと廊下を歩くけれども、いつもと違い全然人の姿がない。

部屋の外の護衛もいないし、廊下を歩く侍女や侍従の姿もない。

そのまま庭園まで来れてしまった。

拍子抜けというか、チートスキルでチートな物を使っているのだから当然かなとも思う。

てくてくと庭園を門まで歩く。

月明かりが庭園を照らしていて、この世界の花はうっすらと光るから幻想的で美しい。

ちなみに、この世界の月は太陽と同じで二つある。

今夜は月が綺麗だ。


「みのり」


「っ……」


後ろからいきなり抱き締められた。

心臓が飛び出るかと思ったが、何とか声を上げるのを抑えられた。

そのまま存在まで消すように息を殺していると、透明マントの上から抱え上げられ、ズンズンと宮に逆戻りしていく。

その間も混乱して、抱き締められて名前まで呼ばれているのに息を殺していた。

寝室のベッドに投げ出されて、リアンさんがずいっと伸し掛かってきて瞳を合わせられる。

まだ透明マントを被っているはずなのに、何故目が合うのか。

「何で俺から逃げようとする」

「ぁ…」

彼の顔は怒っているのに、瞳は泣きそうな色をしている。
それに気付いてやっと声が出せた。

「ぁ、ご、ごめんなさぃ、」

喉が緊張に乾いて、こくんと嚥下を繰り返す。

「聞いてやるから、言ってみろ」

「ぁ、何で?」

「どうしてみのりがこんなマントを使ってるのに見えるのかって?」

頷く。

「俺の瞳は特別なんだ、みのりの魔力も見える」

(あ、この人もチートでした)
(というか、私も魔力あったの?)

だんだんと自分が馬鹿みたいに思えてくる。

こんな杜撰な計画では、実際そうなのだろう。

「…ぇと、私には番が…あ!?」

意を決して、ずっと話し合いたかった話題を出してみると、いきなり胸を鷲掴みにされた。

「言えたら聞いてやる」

(やっぱり聞く気ないよね?!)

「あ、聞いてっ!ん、ゃだ」

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