勇者パーティーの仲間に裏切られたので、信頼できる仲間達と共に復讐したいと思います〜相反する2つの固有スキル【借用】と【奪取】が最凶だった件〜

赤星怜

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第二章 『過去の試練』

第37話 〜過去の試練2〜ライム視点

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 視界に大広間の景色が映る。
 どうやら、戻って来れたみたいだな。

『ライム!』

 ウンディーが駆け寄ってくる。
 その目には涙が浮かんでいた。
 よっぽど、心配してくれていたみたいだ。

「心配かけたな」

 ウンディーの頭を優しく撫で、目に浮かんでいる涙を拭う。

『はい』

 それよりも……今はコイツだな。

 目の前でニコニコと笑っている少女に視線を向ける。

「君すごいね!歴代の挑戦者の中でも群を抜いて早かったよ!」

「やっと、お前の言ったことが分かったよ。これが『過去の試練』だったんだな?」

「そうだよ!私に戦いを挑むんだから、これぐらい突破してくれなきゃね」

 そう、試練はまだ終わっていない。
 やっぱり、この少女を倒さないければ、【紋章】を得ることはできないみたいだ。

「そう言えばイヴは?」

「その子のこと?」

「ああ」

「その子はこっちに戻って来れるか分からないよ。目の前で大切な人が殺されるのに、何にもできないんだから」

 笑顔を崩さず、淡々と告げる。

「戻って来れなければどうなるんだ?」

「そのまま死ぬよ」

「今ここでおまえを殺してもか?」

「君一人で私を殺せるの?」

 挑発的な目を向けられる。

「”鑑定”」

 ~~~~~~~

 名前:終末の赤龍 性別:雌
 種族:龍族
 状態:”人化”・”空間支配”(自分の存在している空間を支配することができる。支配できる範囲は魔力量で変化する)
 役職:試練の主ガーディアン
 固有スキル:空間支配
 筋力:S   魔法耐性:SSS
 魔力:SS  物理耐性:AA
 瞬発力:S  体力:SS

 ~~~~~~

「私のステータスを見た感想はどう?」

「俺が鑑定をしたことに気づいていたのか?」

「もちろん!それで、君1人で私に勝つことはできるかな?」

 悔しいがおそらく無理だろう。
 相手の魔法耐性が尋常じゃないぐらいに高いから。

 イヴがいれば、勝つことはできるかもしれないが、イヴは今倒れている。

「無理だろうな」

「だよね!でも、君は私に挑むしかない。あの子が生きるためには、あの子自身が過去に打ち勝つか、君が私を殺さないといけないから。たとえそれが負けると分かっている戦いであってもね」

「そうだな」

 決意を固める。

「いい眼だね。そうこなくっちゃ!じゃあ、私も本気を出すよ」

 その言葉が終わると同時に、目の前にいた少女の姿が巨大な赤い龍に変わった。
 覇気だけで一国を滅ぼせそうなほどの風格がある。

 これは……俺もなりふり構っていられないな。

「ウンディー……」

『分かりました』

 俺が言おうとしたことを察したのか、ウンディーが唇を差し出してきた。
 俺はそれに優しくキスをして、心の中で唱えた。

借用レンタル

 体の周囲から青いオーラが溢れ出る。

「水精霊魔法”流れゆく水”」

 思考速度を上げ、続けて精霊魔法を行使する。

「水精霊魔法”ノアの洪水”」

 轟音と共に高水圧の水鉄砲を赤龍に向かって放ったが、それは赤龍の目の前でかき消された。

 なるほど、これがあいつの固有スキル”空間支配”か。
 赤龍は自分の周囲の空間を捻じ曲げ、俺からの攻撃を防いだのだ。

 赤龍が咆哮と共に、赤いブレスを放ってくる。

「水精霊魔法”水龍の怒り”」

 水のブレスで対抗するが、勢いを押し殺しきれずに、吹き飛ばされ壁にぶつかる。

 だが、”流れゆく水”を使っているため、どれだけダメージを負っても、思考だけは冷静に働く。

(ライム……)

(ああ、分かってる)

 ウンディーが言いかけたように、火力が全然足りない。

 ”ノアの洪水”や”水龍の怒り”は俺が使える最高位の水精霊魔法だ。
 それで押し切れていないということは、圧倒的に火力が足りていないことだ。

 そこで……

「顕現せよ氷の大精霊コア」

 二人目の精霊を顕現させる。

『……』

 考えている余裕はない。
 今も、赤龍は俺に近づいてきている。

 そこで、俺は強引にコアの唇を奪った。

『……ン!?』

 コアは、初めは驚いていたが、何かを察したのかニッコリと笑い俺の首元に手を回した。

借用レンタル

 水色のオーラが体に入ってくる。
 二人の大精霊から力を借りているが、『禁忌の森』の時のように、力が暴走しようとする気配はない。

 おそらく【狼王の紋】を得たことによる影響だろう。

 お尻のあたりに違和感を感じ、見てみるとそこには綺麗な水色の尻尾が生えていた。

 なるほど、これがコアから力を借りた証か。
 体の周りに漂う青色と水色のオーラが融合する。

 力が溢れ出るが、自然と体に馴染んだ。
 やっと、赤龍と対等になれた気がする。

 赤龍を見つめる。
 すると次の瞬間、口から赤いブレスが吐き出された。

 ”多重詠唱マルチプル

「二属性合同精霊魔法”絶対零度コキュートスゼロ”」

 赤いブレスを凍らせて、砕いた。

 赤龍はその様子に驚いたのか、少し後ずさりをする。
 タイミングは今しかない。

 “多重詠唱マルチプル

「二属性合同精霊魔法”氷虎の水撃リキッドブレード”」

 高い水圧の斬撃をいくつも赤龍に飛ばす。
 だが、やはり赤龍には攻撃が当たらない。

 ……分かっている。これはあくまでも赤龍の目を欺くための囮だから。

「二属性合同精霊魔法奥義”氷水の飛槍クリスタルスピア”」

 赤龍が”氷虎の水撃リキッドブレード”に夢中になっている間に至近距離に近づき、今使える最強の精霊魔法を赤龍の体に直接使用する。

 ”氷水の飛槍クリスタルスピア”が見事に突き刺さり、赤龍の体から赤黒い血糊が噴き出る。

 やはり、直接体に触れればダメージは与えられるみたいだ。

 ”空間支配”は一見無敵に感じる固有スキルだが、実はそうではない。
 自分の空間は支配できても、自分に空間は支配できないからだ。

(やったの?)

(やった?)

 これで……本当に勝ったのか?
 勝ったはずなのに、何か腑に落ちない。
 まだ終わっていない気がするのは、なぜだろう。

 そんなふうに思っていると、突然目の前の赤龍が輝きだした。

 嫌な予感がする。
 俺はすぐさま赤龍から距離をとり、膝をついた。
 立っていられないぐらい体が重い。

 やがて、光がはれるとそこには、赤龍に変化する前の試練の主ガーディアンが立っていた。
 腹のあたりから血が大量に出ており、重傷を負っているのが確認できる。

「本当に……君には驚かされてばかりだよ。君は強すぎる」

 目の前の少女は、途切れ途切れにだが、確かに言葉を発して近づいてくる。

 立ち上がらないといけないのに、奥義を使った力の反動で体が動かない。

「惜しかったね。君にはここで死んでもらうよ」

 目の前の少女の手から鋭い爪が生える。
 そしてそれが、振り下ろされた。

 ……やばい。
 こんな状況でも冷静に頭が動くからこそ分かる。

 この攻撃をくらったら、俺は

 体が動かない。
 ここで死ぬわけにはいかないのに……

 死ぬ間際で思考がどんどん研ぎ澄まされていく。

 助かるためのあらゆる方法を模索するが、見つからない。

 ダメだ。助からない。

 そう思った直後、目の前でガキンと音が鳴った。

 視界に美しい剣が映る。
 この剣は……

 忘れるはずがない。この剣の銘を付けたのは

「起きるのが遅くなってごめんなさい。あとは任せて、ライム」

 目の前から懐かしい声が聞こえる。

 そうか、今の俺には仲間がいる。

 俺の生き残る可能性は気づいてなかっただけで、ゼロじゃなかったんだな。
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