上 下
22 / 72
師弟編

第21話 俺が強くなる方程式は・・・決まった!

しおりを挟む
俺はティアドラが淹れてくれた茶を啜る。
どこか緑茶に似ている。


「ふむ・・・原液を飲むことで身体能力が飛躍的に上がった、か。」


ティアドラはこめかみに指を当てて考える。


「正直な話、考えていなかったわけではない。お主は魔力に影響されない体を持っておる、つまりそれは薬の効果をノーリスクで享受できるということ・・・魔力の多寡に関わらず、な。」


俺はあの遺跡で起こったことの全てを説明した。
薬の純度が高ければ効果も高くなるという俺の予想も。


「お主の考え、恐らく正しい。薄めるのに必要な水にも魔力は含まれる。強力な魔力を秘めた薬に別の魔力が混じるのじゃ・・・効果が薄くなっても不思議なことではない。」


そう言いながらティアドラはチョークを手に取り、黒板に向かう。
縦横に上方向、右方向の矢印を引き、右矢印の端に『魔力濃度』、上矢印の端に『効果量』と記載する。
そして2つの矢印の交点を原点とする右肩上がりの線を引いた。
元の世界でよく見た、数学の比例のグラフだ。


「おそらくじゃが・・・本来薬の魔力濃度と薬としての効果量は比例関係にある、このようにな。水によって魔力の濃度が下がるに従い、効果量も下がっていく。じゃが・・・実際には水が持つ魔力が混ざることによる阻害効果も加わる。」


先ほどのグラフ内の比例の直線を指でこすって消し、今度は2つの矢印を原点とする右肩上がりの放物線を書く。


「・・・こんな感じかの。水を混ぜることで濃度が薄まると共に魔力の阻害効果により、相乗的に効果が下がっていく・・・という感じじゃな。」


カツカツとチョークを走らせ、先ほど書いた曲線の勾配を大きくした曲線を書いた。
そして下側の曲線に星1つ、上側の曲線に星2つの印を書く。


「そしてこれが星1つの薬と星2つの薬の関係性じゃな。星の数に関わらず水を混ぜると同じように効果も薄まる、じゃが本来の持つ素材の効果量が高いから同じ濃度まで薄めたとしても星の数が多いほうが効果量は高い、というわけじゃな。」


書き終えると彼女は自分の出した結論に納得したのか、満足気にうんうんと頷く。


「つまり・・・俺が強くなるためには・・・。」


「効果の高い薬の材料を見つけること、そして薬の純度を最大限まで高めること、じゃな。」


ティアドラ曰く、効果量の高い薬の材料はこの山にはあまり無いそうだ。当面は薬の純度を上げる方法を模索することになりそうだ。


「ま、あくまでもまだこれは机上の空論な訳じゃから実際の実験もしてみんとな。」


そう締めくくる。
なんだか・・・すごく、楽しそうだ。
薬師としての血が騒ぐのだろう。
って・・・実験?なんか嫌な予感が・・・。


「・・・実験ってどんなことするんだ?」


すると彼女は俺が言ったことが意外だったらしく驚いたような顔になる。


「そんな分かりきったことを言うでない。これからお主に薬を飲ませ続けて、人体実験じゃ!!」


「・・・・・・えーーーー!?」


まぁ確かに俺には魔力濃度の影響は受けないようだが・・・。本当に大丈夫なのかな?


「お主にもいつかは試す必要があると考えていた。お主が強くなれる可能性を秘めておったしな。・・・だが危険性が0とは言えなかった。じゃから・・・二の足を踏んでしまっていたのじゃ。」


ティアドラ・・・俺のことを思って・・・。
そう言おうとしたが彼女は言葉を続けた。


「じゃが、お主が大丈夫なことが分かった今!やらねば損ということじゃ!大丈夫、もし毒に当たっても解毒魔法をかけてやるから!」


大興奮といった様子だ。
恐らく前から試したくて仕方がなかったのだろう。
俺はガクッと肩の力が抜けた。

彼女はそんな俺に気づいたのかどうかはわからないが俺に向き直り、真面目な顔つきになる。


「よくぞ・・・よくぞ死中に活を求めた。その生き残りたいというお主の確固たる意志が、お主に生きる道、強くなる道をつかみ取ったのじゃ。これは誰にでも出来ることではない。」


・・・なんだかむず痒い。
ベネラの時もそうだが、前の世界から俺は人に褒められ慣れていない。
こんな時どんな顔をすればいいのか、どんなことを言えばいいかわからないのだ。


「そんなお主を弟子に持ったこと、ワシは誇りに思うよ。」


・・・俺も、ティアドラが師匠でいることが誇らしいです。
そう言おうと思うのだが、恥ずかしさから声が出てこない。
彼女はそんな俺を見るとニヤリと笑う。


「フフフフフ・・・。さて、それでは・・・早速実験を始めるとするかの!」

彼女はスキップをしながら家のいろんなところから薬をかき集めてくる。
よっぽど楽しみなのだろう。
ってかお菓子以外にもいろいろと隠し物をしていたんですね。


あ・・・そんなところにも薬隠してたんですね。盲点でした。

え?そんなところから薬?大丈夫なのか・・・それ。

ん?・・・その薬、色おかしくないですか?

今度からそのあたりも掃除することにしよう。


俺はその日、ティアドラから片っ端から薬を飲まされる。
おかげでその日からしばらく俺は頻尿に悩まされることになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

TS剣闘士は異世界で何を見るか。

サイリウム
ファンタジー
目が覚めたらTSしていて、しかも奴隷になっていた。剣闘士として戦うことを運命づけられた"ジナ"は、『ビクトリア』という名前で闘技場に立つ。彼女はこの命が軽い異世界で、どう生き、何を見るのか。 現在更新の方を停止しております。先行更新はハーメルンにて行っているのでそちらの方をご覧ください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。 ※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...