18 / 72
師弟編
第17話 安全第一でいきましょう。
しおりを挟む
ティアドラの弟子になってから一年が経過した。
彼女の指導もあって俺はこの辺にある薬草は熟知し、そこから作ることのできる薬は全て作れるようになった。
まぁ、まだ品質はそこそこなものばかりだけどね。
そんな中でも自分なりに品質の良いと思ったものは保管の指輪に入れ、売りに出すときまで取っておく。
今は……回復薬の原液が5個と魔力薬の原液が3個……それから各強化薬の原液が2個づつぐらい入ってたっけ?
売りに出す際はこの原液を直接売るよりも、原液を薄めたものを全て売ったほうが高い値が付く。
要は薄めるという作業の手間賃分高く売れるということだ。
だが俺が保管の指輪を使用するには1時間というインターバルがある。
そのため全てを薄めて保管するよりは、原液を取り出してその場で薄めて売りに出すようにしたほうが効率が良い。そのため原液を持ち歩くようにしている。
ティアドラはめんどくさいから原液で売ってしまえと言っていたが……そんなもったいないことはしません。
そんな彼女は今、一人で薬用のビンや食料を買いに出かけている。
俺も一緒に行くときもあるが、家事をしなければいけないときなんかは俺が残って彼女一人で出かける。
ちなみに今日は天気がいいので溜まっていた洗濯をしていた。
それも終わったので俺は今、図鑑片手に薬の材料探しだ。
一人で出歩いて魔物なんかの心配がないかだって?
心配ご無用!
基本的にこの家の半径300メートルほどにはティアドラの魔法によって結界が張られている。
その結界には魔物が入ることは出来ない。
たまに彼女と一緒に結界の外に出ることもある。
そんなときに魔物に出会うこともあったが、彼女の魔法によって文字通り瞬殺されていた。
今日は彼女はいない。
だから俺は結界内で材料の探索をする。
結界の外に出たい気持ちもあるが……いつも俺の身を案じてくれる彼女に申し訳ないからそんなことはしないのだ。
俺はいつも通り慣れた道を歩く。辺りを見渡すが薬の材料になりそうなものは見られない。
「今日はレア物が……お、この匂いは!」
俺は珍しい薬の材料になる植物を『レア物』と呼んでいる。
まぁ珍しいといってもせいぜい星2つのものなんだけどね。
加えて薬を作っているうちに、何故だか薬の材料になる植物の匂いが分かるようになっていた。
ティアドラには「まるで犬みたいじゃのう」といって変な顔をしていた。
「この匂いは……『マースールの花』だ!!」
俺は図鑑を開く。
マースールの花
見た目の特徴 赤い多弁の花、茎の見た目は木の枝に酷似
分離時の効果 赤:攻撃力増加 ★★☆☆☆
黄:防御力増加 ★☆☆☆☆
主な生息地 乾燥した崖といった壁状部の土が露出した部位に点在
攻撃力増加星2つ……大体1割増だ。
これは間違いなく『レア物』だ。
俺は匂いのする方向に駆け出す。
森の木々をかき分け、開けた場所に辿りつく……俺は崖の上に立っていた。
俺は下を見下ろす。
大体7、8メートルくらいの高さだろうか。結構高い。
「……あった!」
頂上から2メートルもいかないところに赤い多弁の花が見える。……マースールの花だ。
俺は辺りを見渡す。
ここはまだ結界内、少々めんどくさいが一度森へ戻って迂回すれば崖下にも降りることは出来そうだ。
「……長い棒みたいなのを使って下に落とすか!」
下に落として崖下に降り、回収すればいい。
ティアドラが帰ってきてから彼女に協力してもらうことも考えたが……ここにくるまで少々面倒だし、何より彼女に自慢したい。
俺は近くに手頃なものはないか探す。
しばらくして自分の身の丈ほどの細い枝を見つけた。これを使えばなんとか届きそうだ。
俺は崖から身を乗り出し、マースールの花をつつく。
「ん……なかなか根深いな」
どうやらマースールの花は地中深くに根を張っているようで骨が折れる。
だが時間をかけることで土が掘り起こされ、徐々に花は安定さを失っていく。
「もう少しだ……えい!……あっ!!」
マースールの花に俺は気を取られていた。
花は崖から離れ、落ちていくが俺もバランスを崩してしまい、空中に身を投じてしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は叫び声を上げ、崖下へ落下していく。
「……ゲホッ!ゲホッ!!……っつぅ……」
どれくらい時間が経っただろう。
俺は覚醒する。
身体のあらゆるところが痛い。
どうやら骨が折れているようだ。満足に身動きすることすらできない。
「こ、ここは……?」
運よく仰向けで倒れているため、俺は眼球のみを動かして辺りを見る。
どうやら洞窟の中のようだ。
眼前には大きな穴があり、光が射しこんでいる。
俺はあの穴から落ちて来たらしい。
不運だった。
崖から落ちたこともそうだが、落下地点に洞窟につながる穴があったなんて。
まぁ死ななかっただけでも幸いなのだろうか。
「み……水……」
喉が渇いている。近くには人気も水気もない。
俺一人でどうにかするしかない。……だが身動きできない俺にはどうすることもできなかった。
ティアドラが気づいて助けに来てくれるだろうか?
恐らく彼女が俺を見つけたときには俺はもう、死んでいるだろう。
急に恐怖を感じた。
ここで一人、また孤独に死んでいくことを。
このまま俺は死んでいくのだろうか。
イヤだ!!
俺は思考を張り巡らせる。
なんとかして生き残る方法……。
「……そうだ」
俺はとあることを閃く。
指輪をはめた右手の平を上に向ける。
「……保管……・の……指輪より出でよ……回復薬」
すると俺の手に回復薬が握られる。回復薬の……原液。
一般人にとっては毒。……なれば俺には?
前々から思っていた。俺が原液を飲んだらどうなるんだろう?
思ってはいたが人にとっては毒といわれるものを飲む勇気はなかった。
だが事ここに居たってはそんなことは言ってられない。
俺はコルク状の蓋をビンの中に押し込む。
そして痛みをこらえながら口元へ運び、一気に飲み干した。
……助かってくれ!……俺はまだ、死にたくない!
そのようなことを考えながら……俺はそのまま気を失った。
一方そのころティアドラはようやく家にたどり着く。
いつもであればシリウスが茶を淹れて待ってくれているはずだが……今日はまだ家に帰ってきていないようだ。
「材料探しに熱中しておるのかのぅ……。やれやれ」
彼女はそう思いながら窓から外を見つめていた。
彼女の指導もあって俺はこの辺にある薬草は熟知し、そこから作ることのできる薬は全て作れるようになった。
まぁ、まだ品質はそこそこなものばかりだけどね。
そんな中でも自分なりに品質の良いと思ったものは保管の指輪に入れ、売りに出すときまで取っておく。
今は……回復薬の原液が5個と魔力薬の原液が3個……それから各強化薬の原液が2個づつぐらい入ってたっけ?
売りに出す際はこの原液を直接売るよりも、原液を薄めたものを全て売ったほうが高い値が付く。
要は薄めるという作業の手間賃分高く売れるということだ。
だが俺が保管の指輪を使用するには1時間というインターバルがある。
そのため全てを薄めて保管するよりは、原液を取り出してその場で薄めて売りに出すようにしたほうが効率が良い。そのため原液を持ち歩くようにしている。
ティアドラはめんどくさいから原液で売ってしまえと言っていたが……そんなもったいないことはしません。
そんな彼女は今、一人で薬用のビンや食料を買いに出かけている。
俺も一緒に行くときもあるが、家事をしなければいけないときなんかは俺が残って彼女一人で出かける。
ちなみに今日は天気がいいので溜まっていた洗濯をしていた。
それも終わったので俺は今、図鑑片手に薬の材料探しだ。
一人で出歩いて魔物なんかの心配がないかだって?
心配ご無用!
基本的にこの家の半径300メートルほどにはティアドラの魔法によって結界が張られている。
その結界には魔物が入ることは出来ない。
たまに彼女と一緒に結界の外に出ることもある。
そんなときに魔物に出会うこともあったが、彼女の魔法によって文字通り瞬殺されていた。
今日は彼女はいない。
だから俺は結界内で材料の探索をする。
結界の外に出たい気持ちもあるが……いつも俺の身を案じてくれる彼女に申し訳ないからそんなことはしないのだ。
俺はいつも通り慣れた道を歩く。辺りを見渡すが薬の材料になりそうなものは見られない。
「今日はレア物が……お、この匂いは!」
俺は珍しい薬の材料になる植物を『レア物』と呼んでいる。
まぁ珍しいといってもせいぜい星2つのものなんだけどね。
加えて薬を作っているうちに、何故だか薬の材料になる植物の匂いが分かるようになっていた。
ティアドラには「まるで犬みたいじゃのう」といって変な顔をしていた。
「この匂いは……『マースールの花』だ!!」
俺は図鑑を開く。
マースールの花
見た目の特徴 赤い多弁の花、茎の見た目は木の枝に酷似
分離時の効果 赤:攻撃力増加 ★★☆☆☆
黄:防御力増加 ★☆☆☆☆
主な生息地 乾燥した崖といった壁状部の土が露出した部位に点在
攻撃力増加星2つ……大体1割増だ。
これは間違いなく『レア物』だ。
俺は匂いのする方向に駆け出す。
森の木々をかき分け、開けた場所に辿りつく……俺は崖の上に立っていた。
俺は下を見下ろす。
大体7、8メートルくらいの高さだろうか。結構高い。
「……あった!」
頂上から2メートルもいかないところに赤い多弁の花が見える。……マースールの花だ。
俺は辺りを見渡す。
ここはまだ結界内、少々めんどくさいが一度森へ戻って迂回すれば崖下にも降りることは出来そうだ。
「……長い棒みたいなのを使って下に落とすか!」
下に落として崖下に降り、回収すればいい。
ティアドラが帰ってきてから彼女に協力してもらうことも考えたが……ここにくるまで少々面倒だし、何より彼女に自慢したい。
俺は近くに手頃なものはないか探す。
しばらくして自分の身の丈ほどの細い枝を見つけた。これを使えばなんとか届きそうだ。
俺は崖から身を乗り出し、マースールの花をつつく。
「ん……なかなか根深いな」
どうやらマースールの花は地中深くに根を張っているようで骨が折れる。
だが時間をかけることで土が掘り起こされ、徐々に花は安定さを失っていく。
「もう少しだ……えい!……あっ!!」
マースールの花に俺は気を取られていた。
花は崖から離れ、落ちていくが俺もバランスを崩してしまい、空中に身を投じてしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は叫び声を上げ、崖下へ落下していく。
「……ゲホッ!ゲホッ!!……っつぅ……」
どれくらい時間が経っただろう。
俺は覚醒する。
身体のあらゆるところが痛い。
どうやら骨が折れているようだ。満足に身動きすることすらできない。
「こ、ここは……?」
運よく仰向けで倒れているため、俺は眼球のみを動かして辺りを見る。
どうやら洞窟の中のようだ。
眼前には大きな穴があり、光が射しこんでいる。
俺はあの穴から落ちて来たらしい。
不運だった。
崖から落ちたこともそうだが、落下地点に洞窟につながる穴があったなんて。
まぁ死ななかっただけでも幸いなのだろうか。
「み……水……」
喉が渇いている。近くには人気も水気もない。
俺一人でどうにかするしかない。……だが身動きできない俺にはどうすることもできなかった。
ティアドラが気づいて助けに来てくれるだろうか?
恐らく彼女が俺を見つけたときには俺はもう、死んでいるだろう。
急に恐怖を感じた。
ここで一人、また孤独に死んでいくことを。
このまま俺は死んでいくのだろうか。
イヤだ!!
俺は思考を張り巡らせる。
なんとかして生き残る方法……。
「……そうだ」
俺はとあることを閃く。
指輪をはめた右手の平を上に向ける。
「……保管……・の……指輪より出でよ……回復薬」
すると俺の手に回復薬が握られる。回復薬の……原液。
一般人にとっては毒。……なれば俺には?
前々から思っていた。俺が原液を飲んだらどうなるんだろう?
思ってはいたが人にとっては毒といわれるものを飲む勇気はなかった。
だが事ここに居たってはそんなことは言ってられない。
俺はコルク状の蓋をビンの中に押し込む。
そして痛みをこらえながら口元へ運び、一気に飲み干した。
……助かってくれ!……俺はまだ、死にたくない!
そのようなことを考えながら……俺はそのまま気を失った。
一方そのころティアドラはようやく家にたどり着く。
いつもであればシリウスが茶を淹れて待ってくれているはずだが……今日はまだ家に帰ってきていないようだ。
「材料探しに熱中しておるのかのぅ……。やれやれ」
彼女はそう思いながら窓から外を見つめていた。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺おとば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる