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師弟編

第8話 知りたいけど我慢。

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「……え?」


俺は思わず聞き返す?この人今なんていった?


「だから毒じゃ……本当になんともないいのか?」


腹の当たりを押さえる。そういえば腹の当たりが苦しいような……。
ティアドラは俺の顔を覗き込むと腕を組み、不思議そうに首を傾げる。


「この毒は少量なら大丈夫なのじゃが、食べ過ぎるとその毒性により顔が緑色になって泡を噴いて失神するのじゃが……どうやら大丈夫なようじゃな」


少量って……4つ程食べたんですが……。
そのことを伝えるとますます不思議そうな顔つきとなった。


「時間的にも発症しておらんとおかしいな。……まさか魔力がないことと関係が?」


なんかブツブツと呟く。


「まぁ……これだけ時間が経って発症しておらんのじゃから大丈夫なのじゃろう。……よかったな、魔力はないかわりに毒耐性はありそうじゃな」


ティアドラは自分の出した結論に無理やり納得したようだった。
俺は納得がいかない……。魔力がないのに毒耐性なんてあったって悲しいだけだろ!


「あ……さっきから腹が苦しいんだけど……これってもしかして毒のせいなんじゃ……」


「そんな症状はない、ただの食いすぎじゃ!」


あ、やっぱりそうでしたか。
……薄々そんな気はしてました。






「さて、ワシはワシで何か食うとするか」


ティアドラは伸びをしながらジャガリンが入っている鍋へ向かう。


「……あれ?」


ティアドラは俺が火をおこした釜戸から焼け焦げた布切れを見つける。
火を起こす際に火種に使った布だ。


「これはもしかして……?」


彼女は焦げた布を握りながらプルプルと震えている。
なんでだろ。


「ん?……あぁ、ゴミとして捨てようかとも思ったんだけど、せっかくだから火種として使ったんだ。もったいないだろ?」


「これはワシが毎日寝るときに使ってた布団でな……そりゃあ大切に、大切に使ってた布団なのじゃ……」


あ、これはやばい……。
ティアドラの背後からオーラのようなものが見える。
に、逃げないと……足がすくんで動きません。



彼女は俺の頭をむんずと掴み、持ち上げる。


「怒りのお師匠アイアンクロー!!!」


頭が締め上げられ、メリメリと音がする。


「痛い痛い痛い痛い!!ごめんなさい!!!」


俺はしばらくの間、痛みに悶絶するのだった。







「先ほどはすまなかったのぅ。お気に入りじゃったが、もうボロボロじゃったし捨てられても文句は言えんわい。掃除を頼んだのはワシ自身なわけじゃし」


朝食を摂った後自身の行動を振り返ったのか、先ほどのお布団焼却事件を謝罪してくる。
ちなみに彼女の朝食は果物だった。台所の床に保管庫があったらしく、そこには果物やパンといった食料がたくさんあった。


「いや、勝手に処分した俺が悪い。本当にごめんなさい」


俺は床に手をつき、頭を地にこすりつける。
元の世界でいう、土下座スタイルだ。


「ふふふ、なんじゃその恰好は。頭を上げよ……もうこの話はしまいにしようか」


俺の必殺の土下座が効いたのかティアドラは笑う。
どうやら許してくれたらしい。



「さて、腹も膨れたし……何をしようかの」



俺はリビングの椅子に座っている。
ティアドラはどこからか黒板を持ってきていた。
この世界にも黒板ってあるんだな。


「せっかくワシの弟子になったのじゃ。まず、お主のことを教えてくれんか?……これまでの7年間、どのように生きて来たか。魔力なしとなった原因の心当たり……そして」


ティアドラの目つきが変わる。





「7歳にして何故、そのように精神が円熟しておるのか、その理由を」


全て、見透かされているようであった。
この人に隠し事はどうやらできないらしい。


「俺には……前世の記憶があるんだ」


突拍子もない俺の発現にティアドラは目を見開く。


「前世の記憶、じゃと?」


「あぁ、ただこの世界じゃない。国も文化も言語も……全く違う世界から俺はこの世界にやってきたんだ。ある人が、前の世界で死んだ俺をこの世界に連れて来たんだ」


彼女は壁にもたれかかり腕を組み、深く考えている。少しだけ、俺のことを警戒しているようだ。
しばらく時間が経った後ようやく口を開く。


「……まさかとは思ったが……お主、『異世界からの転生者』であったか……」


……


「どういうことだ!?この世界には俺以外にも転生者が沢山いるのか!?」


俺からの問いに彼女は首を横に振る。


「沢山はおらん。ただこれまでのこの世界の歴史には偶に存在する。……知っておるのは極限られた人のみじゃがな」


俺以外にもこの世界に転生した奴がいるのか……。
何故か少しだけ、安心する。


「なるほど、前世の記憶があるから精神が円熟しておるのか。合点がいった。……しかし納得できぬところがある。転生者の特徴じゃ。ワシが知る転生者は皆」


「『身体能力、魔力が非常に高い』……か?」


ティアドラの言葉を遮る。


「……その通りじゃ。何故知っておる。お主をここへ呼んだ者がそう言ったか?その者は自身のことを何と名乗った?」


「『女神』……」


彼女の目が更に険しくなる。


「『女神』……か。ならば何故お主はその力を得ていない?おそらく女神から『加護』の話をされたのではないか?」


彼女の雰囲気に気圧されながら俺は口を開く。


「あぁ、俺は加護をもらおうとした。……だが邪魔されたんだ……女神は魔族と言っていた。多分女神を襲ったんだ。その襲撃で俺は加護をもらえず、気づけば転生していた」


俺の言葉にティアドラは驚愕していた。


「7歳の転生者、女神、それを襲った魔族……あぁ、なんということじゃ……」


彼女の険しい目つきは収まり、脱力する。


「これが……運命なのか?あぁ……おそらくそうなのじゃろうな」


彼女は得心がいったようだ。
だが俺は納得いかない。


「どういうことだ!?何か知っているなら教えてくれ!!」


だが、ティアドラは首を横に振るだけだった。


「すまない。……今は言えぬ。お主が強くなり、先へ進みたいと考えたとき、話すことのできるすべてを話そう。その時まで、その時のために力を蓄えておくれ……地に伏する龍のように」


今までに見たことがない、つらそうな顔であった。



言いたいことは沢山あったし、俺が強く望めば教えてくれたかもしれない。
だが、俺はこの世界に産まれて初めて、俺に手を伸ばしてくれた彼女を裏切る気になれなかった。
彼女の気持ちに応えること、それが今の俺に出来る最善なのだろう。


俺は言いたいことを飲み込み、黙ってうなずくのであった。
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