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序章
5話:Unknown
しおりを挟むギルドホーム
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リキッド達についていくキドは、記憶で既に見た異世界の風景を眺めながら歩いていた
(奴隷じゃなかったら……心躍る景色なのにな…)
城門をくぐると大通りになっていて
中世のヨーロッパのような風景の街並み
両側に大体3階だての家が並び、一階はお店の様で、
食品やら、使い道の分かりにくい素材やら、
生活雑貨等がお店ごとに種類を分けて並んでいる
店番を任されているのが…日本人のオバさんとかオッサンなのが違和感だらけだ
そんな街並みを眺めながら歩いてると
「戦闘から引退、肉体労働から引退、……色々あるが、無事に生き残れば、あぁやって楽な所で働かせて貰える…俺たちにはまだまだ先の話だけどな」
前を歩いていた筈のオッサンがいつの間にか隣にきて話しかけてきた
このオッサンは無愛想なナルミの面倒をよく見てくれたようだ、
悪い奴じゃ無いんだろう
コバは、パーティ補助って所だが、不意打ちを減らす恩恵は地味だが優秀だ
「……いつ迄続くんだろうな?」
ナルミの記憶では約1年の奴隷生活だ…その記憶を振り返りなぞるだけでゲンナリした
木渡はついグチをこぼす
「珍しく口を開いたと思ったら……そう言う話はここじゃするんじゃねぇって言ったろ…ボケ」
珍しくオッサンが凄んで来た
「ギルドで報告したら…何時もの酒場…お前も偶には付き合えっ分かったな?」
「……分かったよ…」
「……ん?…お前…」
「おいっ遅いぞ!」
前を歩いていたリキッドが振り返りせっつく
「はいっ!直ぐ行きまーすっ!」
オッサンが何処かの新入社員のように元気に返事をして前を歩く2人に追いついていった
城壁から続く大通りを真っ直ぐに中央に向かって進むと
ヨーロッパにありそうな巨大な教会のような建物が見えてくる
東西南北に城門まで真っ直ぐに伸びる大通りが交差する所にそびえ立つ建造物が
ギルドホームだ
奴隷街はダンジョン寄りの東南寄り、
要するに魔物の領地から1番近い場所、
王宮はそこから真反対の西北寄りに有る
ギルドから西へと奴隷が進む事は禁止されている
ギルドホームは東側に馬鹿でかい入り口が有って門は無い
入ると中で段々狭くなり、何処から入っても同じ一つの両開きの扉にぶつかる
その扉を開け、目の前の階段を登った所がギルドのホームだ
入って直ぐの所は、日本で言うフードコート見たいになっていて
荒くれ者の探索者達が騒いでいる
奴隷はここには殆ど居ない
奥に行く途中で声を掛けられるのも当然リキッドに対してのみだった
フードコートの中の賑わいを抜けて奥の階段を更に登り扉を開くと
まるで世界が変わったかのようにシーンとしていて
幾つかのテーブルでは探索者や奴隷が何やら打ち合わせをしていたり
奥のカウンターでは受付嬢が数人並んでいた
リキッドはその中の1人に真っ直ぐ向かって行き
「ようリリー、今日は一緒に晩飯の約束……だったよな?」
「はいはい…今日もお疲れ様です、リキッドさん、前からの約束ですからね、お付き合いしますとも……それで?今日は奴隷さんは無しだったんですか?」
「あぁ……途中でユニークに出くわしてな…死なせちまったよ」
「えっまさか……レアボスですか?」
「いや普通の魔物の方だった」
「そうでしたか…それでもパーティに被害が無いなら良い方ですよ?」
「まぁな……さて、帰還報告だ、お前らも来いよ」
リキッドが会話を終えて奴隷達を呼び、前に進んでいくと
コバが顔を赤くして頭を下げ、
オッサンも鼻の下を頭を下げて退いていく
目の前のカウンターの奥に立っていたリリーと呼ばれた受付嬢は
女性のバーテンダーのような服装をしていて
紫色の緩いパーマがかかったショートヘアで
紫色の大きな瞳が特徴的な、ロケットのような胸を装備した超美人だった
(うわっ……ほっ惚れた……)
ゲームオタクで余り人と接点を持たなかったキドは一瞬で恋の落ちたが
「何、人の胸ジロジロ見てんだ、このクソ奴隷が?さっさと帰還報告済ませろ、このゴミ」
「……え?」
目の前のリリーはニコニコの表情を全く変えてない
思わず胸から顔を二度見し直すと可愛らしい小さい口から
「言葉分かんねえのか?さっさと名前言えって言ってんだよ、ゴミ」
……やっぱり本人だった、百年の恋も一瞬で覚める
「鬼岩…成海」
「とろくさい…はい、ステータス確認したら返却…分かったらどけ、筋肉ダルマ」
「……はい」
大人しく横に移動すると先に罵られたコバがハァハァしてた
オッサンは少し離れてリリーをチラチラ見てる
異世界来ても…阿保ばっかりだ…
ステータスを見ると、ナルミの記憶を遡った時と少し変わっている
・身体強化(基本ステータスアップのパッシブスキルで常時36%向上する)
・フルスイング(意図的にクリティカル攻撃を発生させる、但しリキャストタイムが3秒発生する)
・Unknown(用途不明)
ナルミの記憶の中で1番新しいステータスの記憶は三日前、
その時と身体強化とフルスィングは今と同じだ、一年前よりスキルが強化してるのは、単純に成長したんだろう……このUnknownは何なのか?
(これ……俺のスキルなのか?)
「……そこの筋肉馬鹿、いつ迄掛かってる?さっさとしろゴミ」
(いちいち……イラッとするなこの女…)
ギルドカードを渡す、どうやら本人以外が触ると名前以外の表情は消える
「本当にゴミはとろくさい………何か変化でもあったの?」
カードの名前を見ながら回収箱に入れていくリリーが聞いてきた
「いや?何にも?」
Unknownの事は聞かれても俺自身よく分かってないし、説明しようも無い
「……そう、まっ何でもいいか、ほらっさっさと退くっ!」
失せろと手を振るリリーに背を向けて出口で待つコバとオッサンに向かっていくと
「明日も探索だ、鐘三つ迄にギルドに報告して城門前で待っていろ、分かったな?」
「………」
無言で振り返り頷く、これが普段のナルミの受け答えのようだったからだ
【鳥奴隷】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ギルドホームから来た道を戻って大通りを歩くと途中で少し大きい脇道があり
商店街のアーケード見たいな看板が出て、【奴隷街】って大きく書いてある
発想が日本人だなあ……
そう思いながら奴隷街に入ると……夕陽に照らされた平屋が並ぶ風景は、昭和の世界に戻ったようだった…
「へへ…なんか映画みたいな風景だよな?嫌いじゃ無えんだこれ」
オッサンが隣にきて話しかけてきた
(確かに……そんな感じだ…)
日本で焼き鳥屋をやっていた日本人が自虐100%で作った名前の【鳥奴隷】という居酒屋に一緒に入っていく
戦闘奴隷は骨付き肉3本と大ジョッキのエール2杯までは無料だ
それ以上飲みたい場合は探索者から貰えるお小遣いを使う事になる
鳥奴隷でコバとオッサンと3人で飲み始めていた
グビグビ…グビグビ…
「ぷっはぁぁぁぁぁああっ!うめえええ」
すんごい勢いで呑んでる様に見えるが2cmも減ってないのはコバのジョッキだ
「聞いて下さいよー、オッサーーン!俺はね?いつか活躍したらリリーさんに!リリーさ……」
「誰がオッサンだ……相変わらず死ぬほど酒よえーな」
「………」
正直色々聞きたいが偶に呑んでもほぼ無言なナルミが口を開いたら怪しまれるだけだ
コバとオッサンの話だけでもと思ったが到着して2分と経たずに撃沈しやがった……
「それで…………お前は一体誰なんだ?」
ブフォォッ!!
「わっきたねぇ!何しやがる!」
「ゴホッゴホッ…すっすまん」
「まぁ良いさ…ナルミはな?「分かったよ」何て言わないんだよ
この店に入った時も1番外側に自分で座ったろ?アイツはいつも1番奥に座る、背中を晒すのが嫌い何だよ」
(何だよそれ!ゴ◯ゴかよ!)
「スキルは同じだったけど、何か増えてたよな?……関係有るんじゃねえのか?」
「・・・・・」
(このオッサン…予想以上に抜け目無いな……)
「……同じ奴隷だ、俺は敵じゃねえよ……「いつ迄続くのか」……知りたく無いか?」
したり顔で話すオッサンに俺は黙って頷く事しか出来なかった
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