小さな町の不思議・怖い話

みつか

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塩炊き

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昔、むかし。
街灯もそんなにない時代の話。

おじいさんが、浜から潮水を汲み出して陸の上へ何度も何度も昼間の内に大量に汲み上げる。

汲み上げた潮水を大きな鍋に入れ、レンガで簡単に組み立てた釜の上に乗せて、木を釜の中に入れて新聞紙とマッチで火を点ける。

沸々と煮立ってきたら、焦げない様にかき混ぜ水だけを飛ばしていく。
常に火が消えないように薪と火を準備し、見守る。

水分が減ったら、潮水を注ぎ足し、減ったら注ぎ足しを繰り返す。
何人か同じように、塩炊きしている人がちらほら見える。

少し離れた場所で塩作りしている友達に声をかける。
「おーい。塩出来てきた?どんな感じな?」
「まだじゃや~。」
手を振られる。
「こっちも、まだまだじゃ~。」
と、手を振って応える。
友達に薪が足りなくなりそうなので、ナタを持ってすぐそこにある山、十数歩歩けば入れる山へ入る事を伝え山の中へ入っていく。
枯れた木を手頃な大きさに割り、背負いカゴに入れると急いで山から出る。
自分の火加減を見て、友達にも半分枯れ木を分ける。
誰かが、山に入ったら、誰かが鍋の火を気に掛ける。
山に入った人間は、仲間に薪が足りなさそうな人に分ける。
お互いに気にかけながら、協力しながら塩を作っていた。

日が暮れ始めるが、塩炊きをやめる訳にはいかず2、3人が残って炊いている。
数人は
「夜は怖いから帰ろうへ~。」
と、途中で火を消して放置していく者もいた。

段々と夜も暮れ、浜からの風が冷たくなってくる。塩炊きの火に暖まりながら、潮水を足す。
暗がりの中、何かが動く。
ドキリとして、緊張が走る。
(動物か?)
鎌を手に持ち臨戦態勢に入る。
鎌を持ち立ち上がると、そこには何も居なかった。
「気のせいか……」
定位置に座り、火加減を調整する。
暗がりに、ゆらりと火が揺れる。
友達も順調に炊けている様子だが、何だか様子がおかしい。
暗がりに揺れる火に照らされる友達の顔が何だか焦っている様に見える。
友達の周りを目を凝らして眺める。

釜の火の灯り、少し離れた場所で体育座りしている何かが見える。
手足が長く、ボサボサの髪ケンムンだ。
火に暖まりに来ているようだった。
「さっきのヤツはあいつだったか……」
怖がっている様なので、火から少し離れる様に松明(たいまつ)を持ちジェスチャーしてみせる。

気付いた友達は、松明を振り応える。
鍋から少し離れて、火の対応をしている。
「怖がってたら、イタズラされるかもしれんがや~大丈夫かいや~。」
心配で、チラチラ見ていると
「うわ~!アチッ。」
煮えたぎる塩水をケンムンがすくって友達にかけて喜んでいる。
怒った友達は、石を投げて応戦する。
ケンムンは走って山に逃げていく。

大事なくて良かった……
今度は自分の所に降りてくる。
火に暖まっている。いつでも追い払えるように手には鎌を握る。
しばらくすると、コソコソとケンムンは火のついた薪を盗み出す。
「コラッ!!許さんど!!」
大きな声で脅かし、鎌を振り上げる。
火を持ったまま山に走り抜ける。
「やられた……山火事にならないと良いが。」

火を持ったまま山の上へ駆け上がるケンムン。
不思議な事に、山の木々に燃え移る事もなく山の中に行く。
火が足りなくなると塩は炊けない。
(気をつけなければ……)
イタズラが過ぎると、鍋ごとひっくり返されて大火傷……なんて事故もよくある話。
そう考えながら気を引き締めていると、友達の向こう側の人が鍋ごとやられたようだった。
「アッチチチチチ!やりやがって!」
暗闇の中大声で叫んでいる声が、山に跳ね返ってこだまする。
怒り狂って鎌を振り回しているが、独りで動き回っているだけに見える。
火まで取られた様だ。怪我は大した事がないようで友達の所にナタと鎌を持って走ってきた。
「やられた……もう少しだったのに、あんたの所で朝まで過ごさせてくれ。」
と、友達の火にあたりながら話た。

山の木の上を松明が列をなしてゆらゆらと行列して歩いていく。
火事にならないのが不思議でたまらない。
朝方に塩が出来上がる。
ケンムンも夜が明けかけると皆姿を消して居なくなった。
火の始末をして、塩を持ち後片付けして帰宅の準備をする。

友達も友達の向う側の人も片付けしている。
皆で一緒に集落に帰る。
「大きな怪我無くて良かったや。今日のはしつこかったや。」
等と話しながら、ゆっくりと帰宅するのだった。

昔々の本当の話。
街灯が増えると、ケンムンも減り今では名物松明行列も見ることは出来なくなりました。
自然の減少と共に、ケンムンも絶滅しつつあるようです。
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