5 / 36
カニ捕り
しおりを挟む
島の冬の味覚に、毛の生えた川のカニがいる。
産卵のため川から海へ降りてくる。
「モクズガニ」と呼ばれるそのカニ「上海蟹」と同類種。海辺で獲ったり、カニ籠を川に設置したり、寒い川に入って捕ったりする。
「カニ籠」は場所取りが重要になってくる。籠を確認しにいくと、カニだけ泥棒されている。なんてこともあり籠に鍵をかけたりもするが意味をなさなかった。
「今夜は暇だし、風もないから自力で獲ってくる。」
そんな風に父が言い出した。
「私も行く~。」
と話すが、父に拒否された。
「今日は冷える、風引いたらいけないからお母さんと川の上に迎えに来てくれ。」
と話す。
実際には、バシャバシャ騒がれるのが鬱陶しかったからのようだ。
「先に行くから、三十分後位に小さいダムの前迄迎えに来てくれ。」
と、約束し父は上下カッパと長靴を履いて家の前からすぐの川の中へ、階段を降りて歩いていく。
川の水は深くはない。
電灯の灯りとバシャバシャと歩く音が響いている。
「いってらっしゃ~い。また後でね~。」
手を降って、家に戻る。
そろそろ、小さなダムの所に着くかもしれない。
母と暖かい格好をして車に乗り込む。
家から15分程走った山の中。
脇道に曲がり、川のそばの空き地に車をUターンさせて停車する。
川の流れる音がする。
30段程の階段があり、川に降りる事ができる。
川に降りると、上流も下流も少しカーブしているので数メートル先も見えない。
4、5メートル上流には2メートル位の高さのダムがある。頑張れば登れるが、コンクリートが直角でノリが生えており、夜は危なくて登る事はできないので、待ち合わせ場所はここだった。
川向いには竹藪(たけやぶ)が見える。サワサワと小さな音を立てている。
電灯を照らしてあちらこちらを見回す。
「お父さんドコまで行ったかな?」
私が話すと母が
「まだかもね。」
と、答える。
さわさわさわ~
竹藪の笹の揺れる音と川の音だけが川に響く。
耳を澄ますと
バシャバシャバシャ
と、微かに歩く水音が聴こえた。
「あっ!お父さん近くに居るよ!」
そう話すも、母は不思議そうな表情をしている。
風が軽く吹く。
竹藪の音が大きくなる。足音が何処からなのか分からなくなる。
上?下?
混乱する。
「おーい、おとーさーん。」
ザーザー、さわさわさわさわ~
川の音と笹の揺れる音だけが大きく返ってくる。
母は何故か沈黙している。
遠くの方で
「おーい。」
と、聴こえた。
「おーい、おとーさーん。どこ~?」
返事はない。
風の音と笹の音と川の音で、上なのか下なのか何処から呼んでるのかがやっぱり分からない。
「おーい≡≯∑∅∃√∥∋」
お父さんの声ではあるが、何を言ってるのか分からない。
「お父さん呼んでるよ。」
母に言う。母は頷くのみ。
「おーい。ここじゃが~。」
上流から声がしたような気がする。
「上みたいよ。」
上流へ歩きかけて、迷いが生じる。
上流から足音が無いのだ。自分の足音だけがジャブリジャブリと歩くたび鳴っている。
母は濡れるのが嫌らしく、階段の1番下で私を見守っている。
迷っていると
「おーい。≡≧∝√∬~こっちじゃが!!」
聴き取れない部分もあるが、父のイライラした時の声に聴こえる。
(どっちだろう?)
上流?下流?
迷っていると、上下どっちからも聴こえてくる。
上流から
「おーい。」
下流からも
「おーい。」
足音も電灯の明かりもない。ゆるいカーブで見て取れない。
(うーん。こっち!)
と、選んだのは下流。
「下から聴こえるかも!」
半信半疑ではあるが、母に下から来るはず!と数歩下に向かって歩く。
恐怖心があったので、すぐに母の所へ戻れる距離だけ歩く。
「……」
自然の音に混じって、遠くの方から足音が聴こえる。微かに声も聴こえるが無視する。
ザブザブザブ。
キラリとカーブの向こう側からチラリと電灯の灯りが見えた。
「お父さんだ!!」
母の元へ駆け寄り
「下から来たよ。」
と、話す。
うんうんと母が頷く。
「下の方で合ってたね!上に行かなくて良かったね。お父さんの声聴こえた気がしたけど……危なかったね。行き違いになるところだったね。」
父が下流から上がって来たことに安堵し、じょう舌になる。
「もう来てたんだね。早かったね。」
ニコリと父が笑う。
手に持った網には蟹が10匹ほど
「あんまりいなかった。」
と、苦笑いする父に車の中で事の次第を話す。
「へー。呼んではないんじゃが……空耳だったんだろうね。危なかったね。」
ニヤリと笑う。
両親は何となく分かっているようだったが、怖いなと思った私はそれ以上聴くことができなかった。
あの声は何だったのか……もし、一人で上流に歩いて行っていたらと思うと今でも怖くなる。
産卵のため川から海へ降りてくる。
「モクズガニ」と呼ばれるそのカニ「上海蟹」と同類種。海辺で獲ったり、カニ籠を川に設置したり、寒い川に入って捕ったりする。
「カニ籠」は場所取りが重要になってくる。籠を確認しにいくと、カニだけ泥棒されている。なんてこともあり籠に鍵をかけたりもするが意味をなさなかった。
「今夜は暇だし、風もないから自力で獲ってくる。」
そんな風に父が言い出した。
「私も行く~。」
と話すが、父に拒否された。
「今日は冷える、風引いたらいけないからお母さんと川の上に迎えに来てくれ。」
と話す。
実際には、バシャバシャ騒がれるのが鬱陶しかったからのようだ。
「先に行くから、三十分後位に小さいダムの前迄迎えに来てくれ。」
と、約束し父は上下カッパと長靴を履いて家の前からすぐの川の中へ、階段を降りて歩いていく。
川の水は深くはない。
電灯の灯りとバシャバシャと歩く音が響いている。
「いってらっしゃ~い。また後でね~。」
手を降って、家に戻る。
そろそろ、小さなダムの所に着くかもしれない。
母と暖かい格好をして車に乗り込む。
家から15分程走った山の中。
脇道に曲がり、川のそばの空き地に車をUターンさせて停車する。
川の流れる音がする。
30段程の階段があり、川に降りる事ができる。
川に降りると、上流も下流も少しカーブしているので数メートル先も見えない。
4、5メートル上流には2メートル位の高さのダムがある。頑張れば登れるが、コンクリートが直角でノリが生えており、夜は危なくて登る事はできないので、待ち合わせ場所はここだった。
川向いには竹藪(たけやぶ)が見える。サワサワと小さな音を立てている。
電灯を照らしてあちらこちらを見回す。
「お父さんドコまで行ったかな?」
私が話すと母が
「まだかもね。」
と、答える。
さわさわさわ~
竹藪の笹の揺れる音と川の音だけが川に響く。
耳を澄ますと
バシャバシャバシャ
と、微かに歩く水音が聴こえた。
「あっ!お父さん近くに居るよ!」
そう話すも、母は不思議そうな表情をしている。
風が軽く吹く。
竹藪の音が大きくなる。足音が何処からなのか分からなくなる。
上?下?
混乱する。
「おーい、おとーさーん。」
ザーザー、さわさわさわさわ~
川の音と笹の揺れる音だけが大きく返ってくる。
母は何故か沈黙している。
遠くの方で
「おーい。」
と、聴こえた。
「おーい、おとーさーん。どこ~?」
返事はない。
風の音と笹の音と川の音で、上なのか下なのか何処から呼んでるのかがやっぱり分からない。
「おーい≡≯∑∅∃√∥∋」
お父さんの声ではあるが、何を言ってるのか分からない。
「お父さん呼んでるよ。」
母に言う。母は頷くのみ。
「おーい。ここじゃが~。」
上流から声がしたような気がする。
「上みたいよ。」
上流へ歩きかけて、迷いが生じる。
上流から足音が無いのだ。自分の足音だけがジャブリジャブリと歩くたび鳴っている。
母は濡れるのが嫌らしく、階段の1番下で私を見守っている。
迷っていると
「おーい。≡≧∝√∬~こっちじゃが!!」
聴き取れない部分もあるが、父のイライラした時の声に聴こえる。
(どっちだろう?)
上流?下流?
迷っていると、上下どっちからも聴こえてくる。
上流から
「おーい。」
下流からも
「おーい。」
足音も電灯の明かりもない。ゆるいカーブで見て取れない。
(うーん。こっち!)
と、選んだのは下流。
「下から聴こえるかも!」
半信半疑ではあるが、母に下から来るはず!と数歩下に向かって歩く。
恐怖心があったので、すぐに母の所へ戻れる距離だけ歩く。
「……」
自然の音に混じって、遠くの方から足音が聴こえる。微かに声も聴こえるが無視する。
ザブザブザブ。
キラリとカーブの向こう側からチラリと電灯の灯りが見えた。
「お父さんだ!!」
母の元へ駆け寄り
「下から来たよ。」
と、話す。
うんうんと母が頷く。
「下の方で合ってたね!上に行かなくて良かったね。お父さんの声聴こえた気がしたけど……危なかったね。行き違いになるところだったね。」
父が下流から上がって来たことに安堵し、じょう舌になる。
「もう来てたんだね。早かったね。」
ニコリと父が笑う。
手に持った網には蟹が10匹ほど
「あんまりいなかった。」
と、苦笑いする父に車の中で事の次第を話す。
「へー。呼んではないんじゃが……空耳だったんだろうね。危なかったね。」
ニヤリと笑う。
両親は何となく分かっているようだったが、怖いなと思った私はそれ以上聴くことができなかった。
あの声は何だったのか……もし、一人で上流に歩いて行っていたらと思うと今でも怖くなる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)


女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる