小さな町の不思議・怖い話

みつか

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カニ捕り

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島の冬の味覚に、毛の生えた川のカニがいる。
産卵のため川から海へ降りてくる。

「モクズガニ」と呼ばれるそのカニ「上海蟹」と同類種。海辺で獲ったり、カニ籠を川に設置したり、寒い川に入って捕ったりする。

「カニ籠」は場所取りが重要になってくる。籠を確認しにいくと、カニだけ泥棒されている。なんてこともあり籠に鍵をかけたりもするが意味をなさなかった。

「今夜は暇だし、風もないから自力で獲ってくる。」
そんな風に父が言い出した。
「私も行く~。」
と話すが、父に拒否された。
「今日は冷える、風引いたらいけないからお母さんと川の上に迎えに来てくれ。」
と話す。
実際には、バシャバシャ騒がれるのが鬱陶しかったからのようだ。
「先に行くから、三十分後位に小さいダムの前迄迎えに来てくれ。」
と、約束し父は上下カッパと長靴を履いて家の前からすぐの川の中へ、階段を降りて歩いていく。
川の水は深くはない。
電灯の灯りとバシャバシャと歩く音が響いている。
「いってらっしゃ~い。また後でね~。」
手を降って、家に戻る。

そろそろ、小さなダムの所に着くかもしれない。
母と暖かい格好をして車に乗り込む。
家から15分程走った山の中。
脇道に曲がり、川のそばの空き地に車をUターンさせて停車する。
川の流れる音がする。
30段程の階段があり、川に降りる事ができる。
川に降りると、上流も下流も少しカーブしているので数メートル先も見えない。
4、5メートル上流には2メートル位の高さのダムがある。頑張れば登れるが、コンクリートが直角でノリが生えており、夜は危なくて登る事はできないので、待ち合わせ場所はここだった。
川向いには竹藪(たけやぶ)が見える。サワサワと小さな音を立てている。

電灯を照らしてあちらこちらを見回す。
「お父さんドコまで行ったかな?」
私が話すと母が
「まだかもね。」
と、答える。

さわさわさわ~
竹藪の笹の揺れる音と川の音だけが川に響く。
耳を澄ますと
バシャバシャバシャ
と、微かに歩く水音が聴こえた。
「あっ!お父さん近くに居るよ!」
そう話すも、母は不思議そうな表情をしている。
風が軽く吹く。
竹藪の音が大きくなる。足音が何処からなのか分からなくなる。

上?下?
混乱する。

「おーい、おとーさーん。」

ザーザー、さわさわさわさわ~

川の音と笹の揺れる音だけが大きく返ってくる。
母は何故か沈黙している。
遠くの方で
「おーい。」
と、聴こえた。
「おーい、おとーさーん。どこ~?」
返事はない。
風の音と笹の音と川の音で、上なのか下なのか何処から呼んでるのかがやっぱり分からない。
「おーい≡≯∑∅∃√∥∋」
お父さんの声ではあるが、何を言ってるのか分からない。
「お父さん呼んでるよ。」
母に言う。母は頷くのみ。
「おーい。ここじゃが~。」
上流から声がしたような気がする。
「上みたいよ。」
上流へ歩きかけて、迷いが生じる。
上流から足音が無いのだ。自分の足音だけがジャブリジャブリと歩くたび鳴っている。

母は濡れるのが嫌らしく、階段の1番下で私を見守っている。
迷っていると
「おーい。≡≧∝√∬~こっちじゃが!!」
聴き取れない部分もあるが、父のイライラした時の声に聴こえる。
(どっちだろう?)

上流?下流?
迷っていると、上下どっちからも聴こえてくる。
上流から
「おーい。」
下流からも
「おーい。」
足音も電灯の明かりもない。ゆるいカーブで見て取れない。
(うーん。こっち!)
と、選んだのは下流。
「下から聴こえるかも!」
半信半疑ではあるが、母に下から来るはず!と数歩下に向かって歩く。
恐怖心があったので、すぐに母の所へ戻れる距離だけ歩く。

「……」
自然の音に混じって、遠くの方から足音が聴こえる。微かに声も聴こえるが無視する。

ザブザブザブ。

キラリとカーブの向こう側からチラリと電灯の灯りが見えた。
「お父さんだ!!」
母の元へ駆け寄り
「下から来たよ。」
と、話す。
うんうんと母が頷く。
「下の方で合ってたね!上に行かなくて良かったね。お父さんの声聴こえた気がしたけど……危なかったね。行き違いになるところだったね。」
父が下流から上がって来たことに安堵し、じょう舌になる。
「もう来てたんだね。早かったね。」
ニコリと父が笑う。
手に持った網には蟹が10匹ほど
「あんまりいなかった。」
と、苦笑いする父に車の中で事の次第を話す。
「へー。呼んではないんじゃが……空耳だったんだろうね。危なかったね。」
ニヤリと笑う。
両親は何となく分かっているようだったが、怖いなと思った私はそれ以上聴くことができなかった。

あの声は何だったのか……もし、一人で上流に歩いて行っていたらと思うと今でも怖くなる。
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