ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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286話、いやでも目立つ大パーティー

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 全ての準備が整った後。食に関して無関心だったイフリート様も、仕方なく骨付き肉を食べた瞬間。
 目を大きく見開き、油でてかった口をすぼめて硬直したかと思いきや、無我夢中になって骨付き肉をがっつき始めた。
 多くは語らなかったけど、たぶん相当気に入ったのかもしれない。終始無言で食べ続けては、その様子をみんなで微笑ましく眺めていた。
 その中には、もちろんウィザレナとレナも居た。しかし、今度は違う。タートに行った時、その立場が逆転するだろう。
 そう夜空に願い、来たる一堂に会する食事に備え。私達は解散し、私、サニー、アルビス、ベルラザさんは一つ屋根の下、眠りに就いた。









「……な、なんというか。すごく嬉しい配慮だけど、緊張し過ぎてまったく落ち着かないな……」

「そ、そうだね……」

 タートへと続く、冒険者が溢れた直線の街道にて。周りの視線を遮るよう囲んだ、人間姿に変身したシルフ、ウンディーネ、ノーム、プネラ、イフリート様、ベルラザさんの顔を見返していくウィザレナとレナ。
 もちろん、その外を覆う形で、私、サニー、アルビス、ヴェルイン一味、人間姿のファート、フローガンズも居る。
 総勢、二十人の大人数。ここまで多く組んだパーティーは、あまり存在しないだろう。ゆえに、周りからかなり浮いていて、歩いているだけでものすごく目立つ。

「あの、ルシルさん! ルシルさん達は、いつもタートで寝てるんですか?」

 ほぼ毎日、午前中に私達の家へ来て、夜になると帰っていく大精霊達に、サニーが好奇心を含んだ質問を投げ掛ける。

「おう、そうだぜ。結構長く滞在してるから、すっかり馴染んじまったな」

「どのお宿もお手頃な価格ですので、路銀の節約になって大変助かっています」

 一応、話は合わせておこうと、あくまで冒険者を装うシルフとウンディーネ。二人して違和感を与えない、自然な会話だ。

「あら、そうなのね。じゃあ、オススメの宿を紹介してもらおうかしら」

「流石に、二十人がいっぺんに泊まれる宿は知らねえな。そこら辺は、全員で探し回ろうぜ」

 街の情報に関して疎そうなカッシェさんの質問を、シルフが無難に回避した。あまり深く突っ込まれると、矛盾が生じて怪しまれるかもしれないと危惧していたが。
 話を合わせるのが上手いシルフに任せておけば、その心配は無さそうだな。ウンディーネもウンディーネで、余計な言葉を挟まず、表情をほころばせてうなずいている。

「人里に行くのは初めてだけど。道中だってのに、もうこんなに人間が居るんだね。見てるだけで暑苦しいや」

 後頭部に両手を回し、気だるげそうに歩くフローガンズが文句を垂れた。プネラ同様、正体が精霊だと周知されているからこそ、口に出来る文句だ。

「道幅は広いってのによ? 視覚的に窮屈っつーか、空気に圧迫感があるっつーか、妙に落ち着かねえわ」

「分かります。みんながこっちを見てるので、目のやりどころに困ってます」

 フローガンズと同じく、人里へ行くのが初体験になるイフリート様とプネラも、心中を明かしていく。
 そもそも、精霊が人の前に姿を現すこと自体、稀だからな。その精霊が、大勢の人が住まう国に行くんだ。精神的に落ち着かなくなるのも、無理はない。

「余らもタートに入ってしまえば、人混みに紛れて目立たなくなる。それまでの辛抱だ」

「立派に成長したなぁ、アルビス。私は嬉しいぜ」

 プネラのざわつく心を落ち着かせようとなだめるアルビスに、腕組んだベルラザさんが、感慨深そうにしみじみと語る。
 アルビスも、初めてこの街道に来た時。人間に襲われ続けていた時代を思い出してしまい、人混みに恐怖に覚え、落ち着かずソワソワしていたっけ。
 けど、今は完全に克服しており、一人でタートに買い出しへ行けるようになれただけでは留まらず。紳士的な対応で街中の人々に接しては、常に自発的な交流を行っている。

「かなり努力したからな。店の人が余の顔や名前を覚えてくれたし、今では向こうから挨拶してくれるぞ」

「街中を警備する兵士も、笑顔で挨拶してくれるようになったよな」

「へぇ~、マジか。あのアルビスが、なぁ……」

 どうやら、色々思う所や込み上げてきたものがあるらしく。黙り込んで、やや下に顔を向けたベルラザさんが、女々しくほくそ笑んだ。

「なあ、狼の兄ちゃん。四階層に、とびっきり美味え酒を扱った店があるんだけどよお。夜になったら行かねえかい?」

「あんたの誘いだったら、断る訳にはいかねえな。乗ったぜ!」

「ちょっと、親分だけずるいっすよ! 俺っちも行きたいっす!」

 まだ午前中だというのに、酒を飲み明かさんと約束を交わしたヴェルインとノームに、仲間外れにしないでくれとスピディが食い付いた。
 ノーム? 四階層って、私もほとんど行ったことがない場所だぞ? なんで大精霊のお前が、酒を取り扱った店に詳しいんだ?
 店名まで言っている所を察するに。こいつだけ、本当にタートに泊まっていて、タート中の酒場を巡り回っていそうだ……。

「なあ、ファーストレディ。ここで墓荒らすのは、やっぱマズイよな?」

 死霊使いとしての血が騒いでいるのか。朝に強い体にしてもらったファートが、小声で私に問い掛けてきた。

「……当たり前だろ? 見つかったら、即刻牢屋行きになると思うぞ」

「だよなぁ。大国の墓地っていうのは、たまに英傑級の骨が眠ってるから穴場中の穴場なんだけどなあ。バレて大事になるのも面倒くせえし、諦めるか」

「是非、そうしてくれ……」

 鼻から露骨にため息をついたファートが、大袈裟に肩を落とした。本当に大丈夫だよな? 途中で我慢出来なくなって、タート中の墓を掘り返さなければいいけど……。

「それで、ウィザレナとレナ。周りに大勢の人間が居るが、貴様らは心境的に大丈夫か?」

 周りに目を配りつつ、二人に気を掛けたアルビスが、顔をウィザレナ達の方へと向ける。

「な、何とは言えないが……。緊張し過ぎていて、それどころじゃない……」

「う、ウィザレナに同じく……」

「ああ、なるほど?」

 確かに。大精霊と向き合って話すだけでも、ガチガチに緊張するというに。その緊張してしまう人物六人に囲まれて、護衛をしてもらっているんだ。違う意味で、心中穏やかじゃないだろう。
 でも、その状態が続くのは、あまりよろしくない。二人がタートに来た理由は、みんなで楽しく食事をする為だ。緊張して料理に集中出来ず、味が分からなくなってしまっては、元も子もない。

「毎回思ってるんだが。二人はどうして、ファーストレディの仲間にそこまで緊張するんだ?」

「む」

 なんてことは無い内容なのだけれども。理由は絶対に明かせない質問をしたファートが、水入り容器の蓋を開け、喉を軽く潤した。

「まっ。俺達から滲み出る絶対強者感が、二人を萎縮させちまってるんだろうな」

「そ、そそっ、その通りでございますー……」

「う、ウィザレナに同じくですー……」

「はぁ、絶対強者感」

 機転を利かせたシルフの嘘に、一直線な棒読みで同調するウィザレナとレナ。

「フローガンズも、なかなかだったけどよ。こいつらマジで、訳が分からねえ魔法ばっかぶっ放すからな。なんだよ? 『ポセイドン』とか『大地の覇者』って。世界が余裕でぶっ壊れるんじゃねーか?」

 ヴェルインがボヤいているのは、かつて全員で『土の瞑想場』へ行き、魔法披露会を行った時のことだな。そうだ。ここに居る全員、大精霊達の強さを直に拝んでいたんだった。

「ああ~、ありましたね~。山も一瞬で吹き飛ばせるらしいですし、ほんと化け物揃いですよね」

「私ももう一回、『風壊神』さんとお話してみたいな。ルシルさん、お願いしてもいいですか?」

「おう、いいぜ! 次『土の瞑想場』に行ったら、召喚してやるよ」

「やったー! ありがとうございます!」

 『風壊神』も世界の均衡を容易に崩しかねない、風属性禁断の召喚魔法のはずなんだけど……。対談するぐらいならいいんだ。
 まあ、触れて欲しくない話題から逸れて、各々雑談をし始めたことだし。この調子で、早くタートに向かってしまおう。
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