ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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279話、笑顔には勝てない

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「なら、ウィザレナ、レナ。その憎き人間共が、今度は命を賭してお前らを護ると言ったら、どう思う?」

「え?」

 タイミングを見計らい、今まで静観していたベルラザさんが、根拠のありそうな話を切り出し。
 その信じがたい言葉を耳にして、目を丸くさせた二人が、ベルラザさんが居る方へ顔を向けた。
 私の読みは間違っていなかったが……。人間が命を賭して、エルフを護る? 『タート』に、そんな法律や取り組みなんてあっただろうか?

「どういう、意味でしょうか?」

「余らと合流する前の話になるんだが。暇を持て余してたベルラザが、世界の国について色々調べたらしく。たまたま『タート』の法律の一つに、興味を惹く物を見つけたらしいんだ」

「ほ、法律?」

 ベルラザさんが、話を続けるかと思いきや。今度はアルビスが、全てを知っていそうなていで説明し出した。
 やっぱり、あの二人は繋がっていたか。ベルラザさんを引き留めないどころか、誘いを促しているから、それほど信頼出来る説得材料があると見た方がいい。

「そうだ! なんでも『タート』には『希少・絶滅危惧種族守護法』っていう、タート独自の法律があるんだけどな? その名の通り、私みたいな数少ない伝説の存在やら、襲撃に遭い続けて激減したエルフ達を、国に駐在する兵士全員が護ってくれるらしいんだ」

「タートという国が……」
「私達を、護ってくれる……?」

 『希少・絶滅危惧種族守護法』。そんな法律が、タートにあるだなんて。まあ、タートはとんでもない数の法律により、絶対的平和が保たれた国だ。
 その数はあまりにも多く、場合によっては息苦しさを覚えてしまう。私が知っている法律は、前科持ちの冒険者は入国出来なかったり。
 中位の魔法は、国から許可を取らないと使用出来なかったり。国の中で禁止された魔法を使用すると、直ちに牢屋送りになるなどなど。
 気が付いたら新しく追加された法律に抵触していて、危うく御用になりかけるという場面も少なくない。

「しかもだぞ! その『希少・絶滅危惧種族守護法』が適用された者は、タートにある料理屋や宿屋、その他施設が全部無料で使えるらしいんだ。堅固な国が命を賭して護ってくれる中で、やりたい放題出来るんだぞ? 私も正体を明かせば、その法律が私に適用される! だからよ、ウィザレナ、レナ。やりたい放題して来た人間共をこき使いまくって、私と一緒に楽しもうぜ?」

 急に聞こえが悪くなった内容で説得し、改めて二人を誘ったベルラザさんが、口角を雄々しく上げつつ悪どい笑みを浮かべた。要は、殺すことが出来ない人間を、奴隷みたいに扱ってやろうと。
 とんでもない誘いだが……。ベルラザさん、ウィザレナ、レナ。この三人には、それらをすることが許されて、実行する権利を持っている。
 ただ、本当に聞こえが悪い。ベルラザさんのことだし。街中で暴れたり、度を越えた悪態をついたりは、流石にしないだろうけれども。ウィザレナ達は、どう出るかな?

「……ど、どうする? レナ」
「面白そうではあるけど、なんだか気が引けるよね……?」

 戸惑い気味のウィザレナが、レナに耳打ちをし。若干乗り気であるものの、後々苛まれるであろう良心の呵責が頭に過り、誘いに乗る決断が出来ないレナ。
 これは、ベルラザさんの誘い方に問題がある。あれだと、悪者になって暴れてやろうぜと言っているようなものだ。ここは少し、私も突っついてみたほうがいいかな?

「あの、ベルラザさん。人間をこき使うって、具体的に何をやらせるつもりなんですか?」

「そうだな~。頼んだ料理をテーブルまで持って来させたり、泊まった部屋を綺麗に掃除させるつもりだ」

「あっ、そうなんですね」

 挙手をして質問してみたけど、なんだ。蓋を開けてみれば、至って普通な内容だった。いや、待てよ? 別の捉え方をしてみればだ。
 ウィザレナとレナは、店を経営している人達が、客に対してどういう振る舞い方をするかなんて、たぶんまったく知らないはず。
 だからこそ、普通の接客対応を大袈裟に表現して、こき使わせている風に思い込ませようとしているんだろうな。

「えっと……? つまり、人間共を私達の執事にさせるという感じでしょうか?」

「おおっ、それそれ! それが言いたかったんだ」

「普段余がやってることを、代わりに人間にさせるんだ。どうだ? 二人共。それぐらいだったら構わんだろう?」

「な、なるほど」

 内容の程度と悪さを柔らかくさせ、低く下げた途端。戸惑っていたウィザレナが、それならという様子の返しをした。
 心底憎んでいるけど、心優しいゆえに殺せない。しかし、奴隷の如くこき使わせるのも気が引ける。ならば、アルビスが普段やっている仕事を、人間にさせてしまおうと。
 そこまで程度を下げないと、二人は乗り気になってくれないんだな。ほんと、優しいにも程がある。なんだか、変に罪悪感が生まれてきてしまった。
 けど、決心したのか。ウィザレナとレナが顔を見合わせ、黙ったままうなずいた後。二人して、サニーの耳から手を離した。

「サニー殿。私とレナは、人間に対して高圧的な態度になってしまうが……。それでも、タートに行って構わないか?」

「高圧的って、どんな感じですか?」

「えと……、その、だな? こう、怒ってるというか、明らかに不機嫌な言動になると言えば、いいか!? アカシック殿?」

 自信が無さそうに説明し始めるも、助けを求めるように、顔をバッと私に移すウィザレナ。

「まあ、大体合ってると思うぞ」

「だそうだ! サニー殿」

「ウィザレナさんとレナさんは、タートに行くと怒っちゃうんですか?」

「ち、違うんです。サニー様! タートに行くだけでは怒りません! むしろ、楽しめると思います。ですが、人間と話そうとすると、私達はぷんぷんしてしまうんです」

 サニーの悪意無き追い込み質問攻めが、二人を死に物狂いで弁解させている。興味本位というか、純粋に知りたいだけで質問してしまうのが、サニーの怖い所でもあるのかな?

「だったら、大丈夫ですよ!」

 そう断言したサニーが、闇夜を眩しく照らすような笑顔を、二人に見せつけた。

「タートにいる人は全員良い人達なので、ウィザレナさんとレナさんは怒らないと思います!」

「うっ……!」
「んっ……!」

 禁断魔法級の威力がありそうな、サニーの強烈過ぎる一言に、ウィザレナとレナの表情が固く強張り、噤んだ口を一文字にさせた。
 来れば分かるといった、根拠なんてまるでなく、全ての恨みや葛藤を度外視した言いくるめよ。今の二人にとって、相当効いただろうな。
 その証拠に、二人は両手を布に突き、小刻みに震えたこうべを悲しく垂れ下げている。完全に詰みだ。これでもう、二人はタートへ行かざるを得なくなってしまった。

「……そ、そうか。なら、一回、タートに行ってみるぞ……」
「さ、サニー様に、そこまで言われたら、仕方ありましぇん……。が、頑張り、ましゅ……」

「本当ですか!? やったー! 一緒に楽しみましょうねっ!」
 
 とうとう心が折れた二人へ、弾けた満面の笑みを送り、両手を大きく上げてバンザイするサニー。……流石にちょっと、二人が可哀想になってきたな。

「あのー、我も行かないと駄目なんですか?」
「あたしも行かないと、ダメなんでしょうか?」

 いつの間にか起きていたファートと、人間の前には滅多に姿を現さない精霊のフローガンズが、控え気味に挙手をしながら問う。

「そうだ! でもお前らは、誰かに変身魔法を掛けてもらって、姿を変えてくれな」

「あっ……。はい、分かりました……」
「有無を言わさず、なんですね……」

 元より行かない選択肢なぞ無いと一蹴された二人が、顔をゆっくり見合わせ、諦めの表情を見せた顔をカクンと垂らした。
 ヴェルインとカッシェさんは、特に異論は無いらしく。落ち込んだファートとフローガンズに、同情を含んでいそうな苦笑いをしている。
 これで本当に、全員がタートへ行くことになってしまった。実現しないとばかり思っていたから、少々驚いている自分が居る。
 けど、ウィザレナとレナに関しては、あまり無視出来ない強引さがあったのも事実。……仕方ない。解散したら、後でウィザレナ達の家に行って、二人に謝っておこう。
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