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263話、舞い戻りし不死鳥、ベルラザ
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再会の約束を果たしたベルラザさんが、鼻でふんっと笑う。……理解が、まったく追い付かない。ベルラザさんは、『冥府の門』に取り込まれて肉体が消滅していたはずなのに。
今、私の目で捉えているベルラザさんの体は、確かに実在している。細身ながらも筋肉質で、全身小麦色の肌。風にたなびく長髪は、まるで燃え盛る炎のような赤。
凛々しくもあり、整っていながらもどこか雄々しくて、男勝りな顔立ち。上下一体で、清楚な印象を受ける白の一枚布。やはり何度見ても、あのベルラザさんで間違いない。
人成らざる者と、ベルラザさんを纏っていた業火の竜巻が、完全の霧散し。空中に浮いていた二人が、地面へ向かい、ゆっくりと降下を始め。
焼き焦げた地に足が付くと、二人して腕を組み、ベルラザさんがやんちゃで眩しい笑みを見せた。
「どうした? 二人して、信じられねえってツラしやがってよ」
「べ、ベルラザ……。ベルラザァーーーッ!!」
か弱くも潤んだ叫び声を上げたアルビスが走り出し、両手を大らかに広げたベルラザさんに飛び込み、力が入っているのか分からない両腕で体を抱きしめた。
「おっと、はっはっはっ。ちょっと見ねえ内に、ずいぶん甘えん坊になっちまったなあ」
「……ベルラザ。本物の、ベルラザだぁ……」
「おいおい。『また、どこかで必ず会おうぜ』って、約束しただろ? 忘れたとは言わせねえぞ?」
「約束の内容が、違う……。まさか、生きて帰って来てくれるなんてぇ……!」
そう。『冥府の門』が閉まる前に交わした約束は、アルビスの守護霊になるという内容だった。けど、実際はどうだ?
泣き崩れたアルビスは、ベルラザさんの体を抱きしめているし。ベルラザさんも、アルビスの震えた頭を優しく撫でている。
「ああ~……。生き返ったっつーか、生まれ変わったというか。私もまだ、色々実感が湧いてねえんだよな」
「生まれ、変わった……?」
「そう。今の私は、ただのベルラザじゃねえ。火を司る大精霊の卵、ベルラザ様だ!」
「……え? 火を司る、大精霊?」
おい。ベルラザさんは、今なんて言ったんだ? 火を司る大精霊の卵だって? 一体、どういう事なんだ? ベルラザさんって、不死鳥だったはずでは……。
「そうだ! けど、不死鳥の特性は失っちゃいねえ。今の私は、不死鳥であり火を司る大精霊だ。しかもだぞ、アルビス!」
嬉々と笑みを浮かべたベルラザさんが、アルビスに顔をズイッと寄せる。
「大精霊になったから、時の穢れを自分で払えるようになれたんだ。これを意味するもんが、なんだか分かるか?」
「時の穢れを払えるようになれたって……。じゃあ、じゃあ……!」
「ああ、そうだ! あんなヘマは、もう二度としねえ。そして、お前が『冥府の門』を開ける機会も、二度来なくなる」
そう力強く断言したベルラザさんが、柔らかくも女々しくほくそ笑み。再びアルビスを、優しく抱きしめた。
「ごめんな、長い間待たせちまって。ただいま、アルビス」
「あ、ああっ……! お、おか、おかえり……。ベル、ラザァ……!」
金輪際、別れは訪れないという風に聞こえた挨拶に、とうとう限界が来てしまったのだろう。ベルラザの肩に顔を埋めたアルビスが、本格的に泣き出した。
生き返ったというよりも、大精霊に生まれ変わって帰って来た。肉体を持って目の前に現れ、説明を受けても、まだ理解が全然追い付いていない。
けれども、もうそうとしか思えていない自分がいる。当時、幽体だったベルラザさんが大精霊に生まれ変わり、アルビスと交わした約束を果たすべく、逢いに来たのだと。
「いいねえ、感動の再会ってやつは。涙腺が緩んじまってっから、ついウルっときちまったぜ」
「うおっと」
不意に右側から、野太くも大らかな声が聞こえたので、声がした方へ顔を向けてみれば。
先ほどまで、ベルラザさんの横に居た人成らざる者が、しみじみとした様子の表情で立っていた。
いつの間に、私の隣まで来ていたんだ? まったく気付かなかった。それに、この独特で凄まじい威圧感があり、指輪の効果を軽く貫通してくる灼熱の魔力よ。もしかして、この人は……。
「あなた、もしかして火の大精霊様、ですか?」
「ああ。よく分かったな、小娘。火を司る大精霊“イフリート”だ。よろしくな」
「や、やっぱり……」
違うと答えられたら、どうしようかと思ったが。やはり、火を司る大精霊様で合っていた。シルフ然り、ノーム然り。いつも突如として、なんの前触れも無く現れて来る───。
いや、今回は数年前に示唆していたっけ。あれは、ウンディーネとシルフが、初めて私の家へ訪れる前夜。私、アルビス、ウィザレナ、レナに大事な話をしていた最中。
シルフはアルビスに対し、火の大精霊とも契約を交わさせると言っていた。更に、もう一つ。『再会出来る日を、楽しみに待ってな』とも強調していたはず。
なので、あの時から既に、ベルラザさんは大精霊に生まれ変わっていたと推測が出来る。アルビスが召喚した『冥府の門』が閉じて、ベルラザさんがあの世へ旅立った当日か、次の日までの間に。
「でよ、小娘。てめえに言いてえ文句がある。聞け」
「も、文句、ですか?」
「そうだ。俺達の前に、でっけえ活火山があんだろ?」
私に向けていた獰猛な目を、前に移したので、私もイフリート様が向けた顔の先へ注目する。
ベルラザさんが、すすり泣くアルビスを介抱している、その先。かつて、私が火口から侵入し、上位に相当する火のマナの結晶体を採取した活火山が見えた。
「はい、あります」
「あの活火山は、俺の本拠地でよ。いきなりてめえが最深部まで乗り込んで来た時は、流石の俺も焦ったぞ」
「げっ……!? あ、あの山、イフリート様の物だったんですか?」
……だとすれば、過去の私が行った採取は、ただの窃盗になってしまうじゃないか。しかも、七大精霊の一人、イフリート様が住む活火山の物となれば、その罪は相当重くなってしまうぞ。
「そうだ。ったくよお。薄っすい魔法壁だけ張って、ノコノコ最深部まで来やがって。俺が慌てて噴火を抑えたからよかったものの。もし俺が居なかったら、てめえは噴火に巻き込まれて骨すら溶けてた所だかんな?」
「は、はい、イフリート様の言う通りです……。誠に申し訳ございませんでした……」
「分かればいい。ああ、やっと言えた。数十年間溜めてたから、スッキリしたぜ」
たぶん、本当にスッキリしたのか。「はっはっはっ」と低音ながらも満足気に笑うイフリート様。この活火山、イフリート様が住まう本拠地だったんだ。
ウンディーネのように、羽休め目的で居る場所へは、本人の許可を貰って普段から行っているけれども。大精霊様の本拠地となると、話はまったく別になる。
現世の中でも、特に異例で神聖たる地。人間なんて、軽々しく足を踏み入れてはいけない場所になるだろう。
そんな地に、私は二度も足を付き、採取と言う名の窃盗を再び犯そうとしていたんだ。おこがましいにも、ほどがあるな。
「けど、ようやく今日、こうして相見えたんだ。欲しいもんがあったら、好きに持ってきな」
「え? いいん、ですか?」
「どうせ俺達は、これから契約を交わして仲間になるんだ。まっ、好みのなんたるかってヤツだ。これから頼むぜ? 相棒」
「あっ……、えと。は、はい。これからよろしくお願いします」
イフリート様節に負けて、素直に答えると、イフリート様は口角を上げてはにかんだ。展開と切り替えが早過ぎて、上手く流れに付いていけなかったが。
こんな私を、イフリート様は仲間とか相棒と言ってくれた。それについては、心に温かな物を感じたし、少なからず嬉しくなってしまった。
今、私の目で捉えているベルラザさんの体は、確かに実在している。細身ながらも筋肉質で、全身小麦色の肌。風にたなびく長髪は、まるで燃え盛る炎のような赤。
凛々しくもあり、整っていながらもどこか雄々しくて、男勝りな顔立ち。上下一体で、清楚な印象を受ける白の一枚布。やはり何度見ても、あのベルラザさんで間違いない。
人成らざる者と、ベルラザさんを纏っていた業火の竜巻が、完全の霧散し。空中に浮いていた二人が、地面へ向かい、ゆっくりと降下を始め。
焼き焦げた地に足が付くと、二人して腕を組み、ベルラザさんがやんちゃで眩しい笑みを見せた。
「どうした? 二人して、信じられねえってツラしやがってよ」
「べ、ベルラザ……。ベルラザァーーーッ!!」
か弱くも潤んだ叫び声を上げたアルビスが走り出し、両手を大らかに広げたベルラザさんに飛び込み、力が入っているのか分からない両腕で体を抱きしめた。
「おっと、はっはっはっ。ちょっと見ねえ内に、ずいぶん甘えん坊になっちまったなあ」
「……ベルラザ。本物の、ベルラザだぁ……」
「おいおい。『また、どこかで必ず会おうぜ』って、約束しただろ? 忘れたとは言わせねえぞ?」
「約束の内容が、違う……。まさか、生きて帰って来てくれるなんてぇ……!」
そう。『冥府の門』が閉まる前に交わした約束は、アルビスの守護霊になるという内容だった。けど、実際はどうだ?
泣き崩れたアルビスは、ベルラザさんの体を抱きしめているし。ベルラザさんも、アルビスの震えた頭を優しく撫でている。
「ああ~……。生き返ったっつーか、生まれ変わったというか。私もまだ、色々実感が湧いてねえんだよな」
「生まれ、変わった……?」
「そう。今の私は、ただのベルラザじゃねえ。火を司る大精霊の卵、ベルラザ様だ!」
「……え? 火を司る、大精霊?」
おい。ベルラザさんは、今なんて言ったんだ? 火を司る大精霊の卵だって? 一体、どういう事なんだ? ベルラザさんって、不死鳥だったはずでは……。
「そうだ! けど、不死鳥の特性は失っちゃいねえ。今の私は、不死鳥であり火を司る大精霊だ。しかもだぞ、アルビス!」
嬉々と笑みを浮かべたベルラザさんが、アルビスに顔をズイッと寄せる。
「大精霊になったから、時の穢れを自分で払えるようになれたんだ。これを意味するもんが、なんだか分かるか?」
「時の穢れを払えるようになれたって……。じゃあ、じゃあ……!」
「ああ、そうだ! あんなヘマは、もう二度としねえ。そして、お前が『冥府の門』を開ける機会も、二度来なくなる」
そう力強く断言したベルラザさんが、柔らかくも女々しくほくそ笑み。再びアルビスを、優しく抱きしめた。
「ごめんな、長い間待たせちまって。ただいま、アルビス」
「あ、ああっ……! お、おか、おかえり……。ベル、ラザァ……!」
金輪際、別れは訪れないという風に聞こえた挨拶に、とうとう限界が来てしまったのだろう。ベルラザの肩に顔を埋めたアルビスが、本格的に泣き出した。
生き返ったというよりも、大精霊に生まれ変わって帰って来た。肉体を持って目の前に現れ、説明を受けても、まだ理解が全然追い付いていない。
けれども、もうそうとしか思えていない自分がいる。当時、幽体だったベルラザさんが大精霊に生まれ変わり、アルビスと交わした約束を果たすべく、逢いに来たのだと。
「いいねえ、感動の再会ってやつは。涙腺が緩んじまってっから、ついウルっときちまったぜ」
「うおっと」
不意に右側から、野太くも大らかな声が聞こえたので、声がした方へ顔を向けてみれば。
先ほどまで、ベルラザさんの横に居た人成らざる者が、しみじみとした様子の表情で立っていた。
いつの間に、私の隣まで来ていたんだ? まったく気付かなかった。それに、この独特で凄まじい威圧感があり、指輪の効果を軽く貫通してくる灼熱の魔力よ。もしかして、この人は……。
「あなた、もしかして火の大精霊様、ですか?」
「ああ。よく分かったな、小娘。火を司る大精霊“イフリート”だ。よろしくな」
「や、やっぱり……」
違うと答えられたら、どうしようかと思ったが。やはり、火を司る大精霊様で合っていた。シルフ然り、ノーム然り。いつも突如として、なんの前触れも無く現れて来る───。
いや、今回は数年前に示唆していたっけ。あれは、ウンディーネとシルフが、初めて私の家へ訪れる前夜。私、アルビス、ウィザレナ、レナに大事な話をしていた最中。
シルフはアルビスに対し、火の大精霊とも契約を交わさせると言っていた。更に、もう一つ。『再会出来る日を、楽しみに待ってな』とも強調していたはず。
なので、あの時から既に、ベルラザさんは大精霊に生まれ変わっていたと推測が出来る。アルビスが召喚した『冥府の門』が閉じて、ベルラザさんがあの世へ旅立った当日か、次の日までの間に。
「でよ、小娘。てめえに言いてえ文句がある。聞け」
「も、文句、ですか?」
「そうだ。俺達の前に、でっけえ活火山があんだろ?」
私に向けていた獰猛な目を、前に移したので、私もイフリート様が向けた顔の先へ注目する。
ベルラザさんが、すすり泣くアルビスを介抱している、その先。かつて、私が火口から侵入し、上位に相当する火のマナの結晶体を採取した活火山が見えた。
「はい、あります」
「あの活火山は、俺の本拠地でよ。いきなりてめえが最深部まで乗り込んで来た時は、流石の俺も焦ったぞ」
「げっ……!? あ、あの山、イフリート様の物だったんですか?」
……だとすれば、過去の私が行った採取は、ただの窃盗になってしまうじゃないか。しかも、七大精霊の一人、イフリート様が住む活火山の物となれば、その罪は相当重くなってしまうぞ。
「そうだ。ったくよお。薄っすい魔法壁だけ張って、ノコノコ最深部まで来やがって。俺が慌てて噴火を抑えたからよかったものの。もし俺が居なかったら、てめえは噴火に巻き込まれて骨すら溶けてた所だかんな?」
「は、はい、イフリート様の言う通りです……。誠に申し訳ございませんでした……」
「分かればいい。ああ、やっと言えた。数十年間溜めてたから、スッキリしたぜ」
たぶん、本当にスッキリしたのか。「はっはっはっ」と低音ながらも満足気に笑うイフリート様。この活火山、イフリート様が住まう本拠地だったんだ。
ウンディーネのように、羽休め目的で居る場所へは、本人の許可を貰って普段から行っているけれども。大精霊様の本拠地となると、話はまったく別になる。
現世の中でも、特に異例で神聖たる地。人間なんて、軽々しく足を踏み入れてはいけない場所になるだろう。
そんな地に、私は二度も足を付き、採取と言う名の窃盗を再び犯そうとしていたんだ。おこがましいにも、ほどがあるな。
「けど、ようやく今日、こうして相見えたんだ。欲しいもんがあったら、好きに持ってきな」
「え? いいん、ですか?」
「どうせ俺達は、これから契約を交わして仲間になるんだ。まっ、好みのなんたるかってヤツだ。これから頼むぜ? 相棒」
「あっ……、えと。は、はい。これからよろしくお願いします」
イフリート様節に負けて、素直に答えると、イフリート様は口角を上げてはにかんだ。展開と切り替えが早過ぎて、上手く流れに付いていけなかったが。
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