ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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261話、緊急を要するワガママ

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「これで、三勝目だな」

「無理ぃ~……。どうやってもアカシックに勝てないよぉ~……」

 フローガンズの気が済むまで、無制限大将戦を始めてから、早一時間弱といった所。何度か危ない場面があったけれども、三戦三勝で私が勝ち越せた。
 一戦目。近接の奇襲は効かないと悟ったらしく、開始と同時に私の全身を凍らせようと試みたものの。
 氷漬けになる前に、周りの空間をすぐさま掌握し、中位の火属性魔法で氷を溶かして回避。
 フローガンズにとって、一番理想的な動きをしてくれたが。いつか必ずやってくると踏んでいたので、迅速に対処が出来た。

 二戦目。行動を少しでも制限させようと、フローガンズは戦闘が始まった瞬間、私の両手と口を凍らせようとしてきた。
 ここは、かなりヒヤリとした。普通の魔法使いや魔女が、両手と口を封じられたら、魔法を使えなくなってしまうからな。実際、私も少々危機を感じた。
 しかし、私は杖を振りさえすれば、上位魔法を詠唱無しで使える。なので、手が完全に凍り付く前に、各六属性の杖に『ふわふわ』と『ぶうーん』を掛けて事無きを得た。

 フローガンズもとい精霊戦は、最初の数秒で勝負が決まると言っても過言じゃない。相手の得意とする場に居て、かつ判断を誤れば、次に待っているのは確たる死だ。
 相手を本気で殺しに掛かる精霊は、それほどまでに強い。ウンディーネやノームだって、その気になれば私を数秒で殺せていただろう。
 二戦目の流れを、初めの大将戦でやられていたら、私は確実に負けていた。その時はまだ、『奥の手』について違和感を抱けていなかったからな。
 私だって魔法を使えなければ、抗う術を持たない、ただの人間になる。フローガンズの近接攻撃を避けられず、一発であの世行きだ。

 三戦目は、逆の発想。私本体ではなく、杖を直接狙ってきた。考え自体は悪くない。杖が無ければ、私の攻撃魔法の威力は大幅に下がる。
 が、フローガンズは順序を間違えた。杖自体は簡単に召喚出来るし、いつでも消せる。
 一つ手間があるとすれば、『出て来い』と言った後、属性の指定をしなければならない事ぐらいなもの。
 なので、先に私の両手と口を氷で封じ、次に杖を狙っていれば、あるいはだったかもしれない。もちろん、そんな事はさせないけどな。

 あと、フローガンズとの闘いを経て、空間の掌握について更に分かった事が一つある。
 それは、召喚獣に私の魔力を乗せられない事。一度『極光蟲』を大量に召喚し、召喚本体と放った攻撃に、私の魔力を乗せられないか試してみたが、失敗に終わった。
 もし出来ていたら、一定数の『天翔ける極光鳥』を広範囲に渡り、飛び回らせていたというのに。そう上手くはいかないものだな。

「まあ、お前なりに健闘したと思うぜ」

「二戦目の出だしと、三戦目の試みはよかったですよ。二戦目はしっかり決まっていれば、間違いなく勝てていた戦いでした。しかし、今回は相手が悪かったですね」

「杖に『ふわふわ』と『ぶうーん』さえやってなけりゃあ、氷の嬢ちゃんが勝ててたんだがなあ」

「ううっ……、ありがとうございますぅ……」

 ウンディーネとノームも、そこに気付いていたか。そう。一番危なかったのは、二戦目の出だしだ。
 私が杖に『ふわふわ』と『ぶうーん』を掛けられていなかったら、勝敗は完全に決まっていた───。

「ん? ……げっ」

 不意に、視界へ入り込んできた火の杖に、嫌な予感が過る違和感を覚えたので、掴んで観察してみれば。
 杖に装着していた、上級に相当する火のマナの結晶体に宿っていたマナが、枯渇してしまったらしく。鮮やかな緋色をしていた結晶体が、薄暗い灰色になっていた。

「長い間使ってきたけど、とうとうマナが尽きてしまったか」

 この結晶体を手に入れたのは、約四、五十年前ぐらいだったか。場所は、火山地帯の奥地にある、一際巨大な活火山の最奥地。
 火山地帯は沼地帯から行くと、片道だけで七日間前後掛かってしまう。けど、雪原地帯からなら、一日掛ければ行けなくもない距離になる。
 一昔の私だったら、じゃあ行くかとすぐに決められていた。でも、時間が有限な今の私にとって、移動時間に一日掛けるという行為に、かなりの抵抗を感じてしまう。

「でも、行かないとなぁ……」

 上級相当のマナの結晶体なんて、普通の店で売っているような代物じゃない。マナの結晶体を扱う専門店でさえ、数年に一度置いてあるかどうかの頻度。
 しかも、そのほとんどが小粒。対し、私が火山地帯で見つけた結晶体は、ウンディーネやシルフから譲り受けた、最上級の結晶体の大きさと、ほとんど変わらない。
 火山地帯で見つけた、この結晶体。店に持って行ったらとんでもない騒ぎになるだろうな。それ程までに、貴重な結晶体なんだ。

「仕方ない、ルシルに頼んでみるか」

 『導きの光風こうふう』を出してもらえれば、一秒で火山地帯に行ける。探すのに時間を掛けたくないから、ワガママを言って場所の指定もしてしまおう。
 そう決めた私は、プネラと談笑していたルシルの肩を、指でちょんちょんっと突っついた。

「ん? どうした?」

「ちょっと聞いて欲しい話があるから、こっちに来てくれないか?」

「話? ああ、いいぜ」

 ルシルがすぐに快諾してくれたので、私はみんなとの距離を取るべく、まっさらな銀世界が広がる場所まで歩いていく。
 プネラも一緒に付いてきてしまったけど、聞かれたらまずい内容ではないし、まあいいか。

「で? 話ってなんだ?」

「すまない、ルシル。早速なんだけど、私のワガママな願いを叶えてくれないか?」

「ワガママな願い? まあ、とりあえず言ってみろ」

「ありがとう。まず、この杖にある結晶体を見てくれ」

 ワガママな内容を、分かりやすく説明する為に、ずっと出しておいた火の杖を、ルシル達の前へかざした。

「ああ、見たぜ」

「でだ、ここにマナが枯渇した結晶体があるだろ?」

 説明を続けつつ、灰色と化した結晶体に指を差す。

「確か、火山地帯で見つけたやつだったか? めちゃくちゃ良い結晶体だな、これ。よくマナを使い切れたもんだぜ」

「すごいね、アカシックお姉ちゃん。人間の寿命だったら、一生涯を共に出来ると思うよ」

「そ、そんなに、すごい結晶体だったんだな。というか……」

 結晶体を見つけた場所を、まだ言っていないというのに、当然のように当てたルシルへ視線を滑らせる。

「ルシル。この結晶体を見つけた場所が、よく分かったな」

「暇さえあれば、お前を見てたからな。普通だったら、生身で行くような場所じゃねえぞ? あそこは」

「ああ、なるほど……」

 そうだ。ルシルは、私が赤ん坊の頃から知っていて、見守ってくれていたんだった。つまり、私の心が闇に堕ちていた時も、ずっと見てくれていた事になる。

「要は、あれだろ? 新しい結晶体を探しに行きたいから、火山地帯に連れてけって訳だな?」

「理解が早くて、本当に助かるよ。お願いしてもいいか?」

「可愛い孫の頼みだ、もちろんいいぜ。けど、一つだけ条件がある」

「条件? なんだ?」

 考えも無しに聞き返してみると、ルシルはプネラに顔を合わせ、どこかいやらしい笑みを浮かべた後。二人して、にやけ面を私に戻してきた。

「話は俺が付けておくから、必ずアルビスと同行しろ。これが条件だ」

「アルビスと? それは全然構わないけど、なんでなんだ?」

「一緒に行けば分かるさ。なあ、プネラ?」

「ですね! アルビスお兄ちゃん、泣いちゃうんじゃないかな?」

「ははっ、間違いねえ。大号泣すると思うぜ」

「はぁ」

 アルビスが号泣するほどの出来事が、火山地帯にあると? なんだろう、皆目見当もつかないな。

「でだ、アカシック。俺はいつでも大丈夫だけど、いつ火山地帯に行くよ?」

「なるべく早い方がいいから、明日にでもお願いしていいか?」

「明日だな、任せとけ! んじゃあせっかくだし、アルビスもここに呼んで───」

「うわぁ~、綺麗~~っ!!」

「ん?」

 善は急げと、ルシルがアルビスを呼ぼうとするや否や。感銘を受けていそうなサニーの大声が、割って入ってきたので、サニー達が居る方へ顔を移してみる。
 不思議に思った、視線の先。全員が嬉々とした顔を夜空に向けていて、白が濃いため息を吐き出していた。一体夜空に、何があるって……。

「ああ、もうそんな時間か」

 私も夜空を見る為に、顔を仰いでみれば。どこを見渡してみれど、満点の星空を隠す形で、優雅に揺れる巨大な虹色の布みたいな物が、そこらかしこに点在していた。

「あれが『極光か』。綺麗だなぁ」

「正に、自然の大魔法って感じだな」

「うわぁ~っ、すっご~い」

 音も無くそこに佇み、そよ風を受けて揺らめく窓掛けみたいな見た目をした、極光よ。一度揺らめけば、虹色も自由気ままに動き、私の目を釘付けにしていく。

「アルビスには、後で言っておくか」

「そうだな」

 『天翔ける極光鳥』とは、また違った壮大さと魅力がある。今は、ただひたすらに現実離れした光景を見続けていたい。頭を空っぽにして、抱えた問題を全て忘れつつな。
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