ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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260話、持ちつ持たれつな関係

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「飛び抜けて、酷い恰好になってるな……」

 間の抜けたルシルに戻って来いと言われたので、地上まで降下してみれば。まず目に入ったのは、雪原に顔をうずめ、尻を空へ突き出しているフローガンズの姿。
 そのフローガンズを間近で見守る、サニーとプネラ。私に手を大きく手を振り、帰りを待っていたウィザレナやレナ達。
 「流石は、アルビス様の妹様ですね」と語るアイスに、「そうだろう、そうだろう?」と鼻高々でいて、どこか誇らしげなアルビスが伺えた。

「ただいま」

「おう、お疲れさん」

 不燃焼気味に声を掛けつつ、地面に下りて乗っていた箒を消すと、腕を組んでいるルシルが返答してきてくれた。

「お疲れ様です、アカシックさん。何とは言いませんが、とても上手に扱えていましたよ」

「あんなもん見せられたら、体が疼くに決まってんだろうがあ。魔女の嬢ちゃんに近づくタイミング、完全に誤ったぜえ」

 精霊由来の力とは口にせず、華奢な笑みを浮かべて私を褒めてくれたディーネに。湿ったボヤキを呟き、どこか後悔しながら肩を落とすノーム。

「お母さんっ!」

「おっと」

 私を褒めてくれたディーネに、感謝の言葉を返そうとした矢先。サニーが飛びついてきたので、慌てて受け止めると、眩く輝いた青い瞳を私に向けてきた。

「お母さん! ずっと見てたけど、お母さんって太陽も出せるんだね!」

「太陽? ああ、あれってそんな風に見えてたのか」

 声を嬉々と弾ませたサニーが言っているのは、空間を球体状に掌握した後、三百六十度へ放った『不死鳥の息吹』の事かな。
 私は内側に居たから、どんな全容をしているのか分からなかったけれども。外側から見ると、太陽みたいな感じになっていたのか。だったら、指輪の加護を貫く熱気も頷ける。

「うん! お母さんが高い空まで行っちゃったから、一回見失っちゃったけど、居る場所がすぐ分かったよ!」

「とんでもねえ速さで広がってくもんだから、こいつも避けようがなかったんだろうな」

「あ、なるほど。そういう事か」

 ルシルの哀れみを含んだ説明に、知らない間になんで私が勝利したのか、ようやく理解出来た。
 フローガンズめ、一帯の領域を掌握する為に放った『不死鳥の息吹』に、巻き込まれていたんだな。
 ……冷静に考えてみれば。『不死鳥の息吹』を三百六十度展開する行為そのものが、対処の難しい攻撃になっている。
 瞬間移動や奇襲、空間の掌握に意識が囚われ過ぎていて、完全に見落としていた。いや、違う。私もフローガンズみたいに、出来る事が増えて、気持ちが舞い上がっていたのかもしれない。
 そして、視野が大幅に狭まり、試してみたい事を優先的にやってしまった。その行為が招く結果に、見向きもせず。

「……なんか凄いのが迫って来てたから、何回か瞬間移動したんだけどさ? それでも追い付かれちゃったよぉ……」

「だってよ? アカシック。お前らしくねえぜ? そんなにはしゃいじまうなんてよ」

「うっ……」

 ニヤニヤし出したルシルの意味深な発言に、体を小さく波立たせる私。たぶんルシルには、全て見透かされていそうだ。
 攻撃は最大の防御と、よく言うけど。三百六十度展開した『不死鳥の息吹』が、正にそれだ。
 しかも、私の場合、一帯の空間を掌握するという役割も持っているから、次の手にも活かせる。
 やはり、視野が相当狭まっていた。精霊由来の力は、目的を一つに絞って使用するなんて勿体ない。この力は、あらゆる可能性を秘めているのだから。

「ここ最近では、一番はしゃいでたかもな。それほど、大きな物を掴んだと思ってるよ」

「そうか、よかったな。で? その掴んだ物とやらは、何に使うつもりだ?」

 普段通りの声色で質問を重ねてきたけど、内容の意図が重い。今更、間違った使い方をする訳がないだろう。

「もちろん、私の目的を達成する為。それと、みんなを守る為にかな」

「ほ~う? 世界を征服する為とか、ちょっと小生意気な事を言ってもよかったんだぜ?」

「世界征服なんて、魔王ごっこで何回もしてるから、もう充分やったさ」

「へへっ、なるほどな」

 世界征服、ねぇ。確かに、今の私だったら容易く出来るかもしれない。大国も、国全体の空間を掌握してしまえば、一瞬で滅ぼせてしまう。
 そんな恐ろしい力の使い方、私はするつもりなんて毛頭無い。私はただ、追い続けている夢を叶えるだけ。そして、もし叶えられたら、精霊由来の力を使う機会なんて、二度と無いだろうな。

「見守る側から、守られる側になってしまいましたか。それもいいですね、ルシルさん」

「かもな。けど、守られっぱなしは俺の性に合わねえ。俺達だけは、持ちつ持たれつのままで行こうぜ。アカシック」

「そうだな。何かあったら迷わず頼るよ」

「おう! 任せとけっ」

 頼られて嬉しくなったルシルが、ニッと笑いながら親指を立ててきた。迷わず頼れる、持ちつ持たれつな関係。
 いいなぁ。心がじんわりと温かくなる、すごく良い言葉だ。だったら───。

「なあ、フローガンズ。私から提案があるんだけど、聞いてくれないか?」

「……なーにぃ?」

「夜になるまで、まだ少し時間があるだろ? 私も不燃焼気味だし、もう何回か大将戦をやらないか?」

 フローガンズにとって、またとない再戦を申し出るや否や。雪原に埋まっていた顔が、雪を撒き散らしながらバッと上がり、信じられない物を見たという様な目を、私に合わせてきた。

「……え? いいの?」

「ああ。極光が夜空に出るまで、いくらでも付き合ってやる」

 誘惑の強い後押しをするも、フローガンズは呆けたまま。しかし、数秒もすると、目と口が徐々に大きく開き、表情もぱぁっと明るくなっていった。

「……うん! やろうやろう! 次こそは、絶対に勝ってやるからね!」

「なら、全部返り討ちにしてやる」

 白みを帯びた冷たそうな太陽は、大分傾いてきている。夜になるまで、一、二時間前後といった所。二時間もあれば、四、五回はフローガンズと戦える。
 あいつだって馬鹿じゃない。学べば一回で吸収し、即実践で活用が出来ている。もしかしたら、最後の方は私が負けてしまうかもな。
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