265 / 301
260話、持ちつ持たれつな関係
しおりを挟む
「飛び抜けて、酷い恰好になってるな……」
間の抜けたルシルに戻って来いと言われたので、地上まで降下してみれば。まず目に入ったのは、雪原に顔を埋め、尻を空へ突き出しているフローガンズの姿。
そのフローガンズを間近で見守る、サニーとプネラ。私に手を大きく手を振り、帰りを待っていたウィザレナやレナ達。
「流石は、アルビス様の妹様ですね」と語るアイスに、「そうだろう、そうだろう?」と鼻高々でいて、どこか誇らしげなアルビスが伺えた。
「ただいま」
「おう、お疲れさん」
不燃焼気味に声を掛けつつ、地面に下りて乗っていた箒を消すと、腕を組んでいるルシルが返答してきてくれた。
「お疲れ様です、アカシックさん。何とは言いませんが、とても上手に扱えていましたよ」
「あんなもん見せられたら、体が疼くに決まってんだろうがあ。魔女の嬢ちゃんに近づくタイミング、完全に誤ったぜえ」
精霊由来の力とは口にせず、華奢な笑みを浮かべて私を褒めてくれたディーネに。湿ったボヤキを呟き、どこか後悔しながら肩を落とすノーム。
「お母さんっ!」
「おっと」
私を褒めてくれたディーネに、感謝の言葉を返そうとした矢先。サニーが飛びついてきたので、慌てて受け止めると、眩く輝いた青い瞳を私に向けてきた。
「お母さん! ずっと見てたけど、お母さんって太陽も出せるんだね!」
「太陽? ああ、あれってそんな風に見えてたのか」
声を嬉々と弾ませたサニーが言っているのは、空間を球体状に掌握した後、三百六十度へ放った『不死鳥の息吹』の事かな。
私は内側に居たから、どんな全容をしているのか分からなかったけれども。外側から見ると、太陽みたいな感じになっていたのか。だったら、指輪の加護を貫く熱気も頷ける。
「うん! お母さんが高い空まで行っちゃったから、一回見失っちゃったけど、居る場所がすぐ分かったよ!」
「とんでもねえ速さで広がってくもんだから、こいつも避けようがなかったんだろうな」
「あ、なるほど。そういう事か」
ルシルの哀れみを含んだ説明に、知らない間になんで私が勝利したのか、ようやく理解出来た。
フローガンズめ、一帯の領域を掌握する為に放った『不死鳥の息吹』に、巻き込まれていたんだな。
……冷静に考えてみれば。『不死鳥の息吹』を三百六十度展開する行為そのものが、対処の難しい攻撃になっている。
瞬間移動や奇襲、空間の掌握に意識が囚われ過ぎていて、完全に見落としていた。いや、違う。私もフローガンズみたいに、出来る事が増えて、気持ちが舞い上がっていたのかもしれない。
そして、視野が大幅に狭まり、試してみたい事を優先的にやってしまった。その行為が招く結果に、見向きもせず。
「……なんか凄いのが迫って来てたから、何回か瞬間移動したんだけどさ? それでも追い付かれちゃったよぉ……」
「だってよ? アカシック。お前らしくねえぜ? そんなにはしゃいじまうなんてよ」
「うっ……」
ニヤニヤし出したルシルの意味深な発言に、体を小さく波立たせる私。たぶんルシルには、全て見透かされていそうだ。
攻撃は最大の防御と、よく言うけど。三百六十度展開した『不死鳥の息吹』が、正にそれだ。
しかも、私の場合、一帯の空間を掌握するという役割も持っているから、次の手にも活かせる。
やはり、視野が相当狭まっていた。精霊由来の力は、目的を一つに絞って使用するなんて勿体ない。この力は、あらゆる可能性を秘めているのだから。
「ここ最近では、一番はしゃいでたかもな。それほど、大きな物を掴んだと思ってるよ」
「そうか、よかったな。で? その掴んだ物とやらは、何に使うつもりだ?」
普段通りの声色で質問を重ねてきたけど、内容の意図が重い。今更、間違った使い方をする訳がないだろう。
「もちろん、私の目的を達成する為。それと、みんなを守る為にかな」
「ほ~う? 世界を征服する為とか、ちょっと小生意気な事を言ってもよかったんだぜ?」
「世界征服なんて、魔王ごっこで何回もしてるから、もう充分やったさ」
「へへっ、なるほどな」
世界征服、ねぇ。確かに、今の私だったら容易く出来るかもしれない。大国も、国全体の空間を掌握してしまえば、一瞬で滅ぼせてしまう。
そんな恐ろしい力の使い方、私はするつもりなんて毛頭無い。私はただ、追い続けている夢を叶えるだけ。そして、もし叶えられたら、精霊由来の力を使う機会なんて、二度と無いだろうな。
「見守る側から、守られる側になってしまいましたか。それもいいですね、ルシルさん」
「かもな。けど、守られっぱなしは俺の性に合わねえ。俺達だけは、持ちつ持たれつのままで行こうぜ。アカシック」
「そうだな。何かあったら迷わず頼るよ」
「おう! 任せとけっ」
頼られて嬉しくなったルシルが、ニッと笑いながら親指を立ててきた。迷わず頼れる、持ちつ持たれつな関係。
いいなぁ。心がじんわりと温かくなる、すごく良い言葉だ。だったら───。
「なあ、フローガンズ。私から提案があるんだけど、聞いてくれないか?」
「……なーにぃ?」
「夜になるまで、まだ少し時間があるだろ? 私も不燃焼気味だし、もう何回か大将戦をやらないか?」
フローガンズにとって、またとない再戦を申し出るや否や。雪原に埋まっていた顔が、雪を撒き散らしながらバッと上がり、信じられない物を見たという様な目を、私に合わせてきた。
「……え? いいの?」
「ああ。極光が夜空に出るまで、いくらでも付き合ってやる」
誘惑の強い後押しをするも、フローガンズは呆けたまま。しかし、数秒もすると、目と口が徐々に大きく開き、表情もぱぁっと明るくなっていった。
「……うん! やろうやろう! 次こそは、絶対に勝ってやるからね!」
「なら、全部返り討ちにしてやる」
白みを帯びた冷たそうな太陽は、大分傾いてきている。夜になるまで、一、二時間前後といった所。二時間もあれば、四、五回はフローガンズと戦える。
あいつだって馬鹿じゃない。学べば一回で吸収し、即実践で活用が出来ている。もしかしたら、最後の方は私が負けてしまうかもな。
間の抜けたルシルに戻って来いと言われたので、地上まで降下してみれば。まず目に入ったのは、雪原に顔を埋め、尻を空へ突き出しているフローガンズの姿。
そのフローガンズを間近で見守る、サニーとプネラ。私に手を大きく手を振り、帰りを待っていたウィザレナやレナ達。
「流石は、アルビス様の妹様ですね」と語るアイスに、「そうだろう、そうだろう?」と鼻高々でいて、どこか誇らしげなアルビスが伺えた。
「ただいま」
「おう、お疲れさん」
不燃焼気味に声を掛けつつ、地面に下りて乗っていた箒を消すと、腕を組んでいるルシルが返答してきてくれた。
「お疲れ様です、アカシックさん。何とは言いませんが、とても上手に扱えていましたよ」
「あんなもん見せられたら、体が疼くに決まってんだろうがあ。魔女の嬢ちゃんに近づくタイミング、完全に誤ったぜえ」
精霊由来の力とは口にせず、華奢な笑みを浮かべて私を褒めてくれたディーネに。湿ったボヤキを呟き、どこか後悔しながら肩を落とすノーム。
「お母さんっ!」
「おっと」
私を褒めてくれたディーネに、感謝の言葉を返そうとした矢先。サニーが飛びついてきたので、慌てて受け止めると、眩く輝いた青い瞳を私に向けてきた。
「お母さん! ずっと見てたけど、お母さんって太陽も出せるんだね!」
「太陽? ああ、あれってそんな風に見えてたのか」
声を嬉々と弾ませたサニーが言っているのは、空間を球体状に掌握した後、三百六十度へ放った『不死鳥の息吹』の事かな。
私は内側に居たから、どんな全容をしているのか分からなかったけれども。外側から見ると、太陽みたいな感じになっていたのか。だったら、指輪の加護を貫く熱気も頷ける。
「うん! お母さんが高い空まで行っちゃったから、一回見失っちゃったけど、居る場所がすぐ分かったよ!」
「とんでもねえ速さで広がってくもんだから、こいつも避けようがなかったんだろうな」
「あ、なるほど。そういう事か」
ルシルの哀れみを含んだ説明に、知らない間になんで私が勝利したのか、ようやく理解出来た。
フローガンズめ、一帯の領域を掌握する為に放った『不死鳥の息吹』に、巻き込まれていたんだな。
……冷静に考えてみれば。『不死鳥の息吹』を三百六十度展開する行為そのものが、対処の難しい攻撃になっている。
瞬間移動や奇襲、空間の掌握に意識が囚われ過ぎていて、完全に見落としていた。いや、違う。私もフローガンズみたいに、出来る事が増えて、気持ちが舞い上がっていたのかもしれない。
そして、視野が大幅に狭まり、試してみたい事を優先的にやってしまった。その行為が招く結果に、見向きもせず。
「……なんか凄いのが迫って来てたから、何回か瞬間移動したんだけどさ? それでも追い付かれちゃったよぉ……」
「だってよ? アカシック。お前らしくねえぜ? そんなにはしゃいじまうなんてよ」
「うっ……」
ニヤニヤし出したルシルの意味深な発言に、体を小さく波立たせる私。たぶんルシルには、全て見透かされていそうだ。
攻撃は最大の防御と、よく言うけど。三百六十度展開した『不死鳥の息吹』が、正にそれだ。
しかも、私の場合、一帯の空間を掌握するという役割も持っているから、次の手にも活かせる。
やはり、視野が相当狭まっていた。精霊由来の力は、目的を一つに絞って使用するなんて勿体ない。この力は、あらゆる可能性を秘めているのだから。
「ここ最近では、一番はしゃいでたかもな。それほど、大きな物を掴んだと思ってるよ」
「そうか、よかったな。で? その掴んだ物とやらは、何に使うつもりだ?」
普段通りの声色で質問を重ねてきたけど、内容の意図が重い。今更、間違った使い方をする訳がないだろう。
「もちろん、私の目的を達成する為。それと、みんなを守る為にかな」
「ほ~う? 世界を征服する為とか、ちょっと小生意気な事を言ってもよかったんだぜ?」
「世界征服なんて、魔王ごっこで何回もしてるから、もう充分やったさ」
「へへっ、なるほどな」
世界征服、ねぇ。確かに、今の私だったら容易く出来るかもしれない。大国も、国全体の空間を掌握してしまえば、一瞬で滅ぼせてしまう。
そんな恐ろしい力の使い方、私はするつもりなんて毛頭無い。私はただ、追い続けている夢を叶えるだけ。そして、もし叶えられたら、精霊由来の力を使う機会なんて、二度と無いだろうな。
「見守る側から、守られる側になってしまいましたか。それもいいですね、ルシルさん」
「かもな。けど、守られっぱなしは俺の性に合わねえ。俺達だけは、持ちつ持たれつのままで行こうぜ。アカシック」
「そうだな。何かあったら迷わず頼るよ」
「おう! 任せとけっ」
頼られて嬉しくなったルシルが、ニッと笑いながら親指を立ててきた。迷わず頼れる、持ちつ持たれつな関係。
いいなぁ。心がじんわりと温かくなる、すごく良い言葉だ。だったら───。
「なあ、フローガンズ。私から提案があるんだけど、聞いてくれないか?」
「……なーにぃ?」
「夜になるまで、まだ少し時間があるだろ? 私も不燃焼気味だし、もう何回か大将戦をやらないか?」
フローガンズにとって、またとない再戦を申し出るや否や。雪原に埋まっていた顔が、雪を撒き散らしながらバッと上がり、信じられない物を見たという様な目を、私に合わせてきた。
「……え? いいの?」
「ああ。極光が夜空に出るまで、いくらでも付き合ってやる」
誘惑の強い後押しをするも、フローガンズは呆けたまま。しかし、数秒もすると、目と口が徐々に大きく開き、表情もぱぁっと明るくなっていった。
「……うん! やろうやろう! 次こそは、絶対に勝ってやるからね!」
「なら、全部返り討ちにしてやる」
白みを帯びた冷たそうな太陽は、大分傾いてきている。夜になるまで、一、二時間前後といった所。二時間もあれば、四、五回はフローガンズと戦える。
あいつだって馬鹿じゃない。学べば一回で吸収し、即実践で活用が出来ている。もしかしたら、最後の方は私が負けてしまうかもな。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。


【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる