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259話、対、時の司る精霊アカシック戦
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「……もしかしてさ。さっきやってた謎の行動、そういう感じ?」
「ああ。ほんの一部だけど、精霊由来の力の使い方を理解出来た」
そう、本当に一部だけ。司る物を媒介した瞬間移動の仕方や、私の魔力を流し込まず、司る物から魔法を放つ方法なんて到底知らない。
たぶん、それはを出来ないと思った方がいいな。大層に名乗ってしまったけど、私は人間と精霊の混血。どっちつかずな体なんだ。
しかし、今はそれだけでいい。私に、次元が異なった力の伸びしろが加わった。そこを重点的に鍛えていけば、フォスグリアに後れを取らず、対等に戦えるようになれるかもしれない。
「ああ~、やっぱりねぇ。変な場所から魔法壁が出てきたから、もしやって思ったけど……。そっかー、アカシック、時の力を使えるようになっちゃったかー。なるほどぉ、……面白いじゃん?」
肩を落としながらため息をついたフローガンズが、口角をニヤリと上げる。
「時の精霊って、あたし達の世界では伝説的存在でさ。普通なら戦える機会って、精霊の一生を掛けてもないんだよね。けどさ? 今あたしの前に、時の精霊が居るって事でしょ? そんなの、燃えないワケないじゃん!」
雄々しい笑みを浮かべたフローガンズが、手の平に拳を当てて『バシッ』と鳴らす。
「アカシック。もう、ウズウズが止まんないんだ。早くやろうよ!」
「そうだな」
『んじゃ、合図を出すぞー』
戦闘を再開しようとしたら、まるでタイミングを見計らっていたかのように、シルフの『伝心』が頭の中から響いてきた。
現在、私達が居る場所は、それなりに高い極寒空。遠い大地へ視線を落とすと、サニー達の姿はほとんど見えない。
『アカシック。精霊の力を掴んだとはいえ、まだ入り口の前に立ったばかりなんだからな。過信と慢心はするなよ?』
緩い口調だけど。シルフは私を精霊の立場に置き、忠告してきてくれた。集中しないといけない場面だというのに、口元がつい緩んでしまうな。
『分かってる。ほどほどにしておくよ』
『ならいい。地形は俺達が戻しといてやるから、とりあえず自分なりに色々試してみろ』
『そうか、悪いな。ありがとう』
さっきの忠告と矛盾する後押しよ。過信と慢心をしないで、かつ大いに暴れてみろって、なかなか難しいぞ?
『うっし! 二人共、準備はいいな? それじゃあ、行くぜ?』
瞬間。待機していたフローガンズが、闘争心を剥き出しにしながら構えを取る。あいつの事だ。初手は必ず、瞬間移動して私との距離を詰めて来る。が、正面から来るとも限らない。
そして私は、魔法壁と召喚獣を全て消している。少し前の私なら、完全に詰みの状態だ。フローガンズの初撃を対処し切れず、拳をまともに受けて致命傷を負うだろう。
いや。瞬間移動が出来るのであれば、たとえ魔法壁を張っていても意味が無い。いともたやすく中に侵入されて、殺されるのがオチだ。
ならば、私が最優先すべき行動は、フローガンズの初撃を攻撃魔法で阻止。次に可能なら、大気中にある不可視な氷の粒の除去。
数時間前の私だったら、一つ目は対処は非常に難しく、二つ目は時間が掛かる作業だった。けど、今は違う。火と風の杖さえあればいい。
『よーい、始め!』
「行くぞアカシック! 先手ひっ、うわっ!?」
シルフの合図と、ほぼ同時。視界から切れたフローガンズにお構い無しに、私の体から約一cm離れた距離を、円状に掌握。
その一秒過ぎる直前。全方位に風の上位魔法を展開すると、背後からフローガンズの叫び声が上がり、瞬く間に遠ざかっていった。やはり読み通り、瞬間移動を駆使して死角を狙って来たな。
火属性の魔法を使って怯ませている間に、その場を離脱する手段もあったが。その場合、フローガンズを仕留め切れず、そのまま攻撃に転じられる可能性がある。なので、風魔法で吹っ飛ばした。
背後へ横目を流し、未だ風魔法の中に囚われ、体が乱雑に回り続けているフローガンズを視認。周りに点在する氷の板と、氷像にも動きは無し。
よし。生成主は体勢を崩していて、氷像らを操っている余裕は無さそうだ。ならば、一帯にある氷の除去を始めてしまおう。
そう決めた私は、指を鳴らし、掌握済みの領域に火の膜を張る。雪原地帯へ来る前に、昔アルビスから貰った、水と火の精霊の加護が施された指輪を事前に付けていたから、暑さは感じないな。
「さあ、始めよう」
火の膜を張っているので、今は体を動かせない。が、新たな空間を掌握する事は出来る。距離は、私から二m離れた場所。形は、薄い球体状でいい。
どんなに薄くとも、掌握さえしてしまえば、そこから魔法を放てるようになれる。その放った魔法に、私の魔力を乗せれば、攻撃をしながら一帯も掌握出来るはずだ。
立てた予想に期待を込めつつ、私から二m離れた空間を球体状に掌握。私の体が自然発火しないか心配だが、氷の粒を完全に除去する為だ。背に腹は代えられない。
『魂をも焼き尽くすは、不老不死の爆ぜる颶風。生死の概念から解き放たれし者に、思考をも許されない永遠の眠りを。『不死鳥の息吹』』
静かに呪文名を唱えた直後。私の視界及び全方位が、煌々と瞬く鮮烈な紅緋色に染まった。よし、やはり予想は正しかった。
掌握領域の形に応じて、放てる魔法の方角も決められるようだ。今回は、空間を球体状に掌握したので、『不死鳥の息吹』を三百六十度に放てた。
そして、この『不死鳥の息吹』に私の魔力を乗せてしまえば、数km先までの空間を隙間無く掌握出来る。正確な距離までは把握していないけれども、初動にしては上出来だな。
「でも流石に、かなり暑いな」
アルビスから貰った指輪には、熱と冷気から体を守ってくれる効果があるものの。タートで購入した、高級な防寒着を脱ぎたくなる程の熱気を感じる。
山ぐらいだったら容易に蒸発させてしまう、灼熱で超高密度な大球体の中心部に居るんだ。たぶん、指輪をしていなかったら、私の体は蒸発していたかもしれない。
指を軽く鳴らし、目先にあった火の膜を消す。魔力の消費は、それなりに激しいけど、一帯の領域は掌握した。これで、フローガンズと対等の舞台に立てたぞ。
「よし、仕上げだ」
『不死鳥の息吹』を止めて、限りなく狭かった灼熱の空間が広がっていく合間を縫い、また指を鳴らし、掌握した領域の縁に火の膜を再生成させた。
「うん。この広さなら十分だろう」
瞬く紅緋色が遠ざっていく光景を視認しつつ、上下左右に視界を動かしてみれば。箒で高速移動をしても、特に差し支えが無い広大な空間があり。
どこに視界を移しても、純白色はあらず。代わりに薄っすらと揺らめく、橙色が張り巡らされていた。
この空間が、現在私が掌握している領域の広さ。思っていたより広いから、距離の目測が測れないな。
しかし、これで二つの目的は達成出来た。さて、ここからどう動こう。一帯の氷と、私の体に付着した氷の粒は消えたので、フローガンズはしばらくの間、奇襲を仕掛けられない。
なので、魔法壁を張っておいた方がいい。接近を許すつもりは毛頭無いが、過信と慢心は禁物───。
『おーい、アカシック』
「ん?」
右手に、光の杖を掴んだ矢先。頭の中から、なんとも控え気味なシルフの『伝心』が響いてきた。まだ戦闘中だっていうのに、下で何かあったのだろうか?
『なんだ?』
『なんだって。もう決着は付いたんだから、早く戻って来いよ』
『……え?』
「ああ。ほんの一部だけど、精霊由来の力の使い方を理解出来た」
そう、本当に一部だけ。司る物を媒介した瞬間移動の仕方や、私の魔力を流し込まず、司る物から魔法を放つ方法なんて到底知らない。
たぶん、それはを出来ないと思った方がいいな。大層に名乗ってしまったけど、私は人間と精霊の混血。どっちつかずな体なんだ。
しかし、今はそれだけでいい。私に、次元が異なった力の伸びしろが加わった。そこを重点的に鍛えていけば、フォスグリアに後れを取らず、対等に戦えるようになれるかもしれない。
「ああ~、やっぱりねぇ。変な場所から魔法壁が出てきたから、もしやって思ったけど……。そっかー、アカシック、時の力を使えるようになっちゃったかー。なるほどぉ、……面白いじゃん?」
肩を落としながらため息をついたフローガンズが、口角をニヤリと上げる。
「時の精霊って、あたし達の世界では伝説的存在でさ。普通なら戦える機会って、精霊の一生を掛けてもないんだよね。けどさ? 今あたしの前に、時の精霊が居るって事でしょ? そんなの、燃えないワケないじゃん!」
雄々しい笑みを浮かべたフローガンズが、手の平に拳を当てて『バシッ』と鳴らす。
「アカシック。もう、ウズウズが止まんないんだ。早くやろうよ!」
「そうだな」
『んじゃ、合図を出すぞー』
戦闘を再開しようとしたら、まるでタイミングを見計らっていたかのように、シルフの『伝心』が頭の中から響いてきた。
現在、私達が居る場所は、それなりに高い極寒空。遠い大地へ視線を落とすと、サニー達の姿はほとんど見えない。
『アカシック。精霊の力を掴んだとはいえ、まだ入り口の前に立ったばかりなんだからな。過信と慢心はするなよ?』
緩い口調だけど。シルフは私を精霊の立場に置き、忠告してきてくれた。集中しないといけない場面だというのに、口元がつい緩んでしまうな。
『分かってる。ほどほどにしておくよ』
『ならいい。地形は俺達が戻しといてやるから、とりあえず自分なりに色々試してみろ』
『そうか、悪いな。ありがとう』
さっきの忠告と矛盾する後押しよ。過信と慢心をしないで、かつ大いに暴れてみろって、なかなか難しいぞ?
『うっし! 二人共、準備はいいな? それじゃあ、行くぜ?』
瞬間。待機していたフローガンズが、闘争心を剥き出しにしながら構えを取る。あいつの事だ。初手は必ず、瞬間移動して私との距離を詰めて来る。が、正面から来るとも限らない。
そして私は、魔法壁と召喚獣を全て消している。少し前の私なら、完全に詰みの状態だ。フローガンズの初撃を対処し切れず、拳をまともに受けて致命傷を負うだろう。
いや。瞬間移動が出来るのであれば、たとえ魔法壁を張っていても意味が無い。いともたやすく中に侵入されて、殺されるのがオチだ。
ならば、私が最優先すべき行動は、フローガンズの初撃を攻撃魔法で阻止。次に可能なら、大気中にある不可視な氷の粒の除去。
数時間前の私だったら、一つ目は対処は非常に難しく、二つ目は時間が掛かる作業だった。けど、今は違う。火と風の杖さえあればいい。
『よーい、始め!』
「行くぞアカシック! 先手ひっ、うわっ!?」
シルフの合図と、ほぼ同時。視界から切れたフローガンズにお構い無しに、私の体から約一cm離れた距離を、円状に掌握。
その一秒過ぎる直前。全方位に風の上位魔法を展開すると、背後からフローガンズの叫び声が上がり、瞬く間に遠ざかっていった。やはり読み通り、瞬間移動を駆使して死角を狙って来たな。
火属性の魔法を使って怯ませている間に、その場を離脱する手段もあったが。その場合、フローガンズを仕留め切れず、そのまま攻撃に転じられる可能性がある。なので、風魔法で吹っ飛ばした。
背後へ横目を流し、未だ風魔法の中に囚われ、体が乱雑に回り続けているフローガンズを視認。周りに点在する氷の板と、氷像にも動きは無し。
よし。生成主は体勢を崩していて、氷像らを操っている余裕は無さそうだ。ならば、一帯にある氷の除去を始めてしまおう。
そう決めた私は、指を鳴らし、掌握済みの領域に火の膜を張る。雪原地帯へ来る前に、昔アルビスから貰った、水と火の精霊の加護が施された指輪を事前に付けていたから、暑さは感じないな。
「さあ、始めよう」
火の膜を張っているので、今は体を動かせない。が、新たな空間を掌握する事は出来る。距離は、私から二m離れた場所。形は、薄い球体状でいい。
どんなに薄くとも、掌握さえしてしまえば、そこから魔法を放てるようになれる。その放った魔法に、私の魔力を乗せれば、攻撃をしながら一帯も掌握出来るはずだ。
立てた予想に期待を込めつつ、私から二m離れた空間を球体状に掌握。私の体が自然発火しないか心配だが、氷の粒を完全に除去する為だ。背に腹は代えられない。
『魂をも焼き尽くすは、不老不死の爆ぜる颶風。生死の概念から解き放たれし者に、思考をも許されない永遠の眠りを。『不死鳥の息吹』』
静かに呪文名を唱えた直後。私の視界及び全方位が、煌々と瞬く鮮烈な紅緋色に染まった。よし、やはり予想は正しかった。
掌握領域の形に応じて、放てる魔法の方角も決められるようだ。今回は、空間を球体状に掌握したので、『不死鳥の息吹』を三百六十度に放てた。
そして、この『不死鳥の息吹』に私の魔力を乗せてしまえば、数km先までの空間を隙間無く掌握出来る。正確な距離までは把握していないけれども、初動にしては上出来だな。
「でも流石に、かなり暑いな」
アルビスから貰った指輪には、熱と冷気から体を守ってくれる効果があるものの。タートで購入した、高級な防寒着を脱ぎたくなる程の熱気を感じる。
山ぐらいだったら容易に蒸発させてしまう、灼熱で超高密度な大球体の中心部に居るんだ。たぶん、指輪をしていなかったら、私の体は蒸発していたかもしれない。
指を軽く鳴らし、目先にあった火の膜を消す。魔力の消費は、それなりに激しいけど、一帯の領域は掌握した。これで、フローガンズと対等の舞台に立てたぞ。
「よし、仕上げだ」
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「うん。この広さなら十分だろう」
瞬く紅緋色が遠ざっていく光景を視認しつつ、上下左右に視界を動かしてみれば。箒で高速移動をしても、特に差し支えが無い広大な空間があり。
どこに視界を移しても、純白色はあらず。代わりに薄っすらと揺らめく、橙色が張り巡らされていた。
この空間が、現在私が掌握している領域の広さ。思っていたより広いから、距離の目測が測れないな。
しかし、これで二つの目的は達成出来た。さて、ここからどう動こう。一帯の氷と、私の体に付着した氷の粒は消えたので、フローガンズはしばらくの間、奇襲を仕掛けられない。
なので、魔法壁を張っておいた方がいい。接近を許すつもりは毛頭無いが、過信と慢心は禁物───。
『おーい、アカシック』
「ん?」
右手に、光の杖を掴んだ矢先。頭の中から、なんとも控え気味なシルフの『伝心』が響いてきた。まだ戦闘中だっていうのに、下で何かあったのだろうか?
『なんだ?』
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